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追跡 7

 シェイドの街の大通りをトガンさんの後ろについて北西の門へ向かって歩いて行く。

 シェイドは大きな街なので門へ着くまでそこそこの時間が掛かったが、門での審査はトガンさんの顔パスで済み門はほぼ素通り街の外へ出れた。

 そこからは俺の転移法術の出番となり、指示された街道の上をシェイドへ移動した時のように連続転移していく。

 街道の両側に所々存在する中小の農村を横目に見ながら転移を繰り返すと、俺の感覚で3日間歩いた位の距離で街道が終わり終端にそこそこの規模の砦が建っていた。

 トガンさんの指示通り砦の城門前に転移すると門衛に槍を向けられるが、向こうも直ぐこっちにトガンさんがいると気づいてくれ慌てて城門を開けてくれた。


 御付の騎士が先に砦へ入り俺達はトガンさんと共に作戦室のような大部屋に通される。

 上座にドンと座るトガンさんの後ろに立って次の指示を待っていると、御付の騎士達が一人の騎士をトガンさんの前に連れてきた。

「トガン様、この者が例の男を見たようです。」

 目を閉じ微動だにせず待っていたトガンさんは、カッと目を見開き連れてこられた騎士を見据えた。

「間違いないのか?」

 トガンさんに凄まれた騎士は硬直してしまうが、お答えしろと御付の騎士に促されると姿勢を正して口を開く。

「この一週間ここから先の魔境に入った騎士で、ご指摘の手形も所持していたので間違いないと思います。」

「その騎士はいつこの砦を立った?」

「今日の朝早くです。」

 騎士からの報告に頷くとトガンさんは立ち上がって俺達や騎士達を見回した。

「私自身で行きたいが立場上魔境には入れん。だがお前達にはすぐ後を追って貰う。魔境に入る準備が出来次第出発しろ。」

 トガンさんの指示に騎士達は敬礼で答え、俺達を促して大部屋を出た。

 俺達はいつでも魔境に入れると騎士達へ伝えると、砦の騎士の荷物だけ引き上げて魔境方面の門から砦を出発した。


 魔境とシェイド領の緩衝地帯となっていると説明してくれた森を進みながら男を探す方法を尋ねてみると、今日あの砦から魔境へ向かったのは目的の男一人だそうで足跡を追えていると説明してくれる。

 その条件ならファナの嗅覚も有効そうなので追えるか聞いてみると、森に入った時点から追っていると答えてくれた。

 足跡を追いながら足早に森の中を進んで行き1時間程で森を抜けるといきなり目の前に沼地が現れた。

 一旦足を止め周囲を見回すと底の見えない濁った水がたたえられた大小幾つもの池が点在しているようで、その間をさまざま草丈の雑草が埋め尽くして視界を阻害している。

 その上この空気の感触だとここからは魔境になるようだ。

 気を引き締め直すと慣れている筈の騎士達まで足を止めているので訳を聞くと、どうやら目標の男は底なしではないとはっきりしていて濁った水に覆われている沼の上を行く事で足跡を誤魔化したみたいだ。

 時間を掛ければ次の足跡も見つけられると思うがファナに聞くと嗅覚による追尾には問題ないようなので、俺達が前に出て草をかき分けながら魔境に足を踏み入れた。

 騎士達は最初半信半疑ようだったが進む先で所々真新しい足跡を見つけると、感心してファナの先導に従ってくれる。

 ただ進んで行く方向が魔物の密度が低い移動に適したルートではなく、返って魔物の密度が高い危険な場所を目指しているのが奇異に感じると騎士達は教えてくれた。


 魔境の中を進んでいる筈なのに魔物との接触が一切ないかなり気味の悪い移動が続く。

 騎士達の同じように感じているみたいで、俺達を含め全員最大級に周囲を警戒しながらそれでも移動速度は落とさず追跡を続行した。

 移動しながら携帯食をかじり水で流し込む事で昼食を済ませ、休む事無く追跡を続けて日が傾き始めた頃気配探知スキルで前方に人の気配を一つ拾った。

 間違いないか確かめるためティアやファナに声を掛けると間違いないと返事をして頷いてくれる。

 リゼラや騎士達もそのやり取りを聞いてくれていたので、全員全速で気配を感じる方向へ走り出した。

 5分程全速で走り藪をかき分けて視界が開けたので一旦足を止めると、装備から判断して騎士だろう男が100m程先の沼の中を歩きづらそうに進んでいた。

 この男が追跡対象だろうが男から20m位離れた沼の中に桁はずれの瘴気を感じ取れ、そいつがゆっくりと男に向かっていた。

 危機感知スキルにも反応しているので正直戦いたくはないが、騎士達が同行している手前捕らえようとしたというアリバイ作りは必要だろう。

 騎士達へ詳しく魔物の説明をしているとその間に男が食い殺されそうなので、先程よりさらに気合を入れて沼の中へ走り出した騎士達に俺達も続いた。

 周囲に魔物がいると騎士達へ注意を促し沼に足を踏み入れると直ぐに瘴気へ魔眼を向け鑑定してみる。


リザードマンジェネラル Lv55

筋力 440

体力 440

知性 110

精神 110

敏捷 110

感性 110

アビリティ

リザードマンの貴種

鱗鎧

自動回復

スキル

4個


 外見は手足が人間のようになっている全長4m程のワニという感じで、剣を右手に持ち尾をくねらせながら沼の底を泳いで目標の男へ近づいている。

 筋力と体力は俺を上回っているので本当に要注意だ。

 鑑定が終わったので男の方へ視線を戻すと沼を走る水音で気づいたのだろうこちらへ振り返った。

 表情が固まり迷っているのだろう数秒視線を泳がせると、逃げられないと判断したようで剣を抜いてこちらへ向けて構えを取った。

 有り難い事に騎士達も足を止めて剣を構え20m程の距離を空けて双方が剣を向け合った瞬間、水柱を上げて男の傍にリザードマンジェネラルが姿を現した。

 不意を打たれた男は完全に硬直して動きを止めてしまい、一気に間合いを詰めたリザードマンジェネラルは男の剣を持つ右腕に噛みついた。

 鎧が砕け肉が裂ける音と男の絶叫が重なり数秒と持たず腕が食いちぎられる。

 男の絶叫はさらに酷くなるが腕が千切れた反動でリザードマンジェネラルと男の間に若干の空間ができ、男が剣を抜いても足を止めず間合いを詰め続けていた俺はその空間へ滑り込めた。


「限界突破」


 限界突破の他に気鎧系と魔装衣に身体強化法術も使って能力を底上げしながら構えを取り、リザードマンジェネラルと向き合うと男の腕を口にくわえたまま瘴気を纏わせた剣で横薙ぎの一撃を繰り出してきた。

 後ろに下がれないので土の精霊武装と防御膜を同時展開した盾で受け止める。

 強烈な衝撃が腕まで伝わって来て足場の悪さもあり多少押し込まれるが受けきると、リザードマンジェネラルの方から間合いを取り咥えていた腕を丸呑みにすると大きな咆哮を空へ向かってあげた。

 すると距離はまだ大分離れているが全方位からここへ向かって魔物の気配が動きだしたように感じる。

 恐らく今の咆哮には魔物を集める効果があり、動き出した気配の数は3桁を割る事はなさそうだ。

 その上リザードマンジェネラルの能力を考えると短時間での撃破は無理だろうから、魔物が集まって来る前に何とか動きを封じて転移で逃げ出さないと全滅必至だ。

「ティア、この男に止血処置をしてやれ!ファナとリゼラはティアの護衛だ。」

 指示を出してリザードマンジェネラルとの間合いを詰めると向こうも前に出て来て真っ向からの打ち合いになる。

 剣を打ち合わせ振り下ろさせるリザードマンジェネラルの拳を盾で受け止め、隙が出来たら斬りつけて多少の傷はつけるがすぐに塞がってしまう。

 十数合打ち合い俺のプラーナとマナだけが一方的に削られる展開が続くが、代わりにこのリザードマンジェネラルの戦闘の傾向は概ね理解できた。

 守りの硬さや回復力にものをいわせた持久戦を誘っているようで足を止めた打ち合いは得意なようだが回避や防御の技術は大した事無く、ここがねらい目だろうし残り時間も少ないので勝負に出よう。


 アッパーのように打ちこんできたリザードマンジェネラルの拳を盾で受け、その衝撃を利用して大きくバックステップし間合いを開ける。

 ロックジャベリンを今の最多となる4本並列発動し突っ込んでくるリザードマンジェネラルへわざと回避できる速度で撃ち込む。

 思惑通りロックジャベリン避けてリザードマンジェネラルは突っ込んで来てくれ、打ちこんでくる剣を盾で受けとめ押し返す事で動きを止めた。

 その瞬間、避けられてから加速し上空へ誘導したロックジャベリンをリザードマンジェネラルの真上から打ち込み両足と尻尾を2か所沼の底へ縫い付けた。

 同時に空いている腕へ剣を打ちこんで抑え込み動きを完全に封じると、植物の精霊を召喚する。

 足元の水草を過成長させ抑え込んでいるリザードマンジェネラルへ巻きつかせさらに動きを封じ込めていく。

「ティア、リゼラ。同じ精霊召喚で続いてくれ!」

 指示を出すと事前に準備していたようで二人は間髪入れず応えてくれ、リザードマンジェネラルの周囲へ追加された精霊が撒きつく水草を増やしていった。

 そこでバックステップして距離を置きリザードマンジェネラルがもがいているが動けない事を確かめてファナ達を見ると、有り難い事に騎士や追ってきた男を含めて全員一か所に集まってくれていた。

 残りのプラーナとマナを振り絞り転移法術の準備をして俺も合流すると、リザードマンジェネラルが怨嗟の籠った咆哮を上げ、おびただしい魔物が集まってくる中転移で魔境を脱出した。



お読み頂き有難う御座います。

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