始動‐6‐
「………………………は?」
天棠の言葉に思わず素の反応をしてしまう。
「仲間になるか死ぬかって…いや意味分かんないですよ! 死ぬのはもちろんとしてなんで俺がアンタ達みたいな集団の仲間になる必要があるんですか!? そもそも俺は『乖』なんてものは使えないし、俺が仲間になって何の意味があるんですかッ!」
急な命の危機に声を荒げる北神。
しかし、天棠をはじめとする『嶄幵堂』の人間はそんな北神とは対照的に誰一人として微動だにしない。
しばしの沈黙が訪れた後、天棠が口を開く。
「落ち着いたか? まあ取り乱すのも仕方のないことだ。 まだ説明が最後まで済んでいないのでな、続きをしても良いか?」
フーフーと荒い息を立てている北神を見下ろしながら天棠が言う。
少しばかり落ち着きを取り戻した北神は、天棠の問いかけにコクリと頷く。
「よし、まず君は確かに『乖』を使うことができない。しかしそれは君の世界にその概念がないからで、訓練次第で誰でも使うことはできるようになる」
天棠の言葉に少しばかり北神の心が揺らぐ。
十六歳の少年が、目の前で垣間見た信じられない力。
それを『訓練次第で使うことができる』。
こんな言葉に、心が動かないはずもない。
「で、でも…なんで俺なんですかっ!? わざわざ違う世界の人間を引っ張ってきて、一から『乖』を教えて! そんなの手間がかかるだけじゃないですかっ! この世界の人間に教えればいい!!」
当然の言い分だ。
そもそもなぜ、自分なのか、自分である必要があるのか、北神にはその理由がわからない。
「そうだ、何故この世界の人間でなくキミなのか…それこそ一番の問題であり、キミがここにいる一番の理由だ」
「もったいぶらないで教えてくれ…! なんで俺なんだ…?」
「キミに『才能』があるからだ」
懇願するように問いかけた北神に、あっさりと天棠はそう言い放った。
「才能…? 俺に才能だって…?」
いまいち天棠の言う言葉の意味が理解できない。
これまでの人生で自分が『凡人』であるということは、イヤというほど痛感してきた。
だから『才能』がある、なんてとてもじゃないが素直に受け入れることができない。
「そう、才能だ。 それもとてつもないほどの」
そんな北神の心とは裏腹に、天棠は言う。
「我々『嶄幵堂』はある技術により『乖能力者』の力、秘める『乖』の大きさを数値化することができる」
「数値化…?」
「そうだ。 キミはまだ乖能力者ではないから前者の数値を測る事はできない。 しかし、後者については測る事ができる。 秘める『乖』の力とは云わば潜在能力…つまり『才能』だ」
北神はそれでも何かの間違いじゃないか?と考える。
これが十六年培ってきた『凡人』の思考であり、それは中々改善できるものではない。
「数値ってどれくらい…なんですか?」
もうある程度納得するにはそれを聞くしかない、と北神は思った。
『才能』という抽象的な表現だけでなく具体的な数字を。
「そうだな…一般的に個人差はあれど、秘める『乖』の大きさは大体50前後とされている。 キミの数値は…」
「いくつ…なんだ…?」
「キミの数値は…およそ96だ」