始動‐2‐
次に北神が目を覚ました時、見知らぬ牢屋のような部屋に鎖で手足を繋がれていた。
意識が途絶える寸前に体に受けた衝撃の痛みが残っていながらも、北神は精一杯この状況を整理しようとする。
(いやいやいや!!なんだこれ!?なんで俺鎖で繋がれてんの?誘拐!?身代金?え?え?)
思考と呼ぶにはあまりにお粗末なものを北神が繰り返していると、部屋に一人の男がはいってきた。
男は最初、北神が目覚めているのに気が付いていなかったようだが、すぐに北神の視線を感じたのかビクっと体を震わせると慌てて身構えて北神の方を見た。
「ふっ…目覚めていたのか、小僧」
「いや今更かっこつけてもめっちゃビビってましたよねあなた」
「なっ!?そ、そそそそそんなわけなかろうよ!この『嶄幵堂』期待の若手である三谷煕さんに限って『乖』も使えない貴様のような凡人にビビる道理など無いに等しいわっ!!」
「どうでもいいけどキャラ定まってないぞお前」
この少しの会話で『あなた』から『お前』レベルに格下げされた三谷という男に北神はありったけの疑問をぶつけた。
「まあどうでもいいけど三谷さん…だっけ?とりあえず俺的には今の状況を教えてもらいたいんだけど…」
「今の状況?それはここは一体どこか、そして何故貴様はここに囚われているか、の二点の説明で十分か?」
「ん~、他にも色々聞きたいことはあるんだけど…まあ!とりあえずそれでお願いします」
今の状況を理解するだけならば、三谷の言う二点を聞くだけでとりあえずは大丈夫であろうと判断し北神は三谷の話を聞くことにした。
「じゃあ簡単にだが説明してやろう。まずここはどこだ、という事についてだがここはお前が元々住んでいた世界ではない。」
予想はしていた。
黒コートの言っていた『お前の世界』という言葉や、気絶する寸前に言っていたあの一言。
「『アッチで聞かせてやる』…か」
「ん?何か言ったか?」
「いや!こっちの話だ。続きを聞かせてくれ」
とりあえず今はこの男から聞けるだけ話を聞いておこうと、北神はあの黒コートの男の事などは一度頭からなくすことにした。
「おう、じゃあ続きだな。これはお前たちの世界の人間達にはあまり知られていないことだが世界は複数あるんだ。」
「世界が…複数…?」
「そう。そしてお前は『ある理由』によりこちらの世界に連れてこられたらしい。これは俺も詳しくは知らされていない」
「おい!そこ一番重要なところじゃねえか!!」
「焦るなって、確かにお前の存在は異例中の異例でな、異世界から一方的に人間をさらってくるなんて正気の沙汰じゃない。まあ、ぶっちゃけていうとそんなことしたらかなり重い罰が下されるレベルの問題だ。それが秘密裏に行われ、牢屋に閉じ込めるなんて並大抵の事態じゃねえ」
北神は、ウンウンと三谷の話に相槌を打ちながら聞き入っていた。
「そこで…だ。俺は俺の最大限の努力の結果、お前の連れてこられた理由について探る事を決意、そして成功した…」
もったいぶんねぇでさっさと言いやがれ、という言葉をなんとか呑み込みつつ北神は「おおー!」なんて白々しいリアクションをしてやると、それを煽てているとは微塵も感じないのか三谷もまんざらではないようだった。
「ふっ…まあ俺にかかればこんなもんよ!そんで単刀直入に言うとだな、お前が連れてこられたのは――――」
北神の接待にうまく乗せられ饒舌になっていたはずの三谷の言葉が急に止まった。
「おい!なに急に黙ってんだよ!さっさと続きを……ッ!?」
三谷に話の続きを急かそうとした北神もようやく三谷が黙った理由に気づいた。
ナイフがあった。
三谷の首には、後ろから小さなナイフが添えられていた。
そのナイフは三谷が少しでも動けば喉を切り裂いてしまうような絶妙な距離にピタっと添えられており、三谷もそれを理解しているのか、口すらも動かせまいと判断し、只々眼球だけを動かしてナイフとそのナイフを添えているであろう自分の後ろにいる人物を見ようとしていた。