港町での取引 1
海賊を撃退し群島部を抜けると航海は順調に進んで行く。
奴隷にしたとはいえ海賊を監視しながらの航海だったので適度な緊張感が保たれていた。
航海を再開して5日目の昼前やっとシュクラの港が見えてきて船内が解放感に包まれた。
船が港に停泊すると海賊や海賊船の始末といった面倒な事には関わらず、戦利品の分け前を弾んだお蔭か手に入れた幻獣や一旦逃げた事に対してモネイラさんからのこの街のギルドへ訴え出るといった糾弾は無く握手を交わして船を下りた。
桟橋を街に向かって歩いているとアリアが話かけてくる。
「これからどうしますか?御主人様。」
「アミオンや王都の情報を集めるつもりだけど、その前にこいつの代わりを手に入れようと思う。」
後ろにいるみんなに見えるように腰に佩びている剣の柄へ手を置いた。
「やっぱり寿命?」
「ああ、俺はそう思ってるよ、ファナ。アミオンで業物を手に入れるまでのつなぎになると思うけど武器に不安の種を残しておきたくないんだ。」
「命を預ける物なんだから優先するのは当然よ。セイ様」
「では、ギルドで宿屋に加えて武器屋の情報収集ですね。」
リゼラとティアに頷いて港を抜けた。
何人かの街の人に場所を聞きながらシュクラのギルドを訪れ、情報料として銀貨を一枚払ってこの街の大まかな地図を売って貰いそこへ中級以上の宿屋に武器屋や防具屋を幾つか書き込んで貰った。
対応してくれた受付嬢に礼を言ってギルドを出ると早速武器屋が集まる一角へ足をむけた。
武器屋街の近くに出ていた屋台で遅い昼食を買いみんなで分けあって食べながら周囲を見ていると剣と盾の意匠の看板を掲げている店が目に入った。
ギルドでは教えて貰っていないが恐らくこの店も武器屋なんだろう。
多分つなぎになる剣とはいえ納得した一本を手に入れたいので武器屋のはしごをしようと思っていたからここにも入ってみよう。
みんなに声を掛け最後にアリアが食べ終わるのを待って武器屋だと思う看板を掲げている店へ向かった。
扉を開けるとカランカランと大きめのベルが鳴り中を見回すと6畳ほど小さな店だった。
そこに剣や槍に弓などの各種武器が1種類につき1つずつ、全身鎧や部分鎧にサイズ別の盾も1種類ずつ壁際に並べれられている。
少し狭いが5人共店内に入って目的の剣を手に取ってみた。
鞘から剣を抜いて刀身を含む全体を俯瞰してみると、どうやら鋼鉄製のようで飾り気は無いが力強さと機能美があり鑑定してみると同じ材質なのに俺の剣の損傷前の状態より1,5倍以上基礎性能が上だった。
この街の武器のレベルは皆この位なのかとギルドで教えて貰った武器屋の一件へ魔眼を向け置いてある剣を順に鑑定してみるが、鋼鉄製の剣はどれも俺の剣と同程度か下の物がほとんどで他の武器屋へ魔眼を向けてみてもそれは変わらなかった。
どうやらここの武器が特別だったようで手元に視線を戻しもう一度手に持つ剣を眺めていると店の奥に続く扉が開く。
中から出て来た俺達と同年代に見える美少女は俺の肩位の身長に可愛らしい顔立ちをしているが首から下は肉感的で凹凸のハッキリした体つきをしており、ティアやリゼラより短いが尖った耳をしていてブラウン系の腰まである髪をポニーテールに纏めていた。
思わず見惚れて鑑定していると、
ミラベル Lv15
クラス 鍛冶師 Lv15
筋力 98
体力 98
知性 45
精神 60
敏捷 45
感性 78
アビリティ
神匠の系譜
万具の繰り手
不朽の心身
スキル
4個
どうやらこの美少女はドワーフの女鍛冶師のようでミラベル嬢も俺達を見て少し戸惑ったが勢いよく頭を下げた。
「いらっしゃいませ。出てくるのが遅くなってごめんなさい。」
ミラベル嬢が頭を上げても見惚れて店にいる女性全員から訝しがる視線を浴びてしまい慌てて返事をする。
「こっちこそ勝手に見させて貰ってすまない。俺達は戦闘で傷んだ俺の剣の代わりを探しているんだがこの剣は幾らか教えてくれるか?」
「ごめんなさい。うちは完全オーダーメイドの店なんで、ここに置いてあるのは全部私の腕を見て貰うための展示品で売り物じゃないんです。新しくお造りするなら剣の材質や仕様によりますけど1万から5万ヘルク位になりますね。」
「じゃあ、納期はどれ位になるかな?」
「えっと5日から1週間位の時間はください。」
仕方ないのかもしれないが流石に1週間近く剣が使えないのは困る。
だからと言って他の武器屋で1週間だけ使う剣を買うのも無駄が過ぎるだろう。
「試しに聞くけどこの剣を修理するなら費用は幾らくらいで終わるまでどれ位掛かるかな?」
「状態を見ないと何とも言えないのでその剣をよく見せて貰えますか?」
ミラベル嬢へ頷いて剣帯から剣を外して手渡すと彼女は鞘から剣を抜き真剣な眼差しで刀身の状態を見極めていく。
色々な角度からしばらく刀身を見て2〜3度叩いて音を確かめると剣を鞘に納めて返してくれた。
「刀身に深刻な傷が入っていますけど、かなり成長もしているので半日ほど頂けば一応修理は出来ます。費用は5000ヘルク位ですね。ただ修理しても今度刀身に強い負荷が掛かるといきなり断裂するかもしれません。」
「普段使いなら問題ないけど、強力な魔物の相手は無理って理解でいいか?」
ミラベル嬢は神妙な表情で頷いてくれた。
「そういう事なら、まずこの剣を修理してそのあとで新しい剣を一本作ってくれ。頼めるか?」
「任せてください。修理は明日のお昼までには終わらせておきますから、それまでに新しい剣の仕様を考えておいて下さい。」
「分かった。じゃあこの剣を預ける。俺は討伐者をしているセイジだ、よろしくな。」
もう一度剣を渡すと両手で受け取ってくれたミラベル嬢が頭を下げてくれる。
「わたしはこの店の店長をしているミラベルといいます。こちらこそよろしくお願いします。後一つお願いがあるんですけど、修理と同時に調整をしますからその参考に両手を見せて下さい。」
頷いて手甲を外して行くとミラベル嬢はカウンターに俺の剣を置いて俺の手を取った。
暫く手を見られていると、ふと閃いたのでミラベル嬢が手を離すと俺から話かけた。
「剣の事とは別にちょっと見て貰いたい物が在るんだけど、いいかな?」
「いいですよ、そこのカウンターに出してください。」
ミラベル嬢が指差したカウンターの上にミスリルベア―の毛皮やペネルやクザンを倒した時に手に入れた爪や牙に鱗とミスリルゴーレムから手に入れたミスリル塊を少し並べた。
ミラベル嬢のアビリティ神匠の系譜には制作物の性能向上の効果もあると見えたので出来れば彼女にこれらの素材を加工して欲しい。
興味深そうに素材を手に取って順番に検分したミラベル嬢が俺に向き直った。
「かなり高レベルの魔物から手に入れた素材みたいですね。セイジさん達が討伐して手に入れた物ですか?」
「ああ、その通り。それでこれらを使って何か作れるかな?」
「そうですね、毛皮や鱗は防具に、牙や爪は水関係の付与に、ミスリルは合金にして武器や防具に使えますね。」
「ミラベル嬢も加工できるか?」
「はい、大丈夫ですよ。」
「だったら、牙や爪は保留にして毛皮や鱗を鎧へ加工してミスリルは新しい剣に使ってくれるか?」
「えっと・・・ここにある素材で鎧は2着位出来ると思いますけど、ミスリル塊はもう少しないと幾ら合金にするっていっても剣を作るのは無理ですよ。」
鎧は2着か、俺は金属鎧に慣れているから新しい革鎧は前衛の二人に使って貰うとしよう。
「そういう事ならミスリル塊は今出した大きさの塊が小山になるくらいあるから問題ないぞ。俺の剣の修理が終わってからいいから、出来れば鎧、剣の順で作ってくれ。鎧の方はファナとリゼラ、あ〜獣人とダークエルフのために仕立ててくれ。ミスリル塊も今出そうか?」
「いえ、取り敢えず鱗と毛皮以外仕舞ってください。じゃあこの剣の修理の準備に入りますけど、炉が温まるまでの間にお二人の採寸をするんで奥について来て下さい。」
ファナとリゼラが頷き剣と毛皮に鱗をミラベル嬢と手分けして抱えて店の奥に行き、ティアとアリアも採寸の手伝いに行かせてカウンターの素材を片付けていると店の扉が乱暴に開いた。
お読み頂き有り難う御座います。