テスタが来たわ国単位での戦争が起こりそうだわで勇者の胃が痛い件
長いサブタイだなぁ
「おい人間」
幼馴染来襲の翌朝……コウモリモドキらしき声が耳元で聞こえた……気がしたが、はっきり言ってすげぇ不快な声だから無視して二度寝することにしよう。
「起きろ人間、朝だぞ」
「眠い、あと500年」
「幻夢の境目を守る蕃神が完成するわ! 起きろ人間! 貴様の仲間が門の前で倒れ」
「なんだと?」
さっきから耳元でギャーギャーヌギャーヌギャーうるさかったコウモリモドキをひっつかみながら、拷問に替わりかけている質問をする。
「聞こえなかったか、人間よ? 貴様の仲間がこの城の門の前で倒れて」
「仲間ってどういう意味のだ? 同じ人間ってことか? それとも……」
魔王、ディアの城に乗り込むに当たって、魔界へのゲートから最も近い街に置いてきたかつての仲間か、と……そう問いかける間もなく……コウモリモドキ、ディアの父はオレの言葉を先回りして言った。
「無論貴様の旅の仲間だ」
「情報ありがとよ」
コウモリモドキをつかんだまま、急いで部屋を出て城の正門へと向かう……
「おい貴様! 吸血鬼の儂にとっては太陽はやめてくれ! 魔界のものとはいえ、日焼けはするのだから外に出たくはないのだが」
「うるさいぜ! すこし黙ってろ!」
「うぬぬ……どうして儂はこうも虐げられるのだ……?」
知らん、そんな事は俺の管轄外だ。
門の外には俺の仲間のウチの1人らしき、フード付きの服を被った奴が……テスタロッサらしき人物がいた……
まあ、右手に絡繰の籠手を付けていて、更に金髪であり銀髪でもある(何故か右半分と左半分で髪の色が違う)というワケの分からない奴、そんな奴がそう何人もいるワケがないから……多分テスタロッサだろう。
「大丈夫かテスタロッサ!」
「………………た」
虫の鳴くような声で囁かれても、何を言っているのかまるで分からない。
うつ伏せだから、もしかしたら腹を刺されているのかも知れない。だけどその場合、血が見当たらないのはあまりにも……
……とまぁ、そんな風に推理していると、テスタロッサ(仮)が呻き声をあげ、言った。
「ぅぅぅ……おなか……減った……」
「…………お、おう……」
……何があったのか、今は聞かないでおこう。
「いひあ……いぁきかえるよぉー」
ディアの作った朝食を美味そうに頬張りながら、美少女もどきの少年、テスタロッサが嬉しそうに言う。
そういえば、何故か食材に紛れてさり気なく雑巾が置いてあったような気がするが……テスタロッサがまずいとか豚の餌とか言わないから、直ちに問題はないのだろう。
それはそれとして……
「食ってから話せ」
どうでもいい……とまではいえないだろうが、さっきテスタロッサを連れてディアに報告したら包丁を装備されて、料理をテスタロッサの為に作って欲しいと言ったら刺されかけて、テスタロッサがおもしろ半分でディアの料理中に何度かくっついてきてその度に包丁片手に脅された。そんな紆余曲折を経て3人での朝食だ。
誰かハブられている気がしなくもないのだが、一匹は魔王城の労働員食堂に置いてきたのだから、誰もハブっていないだろう。
「コンコルド……この子、何しに来たの?」
「そういえば、オレもそれを思ってた……なあテスタロッサ、どうしてだ?」
魔界のゲートから程近いとはいえ、どうしてこの魔王城に来る必要があったのだろう?
「ボクが来た理由? それはね……ダブルスパイをするためだよ!」
「ブッ!」
ついついディアに向かってスープを噴き出してしまったが、ディアをみる限りでは問題ない。「コンコルドの顔射……嬉しい」とか呟いているから、別の方向に大問題な気がするが、こっち方向であれば問題無い。怒らせて刺されるよりはマシだ。
「けほけほっ…………おい、スパイなのにそんな軽いノリで大丈夫なのか!? てか、明かしていいんかい!」
「ああ大丈夫大丈夫、向こう裏切ってこっちに来ただけだから」
「なるほど、なら問題ないな……ってそっちも大問題だろうが! つまりオレの情報をどっかに横流ししてたってことだろうが! おいコラどこに流してた!」
「…………軍事国家 コラン」
「あ、なるほど、だいたい分かった」
この事をコランなら仕方がないと思えるほどに、あの国に関してはヤバい噂しか聞かない。一説では、大多数の人間が使える上に魔法よりも素早く放てて魔法よりも連発が容易という、人間界、そして魔界も含めたパワーバランスをひっくり返しかねない武器……というか銃を開発しているという噂までたったぐらいだ。
しかも、何の嫌がらせか、食い物までマズい。どんな食べ物だろうと悉くマズい。辛くてマズいか苦くてマズいか渋くてマズい。それか、ひどく甘ったるくマズいかのどれかが大半だ。だから、テスタロッサは断食まがいの事をせざるを得なかったかと思うと……
「最初はただのインタビューみたいな感じだと思ってたんだけど、雲行きが怪しくなって来ちゃってさ……くしゃみしたらナイフ突きつけられたし、聞き返しても黙ってもナイフ突きつけられたし……こりゃあ嘘教えちゃったら殺されちゃうなーって思って」
「そりゃあまあ、仕方ない……なぁディア」
「…………」
無言のディアが怖い。どれだけ怖いかというと、御歳56億歳(あくまでも噂なのだが)の故郷の神様に、うっかり年齢を聞いてしまった時の神様程に怖い。わかりやすく言えば、歳をとらないとも僅かずつ歳をとっているとも噂される、魔物や天使の女性に年齢を聞いた時のその女性の威圧感……それ程に恐ろしい。
……あれ、これディア……どうしろと? ディアを宥める言葉が分からない。何を怒っているのかが分からない。こんな状況で……オレはいったいどうしろと?
「コンコルド、この子に包丁使っていい?」
「やめろ、テスタを刺そうとすんな」
そんなオレの静止の直後……
「無理、我慢の限界、痛みは一瞬だから」
無視し……首の裏に包丁を掠らせた
「…………え?」
恐る恐る斬られた箇所を押さえたテスタロッサ……数瞬の後、首筋から血が……噴き出すことはなかった。
「なに、を……」
「ディア?」
ディアがやり遂げたように一息つきつぶやく……
「戦極時代の剣豪、ミヤモト・ヴァルキリアス・ムサシの逸話にこういうのがある……ある日、弟子の腕に蚊が付いているのを見つけたムサシは……手刀で蚊を針ごとえぐり取るように潰したらしい」
「……ムサシの名は一応知ってるけど、聞いたことねぇよんな逸話……まあ、それでその逸話がどう関係……」
「2人とも見て、この包丁の切っ先」
「んあ? ……なんだこれ?」
ディアの握る包丁の切っ先には、なにやら小さな……ハエではないし……なんというか、丸い物体が付いていた。
「? ……これ、もしかして発信機?」
「……多分、逃げられても追いかけてこられるようにつけられていたもの。さっきから強烈な電波が鬱陶しかった」
「だからさっきからこいつに姑みたいな事を」
「雑巾料理はただ実験だ……味見をしてもらいたかったから」
「今実験台っていいかけたよな!? てか、そもそも雑巾は食材になんねぇよ!」
「……え? でも、井上流兜料理の書には」
「はっきり言って胡散臭いからもうその本は信じるな」
オレ達がいつも通りの漫才を繰り広げている裏ではテスタが吐きそうになっているのだが、一応テスタにだって1分ぐらいは責任があるのだ。たった1分の責任で雑巾料理を食わされるのはどうかと思うが。
というか、雑巾を使った料理ならおそらく味で気付けるだろう。
『ディア! 人間共! 敵襲だ! 人間だが、新型兵器で武装している! 心してかかれ』
「ああはいはい、分かったよ」
コウモリモドキに怒鳴られてブルーな気分になったが、まあいい。
いまはまず敵を撃退しなければなるまい。
「テスタ、休みたいなら休んでろ」
「え、いやいや、ボクも行くよ。ボクだってやるときはやるって言うところを見せないと」
「その心意気やよし。ディア」
「無論、わたし達の邪魔をするのなら敵を滅多差しにして蜂の巣にする」
「お、おう……程々にな」
流石に、ディアを全面的に否定し、止めるのは無理だ。
せいぜい、程々にしろとなだめるのが精一杯の妥協点だ。
「あ、そういえばディア」
「なに?」
「さっき、ミヤモトヴァルキリアスムサシがどうとか言ってたよな?」
「それがどうかしたの?」
「いや……なんで魔界の箱入り娘のお前が、極東のとある剣士の名前なんて知ってたのかな、と」
島国かつ地方での決闘であったがために、極東でさえもかなり知名度が低い。なのに、何故魔界に住んでいるディアはしっていたのか?
「……きっと、あとで分かる」
そう言い残し、ディアは行ってしまった。