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ヤンデレ魔王の物語が始まった件

 ここまでの……魔王の城までの道のり、長く険しいものだった……

 これまで数え切れない人の努力や労力、そして命を犠牲にしてきた……その上に、今何者かに勇者として選ばれたオレ、コンゴルドがいる。

 だから、オレは……絶対に魔王を倒して、世界に平和を取り戻してやる……!


 ……そんな風に意気込んでいた時期がオレにはありました。

「なに、これ?」

「…………エロブックスです」

 数ヶ月前、あんな風に意気込んでいたオレは今、エプロンをつけて包丁をもった、人間でいえば16歳程の少女であろう悪魔、魔王ディアボロスに正座させられている。

 理由? いや、まあ……魔王の城にエロブックスなんて持ち込むなー……みたいな?

「なんで、あなたはこんな本を買ったの?」

「……男だからです」

 だって仕方がないだろ! 諸兄には分かって貰えるだろうか、リスクがあろうとも男の原動力となるようなエロ本エロいブックスを欲する気持ちを……

「理由になってない」

 はい、女性には理解してもらえませんよねー……

 しかし、捨てられたり刺されたり、あまつさえ焼かれたりという事態は何としても避けなければならない。

「それと……何度目か分からないけど、浮気はダメ」

 そもそも焼かれる前に妬かれていましたー……

 先に言っておくべきだったが……こいつ、ディアは魔王なのに勇者であるオレを病的なまでに愛している。それこそ……世界12個分滅ぼす悪魔としての力でオレを脅してこの魔王の城に住まわせた程に。

 エロ本エロブックスにさえ嫉妬するレベルの、重度のヤンデレだ。

 こいつとの馴れ初めは、オレにとっては魔王の城に神撃してきた時だ。あいつはその前からオレの事を知っていたらしいがな。

 そして、オレが魔王の居城の最奥部、玉座の間でファーストコンタクトがあったワケだが……まあ、あの時からあいつは変わってたな。なにせ、第一声がアレだったもんな

「コンゴルド、誰の事を考えてたの? 女の事よね?」

 妙な所で勘の良い奴だな……

「女は女でもお前との馴れ初めの事だ」

「私の事を……嬉しい」

 よせ、包丁を持ったままで抱きついてこようとするな、むしろ……

「(包丁を持ったままで)オレに近づくなァー!」

「コンゴルド?」

 包丁を拒絶したオレを光を失ったように暗い、宵闇のような色の瞳で一瞥し……

 ドスッ、と……ディアはオレの腹に……包丁を刺してきやがった……ちくせう……

 真夏の台風のようと評された屍術士ネビニラルとも互角以上に戦った、かつて魔王の配下だった激動のサイカにも辛勝した、最凶の遺産アーティファクト、マイアにも負けはしなかった。心刻のジェイ、最悪の魔術師トレイリアには……まあ、白旗上げなかっただけまだマシとして、とにかく過去に勇者として破竹の勢いで神撃していたこのオレがまさか……

 こんな……試験で疑問文に疑問文で返すような、マヌケな死に方をするとはな……

 走馬灯として浮かび上がってきたのは奴との……ディアとの馴れ初めだった……


「ここにいるのか魔王!」

 背中に聖剣を背負いながら、オレは城の一番奥の扉を開き、声を張り上げた。

「…………」

 魔王城最深部まで押しかけたオレを待っていたのは、無言で玉座に座る少女だった。

「魔王……ようやく会えたな……この日が来るのを楽しみにしてたがまさかお前みたいなちまい女だったとはな」

「…………」

 無言、この程度の挑発に乗らないとは……見た目と中身はまるで違うって事か……

「けど、オレから土地や家、財産を奪った魔王……お前を許しは」

「ねぇ」

 さっきまで沈黙を保っていた魔王が、ようやく口を開く。

「あぁん?」

「結婚、しよ?」

「…………はぁ?」

 まるで意味が分からんぞ。出会った直後に、しかも魔王のクセして勇者に告白? オレの同意もないクセに……笑わせる。

 そんなオレの考えを読んだのか……魔王は立ち上がり……一瞬でオレの目の前に手刀を突きつけた。

「や、やめろ魔王……勇者のオレと結婚とか、なんの冗だ……」

 震える声で虚勢を張るが、それを見抜いた魔王によって額に爪を立てられた。

「あなたが選べる選択肢は3つ……?私と結婚して末永く幸せに暮らす。?私との結婚を拒否してここでnice boat.する。?助からない、現実は「非情」の極である」

「ちょっと待て、?と?が実質的に変わらない不具合が」

「どれ?」

 流石に選択肢が実質2つしかないワケがないと、危険を承知で1つだけ聞いてみることにした。

「他に選択肢は」

 そう聞くと、オレが言い終わる前に……長い黒髪を巧みに動かして、オレの耳に刺しながらこう言った。

「結婚か洗脳か選ばせてあげる」

「結婚でお願いします」

 ……こうしてオレは齢19にして人生の墓場(勇者として魔王の夫になるのだから、この表現が一番適切であろう)へと入ることとなった。


「ゥゥゥ……」(元勇者の呻き声)

 ここはどこだ……現実世界か?

「良かった、気が付いた……」

 生き返ってきたオレを見て安堵するディア……その手には刺されて血を流す(ようにしか見えない)エロ本が……

「家族会議の続き、しよ?」

「オレは……オレはいやだァァァァァァ!」

 この後滅茶苦茶滅多刺しにされた。


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