海路に落ちる影 4
昨夜早く寝たお蔭か本当に窓の外が暗いうちから自然と目が覚め身支度を整えていく。
部屋を出て外へ向か合うと宿の出入り口で女将にもう少し待てば朝食が出来ると声を掛けられたが断って外へ出た。
夜明け前一番人出が少ない街の中を港へ向かって歩いて行き、なるべくゼス教団の船から距離を置いて海の傍まで来た。
「リゼラ、ティア。精霊の場がある方向が分かるか?」
「ええ、この方角よ。」
「私もそう思います。」
俺の質問に二人とも頷いて答えてくれ同じ方向を指差す。
魔眼を起動してその方向へ視線を送っていくと目算で10キロ程沖合に無人のように見える島があった。
念の為さらに視線を沖へと送っていくが、ただ海面が広がっているだけで先に見えた島が精霊の場がある場所と考えてようさそうだ。
実はこの島昨日も魔眼でみていて精霊の場であってほしくなかったんだが仕方ない。
いつまでも港にただ立っているだけでは不審に思われてしまうので島の詳細観察は後にして取り敢えずみんなに声を掛けて転移で移動した。
魔眼で捉えた島の中央部にある少し開けた場所に出て、周囲の警戒をファナに頼み俺は島の様子を調べて行く。
島の海岸はほとんど岩場や崖に砂浜だったがクイルに面した一角だけ少し小さいし大分朽ちて来ているが桟橋のようなものがあった。
そこから獣道のような木の生えていない場所の帯が伸びていて、魔眼で辿っていくと俺達が今いる場所の近くをかすめて島の中心付近に行き着き、そこには半ば朽ちた小屋が立っていた。
中を魔眼で覗いてみると見慣れた迷宮の扉が見えるのでここがリゼラの言っていた廃棄された迷宮と思ってよさそうだ。
目的の場所へ向かう入口は見つけたので今度は俺の嫌な予想が当たっているのか確かめておこう。
捕捉眼を発動し見つけた入口から視界を下へ振ると当たって欲しくなかった予想の通り大部屋にいる大海イグアナの姿を捉えた。
俺に精霊の場は感じられないので廃棄迷宮の何処にあるか簡単には分からない。
あいつの巣より上層にあればいいが下層にあった場合は予定を変更が必要になるかもしれないな。
げんなりする思いを押さえてみんなに見えた事を伝え廃棄迷宮の入口へ向かって歩き出した。
それ程大きくない島なので廃屋にはすぐに着き慎重に中へ入る。
閉じていた扉を開き地下への階段に足を踏み入れた時点で空気の感触が魔境のものに変わった。
振り返り声を掛けるとみんな気付いたようで警戒レベルと引き上げて階段を下りていく。
下の扉を開けると廃棄迷宮だけあって中は暗く暗視がある俺は問題ないがみんなのために魔術で明かりを灯し一層目へ足を踏み入れた。
ティアとリゼラに精霊の場の方向を聞くと口をそろえて下だと断言してくれたのでこの層は通り抜けてしまおう。
もう俺の探知能力を誤魔化す必要はないので魔眼で下層への階段を探す。
5分程で階段を見つけたが同時に迷宮の回廊を移動する魔物の群れも幾つか見つけたので詳細を調べるため近くの群れへ魔眼を向けた。
三匹で群れを作っているそいつらは、この迷宮の地下にいるあいつを大分小型化したような姿をしていてレッサーアクアリザードと見えた。
他にももう一種魔物がいてそいつは巨大なウミヘビのような姿でレッサーサーペントと見える。
能力的にはレッサーアクアリザードは物理攻撃をレッサーサーペントは魔術攻撃を主体としていると見える。
他に特段注意を引くようなものは見つけられなかったので魔眼を切り、みんなへ下層への階段を見つけた事と魔物を見つけた事とその特徴を告げる。
真剣な表情でみんな頷いてくれ階段への最短ルートへ誘導した。
少し歩くと先程鑑定した三匹のレッサーアクアリザードの群れがここから下層への階段に向かう最短ルート上へ入ってきた。
体のサイズがかなり違うがずっと下層にいるあいつと戦う参考にはなると思うし丁度三匹いるのでまずは前衛役が一対一で戦ってみよう。
考えを伝えるため後ろを振り返る。
「みんなも気付いていると思うけどこの先に居る魔物の群れは、今狙っている大物を小型化したような奴なんだ。精霊の場に着くまで何度も戦う事になると思うからこいつらを相手に動きの癖に慣れておこう。この先の魔物の群れは三匹みたいだから、まずは前衛が一対一の接近戦で戦ってみよう。」
「わかったわ。」
「了解。」
リゼラとファナは返事をくれると俺の横に並んでくれ三人横一列になって魔物の群れへ向かった。
角を曲がりお互いを目視するとレッサーアクアリザード達も横一列になって猛然と突っ込んでくる。
俺達も武器を構えて駆け出し正面から激突した。
速度の乗ったレッサーアクアリザードの体当たりを盾強打で迎撃し相殺した後は守勢に回って動きを観察する。
口を目いっぱい広げた噛みつきや顔にある棘を利用した頭突きに体を半回転して放つ尾撃は片桐君との戦いであいつも使っていたが、半ば立ち上がっての爪撃は初見の攻撃だった。
盾で弾いて分かったが攻撃を受け流されるとバランスを崩すので大勢に囲まれていたあいつは使わなかったんだろう。
レッサーアクアリザードの攻撃を14〜5回受け流し動きの癖や流れを大体つかめたので、噛みつきを盾で弾いて出来た隙を突き踏み込んで首を切り落とした。
一つ息を吐き周囲に目をやると、どうやら俺が一番最後に仕留めたようでファナとリゼラは自分が倒した個体の傍でティアやアリアと共に俺を援護出来るよう構えを取っていてくれた。
素材を回収して移動を再開し何度かレッサーアクアリザードの群れを潰して進んでいるとレッサーサーペントの群れと遭遇した。
今度もまず俺を含めた前衛が距離を詰めて戦ってみようとしたが、体の周りに水の球を作り出してそこから水の矢を打ちこんできたり口から水のブレスを吐いて俺達の接近を阻んだ。
無理に距離を詰めようとするといらない怪我を負いそうなので、障壁で防御しながら魔術や弓で頭を射抜いて仕留めた。
この廃棄迷宮の魔境はレッサーアクアリザードとレッサーサーペントだけのようでリザード方が数が多かった。
それが分かる位魔物の群れを仕留めながら俺の魔眼で最短ルートを見つけ出し体感で1日以上かけ10層以上下へ降りていく。
精霊の場があいつのいる部屋より下層にあるかもとだんだん不安になってくるが新しい階層への階段を降り切ると杞憂に終わってくれる。
リゼラとティアが精霊を感じる方向が真横に変わり、鑑定眼を加えた魔眼をその方向へ向けてみるとこの階層の最外縁部に水が流れ出している場所がある。
その水の周りを精霊が舞っていて間違いなく精霊の場みたいだ。
目的の場所を確認できた事でだいぶ気分が晴れ気合を入れて移動を再開する。
進路を塞ぐ魔物の群れは遠距離攻撃でさっさと片付けて進みそれ程時間はかからず精霊の場へ辿り着け、近づくと水の精霊の方から飛んできてくれ俺とリゼラは簡単に契約を済ませられた。
正直な所このままアクアリザードロードへ挑みたいとも思うが、いざという時の命綱になる水の精霊を試す事無く仕掛けるのはリスクが高すぎるのでここは一旦引くとしよう。
みんなを集め転移で廃棄迷宮を脱出した。
お読み頂き有難う御座います。




