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海路に落ちる影 9

 クザンとペネルは水流操作を使い俺達を振り落さないよう急いでくれたが、大分大回りする進路を選んだので1時間弱かかって目的の島の海賊たちからは見えない位置にある砂浜へクザンがまず上陸してくれた。

 直ぐにクザンの背中から下り周囲の索敵を始めるとファナ達三人もペネルと共に上陸して来てくれ、気配探知に瘴気探知や魔眼を使って目の前の島に敵がいないか調べて行く。

 特に索敵能力の高いファナと半径1km位の範囲をダブルチェックし敵がいないと確かめて休息を許可した。

 クザンとペネルを幻核石に戻し全員砂浜に腰を下ろして消耗したプラーナとマナをポーションで回復しながら一息つく。

 正直砂浜に寝転がって朝まで休みたいし結果の見えている勝敗を確認するのは気が滅入るが捕捉眼の効果を使いあの亀へ魔眼を向けた。

 やはり実体化は解いてあるようで巾着のような袋の中の幻核石に視点が合い、視界をゆっくり引いて行くと最初に見た巾着を持っている男を中心に十数人が砂浜で火を焚き酒盛りをしていた。

 一応全員を鑑定してみると巾着を持っている男が幻獣操演スキルを持ちプラーナとマナも一番消耗しているのであの亀の使い手と思ってよさそうだし他の十数人も全員海賊だった。

 船から逃げる時予想した通り海賊たちが勝ったんだろう。

 さらに視界を引いてモネイラさんの船と海賊船を探してみると位置を変えたようで海賊達が酒盛りをしている砂浜の沖合で海賊船を海側にして並んで停泊している。

 2隻ともに船内を調べてみるとモネイラさんや部下の内上級幹部は海賊船に囚われているようで、その他の船員達は自分達の船の船室に押し込められており数名の死体も見つけた。

 あれほどの戦闘で死者が数名なのは奴隷として売る為にポーションでの治療が許可されたんだろう。

 海賊船の中には船長と副船長他十数人いてモネイラさん達から奪ったと見える金貨や銀貨を肴に酒を飲んでいる者と見回りや見張りをしている者に別れていた。


 両船共に広げてあった近海の海図も見つけ二つとも覚えたのでシュクラまで問題なく転移で移動できると思うが、なぜかこのまま逃げるのは勿体無いように感じる。

 どうしてか魔眼で見た事を順に思い返しているとあの亀の使い手の状態に引っ掛かりを感じた。

 違和感を確かめるためもう一度あの亀の使い手を今度は持っている物も全て鑑定してみると一つ策を思いつく。

 閃いた策が行けるか砂浜にいる海賊全員をもう一度持ち物まで全て調べて見ると策の前提条件となる回復系のポーションを誰も持っていなかった。

 こうなるとみんなと相談して策を実行に移したいが時間が経つほど成功率が下がって行く筈なので、クザンを実体化し取り敢えず背中に乗って貰い水精霊を召喚して海に入った。


 クザンに移動は任せ海中を進みながらみんなに思いついた策を説明し終える。

「思いついた策の概要はこんな所だけど、何かあるかな?」

 全員を見回すとアリアが小さく手を挙げた。

「御主人様、海賊船と上陸している海賊達へ同時に仕掛けず、船を制圧してから上陸している者達に対峙してはいかがですか?」

「そっちの方が確かにいいけど、甲板上に転移で移動したら上陸している奴等にも気づかれる可能性が高いと思うぞ。」

「私も転移法術を使えばそうなると思いますからファナに自力で甲板へ上がって見張りを無力化して貰い、恐らく備え付けてある縄梯子を下ろして貰えば上陸している者達に気づかれず私達も海賊船に乗り込め先に制圧できると思います。」

 ファナへ視線を向けるとコクコク頷いてくれるので自信がありそうだ。

「ならその提案を採用だ。俺が海中から上陸している奴等を見張り動きがあるようなら対応するから、四人で海賊船を制圧してくれ。後で操船の手がいるかもしれないから海賊はなるべく生け捕りで頼む。モネイラさんへの対応も取り敢えず後回し放置しておいてくれ。制圧を終えみんなの支援準備が整ったら俺が上陸している奴等に仕掛ける。そこからは今話した策を実行しよう。」

 4人を見回すと全員頷いてくれた。

 俺も頷き返して視線を前へ向けクザンにスピードアップを促した。


 海賊船が迫ってくるとクザンに海底歩いてゆっくり近づいて貰い、船の真下まで来るとクザンの実体化を解き俺は海底を歩いて砂浜へ向かう。

 ファナも直ぐに動いてくれもしも退却する時船を沈める役をやってもらうペネルを船底に実体化すると錨の鎖を上って行く。

 甲板に上がるとものの10秒程で二人いた見張りを気絶させ縄梯子を海面へ下ろしていたので俺は砂浜の方へ魔眼を向けた。

 襲撃に気づいた様子はなく海賊達は相変わらず酒盛りを続けていて、ある程度砂浜に近づいて足を止めると砂浜と海賊船双方の様子を交互に監視していく。

 俺が歩いている間に残りの3人も海賊船へ乗り込んだようでアリアとティアが甲板上の確保と縛り上げた海賊の監視をし、リゼラとファナが船内で暴れたようだ。

 視線を向けた5秒程後でリゼラの槍の石突が最後まで残っていた船長の腹へ撃ち込めまれ、気絶した海賊達を二人で順に甲板へ引きずっていく。

 次に視線を向けると船にいた海賊達をティアの植物の精霊で縛り上げファナとリゼラが錨の楔を伝って静かに海中へ入っていた。


 俺の出番が近そうなので集中を高めて待っていると、アリアが海賊船の甲板上で支援準備完了の合図に決めた転移法術の準備へ入ったのを感じる。

 ここで襲撃に気づかれると思っていたが砂浜の海賊たちは相変わらず焚き火を囲んで酒盛りを続けていて、無警戒ぶりに多少の呆れを感じながらゆっくり浮上していく。

 海面に出て水の精霊の力でその上を砂浜へ歩きながら焚き火の中に火精霊を召喚して周囲に炎弾を振りまかせる。

 焚き火を囲んでいた上服に酒が大分服へこぼれていたので一人を除いて海賊たちは全員火だるまになって砂浜を転げまわった。

 ただ一人あの亀使いだけは少し手加減したので多少火傷しながら火のついた上着を脱ぎ捨てると、やっと襲撃に気づいたようで慌ててあの亀を自分の傍に召喚した。


 ここからが本番なので集中してあの亀へ近づいて行くと亀使いが叫ぶ。

「障壁で囲んで俺を守れ!」

 あの亀は声の指示にワンテンポ遅れて亀使いを障壁で覆った。

 思った通りあの焚き火が亀使いの光源になっているので攻撃を恐れても消す訳に行かなかったようだ。

 この亀使いには自身の防御を手薄に出来る度胸は無さそうなので、一番警戒していたあの亀の障壁に囲まれ破壊できず身動きが取れなくなる遠距離攻撃の的になる可能性をかなり減らせたと思う。

 他にも俺やファナはプラーナとマナの繋がりで声を出さずとの幻獣を操れるんだが亀使いには無理なようで俺達より幻獣操演が劣っているのはかなりの朗報だ。

 実体化した時点からあの亀は俺に気づいているようだったが、波打ち際まで来てやっと亀使いの方も俺に気づいたようで忌々しげな視線を向けてくる。

「あいつを焼き殺せ!」

 亀使いの怒声と重なるように俺もアビリティを起動した。


「限界突破。」


 さっきと同じように指示の声からワンテンポ遅れて、あの亀が口から吐き出す火炎弾を左右にステップを踏みながら回避し間合いを詰めていく。

 剣へ鎧装纏を付与し前足を斬りつけてみるが瘴気を纏った鱗に文字通り刃が立たず、剣に無理な負荷だけが掛かるので慌てて後ろに下がって間合いを取ると連接剣のような尻尾が撃ち込まれてくる。

 嫌な負荷をかけたすぐ後だが剣で尻尾を弾くと胴体へ向けて間合いを詰め今度は両浸透波を上乗せした螺旋撃を打ちこんだ。

 拳による打撃の威力は甲羅で完全に殺されるが両浸透波は体内まで届いた手応えが返って来る。

 攻撃が通った証拠にあの亀は首を伸ばして俺へ顔を向けると自分の甲羅が焼けるのもお構いなしに炎弾を吐き出して俺を追い払うと身に纏う瘴気と殺気を強めた。

 ダメージを追うのがよほど嫌なのか俺を近づかせないようあの亀が数を割り増して吐いてくる炎弾を躱しながら、持久戦狙いとばれないよう俺も魔術で攻撃する。

 あの鱗や甲羅を貫通する可能性が一番高い雷を選択し被弾面積が一番大きくなるようあの亀全体を効果範囲に収めるライトニングピラーを発動した。

 あの亀の真下にその体躯より大きな帯電した円陣が瞬きする間に現れ、そこから数えきれない雷が空へ立ち昇っていく。

 炎弾の斉射が止まり雷の音にまぎれてあの亀の苦しそうな咆哮も聞こえるので多少なりともダメージが通ったようだ。

 ただライトニングピラーが収まるとあの亀の怒気が明らかに増し攻撃が炎弾から切り替わった。


 亀の口から十数秒間連続して吐き出される炎の奔流のようなブレス攻撃を左右に動いて回避し、時折ロックウォールで炎を遮って出来た間を使いライトニングピラーを撃ち込んで行く。

 俺にとって一番理想的な状況が膠着した消耗戦になるが、流石に20分以上限界突破状態で戦闘を続けているとプラーナとマナの残量が危険域に入ってくる。

 そろそろ予定通り海の中で待機してくれているファナとリゼラに囮役を一時的に代わって貰いプラーナとマナをポーションで回復しよう。

 作戦ではあの亀を波打ち際まで引っ張っていき海の中からファナとリゼラが奇襲をしかけ囮役を引き継ぐ手筈になっている。

 なので俺がもう一撃あの亀へ痛打を与え、さらに激怒させて背を向ければ必ず俺を追って来るだろう。

 消耗戦の継続から一撃離脱へ狙いを変えあの亀がブレスを吐き終わる瞬間を狙って一気に間合いを詰めていく。

 慌てて次のブレスを吐いてくるがあの亀の5m程手前でロックウォールを作り出して受け止め、さっきまではウォールの制御はすぐに手放してライトニングピラーを撃ち込んでいたが力を注いでウォールを維持する。

 何度も感じて見切ったブレスが途切れる前の炎が弱くなる瞬間、ロックウォールを踏み台にして亀の上へ飛び出す。

 ブレスの残滓が目くらましになって甲羅の上に降り立て、雷の精霊と雷刃を左拳に纏わせ打ち込ん場所に打撃力分の貫通衝撃波を発生させる武技アーツ掌底波を両浸透波と共に甲羅へ打ちこんだ。

 衝撃波が甲羅を突き抜け雷と両浸透波も足を伝って砂浜に抜けていくが、亀も鞭のように尻尾をしならせ打ち込んできた。

 体勢が悪かったので避けられず剣を立てて何とか防御したが空へ吹き飛ばされてしまう。

 滞空時間が長かったおかげで足から着地出来たが顔を上げると、足の裏から炎を噴き出して加速して来るあの亀が口を広げて間近に迫っていた。

 何とか口の中へ支柱代わりに鎧装纏を付与した剣を差し込んで噛み砕かれるのを防ぎ、押し込まれるが何とか踏ん張って体勢を維持する。

 だがあの亀の顎の力は凄まじく俺も全力で押し返すが剣に負荷だけが掛かって行く。

 剣が嫌なしなり方をしてひびが入った瞬間不味いと思い手放して下がろうとしたが次の瞬間亀からの圧力が不意に消えた。

 剣は手放さず後ろに飛び退って様子を見るとかすみが晴れるように実体化が解けアーマードタートルキングの幻核石が砂浜に落ちた。


お読み頂き有難う御座います。

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