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海路に落ちる影 3

 リゼラに起こして貰い全員身だしなみを整えると宿の食堂で朝食を取り部屋へ戻った。

 皆には休んで貰い俺はこれからの事を考えてみる。

 王都へ向かうのは正直微妙になったが王都の近くにあるというドワーフの村のアミオンで高性能な武具は手に入れたいし、王都に入らなくても郊外から魔眼でギルドの資料を見ておきたい。

 そう考えると今の時点で俺が王都方面へ比較的安全に移動できるのはこのクイルからの海路のみで、ただ今この街で王都へ向かう船を探せば片桐君と鉢合うリスクがある。

 もし王都方面行きを保留にしてシェイド領に留まっても片桐君の予定を考えると暮らしやすそうなシェイドやミラルテにはいられない。

 どちらにしても片桐君がいつクイルを立つかで俺の対応も変わってくるので何か情報を得られないか片桐君へ魔眼を向けてみた。


 視界が一気にゼス教団の船の一室へ移り、ベッドのうえで片桐君とセフィネアさんが裸で抱き合っていた。

 他人の情事を覗き見する趣味はないので一気に昨夜魔物を撃退した直後まで時間を遡る。

 俺が視線を外した直後位から行動を確認していくと、片桐君は戦闘後の治療や怪我人の搬送には手を出さなかったようで治癒法術を使える数名を残してその他の全員を連れて引き上げたみたいだ。

 待機していた部屋に戻り集まった全員からの視線を受け止めて片桐君が口を開く。

「今日はみんなよく戦ってくれた。おかげで街に被害なくあいつを撃退できた。でも悔しいけど討伐は出来なかった。あいつはまた襲って来るはず。次までにはこの街の人達と連携を高めてもっと内陸に引き込んで包囲討伐しよう。皆力を貸してくれ。」

 話しぶりから片桐君は周りのゼス教団の人達に力強く同意して欲しかったようだが、その部屋にいた人達は一様に困惑した表情を浮かべ全員を代表するようにセフィネアさんが口を開いた。

「ユウキ、今回の撃退で勇者の力は十分示されたと思うわ、無理に討伐を狙う必要は無い。それに無理を言ってシェイド辺境伯との面会を遅らせているの、これ以上先延ばしにすれば面会自体を取りやめにされかねない。だから2〜3日中にシェイドへ向かいましょう?」

 今度はセフィネアさんも移動を促したが片桐君は首を横に振った。

「ダメだよ、セフィネア。勇者が魔物の前に立って止めを刺さずに引き下がるなんてありえない。それにシェイド辺境伯との面会なら問題ないよ。領内の街をこれだけ荒らしまわっている魔物を討伐すれば辺境伯としても褒美を出さない訳にはいかない、その褒美に面会を頼めばいい。これなら問題ないだろ?」

「確かにそうね、でも私達だけで決めていい話じゃ無いから今日はここまでにして、決定は他の人達とも相談してからにしましょう。」

「そうだね、あいつを打ち漏らした悔しさで先走ってたみたいだ。みんな疲れていると思うしこれで解散にしよう。最後に皆力を貸してくれて、ありがとう。」

 部屋を見回しながら片桐君が礼を言うとその場にいた全員が一斉に敬礼し2〜3人で組を作って個別に部屋を出て行った。

 皆に礼を言った後、一つため息ついていた片桐君へセフィネアさんが寄り添い二人で待機部屋を出て行く。

 そのまま船に引き上げて行く所を見ると最初に見た光景に続くお楽しみをベッドの中でしながらセフィネアさんが片桐君を説得したんだろう。


 そこで一旦魔眼を切り昨日補充したポーションを飲んでプラーナとマナを回復しながら見えた情報を整理する。

 セフィネアさんを含めゼス教団の人の大多数は今回の魔物撃退で恩は十分に売れたと考えていたみたいで、次の予定であるシェイド辺境伯との面会のためクイルから移動したいんだろう。

 ただ片桐君個人は討伐に固執しているように見えたのでゼス教団全体がどう動くかは流動的だと思う。

 こうなると俺達であの大海イグアナを片付けるのが、片桐君達を含む教団の連中にクイルを出て行ってもらう近道かもしれない。

 そうなると俺達が表に出ずどうあいつの討伐を証明するかが問題になる。

 この街の襲っているやつだからギルドに討伐の依頼票ぐらい出ている筈で、それを確認してみるため宿の情報収集のついでに場所を教えて貰っていたこの街のギルドへ魔眼を向けてみた。


 大きな戦闘のあった翌朝だけあって職員は慌ただしく働いていたがギルドの中は閑散としていて依頼票は探しやすいと思ったが、一番目立つ分かり易い位置にあいつの討伐依頼は張り出されていた。

 討伐の証明方法の欄に目を通していくと、魔核石や倒した時落とすと予想される牙や爪に鱗といった素材の提出の他にあいつがこの街から持ち去った物品の提出という項目もある。

 この証明方法なら魔核石を幻獣にし付与のため素材を手元に残しても俺達が表に出ずに討伐を証明できるかもしれない。


 そうなると後は実際俺達がアイツを討てるかが問題になってくる。

 今あいつが何処にいるか魔眼を組み替え探してみると捕捉眼の効果で一気に視界が変化する。

 床や壁が迷宮のような質感をしているかなりの大部屋にあいつは身を横たえていたので鑑定してみた。


アクアリザードロード Lv35 

筋力 319

体力 273

知性 140

精神 273

敏捷 175

感性 70

アビリティ

海竜の鱗

水流操作

剛力

スキル

4個


 これ程上位の魔物なら片桐君達との事がなくても幻獣として手元に置いておきたし、この強さなら十分勝てると思うが問題はアクアリザードロードの周囲の状況だ。

 部屋の床には大穴が開き床の高さまで水が満ちていて、その穴を辿っていくと海までつながっていた。

 この穴を使って外と行き来しているんだろうが、どうやらあいつがいる部屋は海面下に位置しているようだ。

 この位置にある部屋に水が流れ込んでこない理由はいくつか考えられるが、もしあいつが空気を維持しているなら戦闘中いきなり海水が部屋に流れ込んでくるなんて事も考えられる。

 そうなると水中で溺れない為の対策が必要になるが正直心当たりが全くない。

 ここは素直にまずはみんなの知恵を借りるとしようか。


 魔眼を切り部屋の皆を見回して声を掛ける。

 話を聞く姿勢を取ってくれたのでこれまで見て調べた事を全て話し、教団にクイルから出て行って貰うためにもリザード退治を考えていると伝えて問題点を挙げる。

「一番警戒しないといけないのは海中に落ちた時だと思ってる。水中で溺れず長時間活動できるいい方法を知らないかな?」

 俺が問いかけるとティアが手を挙げてくれた。

「水の精霊を召喚し保護下に入れば溺れませんし短い距離なら会話も出来ます。里にいた頃体験しているので間違いありません。」

「その方法なら俺やリゼラも水の精霊と契約したら仕えるな。そういえばクイルの近くに水の精霊の場があるんだよな?」

 リゼラの方を向くと頷いてくれる。

「ええ、クイルの沖合に無人島があって、そこの廃棄された迷宮の中って聞いてる。島の詳しい位置はクイルの港に出れば精霊の場を感じられるから迷わないだろうって教えられてるわ。」

 リザード討伐とは関係なく水の精霊とは契約しておくべきだろう。

 その無人島へ行くのは決まりだが廃棄されたとはいえ初見の迷宮へ行くのだから護衛で消費した消耗品の補充は十分にしておこう。

「分かった。リザードの事とは関係なく水の精霊とは契約しに行こう。今日はこれから全員で買い物に行って護衛中に使った保存食や矢を補充して、明日夜明け前にこの宿を出て港へ歩いて向かおう。そこからは俺の転移法術で無人島へ移動して水の精霊と契約しよう。契約後リザードを討伐して幻獣にするつもりだけど、討伐を公表するかはセズ教団の動きを見極めて決めよう。」

 みんなを見回すと頷き返してくれたので座っていたベッドから立ち上がり早速行動に移った。

 念の為完全武装して部屋を出ると宿の女将に保存食を扱う店や武器屋を聞いて外へ出る。

 10分に1回位のペースで片桐君やセフィネアさんの動向を確認しながら買い物を済ませていき宿に戻ると夕食後直ぐに眠った。


お読み頂き有難う御座います。

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