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肉の檻  作者: アザとー
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 アザとーの父方はガタイのいい家系である。オヤジの弟は二人とも190センチ前後ある立派な体躯で、おまけにスポーツマンでもあった。

 その長兄であるオヤジだけが小柄で、文系で、おまけに太っているのは子供のころに小児リウマチを患ったせいだと本人は言っていたが、こと太っていることに関しては体質と運動不足であることは明らかだろう。

 そしてアザとーも180センチ前後ある弟達に比べると明らかに小さい。

 だが、基準がデカイ中での『小柄』である。オヤジは170センチは超えていたし、俺も同学年の女子の中ではトップスリーに入るデカ女であった。

 おまけにでかくなる素養を持っているので、体のパーツが大きめである。

 アザとー、足は25センチあるのだが、子供の発育自体が良くなった今ならいざ知らず、俺が学生だったころは女物でこのサイズの靴を探すことが至難の業であった。おまけに甲高幅広で、サイズが合っていてもデザイン次第では指の付け根すら通らない。パンプスだのヒールなんてのは論外である。

 おまけに男顔イケメンで、痩せていたころはともかくモテた。但し女性に。

 逆ナンされたこともあるし、スカートをはいているにもかかわらず幼子に「あ、オカマ」と指差されたこともある。

 正直なことを言えばこれが大きなトラウマで、敢えて『男』になろうとしていた節はある。誰が何と言おうが頑なにスカートを拒み、化粧もせず、女らしさを遠ざけていたのは自分には決して似合わない小さくて可愛らしいものに対する憧憬の裏返しだろう。

 そうやって女の基本を捨てていたアザとーであるから、二人目の出産後に肉のつきやすい体になったときもさして慌てなかった。

 運動不足? もともとがインドア派で、打ち返したバレーボールを自分の顔面にヒットさせるほど運動オンチの俺が何の運動をするものか。子供を追い掛け回していたこのころのほうが若いころよりよほどの運動だ。

 それほど動いていてもビールを飲めば腹につく、肉を食えば身になる。

 ちょうどこのころパートを始めたのだが、深夜業だということも良くなかった。

 夜中とはいえ、活動していれば腹が減るのは当たり前。そしてアザとーは空腹を感じると炭水化物を異常に欲しがる体質だ。ちなみに空腹なのを放置して無理をすると、アザとーは低血糖に似た症状を起こす。

 尋常ではない眠気とだるさに見舞われて意識が飛ぶのだ。

 何を大げさなと笑う無かれ。傍で見ていても明らかに異常な様相を呈するらしく、本来休憩ナシの短いシフトであったにもかかわらず、俺の緊急時には周囲が飯のための十五分休憩を認めてくれるほどであった。

 意識の混濁が始まると作業効率がガッツリ落ちる。眠いのをひたすらに我慢して無理に体だけを動かしているあの状態だ。手元は動いているのにやるべき作業がぐるぐるとループする。

 ひどいときは体が動いているのに意識だけが飛んでしまう。はっと意識を取り戻したらモップを動かしている最中だったということも一度や二度ではない。

 症状はいわゆる消化が早いといわれているうどんやお好み焼きで晩飯を済ませたときにひどく、何か食えばとりあえず治まる。緊急時にはガムシロップをきゅっと煽るだけでも辛さが違う。

「空腹だと眠れな~い」

と他人はいうが、アザとーは逆。空腹だと昏睡しそうになるのだ。

 体重云々言っている場合ではなく、食わなきゃ働いていられない。もっともこの性質に気づいたのもダイエットを経験した後でのことではあるが……

 オヤジと俺が太る要因に深夜業という共通点がある。

 オフクロがオヤジに命じたダイエットは帰ってきて早朝に食う飯をところてんや蕎麦に置き換えるというものであったが、これがどれほどの負担だったか俺には解る。ストレスに耐え切れなかったオヤジは酔っ払うと食欲を暴走させ、張り釜で炊かれた飯を半分以上平らげてしまうというクセがついてしまった。

 それでも食事を野菜中心に切り替え、共に万歩計をつけてのウォーキングなどで十キロ以上の減量を成功させたのだから、オフクロには感心する。

 ちなみにアザとーの夫も糖尿病予備軍だが、アザとーはオフクロほど管理能力は高くない。栄養士の指導をもとに作った飯はことごとく投げられ(幾度かは物理的に)、ウォーキングに誘えば訳の解らない理屈をこねてケンカを吹っかけた挙句、パチンコ屋へと逃げてしまう。

 仕方の無いことだ。夫はダイエットをする必要性も危機感も皆無なのだから。

 アザとーもあのままゆっくりと体重変化を続けていたらデブは死に直結する病なのだと気づかなかっただろう。だが幸いなことに、アザとーの体重は通常では考えられないほど急激な変化を遂げた。


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