修行‐2‐
「そもそも、嶄幵堂とかの乖能力者の組織っていうのは、何のために存在してるんですか?」
鞭で叩かれた尻を撫でながら、二カ月経って今更な疑問を北神はぶつける。
「……アンタ、よくそんな何のためにあるのかわからないような得体の知れない組織で二か月も暮らしてきたわね」
「そりゃ自分の命守るためにもまずは乖を身につけることが第一でしたから。 あんまし考える余裕もなかったですし」
「ほ~う、まだ乖のかの字も見えていない青二才が、余裕が出てきたと抜かすわけか」
何も知らない人から見れば、どう見ても小学生の女の子に高校生の男が『青二才』と評されているのは中々に珍しい場面と思うであろう。
「そういうわけじゃなくって!! やっぱ入った以上は知っときたいなあって」
「まあ、別にいいけど。 簡単に説明してあげるわ」
必死に取り繕った北神を見下すようにリーフは冷たく言い放った。
「まず『乖』というのがどこで初めて生まれたとかそういうことは色々な説があるけど、わかってないわ。 まあ、これはさして重要なことではないから別にいいわよね? とにかく、気付いたら『乖能力』というものが存在していて、それを扱う人間、つまり『乖能力者』が存在した。 最初はそれを色々な化学などの発展のために利用していた。 しかし、人間『力』を持つと使わずにはいられなくてね、『力』を悪用する輩が現れ、挙句の果てには利権争いの戦争にまでなりそうになったわ」
「戦争!?」
「そう……戦争。 そこで『乖能力者に対する抑止力』として乖能力のスペシャリスト達が集められ、組織が結成された…それが、嶄幵堂をはじめとする乖能力者の組織よ」
「なるほど~、結構責任重大な組織だったんですね」
「当ったり前でしょっ!! ……でもね、これが人間ってやつは学習しないもので、結局今度は組織毎の利権争いが始まっているわ。 嶄幵堂は違うのよ!? 天棠様もそういうのには興味はないし。 ただ天棠様ってこの世で一、二を争うほどの乖能力者だから他の組織からしたら厄介に思うんでしょうね、色々嫌がらせみたいなこともされているわ」
小学生のような見た目から、人間の真理を語るその姿にはどこか寂しさのようなものが見え隠れしていた。
「天棠…様ってそんなに凄い人だったんですね。 確かに人間離れした雰囲気は感じましたけど」
「凄いどころじゃないわよっ! あの人は本当にそんな言葉では表せない人だわ…。 あと五大創幵もいるし」
「ああ、それそれ。 天棠様に会った時にも五大創幵が揃った~、とか言ってたけど何なんですか?」
「アンタも会ったクロス様や桐原様を含めた嶄幵堂最強の五人の乖能力者よ。『白き王に従えるは五人の黒き戦士』。 他の組織からそうやって一目置かれている偉大な乖能力者達がいるのが私たち嶄幵堂よ」
「なんだが凄い方々と会ってたんだなあ、俺って」
「そうよっ!! さあお話はこれくらいにして、そんな天棠様の顔に泥を塗らないためにも、アンタは一刻も早く乖を身につけるわよっ!!」
リーフの指導がより一層厳しくなりそうな予感がしつつも、それでも北神は力強く返事をした。
「押忍!!」