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東方幻双夢  作者: クシャルト
邂逅編 第弐章 巫女と子
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第八話

 霊夢の過去を聞いた翌日の寺子屋の全ての授業が終わった時刻、懐夢は寺子屋の教室の中にいて、神社へ帰る用意をしていた。

 教室の中はがらんとしていた。いつも教室を騒がせるチルノ達は授業が終わるなり懐夢を置いてそそくさと帰ってしまった。慧音もまた、寺子屋の教務室の方へ行ってしまい、教室には懐夢一人が残された。


「皆帰っちゃったし、僕も帰らないと」

 

 紙と筆と墨を霊夢からもらった鞄に仕舞い込み、鞄の紐を肩にかけて教室を出て、寺子屋を出たその時。


「返してよ! 返してよぉ!!」


「へへへ! やなこった!!」


 どこからか、女の子と男の子の声が聞こえてきた。


「なんだろう?」


 声が聞こえてきたのは、寺子屋の建物の裏の方だった。

 何の騒ぎかと思い、声の聞こえた寺子屋の裏の方へ行ってみて、懐夢は驚いた。

 一人の女子が七人の男子に囲まれていたのだ。

 しかも、その連中のリーダーと思われる背の高い男子の手には女子が使っていると思われる鞄が持たされていて、女子は困った表情を浮かべていた。そんな女子を、周りの男子達はにやけながら見ている。


「何してるんだ!」


 まるで悪い事をした子供に向かう慧音のように男子達に歩み寄ると、男子達、女子の視線が一斉に懐夢に集まった。


 歩み寄る懐夢を鞄を手に持つ男子達の中で最も背が高く若干髪の長い男子が睨み付けた。


「なんだよ。こいつが生意気だったからこうしてやってんだよ」


 懐夢はぎりっと歯軋りをした。

 懐夢には苛立った時に限って一回歯軋りをする癖がある。

 ――間違いなく、この男子に今苛立った。

 自分よりも数倍背が高いと言うのに、それをまともな事に使えず、人を困らせる事に使っている。

 背が高い事をいいことに女の子の鞄を取り上げて、女の子が困る様をにやにやしながら見ている。

 ……みっともないったらありゃしない。


「みっともないの。僕やその子よりも背が高いのに人を困らせる事にしかそれを使えないなんて」


 リーダー男子とその周りの男子の目が鋭くなった。


「何だよお前? 俺に逆らうのか?」


 懐夢は男子を睨み返した。


「"俺に逆らうのか"? 君ってそんなに偉いの? あぁ、確かに偉いかもね。これだけの男子率いてんだから。

 それと同時にわかる事があるよ。君はこれくらいの男子を率いらないと女の子一人いじめられない腰抜けだってね!」


 次の瞬間、顔に大きな衝撃が飛んできた。

 目の前が一瞬真っ暗になったかと思うと一瞬で明るくなり、顔に鈍い痛みが走ったのを感じた。

 懐夢は今の一瞬で何が起きたのか、すぐさま把握できた。

 今自分の顔に飛んできたのは目の前にいる背の高い男子の拳だ。

 自分の言葉に腹を立てた男子が、自分の顔を思い切り殴り付けたのだ。

 顔の痛みを感じながら男子の方を見ると、男子の顔に変化があった。

 頬に血がのぼり、顎の筋肉が盛り上がっていて、表情は激怒を示している。


「ッ!!」


 胸の奥から怒りが突き上げてきた。

 この男子を殴り返してやりたい、懲らしめてやりたいと言う鮮明な怒りが胸の奥から頭へ突き上げてきて、瞬く間に頭の中に広がった。

 その次の瞬間、手がほぼ意思と関係なく動き、動いた手は颯爽拳を握って、そのまま目の前の男子の顔面へ飛んだ。

 拳は、男子の顔面に直撃した。

 人間を上回る腕力を持つ半妖の拳は、いとも簡単に男子の鼻の穴から血を噴出させ、男子を大きく後退させた。


「この野郎!!」


 懐夢がリーダーの男子を殴り付けた直後、周りにいた男子達がまるで獲物に襲いかかる狼の群れの如く懐夢に襲いかかった。

 人間よりの力のある半妖の懐夢でも、流石に一度で七人の相手はできず、殴られ、蹴られ、突き飛ばされ、木の棒で叩かれ、あっという間に叩き伏せられてしまった。


「はっ……ぁっ……」


 呼吸をしようとしても胸に何かが閊えているような感じがあってまともに息を吸ったり吐いたりできないうえに、息を吸ったり吐いたりしようとすると、全身に激痛が走る。


「ざまぁみろ糞野郎!」


 リーダーの男子が追い打ちをかけるように背中を蹴って来た。

 糞野郎はお前だと言い返したかったが、言い返せなかった。


「って、あれ? あいつどこいった?」


 男子の内一人がある事に気付いて周りを見渡した。

 先程までいじめていた女子の姿がどこにもいない。

 その男子を皮切りに、周りにいた男子達も周りをきょろきょろと見まわし始めたが、すぐにやめた。


「ちょうどいいや。もうこんなもんいらねぇ」


 リーダーの男子は女子から奪った鞄を地面に落とし、ぐしゃぐしゃと土の付いた靴で踏み始めた。

 周りの男子達も倒れ込んでいる懐夢をそっちのけて、鞄に寄って集って、踏み始めた。


 踏まれて変形して、汚れていく鞄が懐夢の目にも映ったその時、懐夢の頭の中にある事が過った。

 ……今鞄を踏みつけているこの男子達は理由もなく自分達を忌み、おとうさんとおかあさんの命を奪ったあいつらによく似ている。

 そして、踏まれている鞄はあいつらに寄られて、集られて、殺されたおとうさんとおかあさんに似ている。

 おとうさんとおかあさんに似ている鞄は抵抗できずに踏みつけられて、壊されていく。

 あいつらに似ているこの男子達は、にやけながら面白そうに無抵抗の鞄を壊していく。

 自分は、ただそれを見ている。

 ―――あの時と、ほぼ完全に同じだ。

 また自分は何もできないのだろうか。

 この光景を黙って見ている他無いのか。

 悪い奴らが好き勝手暴れるのを、何も言わぬまま、何もしないまま見ているしかないのか。


(……嫌だ)


 またあれを繰り返すなんて金輪際ごめんだ。

 悪い奴らが好き勝手暴れるのを、何も言わぬまま、何もしないまま見ているなど、もう出来ない。

 でもどうしよう。もう殴りかかったところで勝てないのはわかっている。

 でも、このままあいつらの暴挙を放っておく事なんてできない。


(……あっ!)


 懐夢は思い出した。前にチルノ達が見せてくれたすごい威力を持ち、自分も取得できるよう日々頑張っているスペルカードの存在を。


(……そうだ。スペルカードがあれば……!)


 スペルカードがあればあいつらの暴挙を止められるかもしれない。

 だが、自分はそんなものは持ち合わせていない。まだ取得できるように努力している最中だ。

 しかし、もうこれ以上の方法が思いつかない。あいつらを止める方法は、もうスペルカードを使う他ない。

 でも、スペルカードなど持っていない。

 ここ数か月練習を続け、何度も発動させようとしたが、一度たりとも成功した事がない。

 もしこの場で発動してと願って撃とうとしても、空振りするだけだろう。

 そして、あいつらに更なる攻撃を加えられて、終わるだろう。

 でも……ここでやらねばいつ撃つ?

 こういう場所以外のどこで撃つ?

 ―――失敗する事を恐れていては、スペルカードの取得などできない。……強力なスペルカードを扱う霊夢が言っていた。

 もう、やるしかない。


「……はぁっ!」


 懐夢は痛む全身に力を入れ、立ち上がった。

 鞄を踏みつけていた男子達の視線が一斉に集まった。

 男子達は鞄を踏むのをやめて散らばり、懐夢を取り囲むような陣形を組んで懐夢に近付き始めた。


「あぁ? まだやんのかよ?」


 リーダーの男子が睨み、歩み寄ってきたが、懐夢は気にせず手を前に出して考え始めた。


(……こいつらを吹っ飛ばせるほどのものを放つスペルカード……)


 懐夢の頭の中に、あるものが浮かび上がった。

 この前霊夢が見せてくれたスペルカード、夢想封印だ。

 あれは追尾性の高い、七色の光を纏う光弾を放つ術だった。

 あれくらいが撃てれば、こいつらなど瞬く間に吹っ飛ばす事が出来るだろう。

 でも、そんな光弾などといった大層なものは必要はない。

 ……そんな大層である必要はない。

 光弾ではなく、光の槍を飛ばせたら……。

 七色の光を纏う鏃のような形をした光の槍を飛ばせたら……。

 そして……その術の名は……光の槍を飛ばす術の名は……。


「霊符「夢想封槍」ッ!!」


 懐夢が叫んだ瞬間懐夢の目の前に光が集い、やがて懐夢の思い描いた七色の光を纏う鏃のような形をした槍を形作った。しかも、それはかなり大きく、人間の子供の頭ほどの太さを持っていた。

 そしてその光の槍は現れるなり、突然の事に驚く男子達へ矛先を向けて、大気を裂きながら飛んだ。

光の槍は、飛び出した次の瞬間に、リーダーの男子の真横の壁に突き刺さり、その際、射線上にあったリーダーの男子の髪の毛が悉く吹き飛んだ。


 あまりに、あまりに突然の事に懐夢も懐夢を取り囲んでいた男子達も凍り付いたように呆然とした。

 髪の一部を吹き飛ばされたリーダーの男子は腰が抜けてしまい、その場に座り込んだ。


「撃てた……スペルカードが……撃て……た……?」


 思い描いた光の槍が現れ、飛んでいった事に呆然としていると、手に何か違和感があった。

 いつの間にか、手が一枚のカードのようなものを持っている。

 カードの色は黒く、蒼色で特殊な模様が描かれていて、その模様の中に白い色でしっかりと書かれていた。

―――「霊符「夢想封槍」」と。


 懐夢はそのカードを見るなり、目を丸くした。何度か目を擦った。

 ……間違いない。これは、スペルカードだ。

 ようやく撃てた、自分だけのスペルカードだ。

 けれど、本当にまた撃てるのだろうか?

 ……やってみたい。


「霊符「夢想封槍」」


 そこにいたリーダーの男子に向けて手を突き出したその時、


「よせ! 懐夢ッ!!」


 慌てて描けてきた慧音に両腕を掴まれて、懐夢は我に返った。


「よせ懐夢! そんなものを撃ったら、当たった者の首が弾け飛ぶぞ!!」


 慧音は顔に冷や汗をかきながら怒鳴った。

 首を動かして慧音の後ろの方を見てみると、先程までこの男子達にいじめられていた女子の姿があった。女子は、こちらに怯えるような仕草をしてこちらを見ている。

 どうやら、先程までいじめられていた女子が慧音をここへ呼んだようだ。


「離して! こいつらを放っておいたら、また誰かが困る! また誰かを困らせる!!」


「……ッ!」


 慧音は教え子が言っても聞かない事を確認すると素早く懐夢の腕から手を離し、頭を掴み、こちらを向かせた。

 懐夢と目を合わせると、そのまま頭を振り上げ、宿題を忘れた子供などに向けて放つ頭突きを、懐夢の頭目掛けて放った。

 ゴスッという鈍い音が周囲に響き渡り、自身の額にも軽い痛みが走ったが、気にするほどの痛みではなかった。

 頭突きを受けた懐夢は一瞬何かに強く頭をぶつけたかのようにふらつき、そのまま慧音の胸に倒れ込んできて、石のように動かなくなってしまった。

 ……気を失ったようだ。


「……はぁ」


 慧音は思わず溜息を吐いた。

 そして、周りで腰を抜かしている男子達をキッと睨みつけた。


「お前達……いじめは絶対にするなと教えたばかりだったよな?

 ……ただで済むと思うなよ」


 慧音に睨まれた男子達はびくっと飛び上がり、大声を上げてその場から逃げて行った。

 男子達が居なくなった事を確認すると、いじめられていた女子が恐る恐る慧音の元へ近付いてきた。


「上白沢……先生……」


「これ……お前の鞄だろう? 酷く汚れてしまったな」


 慧音は器用に懐夢を抱えたまま男子達に踏みつけられていた女子の鞄に近付き、腰を落として鞄を拾い上げると汚れを払い、女子の元へ持ってきて、差し出した。

 女子は不安そうな顔をして慧音から鞄を受け取り、ぎゅっと鞄を抱きしめた。


「こんなに汚れるまで蹴られていては、中身は無事では無さそうだ。もし筆記用具などが使い物にならなくなっていたら言ってくれ。私のをあげよう」


 女子はしどろもどろしながら慧音に言った。


「あ、あの……」


「さっきの奴らか? 後できつく叱って頭突きを一発お見舞いしておく。もうお前をいじめるような事はしなくなるだろう。安心するといい」


「ち、違うんです」


「え?」


 女子は引き続きしどろもどろしながら慧音に抱かれている懐夢を指差した。


「……百詠君……わたしの事……助けて、くれたんです」


 慧音は気を失う懐夢の顔を一瞬見ると、女子の顔に再び視線を戻した。


「そうだろうな。この子は正義感の強い、優しい子でな。悪事を一切許そうとしない。だからこうやって行き過ぎた事をしてしまう事もあるんだ。

 悪事をした奴を大怪我させるような事を、やってしまう事もある……今だって、こうでもしてやらないとこの子は止まらなかっただろう」


 慧音は女子に近付くと腰を落とし、女子の髪の毛をそっと撫でた。


「教えてくれてありがとうな。もしお前が私を呼ばなかったなら、私を呼ぶのがあと少し遅かったなら、この子は間違いなくあいつらを一人残らず殺めていた。だから、礼を言うよ。お前のおかげで、この子は罪に手を染めずに済んだ」


 女子は黙って髪の毛を撫でられながら慧音の話を聞いていた。


「……さて、もう帰った方がいい。帰ったら、その鞄を洗うんだぞ」


 慧音は女子の頭から手を離し、立ち上がった。


「あ、あの!」


「ん?」


「百詠君が起きたら……言っておいてください。助けてくれてありがとうって」


 慧音は微笑んだ。


「あぁ。言っておくよ」


 女子は慧音に微笑まれると笑んで一礼して、人里の住宅地方面へ去って行った。


「さてと……ひとまず、私も帰るとするかな」


 慧音は懐夢を横抱きしてその場を去り、寺子屋から比較的近い位置にある自宅へ戻り、寝室に入ると懐夢をその場に置き、押入れから布団を出して敷き、懐夢をその上に寝かせた。


「やれやれ……この前掃除をしておいてよかったよ。そうでなければ、また具合を悪くさせるところだった」


 慧音は、自宅の臭いと埃と黴にやられた懐夢に倒れられて以来、家全体の掃除をした。埃と黴を全て取り払い、臭いもよくした。

 これならば、懐夢が慧音の家の中にいて具合を悪くするような事はないだろう。


「それにしても驚いたな……」


 慧音は、懐夢の顔を見て、駆けつけた時の事を思い出した。

 懐夢が叫ぶと、懐夢のすぐ近くに鏃のような形をした七色の光を纏う光の槍が現れ、背の高い男子に飛んだ。

 幸い、それは男子の身体に当たりはしなかったものの、射線上にあった男子の髪の毛が吹き飛んだ。

 そして、その時の懐夢の手元を見てみれば、一枚のカードが持たされているのが見えた。

 間違いない。あれはスペルカードだ。

 懐夢は、いつの間にか、スペルカードを得ていた。


(……まさかこの歳でスペルカードを得るとは)


 慧音は驚きを隠せなかった。

 懐夢のような歳の何の変哲もない半妖の子が、スペルカードを得て発動させたなどという事はこれまで無かったからだ。

 それに、前から慧音は懐夢は普通の子供ではないような気を感じていた。


(この子は……普通の子供ではない)


 この子には、どこか人並み外れたところがある。寺子屋に入学させ、学問を教え始めてから、より一層そう感じるようになった。そしてそれは、今回の事件によって大きくなった。


 霊夢は……何か知っているのだろうか?


 懐夢は普段博麗神社に住まい、霊夢と共に過ごしている。懐夢と共に過ごしている時間は、自分よりも霊夢の方が圧倒的に多いはず。

 ならば、霊夢はこの子が普通でない理由を知っているのではないだろうか。


「やはり……霊夢に聞いてみるべきだな」


 慧音は懐夢の顔を見ながら呟いた。


「…………ん……?」


 気を失っていた懐夢が、小さな声を出し、小さく目を開いた。


「ん、気が付いたか」


 懐夢は目を小さく動かし、辺りを見回した。


「ここは……?」


「私の家だよ」


 慧音の答えを聞くなり、懐夢は体を起こそうとしたが、ふらついてそのまま倒れ込んでしまった。


「あぅ、あたまが、くら、くら、し、ます」


「当然だ。私の頭突きを諸に受けたんだ。もうしばらくは寝ていた方がいい。とても動けるような状態じゃないだろう?」


 懐夢は頷いた。


「せんせいが、ずつき、した、って、ことは、ぼく、なにかわるい、こと、したんですよ、ね?」


 慧音は懐夢がふらふらの頭で問いをかけてきたことに驚いたが、すぐに落ち着いて答えた。


「あぁしたとも。お前はもうすぐ人を殺めるところだったのだ。

 お前の放とうとしたのは、私の頭突きを通り越した威力を持つ術だ。あんなものが人の頭に当たろうものならば、人の頭など簡単に吹き飛ぶぞ」


 懐夢はびくんと目を見開いて顔を青くさせた。自分が男子の首を吹き飛ばす瞬間を想像してしまったのだろう。


「お前がいつスペルカードを取得できたのか聞きたいところだが、今はもう眠れ。その状態じゃまともな答えを返せないだろう?」


「は、い」


「だから、眠れ。時間は気にするな」


 慧音が懐夢の額をゆっくり撫でると、懐夢はゆっくりと瞳を閉じ、そのまま眠りについた。


 慧音は溜息を吐いた。

 この分だと、懐夢はきっと今話した事を覚えていない。

 目を覚ましたら、もう一度教えてやらねばいけないだろう。スペルカードを得たという事がどういう事なのか。

 ……そして何故、スペルカードを入手できたのかを、聞かなければならない。


「さて……教える事、聞きたい事、謎が増えたな……」


                  *


 一方その頃……


 霊夢の元に人里の者がやってきた。

 その者曰くとある山の森の奥地で未確認の妖怪が現れ、辺りの妖怪達や動物達を手当たり次第攻撃しているという。その山の森は、ここいらでは手に入らない貴重な茸や薬草が採れる、人里の者達にとっても重要な場所であったが、その妖怪が現れた事により迂闊に近付けなくなってしまったらしい。

 そこで、幻想郷の異変解決担当である霊夢にこの妖怪を倒すよう依頼をしに来たそうだ。

 霊夢は最初気乗りしなかったが、その者に報酬金を大量に出すと言われると、瞬く間にやる気になり、魔理沙を引き連れて未確認の妖怪が現れた山の森の奥地へ向かった。


 やがて二人はその山の森の入口に辿り着いた。

 

「ここなのか? 未確認の妖怪が出たっていう場所は」


「そうらしいわ。ここで今まで確認された事のない妖怪が出たそうよ。依頼に来た人によれば、三つの頭を持つ、四本の足で歩く、竜のような姿をした妖怪だそうよ」


 魔理沙が周囲を見渡しながら言うと、霊夢が妖怪の詳細について述べた。

 霊夢に依頼をしてきた人物によれば、その妖怪は、三つ首の竜のような姿をした妖怪だという。

 勿論、霊夢や魔理沙もそんな妖怪を見た事はない。


「竜のような姿をした妖怪か……」


 魔理沙は霊夢の話を聞いてあるものを思い出した。

 そう、雪が降り頻る魔法の森に現れ、魔法の森の雪を全て溶かして気温を大幅に上げ、動植物達の感覚を狂わせた炎を身に纏った狼の姿をした妖怪だ。

 それは今まで見た事のない妖怪、所謂未確認妖怪であった。

 更にその妖怪は強く、討伐に一苦労した。

 もしかしたら、今回も同じように苦戦を強いられるかもしれない。


「この前の炎を纏った狼みたいに強い奴か?」


「そうかもしれないわ。苦戦を強いられる可能性は大きいかも。けれどそいつはもう、ここら一帯から妖怪と動物が居なくなるくらいの被害を出しているし、放っておけばここから出て更に多くの場所に被害を出すわ。被害を最小限に食い止めるためにも、ここで止めておかないと」


「でも、そんなに強い妖怪がいるなら、撮り甲斐がありますよねぇ!」


「そうそう、撮り甲斐が……」


 霊夢と魔理沙は飛びあがり、後ろを見た。

 そこには、黒いセミロングヘアで、頭に赤い六角形の頂点のとがった赤い帽子を被り、白い半袖のシャツを着て黒く短いスカートと赤い下駄を履いた赤い瞳の少女の姿があった。


「文!」


 いつの間にやら、幻想郷最速で新聞記者をやっている烏天狗少女、射命丸文がついてきていた。


「驚かすんじゃないわよ。いつから来てた?」


「今ですが?」


 文は首を傾げて率直に答えると、にやけて霊夢と魔理沙を見た。


「それよりも、聞きましたよぉ……ここいらで、未確認の妖怪が現れたんですってねぇ!」


 霊夢は溜息を吐いた。文がもう何を言おうとしているのか、わかったような気がしたからだ。


「……一緒に来て、その未確認妖怪撮りたいんでしょう?」


 文は驚いたような顔をした。


「あれ? よくわかりましたねぇ」


「わかるぜ。お前は何か事件あればとりあえず撮る奴だからな」


 霊夢と同じような溜息を吐きながら魔理沙が言うと、文は苦笑を浮かべた。


「えぇ! 未確認妖怪の出現。これは大スクープになりますよ! 明日の記事の一面はこれで決まりです!」


 これから起こりうる物事を新聞の記事にする気満々の文を、霊夢は目を鋭くして見た。


「今回の妖怪は、ここいらの動物と妖怪を追い払ってしまうほど強い奴よ。撮影をする暇なんて、多分与えてくれないんじゃないかしら。そんな姿勢で行くと痛い目見るわよ」


 真剣な表情をする霊夢に、文は表情を崩さず言った。


「大丈夫ですよ。私は皆さんの弾幕やら攻撃やらを潜り抜けて、皆さんが攻撃を繰り出す様をカメラに収めるという仕事を何度もこなしてますから。だから、どんな妖怪が来ようとも、余裕で撮影可能です!」


 文にはどんな未確認の妖怪が襲って来ようとも、その容姿をカメラに収めれる自信があった。

 文はかつて、霊夢と魔理沙、レミリア・スカーレット、フランドール・スカーレット、四季映姫、比那名居天子、古明地さとり、古明地こいし、永江衣玖、伊吹萃香、八雲紫、八坂神奈子、洩矢諏訪子、聖白蓮、封獣ぬえなどといった幻想郷の猛者達の放つ光弾の豪雨を潜り抜け、その光弾の豪雨をカメラで撮影し、新聞のための写真にするという仕事こなした事がある。

 猛者達の放つ豪雨の如し弾幕に比べれば、そんじょそこらの妖怪が必死になって繰り出す攻撃などかわいいものだ。


「あーそう。まぁあんたは幻想郷で一番早く動けるし、攻撃力もそれなりに高いから、まぁ大丈夫でしょうね」


「はい! 大丈夫です!」


「はは、本当に大丈夫そうだな。文だし」


 文は何故か敬礼をした。それを見た霊夢は溜息を吐いたが、気を取り直した。


「それじゃ、妖怪退治しに、森の奥まで行くわよ」


 霊夢は魔理沙と文を連れて森の奥へと進み始めた。



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