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東方幻双夢  作者: クシャルト
黒花編 第玖章 災花
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第九十一話

 異変の書を見つけ、今、幻想郷に出没しているものが、<黒獣(マモノ)>と呼ばれる存在である事を知った後、霊夢は更に本を探そうとしたが、丁度<黒獣(マモノ)>の事を知った直後に書物庫に霊紗の元で追加修行を受けていた懐夢が入ってきた。

 懐夢は書物庫にいる一同に軽く声をかけた後に霊夢の元へ行き、霊夢に霊紗が呼んでいると伝えた。

 霊夢はそれよりも懐夢の事が気になり、本当に霊紗の言う通り、戦闘以外では力が発現しなくなったのかと懐夢に尋ねたが、懐夢は笑顔で頷き、もう大丈夫だよと『真実を伝えている目』で霊夢に言った。

 その目を見て霊夢は安心し、興味深い書物を見つけて興奮気味になっている一同に、霊紗の元へ行って来ると伝え、紫に一同を見ていてくれと頼むと、先程通った道を戻り、霊紗のいる部屋の前まで歩みを進めた。

 戸は先程と同じように閉められていたが、人の気配を感じたため、中に霊紗が待っているのがすぐにわかった。

 霊夢はこんこんと軽く戸を叩いた。


「霊紗、入っていいかしら」


 中から声が聞こえてきた。


「入ってくれ」


 霊夢は静かに戸を開けた。中では先程と同じように、霊紗が部屋の中央付近で正座をしていた。

 霊夢は部屋の中に入り、戸を閉めると、霊紗の前まで歩いた。


「座っていいかしら」


 霊紗は静かに頷いた。


「寧ろ、座ってほしい」


 霊夢は「わかった」と一言言うと、霊紗と同じようにその場に正座した。

 霊紗はじっと霊夢の事を見つめていたが、霊夢は霊紗と目を合わせるなり、すぐに口を開いた。


「それで、何の話かしら」


 霊紗は静かに言った。


「……まずは、君に謝らなければならない。……本当にすまなかった」


 霊夢は焦った。


「ちょ、ちょっと待って頂戴。あんたが私に何をしたっていうのよ。私とあんたは今日初めて会ったばかりじゃないの」


 霊紗は悲しそうな表情を浮かべた。


「本来ならば……私が君の保護者となり、師匠となり、君に博麗の巫女を継がせる予定だった。

 私が君の親となって、君を育てていくはずだったんだ」


 霊紗は拳を握りしめた。


「だが、君にはあの凛導が付いてしまった。凛導が、君を博麗の巫女にしてしまったんだ」


 凛導。その名前を聞いただけで、霊夢は心の中に怒りが込み上げてくるのを感じた。

 あの、先代巫女を殺して、突然自分を博麗の巫女に仕立て上げた屑。それこそが、伏見凛導だ。


「凛導……母さんを殺した張本人……あいつのせいで母さんが……」


 ぎりぎりと音が鳴るくらいに歯を食い縛り、痛みを感じるほど拳を握りしめると、霊紗が肩に手を乗せてきた。


「そうだ……あの異変の時……先代巫女、霊凪は犠牲となった。君はまだ十歳だったな、懐夢と同じ……」


 霊紗は少し黙ってから、霊夢に言った。


「霊夢、君は、凛導が本当に霊凪を殺しにしたと思っているのか」


 霊夢は顔を上げて、噛み付くように言った。


「当たり前でしょう! 母さんはあいつと一緒に異変に行って、そのまま帰って来なかった。それにあいつが自分で言ってたのよ、母さんは死んでしまったって! 異変を解決させたけど、死んだって!

 こんなの、あいつが殺したも当然でしょうが!」


 霊紗は何も言わずに霊夢の顔を見ていたが、やがて静かに言った。


「……そうだ。霊凪は謀殺されたんだ」


 霊夢は唖然としてしまったかのような表情を顔に浮かべて、「え?」と言った。


「……謀殺?」


 霊紗は頷いた。


「……霊凪はある目的のために、異変に巻き込まれる形で殺されたんだ」


 霊夢は戸惑ったように言った。


「え、え? 母さんが謀殺された? な、なんで。なんで母さんが謀殺されなきゃいけなかったのよ」


 霊紗はじっと霊夢の目を見つめて、問うた。


「霊夢、君は何故自分が博麗の巫女に抜擢され、そして数々の異変を解決する事に成功できているのか、わかるか」


 霊紗に問われて、霊夢は考えた。

 正直なところ、自分がどうして博麗の巫女に就いたのか、よくわかっていない。母が言うからには、自分が博麗の巫女をやっていくのに相応しき素養を持っていたかららしいのだが。

 そして、どうしてここまで異変を解決させる事に成功して来たかというと、それは多分凛導に鍛えられたからだ。――認めたくないが、自分は凛導に鍛えられたからこそ異変へ立ち向かい、解決出来るくらいの力を持てている。そしてこの前は強大な魔神である八俣遠呂智を討伐し、蛇神異変を終わらせる事に成功した。

 こうして異変を解決できるのは、凛導が鍛えてくれたおかげだ。……これ以上ないくらいに嫌いだが。


「……あいつが鍛えたからじゃない。あいつは間違った事は私に教えなかった。正しい知識と力の振るい方、術の発動させ方、体術、博麗の巫女になるため、やっていくための知識なら全部教えたわ」


 霊紗は頷いた。


「確かにそうだ。凛導は指導者としての力もあるからな。

 だが、それ以上の理由が君にはある」


 霊夢は首を傾げた。


「どういう事?」


 霊紗は霊夢にもう一度問うた。


「霊夢、君はどのような者が博麗の巫女になれるか、わかるか」


 霊夢はもう一度考えた。

 博麗の巫女になる者の条件は、母から聞いたからわかる。

 博麗の巫女になるのに相応しい素養の一つ目。それは人間であり、女性である事。

 二つ目は、巫女になるに相応しい力量を備えている事だ。ちなみに、母が言うからには、この力量を持っている事がかなり重要なものらしい。

 霊夢は頭の中でこれらを纏めると、霊紗に話した。


「……そうだ。君は人間であり、尚且つ女性だったから、博麗の巫女に選抜されたわけだが、実は、二つ目が肝心なんだ」


「というと?」


 霊紗はいったん黙ってから、深呼吸をして霊夢に言った。


「君は、これまで例を見ないくらいに『博麗の力』に適合していたんだ」


 霊夢はきょとんとした。


「博麗の力に、適合?」


 霊紗は頷いた。


「そうだ」


 霊紗はそういってから、説明を始めた。

 『博麗の巫女となるに相応しい力量』というのは、一般的に言う力量の事ではなく、『博麗の力にどれだけ適合しているか』を示すものだ。これが一定の値以上になっていて、尚且つ人間の女性である者が、博麗の巫女と大賢者達に養育される。

 霊凪も、霊紗自身もこれに値していたから、博麗の巫女になって幻想郷を護ってこれたのだ。

 霊紗の説明が終わると、霊夢は俯いた。


「そうだったの……」


 霊紗は頷いた。


「そうなんだ。特に霊夢、君はこれまで観測された事がないくらいに、博麗の力に適合しているんだ。

 だからこそ様々な異変に立ち向かい、解決させる事が出来た。今の君は、紛れもなく幻想郷最強の存在だ」


 そう言われて、霊夢は胸の中が冷たくなるのを感じた。

 しかし、間髪入れずに霊紗が話を続けた。


「だから、私()は君を育てようと思った。だが、君は凛導に育てられる事になってしまった。

 凛導も、君をこれ以上ないくらいの逸材であると思ったに違いない」


 話を聞いているうちに、霊夢は胸どころか心の中まで冷たくなってきているような気を感じた。

 先程から霊紗は、自分が凛導に育てられた事は非常に拙い事だったように言っている。

 霊夢は不安を感じて、霊紗に尋ねた。


「ねぇ霊紗。あんた、さっきから私が凛導に育てられた事が拙いみたいな言い方してるけど、凛導は一体何をしてるのよ。あいつは一体、何なの」


 霊紗は驚いたような顔を浮かべたが、すぐに俯いて、拳を握りしめた。


「逆に聞こう。君はどこまであいつの事を知っている」


「あいつが大賢者の一人である事と、博麗の巫女を育てる役割を持ってる事くらい」


 霊紗は頷いた。


「そうだ。あいつは大賢者の一人で、紫と同じように博麗の巫女の選別と養育を行う役割を持っている」


 霊夢は驚いた。紫もまた、凛導と同じ役割を持っていたとは知らなかった。


「紫も、その役割を持っていたの?」


「そうだよ。そして凛導は……大賢者の中で最も強い権力を持つ存在であり、幻想郷の支配者だ」


 霊夢は唖然とした後、小さく言った。


「幻想郷の……支配者?」


 霊紗は頷いた。


「そうだ。あいつは幻想郷を、自分が一番都合がいいと思う形に保つ事を何よりも望んでいる。そしてそのために、博麗の巫女を利用し続けている。何代にも渡って」


「博麗の巫女を利用し続けている……? どういう事よそれ!」


「そのままの意味だ。凛導は、博麗の力に比較的高い値で適合している少女を見つけては、博麗の巫女にするというのを繰り返している。次々と新しい博麗の巫女を生み出しているんだ。……それまで博麗の巫女に務めていた者は異変や事故に巻き込ませて死なせ、強引に世代交代させてな。

 そうする事で、自分が最も都合がよいと思う幻想郷を保とうとしている。これまでに、何人もの少女や女性が、そのためだけに命を落としてきた。生き残っているのは、私だけだ」


 霊紗に説明を聞いて、霊夢は自分の中に激しい怒りが込み上げてくるのを感じ、怒鳴った。


「何よそれ! じゃあ何よ……凛導は自分の都合に合わないから母さんを殺して、博麗の力に適合してる私を博麗の巫女に仕立て上げたわけ? 自分の都合だけのために、母さんを、異変に巻き込ませて殺したわけ!?」


 霊紗は頷いた。


「そうだよ。凛導は君が霊凪よりも博麗の力に適合している事に目を付け、霊凪を事故という形で死なせ、強引に君を引き取り、君を博麗の巫女に就かせたんだ。自分の望む幻想郷を保つために」


 霊夢は自分の中の怒りが激しくなってくるを感じて、歯を食い縛った。

 凛導の都合のためだけに母が殺された事、そして幻想郷が今、凛導の支配下に置かれていた事に、腹が立って仕方がなかった。


「じゃあ……じゃあ私は……ずっとあいつに利用されて……!?」


 霊紗は俯いた。


「そうだ。君はあいつにとって、最も完璧な博麗の巫女だったんだ。そして、今尚、あいつの幻想郷支配は続いていて、君はそのための歯車として回転し続けている」


 霊夢は怒鳴った。


「何で、何でそんなのを放っておいてるのよ! そんなの、許されるはずがない!」


 霊紗は首を横に振った。


「それが許されているんだ。現にあいつは大賢者の中でも最高の権力者だ。あいつの言う事には、他の大賢者も口出しし難い。

 そして、あいつが作り出し、保っている今の幻想郷は、外の世界で忘れ去られた者達からすればこれ以上ないくらいの最高の楽園、理想郷だ」


 霊紗は怒りを秘めた表情になった。


「幾億の妖怪や神、妖魔達が住まう世界を、たった一人の人間の少女の犠牲で維持するという考えに、誰も反発しない。大の虫を生かして小の虫を殺す……この世界を生かすためにたった一人の博麗の巫女に犠牲になってもらう事に、仕方がないと言って誰も反対しないんだ」


 霊夢は唖然として、言葉を失った。

 まさか、自分達が本当に人柱にされていたとは思いもよらなかったし、そのためだけに母が殺されていた事、そして自分が今度はそれになろうとしているという事も、微塵も考えていなかった。

 霊夢は全身の力が抜けてしまったように、肩を狭めて、顔を下に向けた。


「そんな……ずっと、利用されてたなんて……博麗の巫女って……」


 霊紗は腕組みをした。


「元々、博麗の巫女も大の中の一つだった。しかし、ある時を境に博麗の巫女は大を生かすための小となり、大の中の一つである凛導から実質支配される事になったんだ。この姿勢を、凛導は頑なに続ける姿勢でいる。そして、それに反発する者も、ほとんどいない」


 霊紗はそっと霊夢の頭に手を伸ばし、髪の毛を優しく撫でた。


「だけどな、本当に反発する者がいないわけではない。大の虫を生かして小の虫を殺す考えに、反発している者はいるんだ。そして、それを変える……変革を起こそうとしている者も」


 霊夢は顔を上げて、霊紗の目を見つめた。


「変革?」


「そうだ。大の虫を生かして小の虫を殺すという考えを廃し、大の中に小を入れ、全てを大にするという変革をだ。その筆頭が……紫なんだ」


 霊夢は驚いた。


「紫が変革を起こそうとしてるの?」


 霊紗は頷いた。


「そうだ。あいつは凛導と同じ役割を持ちながら、凛導に一番反発心を持つ女性だ。

 そして、博麗の巫女を大の中へ戻す変革を起こそうとしている」


 霊紗は霊夢から手を離し、きょとんとしている霊夢をじっと見つめた。


「紫は私の前の代の巫女で、変革の可能性を見出し、博麗の巫女を出来るだけ自分の手で育てるようにし、最終的に変革を起こそうとしたんだ。凛導を打倒し、博麗の巫女を小ではなく、大の中へ戻すために。その第一人者として、紫は私を抜擢し、歴代最強の力を持つ巫女として育て上げたのだ」


 霊夢は首を傾げた。


「それで」


 霊紗は首を横に振った。

 歴代最強の肩書を持つとはいえ、霊紗ひとりと紫では変革は起こせなかった。いや、変革を起こそうとしたところで力不足だという事がわかっていた。そこで、霊紗達は霊紗以降の博麗の巫女を集めて、十分な数になったところで変革を起こそうと計画。そして、二人目の博麗の巫女として霊凪を抜擢し、霊紗と紫で育て上げた。

 そしてその後すぐに、霊紗よりも、霊凪よりも強く博麗の力に適合している霊夢を見出し、霊凪が引き取り、変革の切り札として育て上げた。

 しかし、その途中で霊凪が凛導によって謀殺され、霊紗と紫はその時に重傷を負わされた。その隙を突くかのごとく凛導は霊夢を奪取し、自分の都合のいい形に育て上げた。そして、霊夢を自分にとって都合のいい形の幻想郷を保つための道具として、支配した。


「私達変革者から見て、霊夢はこれ以上ない切り札だった。だが、それと同時に凛導が喉から手が出るほど欲しい存在だったんだ。そして君は、博麗神社に住まい、異変を機械的に解決し、無感情で、誰ともかかわろうとしない、凛導の思い描く形の巫女となってしまい、私達の変革に参加、協力してくれる存在ではなくなったと、私達は思った」


 霊夢は何も言わずに話を聞いていた。

 霊紗は続けた。


「しかし、君の元にあの子が現れてから、状況は一気に変わった」


 霊夢は静かに言った。


「あの子……懐夢の事?」


「あぁそうだ。懐夢が博麗神社に現れて、君と共に生活を始めた時から、君は凛導の思い描く形の博麗の巫女ではなくなった。懐夢を好きだと思い、懐夢を守るために戦い、ついには懐夢を助けたいという一心で仲間を作り、集め、強大な魔神へ挑み、勝った。

 この時、私達は気付いたんだよ。君が変革に協力してくれる人だとね。そして、懐夢もまた、変革に協力してくれるであろう人材である事にも」


 霊紗は霊夢の手を両手で包み込んだ。


「私達は、君を含んだ博麗の巫女が凛導に利用され、大を生かすための小にされているこの状況が許せないでいる。博麗の巫女は小ではなく、大の中の一つであらねばならないはずだ。そして君は今、きっと凛導の事が許せないでいるはずだ。……だから頼む。どうか、私達の変革に協力してもらえないだろうか」


 霊紗の真剣そのものと言える顔を見て、霊夢は考えた。

 霊紗の話を聞いていて、凛導が自分達博麗の巫女を消耗品のように扱い、自分が望む幻想郷のためだけに使って来ていた事にも、母が凛導によって殺された事にも、自分達博麗の巫女が凛導によって大を生かすための小にされていた事にも、ずっと腹が立って仕方がなかった。そして何より、霊紗の言う変革を起こし、凛導を打倒しなければ、これがずっと続いていくと言うのが許せなかった。霊紗の言う変革が、この凛導による支配の終幕であるならば、それは絶対に行われなければならないもののはずだ。いや、母のような犠牲者がこれ以上出る前に、終わらせなければならない。


「……もし、変革がなければ、凛導の支配が続いて、母さんみたいな犠牲者が出る……?」


 霊紗は頷いた。


「そうだとも。変革はこの連鎖を断ち切る重要なものだ」


 そう聞いて、霊夢は自分の中で決心が固まるのを感じた。

 変革は……行われるべきだ。そして、自分がそのための切り札ならば、協力してやる他ない。


「……凛導の支配を、私は許さない」


 霊夢がそう呟くと、霊紗の顔がぱあっと明るくなった。


「という事は、それでは、霊夢」


 霊夢は頷いた。


「えぇ。私もあんた達に協力する。変革、やってやろうじゃないの」


 霊紗は「あぁ」と言って、目に涙を浮かべた。


「あ、ありがとう。ありがとう霊夢」


 霊夢は更に言った。


「私だけじゃないわ。私には沢山の仲間がいるし、あんたが修行を付けた懐夢だっているわ。だから、あんた達が思っているよりも変革は上手くいくはずよ」


 その時、霊夢はある事に気付いて、霊紗に問うた。


「というか、あんたが懐夢を鍛えた理由ってまさか……」


 霊紗は頷いた。


「そうだ。彼を変革者の一人にするためだ。彼の持つ潜在能力には心底驚かされたが、それよりも驚いた事があるんだ」


「それって?」


 霊紗は一回黙った後、口を開いた。


「彼が、君とほぼ同じくらいに博麗の巫女の力に適合していたんだ」


 霊夢は驚いた。


「えぇっ。懐夢が、博麗の力に適合? 博麗の力は、女の子しか適合してないんじゃないの?」


「そのはずなのだ。だけど、懐夢は男性にもかかわらず博麗の力に適合していたんだ。霊夢、これについて何か心当たりは?」


 霊夢は首を横に振った。


「わからないわ。ちょっと調べてはみるけれど……」


「頼む。懐夢の事については私達よりも、君が一番詳しいだろうからな。それに懐夢は誰よりも君に懐いているから、聞き出せる部分も多いだろう」


「そうね。本人にもいろいろ聞いてみるわ」


 霊夢は目つきを少し鋭いものに変えた。


「さてと、霊紗。私、あんたに聞きたい事が山ほどあるんだけど、いいかしら」


「なんだ。答えられる範囲で、答えてやる」


 霊夢は早速、一番気になっている事を尋ねた。


「ここに来る時、博麗神社っていう文字が彫られた石板が付けられてる鳥居をくぐったわ。あれって一体何」


 霊紗は答えた。

 まず、ここに何故博麗神社の鳥居があったのか。それは、ここがかつての博麗神社であるからだと霊紗は答えた。霊紗によれば、ここが元々博麗の巫女が暮らす博麗神社だったそうなのだが、ある時を境に放棄されたそうだ。現在この建物は霊紗の住居としてのみ機能しており、博麗神社として今現在機能しているのは、霊夢と懐夢の住む神社だと言う。


「私達の住んでる博麗神社は二代目だったのね。何でここは放棄されたの?」


 霊紗は首を横に振った。


「それは私にもよくわかっていない。紫に聞こうとしても首を横に振るばかりでな」


 霊夢はどこか腑に落ちなかったが、とりあえず納得すると、続けて天志廼について尋ねた。


「んで、この天志廼って一体何なの? なんであんな特殊な扉を通らなきゃ来れない街なわけ?」


 霊紗は答えた。

 ここ天志廼は、かつて大災害に見舞われて滅びた街だったそうだ。それを大賢者達が復興させ、当時よりも大きな街にしたらしい。その復興の最中に製鉄技術が持ち込まれ、天志廼は製鉄技術の発達した街となったそうだ。

 霊夢は霊紗の話に出た大災害という言葉が気になり、霊紗に尋ねた。


「大災害? 大災害って、どんな?」


「それもよくわからないんだよ。資料を探しても、見つからないんだ」


「何よ、わからない事ばかりじゃない。何でもかんでも秘密にしちゃって……!」


 霊夢が苛つきを見せると、霊紗が言った。


「ただ、わかっている事がある。ここは、ここで生まれた者しか入る事の出来ない街だ」


 霊夢はきょとんとした。


「え、どういう事?」


「そのままの意味だ。ここに来る前に扉があっただろう? あの扉は、基本的に大賢者か、天志廼で生まれた者しか開ける事が出来ないんだよ。だから私は君達がどうやってこの街に入ってきたのかとても疑問なのだが」


 霊夢は考えた。あの時天門扉に触れたところ、魔理沙がどんなに力を込めても動かなかった石扉は開いた。霊紗はあの扉が天志廼で生まれた者しか開けられない扉であると言ったが、自分は天志廼で生まれた身でもないのにあの扉を開ける事が出来た。


「扉なら、私が触れたら開いたわ」


 霊紗は目を丸くした。


「なんだって? それは本当か」


 霊夢は頷いた。


「えぇ」


 霊紗は霊夢から視線を逸らし、何かを考えているかのような顔になって、小言を漏らした。


「……詳しく調べてみる必要があるかもしれないな」


「え?」


 霊夢の声に霊紗はハッとして、首を横に振った。


「いや、何でもない。気にしないでくれ。

 それと霊夢、私から重要な話がもう一つある」


 霊紗が突然真剣な顔になった事に霊夢は若干驚き、背筋を伸ばした。

 霊紗は凛とした声で言った。


「変革はきっと凛導に気付かれている。凛導も何かしらの対策を練っているはずだ。

 だが、それら全てを乗り越えて、この変革は成功させよう」


 霊夢は頷いた。


「それには、みんなの力も借りなきゃね。でも、その前に」


 霊紗は首を傾げた。

 霊夢は険しい表情を浮かべた。


「今、この幻想郷には大きな異変が起きてる。それを終わらせてから、変革を起こしましょう」


 霊夢は続けた。


「なるべく早く終わらせるように、努力するから」


「わかった。出来れば私も力になろう。これでも歴代最強の巫女の力は残っているのでな」


 霊夢は頷いた。

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