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東方幻双夢  作者: クシャルト
遠呂智編 第陸章 遠呂智
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第五十八話

「古雨「黄泉中有の旅の雨」!!」


「審判「ラストジャッジメント」!!」


 声が響いた直後、地の首に向かって無数の光弾と熱弾と光を纏った笏の豪雨が降り注ぎ、霊夢と文は驚き、地の首は悲鳴を上げた。

 いったい何事かと思い、声の聞こえてきた方向を見てみたところ、そこには翠色のセミロングで右側の髪を伸ばし、紅白のリボンを付け、特徴的な帽子をかぶり、青を基調とし白い袖の洋服を身に纏い、ミニスカートを履いて手に先が尖った笏のようなものを持った少女と、癖のある紅い髪の毛をツインテールにし、半袖にロングスカートの洋服と着物が合成されたような衣服を身に纏い、腰巻を巻いて手に大鎌を持った、胸の大きい、深紅の瞳の少女がこちらを見ながら飛んでいた。

 その二人の姿を見て、霊夢と文は声を上げた。


「あんた、映姫!」


「こ、小町さん!」


 紅い髪の毛の少女は死神である小野塚小町、翠色の髪の毛の少女は小町の上司であり、地獄の閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥ。

 どちらも地獄を護るために八俣遠呂智の討伐には参加しないと紫が言っていたが、唐突にこの場に現れたものだから、霊夢は思わず驚いてしまった。


「あんた達……!」


 小町は掌を立てた。


「よぉ霊夢。想像以上に面白そうなのと戦ってるねぇ」


 小町と映姫は霊夢と文の元に飛んできた。

 霊夢は早速映姫に問いをかけた。


「映姫、どうしてここに?」


 映姫は話した。

 何でも地獄を護っていたところ、幻想郷の大賢者がやってきて、博麗神社製の札をくれたらしい。

 更にその大賢者は、

「伝説の魔神、八俣遠呂智が復活した。今博麗の巫女達が戦っているが、劣勢だ。これを持っていけば八俣遠呂智の放つ物質にはやれないから、博麗の巫女達を助けてやってほしい。地獄の防衛は自分がやる」

 と伝えたらしい。映姫と小町はこれを聞き入れ、地獄の防衛をその大賢者に任せ、札をもってここまでやってきたそうだ。


「なるほど、大賢者の導きだったわけね」


 映姫は頷いた。


「えぇ。それにしても八俣遠呂智ですか。まさか実在していたとは、思ってもみませんでしたよ」


 小町は表情を少し険しくする。


「んで、私達はこれからどうすればいいんだい?」


 霊夢は二人に紫が立てた作戦、早苗達のところで知った八俣遠呂智の特徴、そしてこれから二人にやってもらいたい事を話した。二人は納得したようにうんうんと頷き、そのうちの映姫が地の首と文へ視線を交互に向けた。


「ほぅ。今攻撃した首を天狗娘と一緒に叩きのめすというわけですか」


 霊夢は頷いた。


「正確には動きを封じてもらいたいのだけれど」


 小町が地の首へ視線を向ける。


「それくらいならお安い御用だね」


 霊夢はもう一度頷いた。


「お願い。私は苦戦してる他の人達の援護に……」


 言いかけたその時、映姫が割り込んだ。


「その必要はありませんよ。もう誰も、苦戦はしていません」


 霊夢はきょとんとした。


「え?本当に?」


 映姫は他の首と戦う者達を指さした。


「私と小町の他にも、大賢者に言われて貴方達を助けに来た人がいるみたいですよ」


 言われて、霊夢は映姫の指差す場所を見た。

 そこは氷を司る首と戦って、苦戦を強いられていたさとり、慧音、萃香の三人がいる場所だったが、いつの間にか、さとりの妹である古明地こいし、ペットである火焔猫燐とこの前地下に温泉を作り上げた霊烏路空がいて、共に氷の首と戦っている。しかも火炎を司る燐と空がいるおかげか、苦戦を強いられていた氷の首を逆に押し返している。


「あの三人……!」


 霊夢が驚いていると、小町が映姫に続く形で指差した。


「あっちにもいるよ。一人だけだけど」


 霊夢は小町が指差す場所にも視線を向けた。

 そこは風を司る首とチルノ達子供が戦っている場所だったが、そこに、花畑を護るという理由で八俣遠呂智との戦いに参加しなかった風見幽香の姿があった。


「な、なんであいつが……」


 霊夢は思わず幽香が何故いるのか考えた。

 幽香と言えば、弱い者虐めが大好きで、人間妖怪問わず何でも虐める最悪の根性の持ち主だ。更に、幽香の妖怪としての力は非常に高く、そこら辺の人間や妖怪では足元にも及ばないくらいで、やろうと思えば大賢者達とも互角に張り合えるくらいに強い。おかげで、街や近隣の村の評判も最悪を極めており、幻想郷で最も危険な人物と例えられた事さえある。

 しかし、そんな幽香でも虐めない者がいる。それは子供だ。彼女はああ見えて子供好きで、チルノ達や街の子供達にはかなり温厚に、優しく接しているという。


(あ、もしかして……)


 幽香が来た理由は、これではないだろうか。

 子供であるチルノ達が八俣遠呂智に襲われ、同じく子供である懐夢が八俣遠呂智の腹の中に入れられている状況を誰かから聞き、許せなくなってやってきたのかもしれない。

 まぁ幽香の事だから幻想郷を支配するくらいに強い力を持つ妖怪、八俣遠呂智を苛めるべくやってきた可能性も捨てきれないが、どのみち話しかけたら面倒な事になりそうだから、このまま戦わせておくべきだろう。だが、強い力を持つ幽香が来てくれたのはとても心強い。おかげで、チルノ達を苦戦させていた風の首が、逆に苦戦し始めている。


 霊夢はぐるっと辺りを見回した。今、八俣遠呂智の首に苦戦している者達はいない。助けに行こうとした者達は、全て新しくやってきた者達に支えられながら、八俣遠呂智の首と互角に戦えている。いや、寧ろ押す事が出来ている。

 強さが、八俣遠呂智に届いているのだ。


「今なら……!」


 今、八俣遠呂智の首に一斉射撃を仕掛けて倒れさせれば、本体を攻撃する隙が生まれるかもしれない。

 同時に、懐夢をあの中から助け出すチャンスだって、巡ってくるはずだ。

 霊夢は思い付くなり、思い切り声を張り上げた。


「皆!一斉射撃!!一斉に、八俣遠呂智の首を倒して!!」


 霊夢の声は辺り一面に響き渡り、八俣遠呂智と戦う者全ての耳に届いた。

 そして、霊夢を除いた一同はそれぞれ対峙している八俣遠呂智の首に向けて、一斉に高出力のスペルカードを放った。


 揃いに揃った、かつてこの幻想郷で異変を起こした者達から放たれる高出力の無数の斬撃、打撃、光弾、熱弾、ビーム光線、レーザー光線の暴風雨は対峙する巨大な蟒蛇の角をへし折り、牙を吹き飛ばし、鱗を砕き、剥き出しになった皮膚を、内部の筋肉を焼き尽くした。

 何もかもを破壊された八匹の蟒蛇は轟音と共に崩れ落ち、その根元にある水晶は悲鳴を上げるかのように、発光した。もうそこに、身を護る蟒蛇の姿はなかった。

 今ならば、誰にも邪魔されないと霊夢は呟くと、全力を込めて八俣遠呂智の本体目指して飛んだ。

 霊夢が近付くと、八俣遠呂智の本体はその輝きを増した。それを見ただけで、今本体が身を護るべく、首を蘇生させようとしているのがわかった。


「させないッ!!」


 霊夢は空気を裂きながら飛び、やがて八俣遠呂智の本体に勢いよく着地。身体の下で八俣遠呂智の身体がドスンと揺れるのを霊夢は感じた。そしてそれが収まると、心臓が脈打っているかのような鼓動が定期的に身体に届いてくるようになった。

 本来ならば、ここで草薙剣を本体に突き立てて、術を放つところだが、霊夢の場合は違った。

 霊夢は下を向いて、本体の中を覗き込んだ。水晶のように蒼白く透き通った外殻の下、更に奥にぽつんと浮かんでいる懐夢の姿が見えた。懐夢は今、蹲って動かないでいる。


「懐夢……懐夢ッ!!」


 霊夢の呼びかけにも、懐夢は答えなかった。

 その途端、霊夢は自分が乗っている八俣遠呂智へ、激しい怒りが込み上げてきたのを感じ、静かな声で怒鳴った。


「今、お前の野望を打ち砕いてあげる」


 霊夢は草薙剣の先端を八俣遠呂智の本体へ向ける形で構え、もう一度静かに呟いた。


「懐夢……今、出してあげるからッ」


 霊夢は草薙剣を振り下ろし、本体へ突き立てた。調伏の力を宿す剣が突き刺さり、本体は悲鳴を上げるかのように強い閃光を放ち、蘇生しかかっていた首達は本体の代わりと言わんばかりに悲鳴を上げ、吐血した。

 暴れまわる八俣遠呂智の上でも霊夢は草薙剣を支えにして動じず、静かに呟いた。


「これで、とどめよ」


 霊夢は片手でスペルカードを出現させると、光に変えて草薙剣に流し込み、両手でしっかり柄を握ると、声を張り上げて叫んだ。


「神技「八方龍殺陣」ッ!!!」


 霊夢が叫ぶや否、草薙剣を中心に巨大な魔方陣が出現。それとほぼ同時に霊夢と草薙剣が宿す、大いなる調伏の力が八俣遠呂智の本体の中へと雪崩れ込んだ。

 魔を浄化する力をもろに受けた本体は不規則に閃光を放ち、首達は悲鳴と吐血を繰り返しながら暴れまわった。首が暴れまわる衝撃で振り落とされそうになっても霊夢は草薙剣を離さず、調伏の力を流しいれ続けた。

 やがて首達は動きを止め、本体から光が消え去った。

 霊夢は草薙剣を抜くと、素早く飛び上がり、上空で待つ仲間達の元へ急ぎ、魔理沙と紫がいる隣で止まり、八俣遠呂智を見た。

 そのうち、魔理沙が呟いた。


「やった……勝った……?」


 八俣遠呂智は動かない。首も、本体も、一切動きも光も見せない。

 それがわかった途端、一同は声を張り上げた。


「勝ったぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」


 八俣遠呂智は倒れた。幻想郷を支配しようと目論んだ魔神は死んだ。

 とうとう倒れた八俣遠呂智の亡骸を見て、歓声を上げる一同。

 その声を聴いた途端、霊夢はバランスを崩して落ちそうになったが、すぐ近くにいた紫と魔理沙に支えられた。そのうちの魔理沙が声をかけてきた。


「やった!やったな霊夢!!」


 霊夢は疲れた様子で頷いた。


「えぇ……何とかね……」


 紫が続いて声をかける。


「貴方、本当によくやってくれたわ……」


 霊夢は紫を見た。


「まだよ……まだ懐夢をあいつの中から引きずり出してない……」


 魔理沙は「おっと!」と言った。


「そうだったな。よし、それじゃ世界初八俣遠呂智の解体ショーと行こ」


 魔理沙が言いかけたその時、映姫が声を上げた。


「ま、待ってください!皆、八俣遠呂智を見てください!」


 映姫の言葉に「え?」と言って一同は八俣遠呂智の亡骸を見た。

 亡骸となったはずの八俣遠呂智の本体が、光を放っている。

 八俣遠呂智と交戦していた者達は八俣遠呂智の変化に戸惑いを見せ、そのうち慧音が呟く。


「な、なんだ!?」


 アリスがごくんと唾を飲み込む。


「八俣遠呂智、まだ生きてる……!?」


 直後、早苗が辺りをきょろきょろと見回した。

 不思議がった神奈子が早苗に声をかける。


「どうした早苗?」


 早苗が戦々恐々とした表情を浮かべる。


「大気が、揺れています、いいえ、空そのものが揺れてる……?」


 怯える橙が藍にしがみ付く。


「藍様、怖いです……」


 藍が橙の背中をさすりながら、震える空を見回す。


「どうなっているんだ……空が揺れているなど……!」


 皆が戦々恐々とする中、霊夢は草薙剣を構え直した。

 しかし、何故か手が震えて、上手く構える事が出来ない。

 いや、震えているのは手だけではない。身体全体が、震えている。

 何か、よくわからない恐怖に、震えている。


「何が……何が起きるの」


 呟いた次の瞬間、八俣遠呂智の本体は強い閃光を放った。かと思えば、どこからともなく白い光の帯のようなものが何本もやってきて、八俣遠呂智の身体へ流れ込み始めた。

 八俣遠呂智の本体は光の帯を取り込んでより強く輝き、眩い光を放っている。

 不可解な現象に、一同は驚き、戸惑い、そのうち輝夜が永琳に叫んだ。


「永琳、何が起きてるのよ!?」


 永琳は急遽、魔力の波を観測する術を周囲に向けて放った。

 それが完了すると、永琳は驚愕したような表情を顔に浮かべた。


「幻想郷中の暴妖魔素が、八俣遠呂智へ一直線に流れ込んで行ってる……!?」


 妹紅が永琳へ顔を向ける。


「なんだそれ!?幻想郷の暴妖魔素が、全部あいつに行ってるのか!?」


 永琳は頷く。


「えぇ!その証拠に、幻想郷を埋め尽くしていた暴妖魔素がものすごい勢いで消えていってるもの!

 そしてそれを、八俣遠呂智が全部吸い込んでる!」


 妖夢が二本の剣を構え直して、身震いする。


「暴妖魔素は私達が戦っている間にも幻想郷で自己増殖を繰り返していたはずだ。

 自己増殖した暴妖魔素を吸収したら、どうなるんだ……!?」


 幽々子が冷や汗を垂らしながら呟く。


「いい予感はしないわね……」


 レミリアが続いて呟く。


「寧ろ嫌な予感しかしないわ」


 フランドールがにかっと笑う。


「え!?もっと面白くなるの!?」


 咲夜が答える。


「多分、面白い面白くないでは済まないかもしれません」


 その時、紫は何かに気付いたように焦り、皆に指示を下した。


「皆!離れて!!八俣遠呂智から出来るだけ離れなさいッ!」


 突然の指示に、霊夢は紫に声をかけた。


「な、何で離れる必要が?」


 紫は怒鳴った。


「いいから離れなさい!!」


 紫の声が響くと、それを受けた一同は後退し、八俣遠呂智から大きく距離を取った。

 そして一同がもう一度八俣遠呂智の姿を目の中に入れた次の瞬間、八俣遠呂智の身体は光に包まれ、やがて光のシルエットとなった。

 直後、シルエットとなった八俣遠呂智の身体は肥大化と変化を開始。蛇のような首からはトカゲのそれのような手が突き出て、頭より生える角は首によって全く別な形へ変形していき、体格は一つの山に巻きつけるほど長く、大きくなった。

 その根元である本体もまたその大きさをぐんぐんと肥大化させ、一つの山に相当する大きさになったところで、首も本体も変化が止まった。

 やがて、八俣遠呂智を包み込む光は八俣遠呂智に吸収される形で消滅、その姿を露わにした。

 八俣遠呂智の身体は先程とは比べ物にならないほど大きく変化を遂げ、それを見た一同は唖然とし、そのうちの魔理沙が呟いた。


「じょ、冗談だろ……?」


 早苗が瞬きを繰り返す。


「首の一本一本が、山並みに大きい……?」


 紫が口をぱくぱくさせながら打呟く。


「まさか……これまで増やした幻想郷中の暴妖魔素を取り込んで、進化したというの……?」


 霊夢は呆然としながら、ただ八俣遠呂智を見つめた。


「そんな……こんな事って……」


 次の瞬間、八俣遠呂智のすべての首が天に向かって咆哮した。それは一同の耳に爆音となって届き、一同はたまらず耳を塞いで、下を向いた。

 やがて八俣遠呂智が咆哮を終えると、一同も耳を塞ぐのやめて目線を元に戻した。

 直後、さとりが呟いた。


「な、なんだっていうの?」


 その時、こいしが空を見上げ、指差しながらさとりに声をかけた。


「ねぇお姉ちゃん、空が何か光ってるよ」


 さとりだけではなく、全員が上を見上げた。空は雲に覆われていたが、その雲に数えきれないほどの光の粒が輝いているのが見えた。まるで、星空のようだった。

 輝く曇天を見て、燐が呟く。


「ほんとだ、光ってる」


 空がぽあっとした表情を浮かべる。


「まるで星空みたいだね」


 その時、魔理沙がある事に気付いた。曇天に輝く光が、どんどん下がってきているような気がする。

 こっちに向かってきていると言った方が正しいかもしれない。


「なんかあの光、どんどんこっちに来てないか?」


 魔理沙が周りに尋ねたその次の瞬間、それは雲を突き破って姿を現した。

 それは、人一人くらいの大きさの、まるで隕石のような熱光弾だった。そしてそれは最初の一つを皮切りに無数に地表へ飛来。雨のように一同目掛けて降り始めた。

 一同は焦って回避を始めたが、あまりに突然な事に何人かが熱光弾の豪雨に呑み込まれた。上空より迫り来る熱光弾の豪雨を避けながら、魔理沙は叫んだ。


「何なんだこれは!?まるで弾幕だ!!」


 慧音が降り注ぐ熱光弾を回避しながら返す。


「八俣遠呂智め……まだこんな力を隠していたとは!」


 同じようにアリスが呟く。


「そんな、あれで終わりじゃなかったの!?」


 レミリアが続く。


「って事はこれが八俣遠呂智の本気!?今までは遊んでただけだっていうの!?」


 紫が答える。


「というよりも、八俣遠呂智がようやく私達を障害と認識したと考えるべきかもしれないわ」


 幽々子が激しく飛び回りながら呟く。


「そしてこの隕石のような熱光弾……まるで私達の放つ弾幕ね」


 神奈子が怒鳴る。


「弾幕だぁ!?こんなのが弾幕なわけないだろ!」


 諏訪子が続く。


「というか、これどうやって降って来てんの!?」


 言われて、早苗は素早く熱光弾が降り注ぐ上空と、八俣遠呂智を見た。

 八俣遠呂智は天に向けて吼え続けており、首の口から粒子のようなものを吐き出している。

 その粒子が雲の上に到達した辺りで熱光弾が降って来るため、あの粒子が熱光弾の正体であり、元凶は八俣遠呂智である事が一目でわかった。


「八俣遠呂智です!八俣遠呂智が、この隕石を降らせているんです!」


 アリスが怒鳴る。


「そんなのわかりきってるわよ!」


 その時、上空から降ってきた熱光弾がアリスに直撃し、爆発。

 アリスは血に塗れて地面へと墜ちた。

 それを見た霊夢は顔を蒼褪めさせ、叫んだ。


「アリスッ!!」


 墜ちたのはアリスだけではなかった。

 降り注ぐ熱光弾の豪雨を避けるのに疲れたと思われる者達が次々と熱光弾の直撃を受け、撃墜されて行っている。もう既にアリスを含めた十五人くらいが撃墜されてしまった。

 このままでは、全滅も時間の問題だ。熱光弾を降らせ続ける八俣遠呂智の動きをどうにかして止めないと、皆やられてしまう。


 霊夢は八俣遠呂智へ視線を向けた。自分達に攻撃されて怒り狂っているのだろう、忙しなく粒子を吐き続け、熱光弾の豪雨を降らせ続けている。あの粒子さえ止めてしまえば、熱光弾を降らせる事は出来なくなるはずだ。

 思い付くなり、霊夢は巨大化した八俣遠呂智へ突撃を開始した。上空より降り注ぐ熱光弾の豪雨は、これまでいくつもの弾幕の隙間を縫って進み、元凶を撃ち落してきた霊夢からすれば、小雨にも等しかった。

 空気を裂きながら進み、熱光弾の雨の隙間を縫い、本体に突進しようとしたその時、突然体が空中で静止した。何が起きたのかわからず、自分の身体を確認したところ、いつの間にか自分は横になっていて、白い何かに挟み込まれていた。そのまま上の方へ目を向けると、赤く輝く球体がこちらに向いているのが見えた。


 その時初めて、霊夢は自分の状況を理解した。今、自分は八俣遠呂智の首に噛み付かれている。多分飛んでいた時に突然止まったのは、敵が本体へ接近した事を察知した首の口へ入れられたからだ。

 偶然なのか、歯は当たっていない。だが、このままではいずれ確実に歯を刺される。そして、八俣遠呂智の口は自分を丸呑みに出来るくらいに巨大だから、噛み砕かれる。

 霊夢は声を上げながら、抜け出そうともがいた。

 しかし、鱗を叩いても、口の中で暴れても山ほどの大きさを持つ八俣遠呂智は全くと言っていいほど動じなかった。いや、抵抗は完全に無意味だった。

 

「こうなったら、ゼロ距離で……!!」


 霊夢は覚悟を決めてスペルカードを構え、発動させようとした。

 使うのは起爆する光弾を放つ夢想封印。これをゼロ距離で撃ち込めば、確実に自爆するが、今は草薙剣でそれも強化されている。

 相手だって口の中や外を周りを爆破されればたまったものではないはず。

 耐え切れず、こちらを離すはずだ。


「霊符「夢想封印」」


 霊夢が言いかけたその時、八俣遠呂智は首を動かし、霊夢の身体を転がして、上顎の歯が当たる位置まで持ってくると、そのまま口を閉じた。

 鋭く、大きな牙が腹を貫き、自分の骨が砕け、肉が裂け、内臓に穴が開く音を霊夢は聞いた。

 一拍置いて、気を失いそうになるほどの大きな痛みが全身を貫き、霊夢は大量に血を吐いた。同時に、八俣遠呂智の少し開いた口から自分の肉と骨の欠片が混ざった血が飛んできて顔にかかり、霊夢は自らの死を感じ、それまで握っていた草薙剣を落とした。


 その瞬間は、上空からの熱光弾の豪雨が止んで、一息吐いていた他の者達の目にも映り、一同は凍ったように動けぬまま、八俣遠呂智の口に入れられている霊夢の姿を、ただ見ていた。

 その時、霊夢を咥えた八俣遠呂智の首はぐんっと身体を振り回して霊夢を離した。霊夢はまるで放たれた矢のように飛び、そのまま轟音と共に山の斜面へ激突した。

 そこへ追い打ちをかけるように、八俣遠呂智は上空に咆哮し、粒子を放出。粒子は雲の上で無数の熱光弾となり、文字通りの弾幕となって霊夢のいる山へ降り注いだ。度重なる熱光弾の着弾と衝撃波、連鎖する爆発に呑み込まれ、山は瞬く間に瓦礫と化し、その下深くに、霊夢は埋められた。

 一同が凍りついたように視線を瓦礫に向ける中、早苗は呟き、魔理沙は叫んだ。


「嘘……」


「霊夢……霊夢ぅ――――――――――――――ッ!!!」


 魔理沙の叫び声が、静まり返った辺りに木霊した。


           *


 硬い何かが全身に当たっているような感触で、霊夢はぼんやりと意識を取り戻した。

 辺りは真っ暗で何も見えず、土の臭いと鉄の臭いが鼻に流れてくる。

 そして、なんだか寒い。今は真夏だというのに、ここらはやけに寒い。

 肌に硬い何かが直接当たっている。どうやら、自分は服をほとんど着ていない状態らしい。

 先程まで死ぬほど痛かった腹も、もう痛くない。もはや、何も感じない。

 どのくらい時間が経ったのかだろうか。

 今自分はどこにいるのだろうか。

 今自分はどうなっているのか。


 もうなにも、わからなかった。

 しかし、ある事だけは思い出せた。


「私は確か……」


 あの子だ……懐夢だ。

 怪物に呑み込まれて、腹の中に閉じ込められてしまった懐夢を、助けようと必死になっていた。

 その前後は思い出せない。しかし、自分は、懐夢を助け出そうとしていた事だけはわかる。


「懐夢……」


 突然神社にやってきて、突然神社に住む事になって、色んな事をやってのけて私を驚かせて、よく寂しくなって泣くくせに変に意地っ張りなところがあって、身の程知らずの人助けをしようとして、本当は甘えん坊のくせに普段は他人にも私にも大人ぶってて、でも私にしか甘えなくて、私を姉弟のように言って、慕ってくれる……弟のような半妖の懐夢。

 今頃、どうしてるんだろう?

 怪物のお腹の中に閉じ込められて、震えてるんじゃ?

 苦しくて、出られなくて、動けなくて、泣いてるんじゃ?


 助けなきゃ


 私が、助けてあげなきゃ


 私が守らなきゃ


 私が、守ってあげなきゃ……


「わたしが……まも……って……あげ……な……きゃ」


 ぷつんと糸が切れたように、全身の感覚と意識が消え、霊夢は闇の中へ吸い込まれた。


状況、最悪を極める。

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