始動‐5‐
「ご苦労だったなクロス。所定の位置につけ」
「はっ!」
金髪の男に促されると、クロスは立ち上がり数人の人間がいる方へと歩き出す。
そしてその中の一人がクロスに黒いコートを手渡すと、クロスはそれを羽織った。
「あっ!!」
ふいに北神が声を上げる。
なんと、クロスにコートを渡した男は北神が今日出会った、あの両脇に化け物を連れていた男だったのだ。
「ああっバレちった!はは、ご無沙汰~」
男が気の抜けた声で北神に挨拶をするとクロスがキッと男を睨む。
男はクロスの視線に気がつくと、北神に向かって挙げかけていた腕を下げて、姿勢を正した。
「申し訳ありません天棠様。クロス・レイレウス準備が完了致しました」
「うむ、五大創幵もこれで全員揃ったな…それでは始めるか」
天棠と呼ばれたその男は、そういうと視線をクロス達の方から北神の方へと移す。
その鋭い視線に北神は思わず後ずさりしてしまいそうになるが、何とかこらえて口を開いた。
「あの…俺、ボクちょっとまだ状況がつかめていなくてですね…色々と質問させていただきたいことがたくさんあるのですが…」
「心おきなくするが良い、そのための場だ」
天棠は表情一つ変えることなくそう言うと、北神の言葉を待った。
「じゃあ…ここはどこであなた方は誰なんですか?」
「私達は『嶄幵堂』、ある目的のために結成された乖能力者による組織だ。そして私は組織の最高責任者の天棠靈。ここは組織の重要な会議を行うときに使う一室だ」
「嶄幵堂…?…乖能力者って…?」
「君が何も知らないのも我々は全ては知っているし、その説明を怠る気はないよ」
天棠はそういって右手を真上に翳した。
一瞬なにをしたいのか解らない北神もすぐに異変に気づく。
天棠の右手に黄色い光が集まっていったのだ。
「なっ…!?」
「これが『乖』、君たちの住む世界にはない概念であり力だ」
天棠はそう言うと、掌でその黄色い光を握りつぶした。
すると、ガラスの割れるような音とともに光は辺りに飛び散って、やがて消滅した。
「この力を扱う者を『乖能力者』と呼び、それで構成された組織を『嶄幵堂』という。ここまで大丈夫かな?」
「大丈夫っていうか理屈はまあ…わかりました、でもその乖って力はどういうものなんですか?魔法みたいなものって認識で良いんでしょうか…?」
「いや、乖の力は魔法とは似て非なるものだ…がしかし、このあたりの細かい話は今は不要だ。そのレベルの認識でもかまわない」
なにか見下されているかのような言葉に、少しだけムッとした表情を浮かべる北神であったが、状況が理解できていない以上、下手に動いては自分が困ると判断し、そこはグッとこらえることにした。
「ここが俺のいた世界とは違う世界で、この世界にはあなた方のような不思議な力を使う人間の組織がある…これはわかりました。ではなぜ俺はここに連れてこられたんですか?」
北神の質問に天棠の表情が少しだけ厳しくなった。
「そう…そのことをまず話すべきだったね。北神 一斗くん、キミには選んでもらわなきゃならないんだ」
「選ぶ…?」
「そうだ。キミには選んでもらわねばならない…『我々の仲間になるか』、『ここで死ぬか』。この二つのどちらかを」