召喚された夜 1
朦朧としていた意識がハッキリとしてくるにつれて視界も鮮明になって来る。
鮮明になった視界に映ったものはいつもの見慣れた病室ではなくて、中世欧州風の教会にある礼拝堂の様な場所だった。
窓の外はもう夜で蝋燭の明りが照らす視界の中には十人程の人が居て、金属製の全身鎧を着た騎士の様な数名が荒い息使いで床に座り込んでいる女性の前で列を作り守るように立っている。
その後ろに居る従者を従えた別格の存在感をした鎧姿の男が声を掛けてきた。
「私の名前はヴァルデル・カーマン、この教会の責任者だ。召喚に応じてくれた方々、私の話が理解できるならどうか名乗ってくれないだろうか?」
俺がこの状況を把握しきれずその問いかけにためらっていると、横手から声が上がった。
「僕は、片桐 勇樹です。」
声の方に振り向くと、等間隔に距離を置いて二人の男が立っている。
年齢は二十歳前後と十五、六くらい二人とも黒目黒髪で明らかに日本人の特徴をしていた。
「千葉 進だ。」
一呼吸位の間の後、二十歳前後の男も続いたので俺も答える事にした。
「上條 征司です。」
「返答感謝する」
ヴァルデルと名乗った男はそう答えると従者を連れてこちらに歩いてきた。
騎士の列を超えたところでヴァルデルさんは止まるが、従者は俺達の前まで歩み出て来た。
「そちらも聞きたい事がいろいろと在るだろうがまずこの者の持つ石に触ってほしい。もちろん害はない。その上で頭に響く声の内容を答えてほしい、その後この行為の意味や今の状況を説明し、そちらの疑問に答えたいと思っている。」
ヴァルデルさんにそう促されて、ほとんど迷いなく片桐君が動いた。
そのまま従者が持っている石に触れると、片桐君の体はわずかの間淡い光に包まれた。
石から手を離し下がった後、片桐君は少し呆然としていたが本当に害は無さそうなので次は俺が触る事にした。
触ってみると俺の体も光に包まれる。手を離して少し下がったところで全身に力が漲っていく感覚に満たされ声が響いた。
「「覚醒した事により以下の事が発生します。」」
種々の経験を糧に自身の存在を拡張できます。
固有のアビリティが有効化します。
ボーナスポイント(以後BP)が10ポイント与えられます。
条件を満たしているクラスを解放します。
[戦士] [闘士] [魔術師] [法術師] 以上です。
暫定で[戦士]がクラスに設定されます。
漲ってくる感覚に呆然としているうちに、千葉さんも石に触ったようでヴァルデルさんが問いかけてきた。
「聞こえた内容は分かっている解放されるクラスだけ人によって違うのでどんなクラスが解放されたか教えてくれないか?」
「僕は、勇者です。」
「俺は、英雄だ。」
「俺は、戦士、闘士、法術師、魔術師です。」
片桐君、千葉さん、俺の返事を聞いてヴァルデルさんは驚いた顔をする。
「ありがとう、今触って貰った石は人の潜在能力を解放するもので、やはり三人とも高い素養を持っている様だ。」
そう答えた後、従者に合図をして下がらせヴァルデルさんが俺たちの前に立った。
「我々は光の父神ゼス様を奉ずる教団の者だ。いま世界は大地より湧き出る魔物と傲慢な王たちが引き起こす戦乱により乱れている。そこで我々は人々を率いこの乱れを収める者たちを呼び出す儀式を行い君たちが現れた。我々の下で訓練し力をつけこの乱れを収めるため共に戦ってくれないだろうか?」
「僕はいいですよ、勇者やらせて貰います。」
片桐君がそう答えると、千葉さんが口を開いた。
「俺は断る、すぐに元の場所に戻してくれ。」
「我々と共に戦ってはくれないと?」
「ああ、元いた所には大切な人が居るんだ。」
「・・・すまない。送還の方法を我々は知らないのだ。召喚の儀式の事を教えてくださった方に使いを出して問うてみるので、その答えが返ってくるまで力をつける訓練だけでもやってくれないだろうか?」
「その訓練をする事に意味はあるのか?」
「ある、もし召喚の儀式を我々に教授してくれた方が送還の方法を知らず、自力で探してでも、というなら過酷な旅に耐えられる力がどうしても必要になるからだ。」
「答えが返って来るまでの時間は?」
「三か月ほど掛かるだろう。」
「・・・わかった、その間訓練だけはやろう。」
千葉さんに頷き返しヴァルデルさんが俺の方に体を向けてきた。
「君はどうだろうか?」
「訓練はやりますが、そのほかは今の時点では保留ですね。」
「訳を聞いてもいいかな?」
「判断を下すには、あまりに情報が少ないので。」
「分かった。訓練をしてくれるなら今の時点で問題はない。」
俺の答えを聞きヴァルデルさんは三人共を視界に収める位置に立った。
「三人とも聞いてくれ、まず君たちにはここにある迷宮に湧く魔物を倒してもらう、相手が弱いと感じるようになったらより強い魔物が出る迷宮の下層をめざしてくれ。強い魔物を倒していく方が普通の訓練よりずっと早く強くなれるからだ。千葉君との約束もあるしとりあえず三か月続けてほしい。戦闘に不安があるならここにいる者たちを護衛として連れて行って構わないが目立つ行動はくれぐれも慎んでくれ。では君たちに渡す装備の調整の為、体の採寸をさせてもらう。そのあとは部屋を用意してあるので明日まで休んでほしい。」
そう言われて俺たち三人は黙々と採寸をされ淡々とそれぞれの別の部屋に案内された。
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