修行‐1‐
「ちっが~~~~~~~~~~~~~うっ!!!!!」
『嶄幵堂』第二十二演習施設・通称『研修所』
荒野のように砂と岩に囲まれたその一室に、甲高い声が響き渡る。
「わざとじゃないんですって!! だからそのSMちっくな鞭で叩くのはやめてくださいッ!?」
死にもの狂いで鞭を避けながら、北神は容赦なく鞭を振り回している人物に向かって叫ぶ。
「あんたがいつまで経っても基礎の基礎すら覚えられないからでしょ~っ! まったく!逃げ回るのばっか上手くなっちゃってっ!」
「……リーフさんの教え方が大雑把すぎるんでじゃ…」
「んあぁっ!!????」
「いえ!! なんでもありませんっ!!!!」
北神が嶄幵堂に入ってからおよそ二カ月、北神は『乖』を身につけるため、どう見ても小学生にしか見えない茶髪のロリっ娘、リーフ・メナードと一緒にこの『研修所』で修業を続けていた。
はじめは、元いた世界では自分はどういう扱いになっているのか、この世界ではどうやって暮らしていけば良いのかなど心配事は沢山あったが、「そんなことコッチで何とかするからお前は早く乖を身につけろや」というリーフの一言で、安心して修行に(というか強引に忘れさせられたのだが)取り組むことができた。
「二か月も乖を扱えないなんて本当に天棠様が直々に認めたとは思えないわねっ! はっきし言ってゴミよゴミ!!」
「いや最近マジで俺も疑ってるんですからやめてくださいよ!」
当初、この修行で北神が乖を身につけるために必要とされていた時間は三週間であった。
しかも、この三週間というのもかなり余裕を持って設定されており、平均的にはだいたい一週間から二週間で身につくものらしい。
しかし、二か月経っても北神はまだこのありさまであった。
「何回も言うけどねっ!! 乖の基本は脳でするイメージなのっ! アンタはそこが全然なのよっ! 自分の力をイメージするのっ!」
「そんなこと言ったって…してるつもりなんです…けど」
「つもりでも何でも出来てなきゃ、それは無駄ってことなのっ! 乖のエネルギーさえ造れないなんて、これから先の武器の形に留める方が難しいのにっ!」
「え!? これよりまだ先がっ!?」
「ったり前でしょっ! そんな光だけ出したってどうやって戦うってのよっ!」
「…………確かに…」
「はいっ! わかったらもう一回っ!!」
リーフの掛け声とともに、北神は精神を集中する。
乖の基本は脳によるイメージである。
そのイメージを特殊な呼吸法とともに行うことで『乖』のエネルギーを生み出すのだ。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!」
北神と力みとは裏腹に、一向に北神から乖は発生しない。
「はぁ~、やっぱアンタ才能ないわっ。 集中力が足りな過ぎるのよ」
「くっそ~…あの天棠って人はあんな簡単に出せてたのに…」
「ごらぁっ!! もうあんたは『嶄幵堂』のメンバーなんだから言葉を慎みなさいよっ! だいたいアンタ、クロス様や桐原様とまで顔見知りなんて生意気なのよっ!」
そう言ってまたSMチックな鞭を取り出そうとするリーフだが、二か月もそれを繰り返されていては、さすがの北神もリーフが動作に入る前に安全な距離へと逃げ込んでいた。
「ちょ……! それ本当に痛いんですって!! てかクロスって人は会った記憶ありますけど、桐原って人は記憶にないっすよ!!」
冤罪を訴える北神にリーフの動きもピタリと止まる。
「あれ? 確かアンタの世界にアンタを探しに行ったのは、たしか桐原様だっていう話だったけれど?」
北神の頭にあの自分の世界と、天棠と会った時に見た黒コートの男の顔が浮かび上がる。
「あぁ~! あのチャラそうなヤツかっ!」
「だっかっらっ!!!! 言葉を慎め~~~ッ!!!!!!」
北神一斗、鞭による制裁が100回目を記録した記念すべき瞬間だった。