始動‐7‐
(え…クソびっみょ~…)
平均値が50前後で、北神が96…これは普通におよそ平均の二倍であるから十分凄いものなのだが、北神はまずこう思った。
(とてつもない才能とか言うから500くらいはいってるものかと……)
『凡人』の自覚は十分あるはずなのに、この謎の自信はどこから来るのかはわからないが、北神は少し落ち込む。
「まあ…才能云々の話もわかりました…。 んでもう一つの『ここで死ぬか』っていうのは何でなんですか? 要は仲間にならないと殺すって事ですよね…?」
どちらかというとこちらの方が必死になるべき選択肢だと思うのだが、なんせ今さっき少しでも期待していた自分が恥ずかしくそれどころではない。
「理解が早くて助かるよ、まあそういうことだ」
天棠は天棠でサラっととんでもないことを認める。
「まず『乖能力者』による組織は我々『嶄幵堂』だけではない。 正確な数まではわからないが、まあとにかく複数ある。 キミのように才能のある者を組織に招き入れようとする、『嶄幵堂』に入るならキミは『戦力』として扱う…が、他の組織に入ればそれはただの『脅威』でしかない」
「まあ理屈はわかりますけど…俺がどこの組織にも入らないって可能性だってあるじゃないですか」
当然の北神の主張も、天棠は呆れたように首を振る。
「いや、そういう問題ではないんだよ。組織の中には我々のようにキミの意志を尊重するような優しい組織だけではないのさ」
(いや…組織に入るか死ぬかを選ばせるアンタ達も決して優しくはないのでは…?)
「初めから『脅威』としてしか見ない組織もある。 そういう組織は問答無用でキミの命を奪おうとするだろう。 その時果たしてキミは自分の命を守れるかな?」
組織の人間から身を守る。
おそらく『乖』という力を使うであろう者たちを相手に立ち向かうことなどまず無理だ。
「そんなの聞くまでもないだろ…無理だ。 俺は乖を使えない」
「そうだ、乖を使う相手には乖で立ち向かうしかない。 ではキミはどこで乖を習うのかな?」
分かり切った質問だ。
自分の命が狙われていると分かった以上、一刻も早く乖を身につける必要があり、その間自分の身の安全を保障してくれる場所が必要だ。
「つまり………ここしかないってわけか…」
北神が誰に言うわけでもなくそう呟くと、天棠は足を組み頬杖をついた。
そしてニヤリと笑って北神に歓迎の言葉をかけた。
「ようこそ、『嶄幵堂』へ」