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第4話 ―ロボ子とショッピング―

「まったく、部活って本当はそう簡単に休めないんだからね」

「悪かったな急に。朱里くらいしか頼める人もいないしさ。後でアイスおごるから」

「んー、まあ、良いけどさーアイスはコンビニのじゃなくてちゃんとフォーティーワンの奴ね。もちろんダブルで」

「はいはい、わかったよ」

 秀作は半ば呆れながらも、無理を言って付き合ってもらった手前何も言えずに肩をすくめた。朱里はと言うと、今からアイスの事を考えているのか、不満を言いながらも少し上機嫌で足取りも軽かった。

「ごめんなさいアカリさん、わざわざロボ子のために……」

「ううん、良いのよロボ子ちゃん! いきなり何も持たずに放り出されて大変だろうしね」

 申し訳なさそうに言うロボ子に、朱里は慌ててフォローを入れる。

「それにほら、私の服だと若干サイズが、ね……」

 言わなければ良いのに、朱里はロボ子の胸元をみつめつつ、地雷原に自分で突っ込みそのまま自爆していた。そんな朱里の様子を見て、ロボ子は不思議そうに首をかしげた。


 秀作とロボ子、朱里の三人は放課後の時間を利用して近くのショッピングセンターに来ていた。ロボ子が朱里から借りた服を汚してしまったこともあったが、これから長く亜司母家で生活するのなら必要になるであろう日用品も沢山あった。

 しかし服のことも含めて、女の子の買い物と言うものをどこですれば良いのか、秀作にはさっぱり見当がつかなかった。もちろん、外に出た事のないロボ子にもそんな知識は全くない。そこで、唯一事情を知っている朱里に頼んで一緒に買出しについてきてもらったのだ。

 ロボ子は朱里に借りていた別のTシャツと細身のジーンズに身を包み、彼女の貸してくれたシンプルなサンダルを履いていた。それはそれで似合っていたが、いつまでも朱里に頼りっぱなしというわけにはいかないだろう。


 ショッピングセンターの入り口をくぐると吹き抜けの大きな広場になっていて、その周りには服やアクセサリー、雑貨などが飾られたショーウィンドウが並んでいた。店内は多くの買い物客でにぎわっており、秀作や朱里のように制服姿の若者の姿も少なくなかった。

「うわー、すごいです!」

 初めて足を踏み入れたロボ子が、目をキラキラさせて辺りを見回した。

「迷子になるんじゃないぞ?」

「はい!」

 元気良く返事をしながらもロボ子の目はショーウィンドウに釘付けで、全く秀作の方を見ようとしない。ホントに大丈夫かよ……と、秀作は早くも不安になる。

「それじゃあ早速、買い物に行きましょう。えっとまずは……」

 先導する朱里を追って秀作も歩き始めるが、ロボ子が着いて来ていないことに気付いて後ろを振り返った。ロボ子は相変わらず心ここにあらずという様子でショーウィンドウに目を奪われていた。

「ほら何してんだ。行くぞ」

「は、はい! ごめんなさい!」

 秀作に手を引かれて、ロボ子は慌てたように歩き出す。思った以上に小さく、ほっそりしたロボ子の手の感触に秀作は少しドキっとしたが、悟られないようにちょっとだけ不機嫌そうな表情を作った。


 朱里が最初にやってきたのは、いかにも女の子、と言う感じの少しファンシーな雰囲気の店だった。

「え、朱里お前こういう店で服買ってるのか?」

 秀作が意外そうに訊くと、朱里は鋭い目で秀作をギロリと睨んだ。

「私はあんまり来ないわよ。ロボ子ちゃんに似合うと思ったから連れてきたの」

 そう言うと朱里はふんっとそっぽを向いてしまった。「どうせ私には似合いませんよ」と拗ねたように漏らす朱里に、秀作は「ごめんって」と声をかけてみたが、無視された。

「わー、可愛いお洋服がいっぱい……」

 ロボ子は胸の前で手を小さく握りながら、小さなフリルのあしらわれたブラウスを着たマネキンに釘付けになっていた。

「ロボ子ちゃん、こういう服好き?」

「はい! 是非着てみたいです!」

 キラキラした目でロボ子は答えた。ロボットとはいえ、中身は女の子なんだなぁと秀作は少し意外に思った。

「良かった! こういうの自分じゃ着られないし、なかなかお店に入るのも気が引けるから……今度からロボ子ちゃん連れてこよう」

 小さく決意を秘めたような声で、朱里は言った。良いオモチャを見つけたという感じだった。

「なあ、ぐずぐずしてないでさっさと買い物済ませようぜ」

「あのねえ……」

 呆れた、と言う様子で腰に手を当て、やれやれと首を振る。

「女の子にとって服を買うって言うのはそういうものじゃないのよ。野菜やお肉やトイレットペーパーを買うのとは訳が違うの」

「はいはい、わかったわかった」

 怒られた秀作は釈然としないながらもとりあえず謝っておいた。今日の朱里はいつも以上に扱いにくい。


 それから朱里とロボ子のショッピングタイムが始まった。朱里は次々に洋服を手に取ると、ロボ子にあてがっては「似合う」とか「可愛い」とか「ズルい」などと言って喜んだり凹んだりしていた。

 ロボ子の方も非常に楽しいようで、色々な服をあてがわれながら終始笑顔を見せていた。そんなに楽しそうなロボ子を、秀作は見たことがなかった。

 一方秀作には、その場にいる時間が非常に苦痛だった。長い。長すぎる。女の買い物はどうしてこうも長いのだ……

 問題は長さだけではない。女ものの服がずらりと並ぶファンシーな店内は、男である秀作にとって存在することすら許されない空間に感じられた。女性客から怪訝な目を向けられるたびに、秀作は「自分は買い物に付き合わされているだけなんです~」と言うのをそれとなく、かつ全力でアピールした。言葉を使わず何かを伝えるのは、滅茶苦茶難しいのだと学んだ。


「うーん、どっちだろ。秀作、あんたどっちが良いと思う?」

 朱里がロボ子にあてがっていた二枚の服を差し出す。その二枚のワンピースは色合いやデザインが少し違うように見えたものの、具体的にどう違うか、どちらが良いかは秀作にはよく分からなかった。

「どっちも良いと思うけど」

「ったくこれだから男は……」

 朱里は「けっ」と小さく悪態をついた。

 それから朱里にたっぷりと小言を言われたので、秀作はそれ以降、少し悩んだふりをした後に右と左を交互に答えるようにした。終盤にはそれもバレて、更に怒られた。


「よし、こんなもんね」

 満足げに胸を張る朱里の買い物かごには、山のように衣類が盛られていた。

「ようやく終わるのか……この長い戦いが……」

「なに言ってんの、これからが本番よ」

 秀作の言葉を聞いて、朱里は呆れたようにそう言った。秀作は「ええっ……」と絶望めいた声を漏らす。

「さあロボ子ちゃん、試着しましょう!」

「シチャク……ですか?」

「そうよ。買う前に実際に着てみて、それから本当に買うか決めるの。サイズもみないといけないしね」

「ええ、買う前に着てみることができるのですか!?」

 朱里の言葉を聞いて、ロボ子は前のめりになって訊ねた。

「もちろん。ほら、あそこに試着室があるから、行きましょう」

 朱里はロボ子の手を引いて試着室の方に連れて行く。秀作はのろのろと、足を引きずるようにその後を追った。女性店員が、同情するような目で秀作を見ていた。

 かくして、朱里によるロボ子ファッションショーが始まった。


 ロボ子と朱里が試着室内に入り、カーテンを閉めると秀作は試着室の横にあった椅子に腰を下ろした。ふと気付くと、隣の椅子にも秀作同様に腰を下ろしている男がいた。大学生くらいに見えるその男は、秀作と目が合うと疲れたように小さく笑った。秀作も同じように笑い返す。言葉がなくても人は分かり合えるのだと、秀作は確信した。


 少しして朱里がニヤニヤと笑いながら試着室の中から出てきた。

「これは予想以上ね……」

 そう呟く彼女はもはや変態チックですらあった。

「秀作、覚悟は良い?」

「何だよ覚悟って……」

 たかが試着くらいで……と、そのときまで秀作はそう思っていた。そんな風に油断していたから、朱里が勢い良くカーテンを開けたとき、一瞬言葉を失った。

「あ、あの……似合いますか?」

 恥ずかしそうにもじもじしながら訊ねるロボ子は、似合うなんていうものではなかった。ゆったりした薄い水色のワンピースに身を包み、シンプルな青色のリボンで髪の毛をハーフアップにした彼女は、まるで漫画の世界から抜け出してきたような可愛らしさだった。

「何鼻の下伸ばしてんのよ!」

「痛てっ」

 朱里から足に蹴りを入れられて、秀作は我に返る。秀作は、返事がないことで不安そうな顔をしているロボ子に「似合う。滅茶苦茶似合ってる」と慌てて答えた。その言葉を聞いて、ロボ子の顔はパーッと明るくなる。あまりに眩しくて、秀作は思わず目を逸らした。

「さあロボ子ちゃん、どんどん試着しましょう!」

 そう言うと朱里はカーテンを閉め、早速次の服の試着に移った。秀作はなんだか力が抜けたように再び椅子に腰を下ろしたが、試着室から聞こえてくる衣擦れの音や、時折聞こえる「や、くすぐったいです」「あ、アカリさんっ、そこは自分でっ」と言う声がやたらと気になって仕方なかった。


 ロボ子は次々と衣装を変えたが、そのどれもが驚くほど良く似合っていた。元々日本人離れした(日本人ではないので当然だが)ロボ子には、この店の趣向が良く合っていたというのもあるのだろう。朱里が「顔も可愛くて、スタイルも良くて、何でも似合うんだからズルいわ」と言っていたが、それは本当にその通りだった。

 しばらくすると、朱里も着せ替えに疲れたようで、着替えにも慣れてきたロボ子を残して秀作の隣に腰を下ろした。

「はあ……私の方が疲れちゃった」

「お前、ロボ子で遊びすぎだろ」

「あ、バレた?」

 そう指摘されて、朱里はいたずらっぽく笑った。

「そりゃあお前、あんだけ楽しそうに着せ替えしてたらなあ」

「でも、可愛かったでしょ?」

「ま、まあな……」

 秀作は照れくさそうに、ボリボリと頬をかきながら答えた。

「良いなああの子、あんなに可愛くて……」

 そう言って俯く朱里の声は、急に元気をなくしてしまったように聞こえた。秀作は思わず彼女の方を見るが、俯いた彼女の表情は良く見えなかった。


 秀作が何と声をかけて良いか迷っていると、試着室の中から「きゃっ!」と言うロボ子の声が聞こえた。

「どうした! うぉっと!」

 慌てて立ち上がった秀作は、勢い余って足を滑らせ、とっさに試着室のカーテンを掴んでしまう。

「へっ?」

 勢い良くカーテンが開かれると、紺色のプリーツスカートに上はほとんど何も身につけていない、前かがみのロボ子と目が合った。床に伸ばした右手には取り落としてしまったらしい白い洋服が握られ、青く澄んだ彼女の目は驚きで見開かれていた。思わず動きを止めた彼女の姿はまさに「着替え中」と言う感じだった。露わになった真っ白な肌と姿勢のせいで強調された胸の膨らみに、秀作は頭から湯気でも出るのではないかというくらいに真っ赤になった。

「なあにやってんのこのバカ秀作!」

 パンッと言う小気味のいい音が店内に響き渡り、秀作の頬に痺れるような衝撃が走る。朱里の渾身の平手打ちで、秀作の首はグリっと嫌な音を立てそのまま体ごと大きく吹き飛ばされた。


 頬に赤く掌の痕を残した秀作は、不機嫌そうな顔で沢山の紙袋を持って歩いていた。結局試着したほとんどの服を購入する事になり、その金額に秀作は目眩がしたが、試着室の一件もあってノーとは言えなかった。それに加えて靴なども購入したので、亜司母家の家計は火の車だ。

「シューサクさん、大丈夫ですか?」

 最初に試着した服に着替えたロボ子は上機嫌で秀作の隣を歩いていたが、頬を腫らして黙ったままの秀作を案じて心配そうに声をかける。

「良いのよそんな奴。自業自得なんだから」

「あのなあ……」

「何よ」

「ロボ子はもう良いって言ってくれてるじゃないか」

「ふんっ」

 朱里はずっと不機嫌だった。ロボ子は許してくれているのに彼女ばかりがずっと腹を立てているのが、秀作には釈然としなかった。

「あの、お二人ともけんかしないでください……」

 ロボ子がしょんぼりした様子で言い、朱里は慌てたように「ごめんごめん」とそれをなだめた。


「あれ、朱里に、秀作?」

 後ろから声をかけられて振り向くと、朱里と同じ制服姿の女の子が二人、買い物袋を下げて立っていた。思わず秀作は「げっ」と声に出してしまう。朱里以外の知り合いにロボ子の存在を知られてしまうのはまずい……

「こんなところで何してるのさー、朱里は部活サボり? ってか、どちらさん?」

 ポニーテールにヘアピンが特徴的な快活そうな少女、小日向美佳こひなたみかが立て続けに尋ねる。もう一人の長い黒髪に前髪を切りそろえた少女、西園寺静葉さいおんじしずはも不思議そうに秀作たちを見つめていた。

「美佳に静葉じゃない! こんなとこで会うなんて偶然!」

 とっさに答える朱里の顔は、微妙に引きつっていた。

「ええっと、この子はね……秀作、説明してやって」

 朱里はそう言って、秀作の背中をぐいと押した。こいつ、丸投げしやがったな……

 突然話を振られた秀作は、こんなこともあろうかと考えてあった「設定」を説明した。

「あー、この子は俺の遠縁の親戚の子で、仕事の関係で両親が海外に行っている間うちで預かることになったんだ」

「えー、秀作の親戚!? 全然見えない!」

「外人さんみたい……」

 美佳と静葉は驚いたように言う。見えないのも当然だ。親戚などではない。不思議そうな顔をするロボ子に、朱里は「話を合わせて」とこっそり耳打ちした。

「彼女のお母さんは東ヨーロッパの出身で、彼女は母親似なんだ」

「へー、ハーフなんだ!」

「だから外人さんみたいなんですね」

 静葉は納得したようにコクコクと頷いた。よし、上手く切り抜けられそうだ。

「初めまして。私は秀作たちのクラスメイトの小日向美佳」

「私は西園寺静葉です。よろしくお願いしますね」

 二人が代わる代わる、秀作の後ろに隠れるようにして立っていたロボ子に自己紹介した。

「あ、えっと、ロボ子は安藤ロボ子って言います! よろしくお願いしますっ」

 ロボ子は秀作の後ろから出て来て、ぺこりと頭を下げた。

「ロボ子ちゃんって言うの? 変わった名前ね」

 名前を聞いて、美佳が不思議そうに言った。秀作はしまったと思い、慌てて頭をめぐらせる。

「ああ、ロボ子って言うのは彼女のお母さんの故郷の言葉で『純粋な』って言う意味の『ロヴォークォ』からとっているらしいんだ。日本人では珍しい名前だよな」

 流石に強引だったかと思い冷や汗をかいたが、美佳たちは「へえ、なるほどねえ」と納得してくれたようだった。秀作はホッと胸をなでおろした。固唾を呑んで見守っていた朱里も安堵のため息を漏らす。

「てか、秀作の家ってほとんど一人暮らしみたいなもんじゃん。そんなところに男女二人でいて大丈夫なの?」

「確かに、秀作くんのご両親って滅多に帰ってこないと聞いていますが」

「秀作、まさかこの子に変なことしてたりするんじゃ……」

 美佳はニヤニヤと笑いながら秀作の顔を覗き込んでくる。すると朱里まで「してんの?」と秀作を睨みつけてきた。秀作は内心「何でお前まで」とツッコミを入れた。

「してるわけないだろ。親戚の子なんだぞ」

「親戚って言っても、遠縁のでしょ? 若さゆえの過ちってことも……」

 相変わらずからかい続ける美佳の言葉に、朱里の視線は一層鋭くなる。だから何でお前まで……

「だからホントにそんなんじゃないって。なあロボ子?」

「シューサクさんはとっても優しくしてくれますよ!」

「いやちょっと待て、その表現は誤解を生みかねない」

「ほう、優しく……」

「優しくですか……」

「お前ら……」

 ロボ子の無邪気な言葉に悪意の解釈を加える二人に、秀作は深いため息を漏らした。

 そんな秀作を見て美佳はプッと吹き出した。

「まったく、冗談よ冗談!」

「秀作くんって、変なところで真面目ですよね」

 静葉までクスクスと笑い始める。秀作はもう勘弁してくれと言う気持ちだった。

「んじゃ、俺らはまだ買うものがあるから行くぞ」

 ボロが出ないうちに立ち去るのが良さそうだ、と秀作は思った。

「ああ、ごめんごめん、引き止めちゃって」

「また学校でお話聞かせてくださいね」

 そう言うと、二人は意外とあっさり秀作たちを解放してくれた。美佳たちが「じゅあねー」と手を振り、人ごみの中に消えていったのを見届けると、秀作と朱里はようやく救われた思いだった。

「あーもう、びっくりした……」

「会いたくないときに限って、知り合いに会うもんだな……」

「ホントね」

「学校で根掘り葉掘り聞かれるぞこりゃ……」

「私は良く知らないって答えるわ」

「ズルいぞ、お前」

「だって私はもともと部外者だしー」

 知りませーんと言った様子で朱里は秀作から顔を背ける。

「ってあれ、ロボ子は?」

 不意に秀作は、ロボ子の姿が見えないことに気付いた。慌てて周囲を見回すと、近くの雑貨屋の店内にロボ子の姿を見つけた。

「おいロボ子、勝手に離れるなって……何見てんだ?」

 近づいてみるとロボ子は真剣な様子で何かを見つめていた。彼女の視線の先には24色の色鉛筆が置いてあり、隣にはそれで書かれたであろう綺麗な絵が飾ってあった。描かれているのはヨーロッパの古い町並みのようで、色鉛筆で書いたとは思えないほど繊細で鮮やかな絵だった。

「わあ、きれいな絵ね」

 後ろから追いついてきた朱里も、ロボ子の肩越しにその絵を覗き込む。

「シューサクさん、あの絵はこれで描いたのでしょうか?」

「ああ、多分そうだろうな」

「すごいです……」

 ロボ子は感動したように、小さく息を呑んだ。秀作も確かにきれいな絵だとは思ったが、そこまで純粋に感動できるロボ子がなんだか微笑ましく思えた。

「ロボ子にも、あんな絵が描けるでしょうか?」

「うーんどうだろうな。練習すれば、出来るのかもな」

「どのくらい練習が必要ですか?」

「どのくらい……まあ、いっぱいだろうな」

 秀作は良く分からずに適当に答えたが、ロボ子は真剣そうに「いっぱい……」と小さい声で繰り返した。

「あの色鉛筆、欲しいのか?」

「はい。あ、でも……」

 思わず答えてから、ロボ子は秀作の両手に持った荷物に目をやり、申し訳なさそうな顔をする。

「こんなにいっぱいお買い物してもらって、色鉛筆まで……」

 確かに、今日だけでロボ子のために使った金額は結構な額だった。しかし、それは決してロボ子が贅沢をしたと言うわけではない。突然何ももたずに放り出されてしまったロボ子は、普通の人が少しずつ買い集めるようなものを一気に揃えさせられてしまったのだ。

 それに秀作は、毎日一人っきりで留守番をしているロボ子を少し気の毒にも思っていた。色鉛筆一セットくらいそう高いものではないのだ。それで少しでも彼女の退屈が紛らわせるのだったら、安い買い物かもしれない。

「よしロボ子、この色鉛筆買ってやるよ」

「えっ、良いんですか!?」

「ああ。その代わり、大事に使えよ?」

「はい! 大事に使います! ありがとうございます!」

 ロボ子は心から嬉しそうに、両手をバタバタさせて喜んだ。その喜びようは、小さな子供のようだった。

 秀作がレジで会計を済ませ、雑貨屋のロゴが入ったレジ袋を手渡すと、ロボ子は心底嬉しそうにそれを受け取った。家に帰り着くまでずっと、ロボ子は大切そうに24色の色鉛筆を抱きしめていた。

漫然と書いてたらギャグ入れそこねましたね。反省しつつ投稿。

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