今世紀最大のイタミを
空は鈍色に染まっている。
僕の知り合いの科学者が言うところ、今日12月 31日、つまるところの大晦日の今日の11時59分に空から今世紀最大の"イタミ"が降ってくるらしい。
そのイタミとやらがよくわからなくて奴に尋ねたところ、それはトップシークレットだから、とかいう、それまたよくわからない返答が帰ってきたのであった。
携帯を開いて今の時間を確認すると11時55分。
あと4分くらいか。
当の本人、科学者の奴は実家の北海道へと帰省したらしくSNSには蟹をうまそうに食っている画像データがアップロードされている。
そして僕は、帰省もせず、蟹も食べず、やる事もないから、仕事場の屋上でただその時を待っていた。
降ってくる、と言うのだからきっと形を持った何かなのだろうが、全く見当もつかない。
イタミというのは僕個人に対してなのかこの世界の全員が享受することになるかもわからない。
『いやァ、今年ももう1分となって参りました皆さんが良い年を迎えられるようーー』
下の階の窓が開いているのだろう薄っすらとテレビ番組の音が耳に届く。
一体何が起こるというのだろう。
僕は逸る気持ちを抑えきれなくなって屋上のフェンスから身体を乗り出す。
"そして、彼女達は目覚めたのだった"
鐘が鳴った、福音だ。
ー福音だと思った。
除夜の鐘と共に女の子が降ってくる。ふわりふわりと、白鳥の羽毛の様に、地球の重力を無視してゆっくりと。
僕は手を伸ばして彼女を受け止めようとする。
まるでどこかのアニメ映画のようだった。
綺麗な人形のような顔をしている。
ー人形だった。
彼女を受け止めると同時に、ひとつまたひとつと女の子が空から降ってくるのが見えた。
女の子たちは薄くて光るローブを纏ってこの星へと飛来する。街のいたるところに、あっちへこっちへふわりふわりと。
僕の腕に抱かれた彼女はゆっくりと目を開ける。
その目は、その眼は。
紅かった。
そして、僕に抱かれながら僕の腹を、そのか弱そうな左手で貫いた。
「あ、あゝア嗚呼ああああああああああ!‼︎、」
血が飛び散って、屋上のコンクリに紅い水たまりをつくる。
彼女たちはふわりふわりと現れて幸せを運ぶ優しいイタミではなくて。
侵略者だった。
薄れ行く意識の中で彼女がとても幸せなかおをしているのがみえた。脳がとろけて。どろどろにどろどろに...。
あたまのなかをずぶずぶされて。あは。はは。はははは。