魔界のお祭りがかなりカオスな件
祭りにはまだ早いですけど……祭りと言えば花火ですよね
英語で言うとアンリミテッドバリアンズファイヤーワークス
「今日はお祭りだから、一緒に行こ?」
「は?」
唐突なディアの発言に、振るっていた木刀を取り落としながら、つまりどういうことだってばよという無言の疑問をディアに対して向ける。
いくら予定が無かったとはいえ、言うのがいきなり過ぎるのではないか? ……予定が無いって言ってもアレだぞ? ただ魔王城のちょっとした仕事に従事してるから、ディアの一声で人事やスケジュールが無茶苦茶になるんで、予定もスケジュールもあるわけ無い
とにかく、ディアの命令とあらば、行かないわけにはいかない。ファイターじゃなくて勇者だから残機は1固定だからな
……あれ、自分でも何を言っているのか分からない。ファイターでも本体のアホ毛を斬られたりすればその時点で人生終了のハズなのだが。ましてや勇者<ファイターというのはこれ如何に……? ウゴゴ
「大丈夫、花火もある」
「花火以前に、祭りって? なんの祭りだ?」
「ええ……あ、さっきの剣の構えって」
「続きはどうした! オレの質問に対する答えはどうなった!」
カーバンクルと家族な少年や蟹青年じゃあるまいし、ちゃんと会話をしろよ会話を!
「お祭りはお祭り、分かった?」
「…………分かったよ、お前に聞いても無駄無駄レオーネウインドってことが」
理解したというより、理解することを諦めたといった方が適切であるが。
そんな流れで魔界のお祭りに行くことになったわけだが……まあ、常識の通用しない魔界だから覚悟してたけど、あいつらは予想の遙か上を騎手蹴りしていきやがった……
「|イャシッライイャシッライ(イラッシャイイラッシャイ)! 暗黒魔海ノ支配者クトゥタコンヲフンダンニ使ッタクトゥタコンヤキ、323魔貨ダヨー!」
「極東のお菓子を参考にし、魔界テイストに仕上げたマッドアップルキャンディ、107魔貨だよ! 今なら更に107魔貨でネオマッドアップルキャンディにランクアップ! 実際お買い得よ!」
老若男女問わず、どころか種族、人型、非人型問わず、城下町の大通りは客引きの声や祭りを楽しむ人達、いや悪魔達で賑わっていた……
売っているものは偶に怪しい物はあるけど、それだって極東で偶にあった市の隅にある奇妙な店に比べれば、正体の輪郭がはっきりとしているだけまだマシだった。
そして、祭りを楽しんでいるのは魔界の住民だけでなくもちろんディアも例外ではなかった。
祭りは人の気持ちを高揚させて、楽しい時間を作り出す。極東の浴衣を着ながら、射撃屋にて玩銃に球を詰めるディアを見ているとそういうふうに思えてきた。
「目標……どれがいい? コンゴルド?」
「どれでも……じゃなくて、あの剣のレプリカ」
そう言って、段に載っているご丁寧にも台座まで作られている少し小さな、しかし無駄に手の込んでいるデザインの剣を指差す。
どうやって倒すのかは分からない。そもそも玩銃で動かせるような大きさではないのだが……
それでも、狙う標的を定めたディアは射撃屋の机へと身を乗り出し、豊満な胸が少し潰れるような姿勢を取り、玩銃を構え……
「射出!」
球を放った……のまでは良いのだが……
「……盾に?」
まるで盾を剣と錯覚していたように、階段を昇っていたかと思ったらいつの間にか下りていたかのように、はたまた相討ち狙いのカードがデメリット持ちドローソースに書き換えられていたかのように、剣が有った場所には無駄に……模様が刻まれた盾が鎮座していた。
無言で悔しがるディアの元へと、店主らしき片眼鏡をかけた男が歩み寄った
「残念でしたね、と……おや、あなたは魔王殿……そして元勇者のコンゴルド殿ではございませぬか」
お決まりの台詞を言おうとした店主が魔王のディアと『勇者』のオレにさも今気付いたようにわざとらしく驚く。
「そういうあなたは……ええっと、そう、あなたは……ダニエル?」
「絶対今適当に考えたろその名前」
あからさまに思い付かなかったから適当に考えました、といった感じの反応だったから、もしやとおもいツッコんだ所どうやらビンゴらしく、ディアはそっと目をそらした。
「コンゴルド殿、私の名はダン・ニェロニスク・ルシナザともうします。どうぞ気軽にダン、もしくはダニエルとお呼び下さい」
「ダニエルで合ってたんかい! てかお前の本名も今考えたような感じがすげぇんだが!?」
ダンにツッコんだものの、2人揃ってお前は何を言っているんだと言わんばかりの視線を向けられたあげくスルーされた。
「それではダニエル……あとの5球、5丁流で」
「かしこまりました」
5丁流……? 知っているのかもう1人のオレ! ……って、1人漫才してる場合じゃねぇような……
どうするつもりなのかとディアを見ていれば……両手に二丁、髪で三丁を掴み、全て一斉に構えた。
「当方、射撃の構え有り」
「お前、それで狙い定まんのか?」
一丁ずつ構えて五連打した方がいいんじゃかねぇのか、これ?
そんなオレのツッコミも無視して、ディアはまず右手の玩銃で一発……
「壱」
球が出た直後、ギリギリ視認出来るレベルの素早さで手早く二丁目を構え……
「弐」
1発目が盾に当たるとほぼ同時、ディアは2発目を放ち、またしても次の玩銃を構え、撃った……
「参打」
更に2発目も1発目とほぼ同じ場所に当て、すこし動く……それを見てディアはすこし表情を和らげるも、すぐに気を引き締めて同じ様に4発目も放った。
「四打」
そして最後の一発も……
「伍連打」
寸分の迷いも無く、四発目、三発目、二発目、そして一発目と……他の全てと寸分違わぬ場所へと吸い込まれるように放たれた……
「これがわたしの必殺技、五元式最凶波簡易式」
「格好良く言ってるところ悪いんだけどな……ほぼ動いてねぇんだが、盾」
動かなかった事に関しては多分ディアが悪いんじゃねぇけど、そう軽々しく必殺技と言われると……勇者のオレ的に、あまり良い気がしないんだが。
「ククク、残念でしたねぇ」
「まだ……」
そう呟くディアの視線の先、先程球を当てていた盾は微かに動いていた……
「は?」
「え?」
「うん……」
牛の歩みのようにゆっくりゆっくりと盾は後ろへと、接地部後部を置き去りに動いていき……
剣諸共後ろへと落ちていった。
「なん……です、と……」
「どういう……ことだ……」
唖然とするオレたちに、ディアはこう言った。
「愛の力は不可能を可能にする」
……愛なんてどっかにあったか?
その後、持って行かないでほしいと男泣きし嘆願するダンさん(何故か「さん」付けしなければいけない気がする)を無視してディアから剣を受け取り、再び人混みの中へと2人で歩いていった。
まあ、ディアと2人で歩いてまわる祭りが平穏な物であるはずがなく……当たりがないイカサマくじ屋に対してハズレくじを1等に書き替えるというイカサマ返しを仕掛けたり、オレがキンギョすくいのキンギョを掬おうとしたら絡繰キンギョで網が敗れ……もとい破れたり、タコではなくクトゥルフ(深海に潜む邪神……らしい)を使ったクトゥルフ焼きを食わされそうになったり……
身も心も疲れ果てたところで、城を小さくしたような色とりどりの建物に連れ込まされそうになったが拒否し、街の北部、平民層の地域にある広場へとたどり着いた。
「わたしと一夜を過ごす覚悟がないクセにこんな場所に連れ込むなんて、コンゴルドはヘタレだけどとんだロマンチスト」
「既成事実さえつくってしまえば簡単に落とせると思ってるお前の方がロマンチストじゃねぇのか?」
まあ、そりゃあこの後のアレを良さげな場所で見るために街外れの広場に来るオレもロマンチストだろうけど……
「コンゴルド、何を……あ、思い出した」
「自己解決早いな、お前」
察しのいいディアなら察しただろうけど、そろそろ花火がある。時間に関しては盗み聞……又聞きだけどな。
だから、比較的背の高い建物が少ない北側にある開けた場所に来たわけだ。
オレの方がロマンチストだって? ……なんとでも言えよ、オレだって祭りの日位は死亡フラグが立つようなルートを回避したいんだよ。例えディアの機嫌取りになろうとも別のフラグが立つとしても死亡フラグは嫌なんだよ。分かれよ!
「花火、綺麗だった……」
「確かにな……まあ、さっきの一発で終わっちまったけどな」
花火が終わり、暗い静寂に包まれた広場にて、オレとディアは寄り添っていた……
タイミングを逃したとも言えるが。何のって、帰るタイミングだ。もしくは「帰ろう」と言うタイミングだ。間違っても効果のタイミングを逃したワケじゃない。というか、何の効果のタイミングだオレ。
「コンゴルド……」
「なんだ?」
「えっちいこと……しよ?」
「……は?」
「人気の無いところだから……今なら青(略)してもバレない」
「そ、そういう問題じゃ……アッー!」
……この後無茶苦茶プロレスごっこした。別にムフフなことは起こらなかった。辛うじてそれだけは阻止した。
コンゴルド「死ぬかと思った」
ディア「じゃあ子作りか刺されるか選んで」
コンゴルド「…………まだ選びたくねー……てか、じゃあってなんだよじゃあって」