海路に落ちる影 7
片桐君達ゼス教団がクイルを去った翌朝早速王都へ向かう船探しに入りたいがまずは情報を集めるためギルドへ魔眼を向ける。
本来ならギルドへ足を運び直接職員に話を聞くのが一番なんだが、リザード討伐の証拠品を送る時発動した転移法術から個人を特定できるスキルやアビリティの持ち主がいる可能性もゼロじゃないと思うのでギルドの訪問は避けた。
ギルド内の一角に張り出されている依頼票へ順番に目を通していくと王都へ向かう商船の護衛依頼がそこそこ目に付く。
五人で乗り込ませて貰う以上小型や中型の船だと窮屈な思いをしそうなので、依頼票に出ている船名と港に停泊している船を鑑定して見える船名を比べて護衛依頼を出している特に大型でこれから王都へ向かう商船を幾つか見つけ出せた。
最低限必要な情報はこれで手に入れたがアリアが以前クイルからシュクラへ向かう海路には海賊の出没情報があると言っていたので次はギルドの資料室へ魔眼の視点を移す。
雑然と棚に資料が詰まっているので海賊関係の資料を見つけ出すのに手間取ってしまいやっと見つけた被害報告書に目を通してみると興味深い事が書かれてあった。
クイル、シュクラ間の海路では行き交う船の4〜5隻に1隻位が海賊に遭遇しており、その場所も特定の海域に集中しているようだ。
その海域は大小様々な無人島が点在している所のようで海賊が潜んで待ち伏せるには格好の場所な上、海流と風の関係で王都への行き来どちらも沖に出て迂回出来ないらしい。
海賊がいると明白な海域なので過去何度も国とギルドが連携して討伐部隊を差し向け幾つもの海賊団を潰しているようだが、すぐに新しい海賊達がこの海域に入り込みイタチごっこようになっているみたいだ。
ここを通る商船もそういう事情を当然分かっているから護衛依頼がそこそこギルドに出ていたんだろう。
被害報告書にもきちんと護衛を強化した船は海賊に襲われてもほとんど撃退に成功していると書いてあるが、最近の報告に二つ特異な事例も書かれてあった。
両方とも特に大型の商船の行方不明報告で当時の天候から海賊の襲撃にあったのだろうと推定されているが、片方にはギルドでランクBと認定された討伐者のパーティーがもう片方にもランクCのパーティーが乗り込んでいたみたいだ。
ランクBやCがどれ位の力量になるのか正直興味を持たなかったので今クイルのギルドにいる討伐者達のレベルとランクを比べみると、レベル30代前半でランクCの人が2人いて、ランクDの人も十数人いるがレベル20代前半が一番下のレベル帯だった。
ランクBの人はいなかったので推測になるが大体レベル40代前半位の実力は最低でもあるだろうと思う。
そうなるとレベル40代前半以上とパーティーとレベル30代前半以上のパーティーを仕留める海賊があの海域にいる事になる。
先に船を沈められて戦う事も出来ず敗れた可能性もあるし、月に百数十隻行き交う航路で2例だけの報告だが大型の商船への便乗を狙う以上覚えておいた方が良さそうだ。
知りたい情報は集め終わったので魔眼を切り外出の準備をして待っていてくれたみんなに声を掛けて宿を出ると真っ直ぐ港へ向かう。
ギルドで見た情報から当りをつけた幾つかの大型船の内、特に大きく羽振りがよさそうな一隻に近づいて行く。
街中を移動中魔眼による鑑定で責任者は誰か分かっていたが、いきなり話かけて責任者本人や周りの船員へ奇異に思われても損なので一番外側にいる人足へ話かける。
その人から聞き出した指示系統を辿るように何人かへ話かけ責任者の名前と背格好を聞き出すと部下へ指示を出している本人に近づき指示が終わるのを待って話かける。
「失礼します。貴方がそこに停泊している船の船主のモネイラさんでしょうか?」
俺達へ振り向いたモネイラさん一瞬鋭い目つきで俺達を見定めたようだがすぐ柔和な商人の表情を浮かべた。
「確かに私がモネイラですが、何か御用件ですか?」
「ええ、ギルドの依頼票を見て知ったのですがそこの船でシュクラを経由しさらに西方へ向かわれるようですね。俺達も王都へ向かいたいのでシュクラまで同乗させて貰えませんか?もちろん相応の運賃をお支払致します。」
多少面食らったような表情をしたモネイラさんだったがすぐに商人の表情へ戻る。
「失礼ですが、同乗の可否をお答えする前に皆様方のお名前と身分を証明する物をお見せ下さい。」
頷いてポーチからカードを取り出して提示し俺から順に名乗ると、全員のカードへ素早く目を通したモネイラさんが俺へ向き直った。
「確かにギルドへ登録されている討伐者の方達ですね。しかもその若さでランクDになられた方もいらっしゃるとは腕が立つ方達のようだ。そうなると一つ解せません、あなた方程腕が立つならまずは私共が出した護衛の依頼を受け報酬を受け取り、且つシュクラまで移動しようと考えるのが一般的なはず。護衛の申し出をせず、いきなり同乗客になりたいと言われる理由が分かりません。」
「それは俺達に船上や海上に水中といった場所での戦闘経験がほとんど無いからです。出来もしない海路での護衛役を船主であるモネイラさんへ出来ると偽って引き受けても、もしもの時お互いが不幸になるだけですよ。だったら始めからただの旅客として同乗をお願いするのが道理でしょう。」
今の言葉は勿論本音だが、他にもランクBのパーティーを潰した海賊ともし遭遇して勝てないと分かった時責任なく逃げ出すための保険の意味合いもある。
まあこれを言う必要は無いだろう。
「なるほど、そういうお話なら十分理解できます。この船に同乗して頂いて一向に構わないのですが我々も商売をしております。5人もの方々をお乗せするとなると相応の船荷が積めなくなるので、その分運賃をお支払頂く事になりますし食料や水は自前で用意して貰う事になりますがよろしいか?」
「構いません料金をお聞かせください。」
「そうですな、一人頭金貨2枚、五人分で白金貨1枚といった所でしょうな。」
10万ヘルクとはかなり吹っかけられていると思うが、もしもの時モネイラさん達を後腐れなく見捨てる保険料だとでも思って払うとしよう。
「その額で構いませんが、お支払いは出港時でいいですよね?」
値切られると思っていたのかモネイラさんの眉がピクッと動いたが商人の表情自体は崩れなかった。
「勿論です。明後日の早朝出港しシュクラまで2週間ほどの航海を予定しておりますので十分な準備を済ませ遅れず致してください。」
「明後日の早朝出港ですね、分かりました。では今日はこれで失礼します。」
「お待ちしています。」
モネイラさんが差し出してきた手を取って握手を交わしこの場を辞した。
モネイラさんとの話し合いが終わり別れたが昼過ぎだったため、翌日の午前中までかけて船旅の準備をした。
航海は2週間程とモネイラさんは言っていたが用心のため1か月分ほど保存食を用意し、弓や弩の矢もかなり多めに補充する。
午後からは早めにベッドに入り翌朝まだ暗いうちから宿を引き払って港へ向かった。
微かに空が白み始めた頃港に着きモネイラさんの船に近づいて歩哨している者達に話かけると、俺達の話がちゃんと通っていたようでモネイラさんの元へ案内してくれる。
約束通り運賃の白金貨1枚をモネイラさんへ払うと割り当ての部屋へ案内してくれた。
6畳程に3つの2段ベッドを押し込んである割り当ての部屋を確認すると甲板へ出て出港を待ち、完全に日が昇り船が港を離れると遠ざかるクイルの街を見送った。
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