入学式
春の暖かい陽射しに包まれ、満開の桜の下、今年も我が校にたくさんの新入生が入学してくる。
不安と期待に溢れたその表情はとても初々しく、自らのはるか昔の姿を思い出てしまう。
しかし、そんな爽やかな気持ちとは裏腹に、私の脳裏にはあの忌々しい記憶が蘇える。
と、その前に、また一つカミングアウトをしておこう。私は某学校の職員である。そして、部署柄、司会などを任されることが多い。
それは今やあまり苦ではない。流石にこの歳にもなれば、数千人の前であっても足が震えることもなく、声が震える事もなくなった。台本がなくてもある程度はアドリブで話を繋げる事もできる。流石に講演をされる先生や、プロの司会者には到底及ばないが。
話を戻そう。あの忌々しい事件が起こったのは、確か三年前のこと。
あの日、いや、あの時期、私はとにかくテンパっていた。学校の年度末、年度初めというのはとにかく嵐のような忙しさである。卒業式、送別会、歓迎会、入学式次から次へとイベントがあり、毎日が何かに追われて、今日、明日のことしか考えられないような状況である。その年はいつもの行事に加え、理事長の交代、新しい校舎の竣工、開学60周年と様々な行事が重なった。もう、ロボットのように次々とこなしていくだけの日々である。
しかし、こちらにとっては毎年の事であっても、生徒にとっては人生で一度きりの大切な行事である。慣れているとはいえ、やはり緊張感は保ち続けなければならない。。
そして、何とかイベントラッシュの最後の入学式までたどり着いた。
入学式の段取りも上々。式典も滞りなく終了し、あとは最後の生徒の誘導のアナウンスを入れるのみ。これで全てがおわる。もう失敗するようなものはない。
思えば、あの時、私の中で緊張の糸が切れてしまっていたのだろう。
私は、壇上に立ち、数千人の新入生、保護者たちに向かい、飛び切りの笑顔でアナウンスをした。
「皆様、本日はご卒業、まことにおめでとうございます!」
その後、新入生がヒソヒソと話しているのを見るたびビクビクしていたのはいうまでもない。