件名:終わりと出会い
5日間(一文字も進まなかった日を含め)かかりました。次の話はたった3時間だったのに……
「コンコルド、起きた?」
目を覚ませば、目と鼻の先にディアがいた……
気絶か眠るかする前の記憶が曖昧だ。確かオレ達はコランの置き土産、ネフィリムと戦っていたハズだ。鋼鉄の巨人、フィオナの命名するところではネフィリムと……
……それでどうなった? 確か、テスタとアリスがネフィリムのバランスを崩させて転倒させて、ガイギンガが弱点周りを露出させてオレとディアが協力して弱点そのものを剥き出しにした。そこまではいい。問題は……
「なあディア、オレが気絶したのってさ……アリスのせいだったか?」
「……一応は是、ネフィリム本体の爆発に巻き込まれて……|平行(Another)世界だったら死んでいたかも」
「それって下手したら死んでたって事だよな?」
アリスめ……いくらオレの防御が頑丈だからって、半端な覚悟でチキンレースみたいな事するんじゃねぇよ、ホントに……
「ところで、戦いはどうなった?」
「……逃走兵はアザミとその部下が捕縛。指揮官は行方不明、ネフィリムと一緒に消えた可能性大」
「つまり、こっちの勝利って感じか」
……アザミの奴、さては最初からコランの事を分かって……それで、いざという時に加勢するために離れた場所で隠れてスタンバイしていたものの、ネフィリム出現まで加勢する隙が無かった上、いざ加勢するという段階になったら逃走兵が大量に来たからそっちを優先した。といったところだろう。
ただ、一つ気になるのは……何故にアザミは魔界の利になるような行動をしたのだろうか?
「……なあディア、アザミって来たのか?」
「……手紙が置いてあった。それによると……法皇の命でコランを泳がせて、小型の銃を実践投入したという事実を作らせてコランを攻撃する口実が作りたかったみたい」
「……世の中面倒くさいんだな、色々と」
まあ、多少囮として利用されていたにせよ……一応助けてくれたのは事実だ。いずれまた会う時があればお礼を言っておこう。
……それはそれとしてだ。
「そういえばディア、なんでお前……ジャパニカについて色々と詳しいんだ? 結構前にも……形だけとはいえ……ジャパニカのカリーとか、ミヤモト・ヴァルキリアス・ムサシの逸話とか……あと、アリスのファンになってた兵がお前にサツマの伝記かなんかを貰ったとか言ってたし……」
「…………知りたい?」
「凄く」
「……本当に?」
「知りたい」
「後悔しない?」
「ああ」
何を後悔する要素があるのだろうか? そんな事を思っていると、ディアは約束通りに全てを……
「実はわたし……コンコルドの旅を最初の方からストーキングしていたの」
「…………アッ、ハイ」
……流石は魔王と言うべきか、オレ達に思いつかないようなことを平然とやってのけていた。別にそこには痺れないし憧れないが。
「……魔王らしくしなさいってママに言われて、最初に立ち寄った村の辺りからコンコルドをストーキングしていたんだけど……気付かなかった?」
「ああ、まったく…………ん? 最初に立ち寄った村?」
忘れるわけがない……オレのトラウマになったあの出来事が起こった村……自分自身の無力を実感したあの村……あの村での出来事、もしかして見られていたのだろうか?
「思い出した? あの時、最初は罠にかけるつもりで、村の人達を煽動してあなたに龍をけしかけた。勇者であろうと所詮人は人、誰だって我が身が一番だから適わないと思えばすぐに逃げるはず……そう思って、魔王としてあなたを罠にかけた。でもあなたは違った……安物の剣と張りぼてみたいな鎧で、適うはずのない龍に挑んでた……結局手も足も出なくて、最後には尻尾の一撃で吹き飛ばされた」
「…………」
ここまでは覚えているのだがこの後の事は……
「……魔王として勇者を罠にかけて倒したのだから、やることは一つ……のハズだった。けど、わたしはあなたを殺したくなかった」
その割にはこっちに住んでから何度も何度も刺していた、というツッコミは無粋だろう。痛みこそあれど、即座に回復してもらえるのだから。
「……その時は魔王として、勇者としてのあなたを認めていたと思っていたけど違った。ママに相談したら、恋だって教えてくれた……」
……愛が重いな、こいつ……今更と言われれば今更だが。
「ここからは……コンコルドを影から見つめながらサポートに徹していた」
「ああ、なるほど……だから都合のいい場所で都合の良いアイテムを貰えてたのか……」
おそらく、ほとんど町の人に渡すように頼んでいたのだろう。お爺さんと仕事がなさそうなおっさんと子供らもらったのが9割だったハズだから、おそらくそうなのだろう。回りくどいとはいえ、これが勇者の前に姿を表さない良い方法だったのだろう。
「……まさか、お前のサポートがあったとはな……よりにもよって魔王のお前に……全部お前の掌の上だったって事か…………あれ? ってことはよ、オレ達が悪魔を倒したのも」
「道場主、バトルジャンキー、危険人物の居住地に誘導して強くなってもらうために戦ってもらった。ただ、一部はこっちでの指名手配犯の悪いのもいたから、それもついでにコンコルドに懲らしめてもらった」
「お、おう。つまり、何から何までお前の考え通りに事が進んでいた、と……」
「……あくまでも大半は……唯一誤算があったとすれば、あなたが単身魔界に突入してきた事。いくら弱い悪魔とはいえ、集団だとコンコルドが勝てないから、急いで伝達しなきゃいけなかったのは少し苦労した」
「……そりゃどうも」
誤算というか、理由があったとはいえ単身魔界に乗り込むなどという無謀な事はオレ以外はやらない事だろう。
「…………ねえ、コンコルド」
「……なんだ?」
「…………大好き」
「…………ああ」
このシチュエーションでのそれは卑怯じゃないか……? オレの心ににズギューンと来た。
「………………」
「………………」
……気まずいというかなんというか……恥ずかしいような……そんな沈黙である。
その沈黙を破ったのは、ドアの開く小さな音だった。
「ねえディア? ……あらあら、若いって良いわねぇ」
「……ママ? どうしたの?」
「わたくしがここに来る途中に、男の子を拾ったのだけど……その子、別の世界から来たみたいなのよ」
ほうほう……まさか、オレ達に任せる、と?
「なんとなく賢そうなフィオナって子に任せたんだけど、しばらくここで預かってもらっても良いかしら?」
「……まあ、問題ないです……良いよな、ディア?」
「……ママのお願いなら……拒否出来ない」
……まあ、1人ぐらいならよほどやんちゃ坊主じゃない限りは問題はないだろう。それに、オレもディアも、リリスさんのお願いは断りづらいし。
「それじゃあ……イズモ君、入ってきて!」
「外に居たんですか!?」
……よくよく考えれば、すぐ控えてもらっていたとしても不思議ではなかったのだが。それでも、もし断られたらどうするつもりだったのかと……断るハズがないであろうが。
「ボクは神河イズモ、他の世界からこちらの世界に迷い込んだ見習いの神です」
そいつは……並みの女よりも可愛らしく、しかしその瞳から伺える芯の強さは並みの男よりも強い……そんな印象の少年だった。
少年とはいったものの、見習いとはいえ神様というくらいだからこう見えて100歳はゆうに超えているのだろう。
「……あの、おふたりはひょっとして夫婦だったりするんですか? もしかしてボク邪魔だったりしますか?」
「夫婦かどうかはさておき、邪魔じゃねえよ」
「……悪魔と人間だから色々と問題があってまだ正式に決まったワケじゃないけど、将来的にはきちんとした夫婦の契りを交わすつもり」
「…………大変なんですね、色々と」
見た目少年の神様見習いに同情されてしまった。
「あ、ところでイズモ君? あなた神様見習いなのよね? ……何か出来るような事ってなにか無いの?」
「あー……実質ないですね。ルシフェルさん……堕天使の子とは融合しちゃったりはしたんですけど……それ以外に神様らしい事といわれると……アハハ」
笑って誤魔化すイズモ。見習いとはいえ……いや、なんでもない。
「それじゃあ、わたくしは帰りますね? あ、そうそう、ディア……あなたに無断で人間達と接触した悪魔、話が通じない奴らだけはシメちゃったから、残りの連中の説得をよろしくね?」
よろしくね、じゃなくて……
「ええっと……つまり?」
「新婚旅行ついでに……ねっ?」
「ねっ、じゃないですよ! あ、ちょっ!? なんで逃げるんですか! ちょ、逃げ、消えた!?」
ああ……リリスさんは外道でした……
「……あの、もしよければなんですけど……ボクもお手伝いしましょうか? 交渉術はそこそこですけど心得ているので」
「イズモ、ちょっと待ってくれ……ディア、どうするよ?」
「留守番兼魔王代理はガイギンガ、幹部にはフィオナと……あと3人はスカウトさせないと」
「行くこと前提か! まさかの行くこと前提での話か!」
そりゃあリリスさんに逆らえるとは思ってないけどよ……ゆっくりやっていってもいいんじゃないか?
「……コンコルド、善とアクは急げ。今やれることは今やるべき」
「…………オレの心を読むな」
まあ……2人に逆らえるほどオレは無謀でも命知らずでもないから、従うしかなさそうだ。
「よし、じゃあ準備してくる……イズモ、お前は」
「あー……身を守る武器と防具さえあれば、交渉(物理)できますけど……」
人は其を肉体言語と云ふ。
「……なあディア、縁日で取ったセットは……あ、そこにあったか」
寝室の机に飾ってあった、小さな盾と剣をイズモに手渡した。
「……一対の剣と盾ですか……魔王と勇者、ディアさんとコンコルドさんの関係みたいですね」
「うるさい黙れ」
訳の分からないことを呟いたイズモにツッコむ。
剣と盾が一対の物だったのはなんとなく分かっていたが、何故オレとディアの関係に飛躍した? 歩きながら考えてみたが、まったく意味が分からない。
「コンコルド、準備は出来た?」
大きな荷物を背負ったディアが急かしているが、必要な物を選別しなければならない以上時間がかかるのは仕方がないと思う。ただ、最小の量を選別した結果ほとんど何も残らなかったから選別し直しているのだが……
見習い勇者の頃につけていた日誌は迷ったが持って行くとして……着替えも三着あればギリギリ足りるだろうし……よし、準備出来た。
「よし、それじゃあディア」
「ディアさんは……ガイギンガさんを脅迫……じゃなくてちょうきょ……でもなくて、説得しに行きました」
「……哀れ、ガイギンガ……」
可哀想な奴……かなり面倒くさい事押しつけられてるぞ、あいつ……
「お待たせ、ガイギンガの説得に成功した」
「……ああ、お疲れ」
説得とはいったものの、イズモの不穏な発言からして十中八九説得とは言い難いものだろうが。
「はやく出発しよ?」
「……ああ、分かった」
ディアの言葉に、そう返事をせざるを得なかった。
名目こそ新婚旅行ではあるものの、雰囲気など皆無の冒険か始まった……
次回からは番外編的に色々やんちゃヤムチャします