勇者の幼馴染と魔王が修羅場な件
遅れてすいませんでした
魔界の不毛なる大地を踏みしめ、彼ら……もしくは彼女らは粛々と行進をしていた……巫女服の少女を先頭に、列を乱すことなく歩む姿は正に変た……編隊であった。
その隊列の誰もが静かに歩む中、先頭の少女……名をアザミという……が、誰に対して言うでもなく呟いた。
「今わたしが助けに行くから……待っていて、コンコルド……!」
「ぇ……ぶぇくしゅっ!」
「コンコルド……風邪?」
「んぁ? 多分風邪じゃ……って、何で服を脱ごうとしてんだよ?」
「風邪の時は体を温めないと」
「そもそも風邪じゃねぇ!」
平和にも巫山戯た夫婦漫才をする勇者と魔王……しかし、彼女達は知らなかった……
これから起ころうとしている事態を……魔界と人間界、双方に関わる事件が起ころうとしていることを……
その日もいつもと変わらず、魔王の挑戦者が現れて、適当に魔王が撃退し、捨て台詞を吐いて逃げ去るという流れになると……魔王、そして勇者は考えていた。
実際は真逆、むしろ圧される始末であったが……
「……けほっ」
最早何度目か分からない返り討ち……相手はたった十数人にも満たない小部隊にも関わらず、ディアはひたすらに防戦一方だった……しかも、アリスの時みたいに卑怯で姑息な手は一切使わない……正攻法と連携によって、ひたすらに圧倒されていた……
「なんなんだよ、あいつら……!」
流石に個人で言えばオレに匹敵するような奴は部隊長らしき女しかいない。だが、人数上の絶対的有利さ、それを最大限に生かす戦術……このままでは最早ディアに勝つ手はないだろう……
この状況、数の上での圧倒的不利をどうにかしなければ、だが。
「よっ……と」
幸いにも今日に限って縄はキツく締められる前だったから、縄抜けは容易だった。もう少し遅ければ、間違いなくディアが……いや、希望的な考えだが、きっとコウモリモドキやリリスさんが助けに来てくれていたかもしれない。だけど……
……目の前で知り合いがいたぶられてるのに見て見ぬ振りは流石に寝覚めが悪い。だからオレは……
玉座の裏に隠してあった、古ぼけた剣(鞘付き)を手に取って立ち上がり、ディアと戦っている前衛戦士に切りかかった
「せいやーっ!」
「ぐぅっ……」
予想外の乱入に目を見開き驚愕する前衛戦士弐に対して、鈍器の剣で切り返す。
「とりゃーっ!」
「うはっ……」
鞘が錆びて抜けないから重いし斬れないしで最悪の剣だなこれは……いや、もはやこれは鈍器……というべきか?
「……コンコルド? どうして人を裏切ってわたしを?」
ディアからの問いかけに答えようとするも、さっきから攻撃と退却を繰り返していた指揮官らしき女が遮る
「なんのつもり、コンコルド……? 私との約束、忘れたのかしら?」
こちらも相当病んでらっしゃる……ベクトルこそ違えど、これはディアに匹敵する病み具合かもしれない。
「2人して一遍に喋るな……てか、約束以前にまずお前は誰だ?」
子供の頃に会っていたのかも知れないが、なにせ十年は昔になるだろう事だ。情けない話だが……正直思い出せない。
「………………」
威圧感だけで人が殺せるなら、即死しているであろうレベルの殺気を放たれた。
さっきから空気を読んで下がっていた奴らさえ、「お前は何を言っているんだ」と言わんばかりの目を向けているが、こればかりは……勘弁してほしい。
「…………アザミ、11年前に神社の御神木の前で将来に関して誓い合ったアザミだけど……思い出した?」
「11年前?」
11年前…………
「…………思い出した」
当時住んでいた村の神社で約束した幼馴染のあの子……アザミだったか。そうか、思い出した……約束も、どうしてその村を出たのかも……
「私が18歳になるまでにコンコルドに1対1で勝てたら私の物になるっていう約束よ」
「…………ディア、子供の頃の約束だからこの約束の件に関してはノーカンにしてくれ」
「分かった。でも……もしコンコルドがあの女に負けたらあなたを刺し○してわたしの物だけにする。手加減したらあの女を○してあなたを監禁する。四肢をもいで布団の中でもがく芋虫に」
「やめろ、分かったからそれ以上は言わなくていい。むしろ言うな」
勝てば現世、負ければ地獄……ハイリスクローリターンの極みなんだが……なんだこれ? オレ何か悪いコトしたか?
「コンコルド、早速始めてもいいかしら?」
「ああ、問題はない」
そう言いながら、なまくら剣を構える。
……勘違いするなよ? なまくら剣なのはハンディキャップとかじゃなくて、妙に手にしっくりくるからだからな。
オレもアザミも構えたところで……さっきから三歩下がったところでオレ達を見ていたアザミの部下、その中の一人がオレとアザミの中間に立ち……どうやら審判のようだ。
「両者、構えッ!」
構えの号令と共に、剣を構えるオレ達……
数分にも感じる沈黙を、審判の合図が打ち破った……
「始めェッ!」
過程を抜きにして結果のみを語ろう。オレが劣勢気味の引き分けだった。
数十合打ち合ったところで、アザミは剣を下ろした。
なんのつもりかと問いかければ、「今のコンコルドではこれから来る脅威に立ち向かえないわ」とのことだった。まるで意味が分からないので、その旨を質問するも、「介錯は私がやってあげるわ」という少し怖いことを言い残して、アザミは去っていった。
この数日後、アザミの言っていた脅威に関する最悪の情報を、最悪の状況で聞くことになるのだが……
ディア「天使の無慈悲な処刑で和久名の霊圧が……」
◆悪魔ハーレムの方で割と酷い設定の矛盾をしてしまい、手直ししていたために遅れました。あと何話かで第一部完といった形でこちらを一旦終わらせる予定です◆