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肉の檻  作者: アザとー
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 昏々とした眠気と異常な覚醒の狭間をさまよいながら、一昼夜の断食を明かした。から揚げ(←回復食としては最悪です)を頬張りながら考える。

 俺は本当に食べたいものを食べているのだろうか。

 普段は好物のから揚げも、二口ほど食べただけでもてあまし気味だ。

(米が欲しかったのは事実だ)

 飯を炊くならおかずが無ければならないと思ったのはなぜだ? コメが食べたいのならおにぎりがある。粥だって、醤油掛けご飯でも良かったではないか。

 人間も動物である以上、生命維持に必要な原初的な本能を保持している。味覚に関しても本能は重要なファクターであるはずだ。

(そうか、米が欲しいと言うのが本能か)

 炊き立ての飯を口に含んだ瞬間に妙に心が安らいだ。夜中からずっと感じていた頭痛も心なしか和らいでいる。

(俺はいま、から揚げを食いたくないんだ)

 では何を食いたいのか……あれほど渇望した銀シャリもから揚げでやけた胸を通りそうも無い。

 俺は静かに箸を置いて考える。

――人間の生活は『本能』と『情報』で成り立っている。

 腹が減った……これは本能が感じることだ。本能のままに喰らうのなら、そこらへんにあるものを適当に口に入れればいい。

 なのに一日に三食というルール、調理と言う仕組みがあるのはなぜだ?

 これこそが『情報』だ。

 思い起こせば具合が悪いとき、飯の時間がずれたとき、食欲も無いのに飯の時間だからと言って食事をとっては居ないだろうか……

 もともと衝動と本能で動く方が得意なアザとーだ。知識は後からついてくる。

 その日から健康系の雑誌を買いあさり、ネットで調べ、数々のダイエットを試した。食に対する己の本能のみを武器に、人体実験を繰り返したのだ。

 文頭で述べたとおり『ダイエット』と言う商業商品には反対派なので、個々の実験データを述べたりはしない。それにアザとーが必要としていたのは『健康な体』であって『美しい体型』ではないのであしからず。

 アザとーはまず、食い物を疑うところから始めた。

 ダイエット中は甘いものが欲しくなると言うが本当だろうか。アザとーはひたすら米が食いたかったのだが?

 答えは簡単。甘いものを欲しがるのは『脳』だからだ。そして脳というのは真っ先に栄養の欠乏に陥る。

つまりは脳を最小限の糖分で宥めることができれば体の空腹は辛くない。

 実はアザとー、甘いものはあんまり食べない。もちろん嫌いなわけではなく、お茶にお饅頭もたしなみはするが常食する必要が無いのである。

 それに対してアザとーのダンナは、晩飯の後は絶対に甘いものを食べたがる。食後のチョコが大好きなのだ。

 炭水化物が糖化するには時間がかかる。食後すぐの状態ではこのブランクを埋めるために……っと、小難しい説明は止めておこう。

 惰性でこの夜のおやつに付き合っていたが、本当に食べたいか?

 もちろん、食べたいときもある。アザとー、食べ物の嫌いは無いが、好きはある。

 信玄もち、うなぎパイ、水羊羹……大好物で、しかも滅多に口にしないイタダキモノを我慢できるほど意志強いわけがない。

 だが、日常買ってくるようなチョコやカステラは?

 同じようにして全ての食べ物を口にする意味そのものを疑った。実はこれこそがダイエットの基本でもある。

 自分が意識せずに食べていたものに意識を向ける。口から入るものを自ら選択するのは、内省であるといえよう。食事は生活の基本であるゆえ、自分のライフスタイルまで見通せるのだ。

 ちなみに『~だけ食べるダイエット』『~を食べる系ダイエット』はこの内省ができて初めて効果を表す。

 『~だけ食べる』と言うのは栄養管理を簡単にするためのものだ。食材によっては、栄養の欠乏が起こった体に特定の栄養素を与え、漢方のような効能を持たせるなんて怪しい効果もあるが、それゆえに個人差が大きい。誰かに効果覿面だったからと言って誰にでも効くとは限らないのだ。

 それにアザとーの本能は、これ系のダイエットを行うと炭水化物を欲しがる。それも強濃度で低血糖が起こるのだから、ダイエットのマニュアルを破ってでも炭水化物だけははずさなかった。

 それでもいくつかは確かに効いた。が、たまたま体質とライフスタイルにあっていたと言うだけの話だ。鵜呑みにしてはいけない。

 運動系のダイエットもいくつかは試した。一時期はジムにも行っていた。

 実はアザとー、運動神経は無いが力はある。ジムはどちらかと言えば向いていたのだが、通うには遠すぎて続かなかった。

 ヨガも、DVD系も嫌いではないが、短期集中あきっぽいゆえに継続ができない。

 だが一つ気づいたのは、運動するとちくわが無性に食いたくなる。ああ、そういえばたんぱく質だっけ。塩っ気もあるし……。

 こうして本当に食べたい物を意識しながら暮らすうちに、アザとーは一つの結論に達したのである。


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