始動‐4‐
牢屋があった部屋から外へ出ると、本当に牢屋と同じ建物なのか疑ってしまうほど近未来的な景色が広がっていた。
「すっげぇ…!」
今まで見たことのない景色に、北神も自然にそう言葉を漏らす。
「ここと貴様のいた世界の『第三層』とでは科学力が比べ物にはならない。いちいちそんな反応をしていては身が持たん、慣れろ」
北神の方を見ることもなく冷たく言い放ったクロスであったが、そのことに腹を立てることもなく、北神はクロスの言葉に疑問を持つ。
「第三層…?なんですかそれ」
「…それはこれから話してやる」
そこから会話もなく十分ほど歩いていたが、ふいにクロスが口を開いた。
「…着いたぞ」
急に立ち止まったクロスに、物珍しくあたりをきょろきょろと見回していた北神はぶつかりそうになったが寸でのところで立ち止まる。
そうして、クロスの前に目線を移すと、そこには扉もなければ何もないただの広間が広がっており、『着いた』と表現するには間違った場所だと北神は感じた。
「着いたって…何もないじゃないですか。ここで何をするって言うんですか?」
「バカめ、ここからさらに移動するのだ。そのために移動する場所に着いたと言ったのだ」
その空間に歩き出すクロスを追いながら、それこそおかしい、と北神は思う。
なぜなら、その空間にはなにか他の場所に移動できるような扉も、乗り物も、比喩などではなく、本当に何もなかったからだ。
「移動するって何もないじゃないですか、ただの行き止まりですよ」
クロスの言っていることがいまいち理解できず、少し強い口調で北神は言った。
「何もない…?貴様の足元をよく見てみろ」
クロスの言うとおり足元を見てみると、ゲームや漫画で見る魔法陣のようなものが浮かび上がっていた。
「これが移動手段だ」
淡々と言うクロスだが、北神には全く彼のいう言葉の意味が理解できない。
「移動手段って…意味分かんないっすよ…こんな模様でどうやって俺らが移動するって言うんですか?」
「…これだから異世界人は面倒くさい…。いいから黙ってこの模様の上から動くな、すぐに済む」
溜め息交じりにそう呟くと、クロスは両の手を神に祈るように組んだ。
すると、足元にあった模様から一気に光が噴き出したと思うと、その光は北神たちの体を球状に包み込む。
「なっ!?なんだこれっっ!!一体何がっ…!」
「暴れるな、これは所謂テレポート装置というやつだ。一瞬にして目的地に移動できる貴様たちの世界の科学力では成し得ていないものだ…もう着くぞ」
テレポート装置など簡単に言うが、もちろん北神には初めての体験なので驚くなという方が無理である。
北神の頭が理解しているかなど、いやそもそも理解させる気など元々ないのかもしれないが、ともかく北神が一人で混乱しているうちに、どうやら目的地に着いたらしい。
北神たちを包んでいた球状の光は徐々に薄くなっていき、光が完全になくなってあたりを見渡すと、そこは薄暗い大きな部屋だということがわかった。
最初は気付かなかったがそこには五人から六人ほどの人間がおり、暗く顔は見えないが全員が異様な空気をまとっていた。
「クロス・レイレウス、只今戻りました」
そう言ってクロスはその場に片膝をつき頭を下げる。
クロスが頭を下げたその先には真っ白な純白のコートに身を包んだ、とてつもなく長い金髪の一見男にも女にも見える、まるで人形のような人間がいた。