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東方幻双夢  作者: クシャルト
遠呂智編 第伍章 風雲
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第三十九話

 慧音が急遽、健康診断を開いた翌日。

 霊夢は神社の中にある書物庫で本を読み漁っていた。

どうしてこのような事をしているかというと、もしかしたら神社の書物庫に保管されている書物の中に、懐夢の身体の妖魔についての情報が書かれた物があるかもしれないと思ったからだ。

 実際、博麗神社の書物庫に来てみれば母を含めた歴代の巫女達が保管してきたと思われる本や巻物が部屋中にびっしりと保管されていた。むっと古紙やほこりやカビの匂いが鼻を突いてきたが、霊夢は気にせずに本棚に歩み寄り、「これだけの数があるのだ、一つくらい自分の欲する情報の書かれた書物があるはずだ」と思い、片っ端から読み漁った。

 だがしかし、どんなに書物を手に取って読み漁っても、書物は幻想郷の歴史を記したものや、術式の解説に関するもの、結界の発動させ方などが書いてあるもの、果ては巫女の日記のようなものしかなく、妖怪や妖魔に関する情報を載せた書物は一向に見つからなかった。

 霊夢は手に取って開いた本を閉じ、溜息を吐いた。


「何でこんな時に限っていい本が無いのよ」


 霊夢は少し諦めたような表情を浮かべ、びっしりと本の並ぶ本棚を見てふと思った。

 もしかしたらこのまま探したところで、自分の欲する情報の書かれた本は無いのではないだろうか。考えてみれば、自分の欲しい情報は『人や妖怪に取り憑き博麗神社に満ちる博麗の力が強い反応を示す特性を持った妖魔の情報』といういかにも特徴的で探したところで簡単には見つからなそうなものだ。

 そんなものがこんな日記やら術式の解説やらが書かれた本くらいしか見つからないこの本棚が見つかるとは、思えなくなってきた。多分、これ以上探したところで妖魔の情報が見つかる事は無いだろう。時間が無駄になるだけだ。

 それに、魔理沙やアリス、早苗や文にもこの情報を探すよう言っておいた。きっと彼女らの報告の方が、ここの本から情報を見つけ出すより先になるに違いない。


「やーめた」


 霊夢は本を棚へ戻すと、埃臭い書物庫を出て、居間へ戻った。

 居間には懐夢がおり、テーブルに教科書などを広げて宿題をやっていたが、霊夢が入ってくるなりその方へ顔を向け、顰め面をした。


「霊夢、どこ行ってきたの?」


 霊夢は不思議そうな表情を浮かべた。


「書物庫よ。ちょっと調べものがしたくなったから。それより、貴方どうしてそんな顔をしてるの?」


 懐夢は鼻を摘まんだ。


「霊夢、すごく埃臭い。それに、頭にいっぱい埃くっついてる」


 霊夢は軽く上を見て、手で髪の毛をぱんぱんと叩いてみた。

 直後、目の前に沢山の大きな埃が降ってきた。どうやら、書物庫で本を漁っていた時にくっついたらしい。

 霊夢は降ってきた埃を見るなり驚き、懐夢と同じように顔を顰めた。


「本当だ……こんなにくっついてたなんて」


 懐夢は顰め面をやめた。


「それに埃を吸わなかった?埃を吸っちゃうとよくないって、おかあさん言ってたよ」


 霊夢は少し驚いたような表情を浮かべた。


「あ、貴方の母さんそんなことまで教えてたの?」


 懐夢は頷いた。


「うん。埃は吸うと悪いから、埃を溜めないように綺麗にしておきなさいって」


 それを聞いて、霊夢は思わずきょとんとした。その教えは、かつて自分が懐夢ぐらいの時に先代巫女、即ち母から聞かされた教えと全く同じだったのだ。

 しかし霊夢は懐夢に悟られぬよう一瞬で表情を戻して、書物庫の方を見た。


「なるほど、いい教えだわ。今度書物庫を掃除しないといけないわね」


 懐夢は立ち上がって霊夢に歩み寄った。


「今度じゃなくて今やっちゃおうよ。僕も手伝うからさ」


 霊夢は思わず呆れたような表情をした。

 懐夢はかつて埃臭かったという慧音の家に行って、気絶して戻ってきた事がある。

 そんな懐夢があの埃と黴臭くて仕方のない書物庫に行ってしまったら、卒倒してしまって掃除どころではなくなる事だろう。

 霊夢は人差し指で懐夢の額を小突き、懐夢を軽くよろけさせると、凛とした声で懐夢に言った。


「あの書物庫はかなり埃臭くて黴臭かったわ。あんな場所に貴方が行ったらあまりの臭いに気を失うと思う。慧音の家の時みたいに」


 懐夢は「えぇっ」と言い、直後小さな声で霊夢に尋ねた。


「そんなに、すごかったの?」


「えぇ。すごくて貴方じゃ絶対入れないって感じの場所だったわ。全く、お節介焼きなのも素直なのもいいけど、貴方は時々身の程知らずの行動をとるまたはとろうとするわね」


 懐夢はしょんぼりとして、下を向いた。

 落ち込んだ懐夢を見て霊夢はふっと笑い、その頭に手を乗せると懐夢は顔を上げてきょとんとしたような表情を浮かべ、霊夢と顔を合わせた。

 懐夢の顔を見ながら、霊夢は微笑んだ。


「……まぁ、そこが貴方のいいところなんだけどね」


 霊夢はくしゃくしゃと懐夢の髪の毛を撫でると、そっと手を離して書物庫の方を見た。


「さぁてと……魔理沙とか萃香でも呼んで書物庫の掃除するか」


 霊夢がそう言ったその次の瞬間、外の廊下と居間を繋ぐ戸が勢いよく開けられる音が耳に飛び込んできた。

 何事かと思い懐夢とほぼ同時に振り返ってみると、そこには魔理沙と早苗と慧音の姿があった。

 霊夢は魔理沙と早苗の登場にはさほど驚かなかったが、慧音の登場には思わず驚いてしまい、少し慌てたような声を出した。


「魔理沙!早苗!それに慧音まで!」


 懐夢が続く。


「慧音先生!どうしたんですか?」


 慧音は答えず、代わりに魔理沙が慌てた様子で言った。


「霊夢!街の方でヤバい事が起きた!」


 その一言に霊夢は表情を険しくした。


「なんですって?何が起きたの?」


 慧音がそれに答えた。

 何でも、蛍の観測のために街の南西に存在する蛍が数多く生息している森へ向かった数人の大人と数十人の子供から成る人間のグループが向かったきり帰って来なかったらしい。

 これはすぐに街で騒ぎになり、グループに何かあったのではと心配した人間達が確認の為にその森へ向かった。しかしその人間達すらも森に行ったまま帰って来ず行方知れずとなってしまい、これはおかしいと思った慧音が向かってみたところ、その森の樹の葉が全て無くなって、枯れたような木だけが並ぶ森跡と化していたそうだ。慧音はこれは異変に違いないと思い、森から街へ戻ってきて、それから霊夢に異変の解決を依頼しに博麗神社までやってきたそうだ。


「森が枯れてたですって?」


 霊夢の問いに慧音は頷いた。

 続けて早苗が言った。


「私も見てきたんですけど、物の見事に枯れてました」


 魔理沙が続いて言う。


「私も見たぜ。森の樹が綺麗さっぱり禿みたいになってて、動物の気配とか一切しない状態になってた。あんなの、おかしいぜ」


 霊夢は顎に手を添えて『考える姿勢』をした。

 ……慧音達の話が本当かどうかはわからないが、もしも本当なのであればまただ。また、この頃頻繁に起きている『これまで見られなかった異変』と同じような異変がまた起きている。だが、これまでとは違ってその異変が何によって起こされたのかだいたい予想がついた。きっと、未確認妖怪だ。

 近頃よく起きている『これまで見られなかった異変』が起きた場所には、比較的高い確率で未確認妖怪がいた。多分慧音達の言う異変も、それの出現によるもので、その行方不明になった人間達は、恐らくその未確認妖怪に殺されてしまった事だろう。

 いつもならまだ犠牲が出てなかったから未確認妖怪の事を少しだけ楽観視したものだが、今回は今までと違って既に犠牲者が出ているので楽観視などできない。早くに止めなければ、更なる被害が出る事だろう。

 霊夢がこの事を話そうとしたその時、懐夢が先に口を開いた。


「あの、その森ってどこでしたっけ?」


 慧音が腕組みをして答えた。


「街の南西方面にある大きな森だ。夏になると大量の蛍が飛び交う水瓶があるという事で、街では所謂デートスポットとして名所になっていたのだが、荒地になって見る影もなくなっていた」


 その時、懐夢は目を丸くした。

 街の南西方面にあり、夏になると大量の蛍の飛び交う水瓶のある森といえば、リグルが新しく住む事にした森だ。この前行ってきた、沢山のリグルの家族のいる森に違いない。


 懐夢は慧音にこの事を話した。それを聞いた慧音もまた目を丸くして、懐夢に尋ね返した。


「その森はリグルの住む森だと?」


「はい。リグルは住んでいた森を焼かれた後、そっちの方へ引っ越したんです。空からリグルが見つかりませんでした?」


 慧音は首を横に振った。


「いや、私は見ていない」


 懐夢は魔理沙と早苗に尋ねた。


「魔理沙、早苗さん、リグル見なかった?」


 魔理沙と早苗は顔を合わせた。


「早苗、お前あそこでリグルを見たか?」


「いいえ。そういう魔理沙さんは?」


「見てないよ。動物の気配は一つもしなかったからな」


 魔理沙と早苗は懐夢へ顔を向け、そのうち魔理沙が言った。


「悪いけど、私達も見てない」


 懐夢は俯いた。


「どうしよう……リグル、頭がぼーっとして動けない状態だったから……きっとその異変に……」


 懐夢は顔を上げると霊夢の方を向いた。


「霊夢、リグルを」


 その時霊夢が割り込むように口を開いた。


「助けて、でしょ?わかってるわよ。それに、今回の異変は絶対に早めに解決しなきゃいけないものだってこともわかったからね」


 慧音が驚いたような表情を浮かべた。


「本当か霊夢!」


 霊夢は頷き、先程考えた事を全て三人に話した。

 三人は霊夢の説明を受けて何度か頷き、そのうち魔理沙が言った。


「なるほど……あの未確認妖怪の類による異変か。確かにその可能性が一番高そうだな」


 慧音が顎に手を添える。


「それで、未確認妖怪に共通する事は、人間妖怪問わず襲いかかり、人が多く住む場所を狙う……」


 そのとおりよと言って霊夢は頷く。

 もし今回の異変が未確認妖怪によるものであれば、未確認妖怪はその荒地から街へ動き、人間妖怪半妖問わず襲い始めるだろう。そうなる前に、食い止めなければならない。


「でしたら、早くそこに向かって未確認妖怪を探し出さないと!私達が向かった時はいませんでしたけど、その時はどこかに隠れてて、今なら姿を現しているかもしれませんし!」


 早苗が言うと、一同は頷いた。

 その直後、懐夢が霊夢へ声をかけた。


「僕も行きたい!リグルの事、助けたい!」


 霊夢は腰を落として目線を懐夢の目と同じ高さまで持ってきて、懐夢の目を見ながら言った。


「悪いけどそれは駄目よ。私達はとても危険な妖怪と戦いに行くの。そこに貴方を連れて行くわけにいかないわ」


 懐夢は眉を寄せた。


「でも……!」


「言う事を聞いて頂戴、懐夢。リグルは私達が助け出すから、心配いらないわ」


 霊夢の言葉に慧音が続いた。


「霊夢の言うとおりだ。リグルは何としてでも私が助け出す。お前はここに残っているんだ」


 懐夢は慧音の顔見て、小さく呼んだ。

 その直後、霊夢は早苗の方へ視線を向けた。


「早苗、懐夢の事をここで見ててもらいたいんだけど、いいかしら」


 言われて早苗は少しきょとんとした様子を見せたが、やがて頷いた。


「構いませんけれど……たった三人で行けそうなんですか?」


 それには慧音が答えた。


「家で暇している妹紅を連れて行く。だから大丈夫だ」


 早苗はそうなんですかと言い、直後霊夢は立ち上がった。


「こうしてる間にも未確認妖怪は街へ進んでいるはず。早くその場所に向かいましょう」


 霊夢の言葉を皮切りに早苗と懐夢を除いた一同は、居間から中庭に出て上空へ勢いよく舞い上がり、問題の森へ飛び立った。




           *



 霊夢達は博麗神社を出ると街の慧音の家に降り、そこで如何にも暇そうにしていた妹紅を慧音の説得で加えると再び上空へ舞い上がり、流れてくる初夏の温い風に逆らいながら飛んでいた。

 その最中、妹紅が大欠伸をした後、少しだけ眠そうに言った。


「今まで発見された事のない異質な妖怪ねぇ……そんなのが森にいるのか?」


 慧音が答える。


「いるかどうかはまだわからんが、もしかしたらいるかもしれないんだ。しかも、もしかしたらそいつは街を襲うつもりでいるかもしれない」 


 妹紅は腕を組んだ。


「ほぉ~、街を襲うのが目的ねぇ。幻想郷の正気の妖怪のやる事じゃないな」


 魔理沙が妹紅の方を向く。


「そうだよ。だから見つけたらすぐに倒さなきゃいけないんだよ」


 妹紅はふぅんと言ってそっぽを向いた。


「異質な妖怪ねぇ……どんなのなんだ」


 霊夢が振り返り、呆れたような表情を浮かべる。


「あんた、文の新聞読んでないわね?」


 妹紅は頷いた。


「あぁ読んでないけど、それがどうかしたのか?」


 慧音が答える。


「あの天狗の新聞に数回、異質な未確認の妖怪についての情報が書かれていた事があったんだよ。まぁ、お前には見せなかったから知らなくて当然だろうけどな」


 妹紅は吃驚したような表情を浮かべて慧音の顔を見た。


「そんなのあったのかよ!何で見せてくれなかった!」


 慧音は軽く溜息を吐いた。


「お前が見たくないって言ったんじゃないか。天狗の新聞はつまらないって」


 妹紅は「そういえばそうだ」と言ってしょんぼりとした。

 その時、ふと下の方を見た霊夢がある事に気付いた。

 ……森の一角に、樹が葉を全て無くしていて、荒地のようになっている部分がある。それも、かなり広い。

 もしかして、魔理沙達の言う荒地とはあそこの事ではないだろうか。

 霊夢はそこをもう少しよく見ようとその場で急停止した。

 他の者達もそれに合わせるようにその場で急停止し、そのうち魔理沙が霊夢へ声をかけた。


「どうした?」


 霊夢は下の荒地のようになっている場所を指差した。


「ねぇ魔理沙。あんた達が言ってた荒地って、もしかしてあそこの事?」


 魔理沙は霊夢の指差す場所を見て、目を丸くした。


「いや……もっと奥だったはずだが……」


 慧音が驚いたように言う。


「あんな手前ではなかったはず……まさか、範囲が広まっているのか!?」


 驚く慧音の隣に妹紅が並んだ。


「なんだありゃ。樹の葉とか全部なくなってるじゃないか」


 妹紅が言った直後、じっと葉を散した森を見ていた霊夢はある事に気付いた。

 ……木々の間を、黒い何かが動いている。かなり高いところから見ているからか、地を歩く(あり)のように小さいが、確かに木々の間を何かが動いているのが見える。

 

「みんな!あそこになんかいる」


 霊夢が再び指差すと、一同の注目がそこに集まった。

 一同はすぐに霊夢の指差すものを見つけ、そのうち妹紅が呟いた。


「何か動いてるな……黒っぽい何かが」


 魔理沙が慧音の方を向いて強く言う。


「慧音!あれ、もしかして未確認妖怪じゃないか?」


 慧音は首を横に振った。


「わからん。だが、その可能性は大きいかもな」


 魔理沙は続けて霊夢に声をかけた。


「霊夢、行ってみるか?」


 霊夢は頷いた。


「えぇ。近付いて見なくちゃわからないからね。行くわよ!」


 霊夢はそう言うと、その場所へ向かって急降下を開始。他の者達もそれに続いて急降下した。

 鋭い枝を生やす木々の間を潜り抜けて着地すると、すぐにあの黒い物を探して辺りを見回した。


「どこだ……?」


 しかし、どんなに見回しても辺りには葉を散した木々があるだけで、先程の黒い物体の正体らしきものは見えてこなかった。

 霊夢は思わず首を傾げた。


「あれ……おかしいな……」


 上空から見た時、確かに黒い何かが動いているのが見えた。だのに、どこにもそのようなものは見当たらない。気配を察知され、逃げられてしまったのだろうか。

 そう考えていたその時、魔理沙が驚いたような声をあげた。


「お、おい皆!この辺りの地面、よく見てみろ!」


 魔理沙に言われて、霊夢は考えるのをやめて地面をよく見て、驚いた。

 黒い物を探す事に夢中になって気付かなかったが、辺りには草花が一本も生えていない。いや、草花が消えていると言った方が正しいのかもしれない。


「何よこれ……なんで草が生えてないのよここ」


 一同が見渡す中、慧音は葉を失った樹を見た。

妹紅はそんな慧音を不思議そうな目で見て、声をかけた。


「どうしたよ慧音。樹の幹なんか見て」


 慧音は顎に手を添えた。


「葉を失った樹に、かなりの数の傷がある。それに草花が消えているとなると……」


 慧音はしばらく考えた後、表情を驚いたようなものに変えた。


「まさか……蝗害(こうがい)か!?」


 魔理沙は首を傾げた。


「蝗害?なんだそれ?」


 妹紅が腕組みをする。


「私も初耳だな。なんなんだそれ」


 慧音は振り返り、説明を施した。

 蝗害というのは、腹を空かせた夥しい数の殿様飛蝗(トノサマバッタ)の群れによって引き起こされる災害の一つだ。

 一体どういう災害なのかというと、腹を空かせた殿様飛蝗の群れが飢えを満たそうとそこら一帯の植物に喰いかかり、数時間のうちに根こそぎ喰い尽くし、その地を植物のない不毛の地に変える。無論、この植物の類には人間の育てる作物や食料なども含まれているため、人間の育てた作物も残らず喰い尽くされてしまう。

 結果として人間の食料は完全になくなり、飢饉が起こる。地震や台風と同等またはそれ以上に性質の悪い災害だ。

 古代の大陸の方ではこれが頻繁に起きていたというが、狭い日本(このくに)では全くと言っていいほど発生せず、起きたとしても小規模なものが大多数だった。


 説明が終わると、妹紅が呟いた。


「飛蝗による災害ねぇ……それとこれに何の関係があるんだ?」


 慧音は樹の幹に手を当てた。


「ここら一体の植物の消失は、蝗害によるものかもしれないんだ」


 霊夢、魔理沙、妹紅の三人は驚き、そのうち霊夢が言った。


「なんですって?そんなものが起きたっていうの?」


 慧音は頷いた。


「様々な歴史を知る私からすれば、それ以外考えられない。恐らくここらの植物の消失は、未確認妖怪ではなく腹を空かせた夥しい数の飛蝗によるもの」


 慧音が言いかけたその時、魔理沙が割り込むように口を開いた。


「無くなったのは植物だけじゃないみたいだぜ」


 一同の注目が魔理沙に集まった。

 魔理沙は険しい顔で言った。


「地面をもっとよく見てみな。あちこちに、えらい物が転がってる」


 一同は魔理沙に言われるまま更に地面を見て、そのうち霊夢がある物を見つけた。


「これ……」


 霊夢はその場に屈み、見つけたそれを手に取って立ち上がった。

 それは動物の頭蓋骨だった。形的に、狸か狐のものだろう。

ほとんど風化していない、真新しい骨だった。


「骨……?」


 辺りを見回してみれば、あちこちに動物の骨と思わしき骨がいくつも転がっていた。

他の者達も同じように骨を見つけて拾っており、そのうち慧音がまじまじと骨を見つめて呟いた。


「なんだこれは……何故動物の骨が転がっている」


 妹紅が辺りを見回しながら呟く。


「まさか、殿様飛蝗が食ったとでも言うのか?」


 慧音が呆れたような表情を浮かべて答える。


「そんなわけない。あいつらは草食で、肉なんか喰わない」


 慧音が言ったその時、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

 突然の悲鳴に一同は驚き、そのうちの魔理沙が口を開いた。


「な、なんだ今の悲鳴!?」


 慧音が辺りを見回しながら続いた。


「まさか……人が未確認妖怪に襲われたか!?」


 妹紅が歯軋りをした。


「くそ!どこからだ!?」


 その次の瞬間、また悲鳴が聞こえてきて、霊夢は咄嗟にその方向を向いた。

 悲鳴が聞こえてきた方角は、今自分達の立っている位置から西の方だった。


「こっちよ!」


 霊夢は皆に声をかけると、悲鳴の聞こえてきた方へ向かって走り出した。



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