港町での取引 4
目が覚めるともうみんな起きていて、作ってくれていた朝食を食べ身支度を整えると俺から声を掛ける。
「皆聞いてくれ。少し調べたい事があるからアリアと出かけてくる。昨日の因縁をつけてきた奴らの事があるからファナとティアにリゼラはこの店に残ってミラベル嬢についててくれ。」
「分かりました、お供します。御主人様。」
答えてくれたアリア以外のファナとティアにリゼラも頷いてくれたので、残る三人には店の中なら自由にしていていいと告げて部屋を出た。
ついてきてくれるアリアと店の裏口へ向かっていると作業着姿のミラベル嬢と鉢合わせする。
「あ、お早うございます、セイジさん。よく眠れましたか?」
丁度良いのでエグモントという人とミラベル嬢に何か関係があるのか聞いておくとしよう。
「お早うございます、ミラベル嬢。よく眠れたから心配なく。それで一つ聞きたい事があるんだけど今時間があるかな?」
「はい、大丈夫ですよ。聞きたい事ってなんですか?」
「じゃあ、遠慮なく聞かせて貰うけどエグモントという人を知ってる?」
「それ多分私の祖父です。セイジさんはおじいちゃんの事ご存知なんですか?」
「実は名前だけ聞いた事があったけど他には何も知らなくて、ミラベル嬢が何か知らないか聞いてみたんだ。良ければどんな人だったか教えてくれないか?」
「いいですよ。おじいちゃんは両親や兄弟のいない私を育ててくれた寡黙でしたが優しい人でした。私に鍛冶を仕込んでくれたのもおじいちゃんで厳しかったですけど私が出来るようになるまで何度もお手本を見せてくれて、1年前病気で亡くなるまで本当に色んなことを仕込んでくれたんですよ。」
「知らなかったとはいえ不躾な事を聞いたな。すまない。」
俺が頭を下げるとミラベル嬢は慌てたように両手を振った。
「そんな気にしなくていいですよ。お話し出来るのはこれ位なんですけどお役に立ちましたか?」
「ああ、十分だ。教えてくれてありがとう。俺とアリアはこれから所要で出かけるけど後の三人はここに残るから何かあったら声を掛けて。」
「分かりました。セイジさん達もお気をつけて。」
俺とアリアは頷き返してミラベル嬢の前を辞した。
店の裏口から外へ出てこの街のヘルクス教会が何処にあるか聞くためギルドへ向かっていると薄くだが危機感知に反応する気配が後をつけてくる。
角を曲がり向こうから死角になった瞬間その気配へ魔眼を向けて所属を鑑定してみると、どうやらザンバロの配下のようだ。
完全にマークされたようなので借金の事を感づいているとなるべくばれないよう気を付け、急いで情報を集めて行動を起こした方が良さそうだ。
「アリアも気付いていると思うけどつけてくる尾行は無視してくれ。気付いていると感づかれたくない。」
「それは構いませんが、調べ物の邪魔になりませんか?」
「確かにそうだけどギルドまではつけさせてどう行動するか様子を見たい。ギルドで聞き込みをしたい所の位置を聞いたら、そこへは転移で向かうつもりだからそれで尾行は撒けるだろう。」
納得したようにアリアは頷いてくれた。
一定の距離を置いてついてくる尾行は無視してギルドへ入り受付へ声を掛ける。
ノルトレン司祭の名前まで出すとギルドにいる筈のザンバロの息の掛かった者に怪しまれそうなのでヘルクス教会の場所だけ尋ねる。
昨日書いて貰ったこの街の地図に教会の場所を追記して貰い情報提供の礼を言い受付を辞した。
ギルドを出ようと出口の方へ向くと危機感知に反応する気配が2桁以上に増えていた。
一旦立ち止まって建物の外にあるそれらの気配へ魔眼を向けてみると、ザンバロが10人以上の取り巻きの男達共にギルドの出入り口を睨んでいた。
ギルドの目の前で暴力沙汰を起こす気はないと思うのでもう一度脅しをかけるついでに俺達の腹を自ら探りに来たんだろう。
「アリア、ギルドの外に昨日因縁をつけてきた奴らがいるみたいだから一応注意しよう。ギルドの真ん前で実力行使はしてこないと思うけど、非殺傷で相手を無力化出来る魔術を待機していてくれ。」
「それなら弱めのライトニングピラーを待機しておきますね、御主人様。」
アリアへ頷き術の準備が終わるのを待ってギルドの外へ出ると、俺達を待ちかねていたようでザンバロの周りから昨日因縁をつけてきた二人組が近づいて来た。
「話があるついて来い。」
撤退を指示した方の男が話かけてくるが主導権を握らせない為にも俺の方からも仕掛けるべきだろう。
昨日と同じくらいの気鎧を纏うと話かけてきた男を一瞥して下がらせ、アリアを連れてザンバロ達へ近づく。
プレッシャーをかけて取り巻きも押し退けザンバロの前に立った。
「立ち位置や雰囲気からしてあんたがここの一番上役みたいだな。この後まだ用事があるんで話があるならここで手短に済ませて貰おう。」
ザンバロは多少面食らったようだが5秒程俺を観察すると顔の険を増して口を開いた。
「もう一度親切で忠告してやる。あの店には関わるな。武器が欲しいなら余所武器屋へ行け。」
「悪いが俺達はただの武具が欲しいんじゃない、この街で一番性能が良い武具が欲しいんだよ。あの店がこの街で一番なのは見て知ってる。悪いがあんた達の親切な忠告には従えないな。」
ザンバロの要求を撥ねつけるのは既定路線だが、あの店にそれほど執着していないとも思って貰うとしよう。
「あんた達があの店と何を揉めてるのか知らないが、俺達は鎧2着と剣を1本仕上がったら王都へ行くつもりだ。あんた達こそ注文品が仕上がって俺達がこの街を出るまでこれ以上周りをうろちょろするな。」
加えてこう言っておけばミラベル嬢の手に渡る金額はどんなに多くても20万ヘルク強だと理解できるだろう。
借金の総額500万ヘルクに比べて10分の1以下の額だし俺達の地力の一部も見せた以上ザンバロ達は取り敢えず静観を選ぶと思うがどうだろうか。
俺の返答が終わってもザンバロは10秒程俺を睨んで考え込んでいたが絞り出すような声で口を開いた。
「いいだろう。暫くは様子を見てやる。物が出来たらさっさとこの街を出て行け。ぐずぐずするようなら相応の対処をさせて貰うからな。」
続けて周りの男達に行くぞと声を掛けてザンバロ達はギルドから離れていった。
あいつがどんな判断を下したかはあとから過去眼で言動を確かめればはっきりするだろう。
俺達もザンバロの監視を撒いて次の目的地へ向かうため魔眼を使って目的地を確認すると転移法術を発動した。
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