表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方幻双夢  作者: クシャルト
遠呂智編 第肆章 白の魔神
34/151

第三十四話


 霊夢と紫は天狗の里に戻ってくると、紫は鍵を持って大天狗の元へ、霊夢は魔理沙、早苗、懐夢が居ると思われる文の仕事場に向かった。

 賑わう里の中をしばらく歩いていると、前に編集所と書かれた看板が立てられている建物に辿り着いた。しかもそこをよく見てみれば、文によく似た衣装を身に纏った天狗達が出入り口から頻繁に入って行ったり出ていったりを繰り返している。この忙しさを見るに、どうやらここが文の仕事場らしい。


「随分と忙しそうだけど、あの三人まだいるかしら」


 霊夢が呟き、その建物の中に入ろうとしたその時、建物の戸が開き、中から誰かが出てきた。誰かと思ってよく見てみたところ、それは文だった。


「文!」


 霊夢が声を出すと、文は霊夢に気付いてその方を向いた。


「あれ、霊夢さんじゃないですか」


 文は霊夢に駆け寄り、声をかけた。


「お帰りになってたんですね」


「えぇ。思ったより早く帰って来れたわ。ところで文は何してるの?」


 文は答える。


「これからまたネタ探しに行くんですよ。もしかしたらどこかで大スクープに巡り合えるかもしれませんし!それに、それくらいやらないと……」


 文に割り込むように霊夢が言った。


「……大天狗(かあさん)の新聞には勝てない?」


 文は目を丸くした。


「え……」


 驚く文に霊夢は答える。


「全部聞いたわよ。あんた、大天狗の娘なんですってね。それで、あの大天狗はもともとあんたと同じ職業に就いていた天狗」


 文は俯き、顔に苦笑を浮かべた。


「……聞いてしまわれたんですね。そうです。私は大天狗様の娘です。そして、大天狗様はもともと新聞記者だった方です」


 霊夢も顔に苦笑を浮かべた。


「母さんって呼んだら?まるで他人みたいに言ってるわよ」


「いいえ。これでいいんです」


 文曰く、文が大天狗を『母様』と呼ぶのは、二人きりの時だけと決めているらしい。

 そのほかの時は、『大天狗様』と呼び、他人のように振る舞っているそうだ。


「そうなの。随分複雑な事をしてるわね」


 文は軽く上を見た。


「大天狗様の新聞は私の目標なんです。私は常にそれを目指して新聞を書き、努力してるんですけど、なかなかうまくはいかないもので……」


 霊夢は微笑んだ。


「でもその心がけはいいと思うわよ。その姿勢のままいけば、きっといつか大天狗の新聞に匹敵する新聞を書けるようになるんじゃないかしら」


 文はきょとんとして霊夢を見る。


「そうでしょうか?」


 霊夢は頷く。


「そうよ。あんたならきっとできるわ。それといつもお疲れ様。よく頑張ってるわ、あんた」


 文は頭を軽く掻いて頬を少し赤くした。


「どうしたんですか霊夢さん。急に私の事褒めたりして……まるでさっきの魔理沙さん達みたいですよ?」


 霊夢は首を傾げた。


「魔理沙達がどうかしたの?」


 文によると、先程魔理沙、早苗、懐夢の三人が仕事場にやってきて、文の事を誉めてくれたらしい。

 それを聞いて、霊夢は思わず笑んだ。


(やってくれたのね、あの三人……)


 三人の事を思い出していると、文が再度声をかけてきた。


「霊夢さん?どうしたんですか、急に笑ったりして」


 霊夢はハッとし、首を横に振った。


「なんでもないわ。ところで、その後魔理沙達はどこに行ったの?」


「魔理沙さん達なら、大天狗様の元に戻っていったみたいですよ。ですから、今は御殿にいると思います」


 霊夢は頷くと、御殿の方を向いた。


「なるほど……もう戻ってたか。文、教えてくれてありがとう。これからも頑張りなさいね」


 霊夢が文に手を振り、走り去ろうとしたその時文が呼び止めた。


「あの、待ってください霊夢さん!」


 霊夢は立ち止まり、振り返った。


「ん、何よ」


 文は霊夢に駆け寄った。


「実は、霊夢さんに話さなければならない出来事があったんです。言い忘れてました」


 霊夢は首を傾げた。


「何よ」


 文は懐をごそごそと漁った。


「友人が前に懐夢さんの故郷、大蛇里に行っていて、そこで懐夢さんの写真を撮っていたんです」


 霊夢はまた首を傾げる。


「それがどうしたの?」


 文は懐から一枚の写真を取り出し、霊夢に差し出した。


「その時の写真がこれなのですが、よく見てください」


 霊夢は文から写真を受け取り、そこに映っているものを見た。


「これは……」


 そこには一人の少年が映っていた。文によれば、これは大蛇里にいた時の懐夢だという。

 しかし、霊夢はそれを見て、これは本当に懐夢なのかと思ってしまった。

 懐夢は髪の毛が明るい茶色で、右目は紅、左目は藍色の所謂オッドアイの子だ。

 だがこの写真の懐夢らしき少年は、髪の毛が黒く、両目が藍色になっている。

 今の懐夢と、髪の毛の色と目の色が異なっているのだ。


「文、これ本当に懐夢?」


 文は答える。


「顔や身体つきや目つきを見てください。一緒に住んでいる霊夢さんならば、それが懐夢さんだってわかるはずですよ」


 文に言われて、霊夢はもう一度写真の少年をまじまじと見た。

 確かに、その少年の顔つき、目つき、身体つきは見慣れた懐夢の特徴と全て合致していた。

 だが、それならどうして、髪の毛と目の色が違うのだろうか。


「確かに……この顔つきは完全に懐夢だわ。でもなんで髪の毛と目が……?」


「私にもよくわかりません。カメラの不調とも思えませんし……」


 霊夢は写真を見ながら顎に手を添えて『考える姿勢』をとった。

 写真を撮ったのはいつなのかよくわからないが、この懐夢を見る限り、恐らく去年あたりだろう。

 その間に懐夢は髪の毛を染めて、河童が前に生成した瞳に色を付ける事が出来る『カラーコンタクト』という道具を入れたとでも言うのだろうか。しかし、もしそんな事があったのならば、愈惟の日記に確実に残されているはずだが、そんな事は書かれていなかった。


(なぜ……?)


 この写真の懐夢と今の懐夢の髪の毛の色と目の色は違うのだろう。

 一体、懐夢に何があったというのだろうか。


「文、これ、懐夢に見せた?」


 文は首を横に振った。


「まだです。魔理沙さん達が私の仕事場に来て、去って行った後に友人が貸してくれたものですから」


「なら、これを懐夢に見せましょう。そうすれば、真偽がわかるはずよ」


 霊夢がそう言うと文は頷いた。


「わかりました。では、御殿へ向かいましょう」


 霊夢は文と共に御殿へ向かった。

 相変わらず賑わっている天狗の里の中を歩いていると、御殿が見えてきた。


「あ、御殿が見えてきた」


「あれ、御殿の前に誰かいますよ」


 文に言われて霊夢は御殿の前をよく見た。

 確かに、御殿の前に三人ほど人がいて、話し合っているのが見える。

 更に近付いてよく見てみると、話し合っている三人の具体的な姿が見えてきた。御殿の前で話し合っているのは、魔理沙、早苗、懐夢の三人だった。


「魔理沙、早苗、懐夢!」


 三人の存在に気付くと霊夢は文と共に三人へ駆け寄った。

 そのうち三人も霊夢と文の接近に気付き、その方を向いて手を振り、霊夢と文がすぐ傍までやって来ると魔理沙が声を出した。


「おぅ霊夢。帰ったか」


「えぇ。途中すごいトラブルに巻き込まれたけど、なんとか帰ってきたわ」


 霊夢の答えを聞いて、三人は驚き、そのうち早苗が言った。


「トラブルですか!?え、どんな!?」


 霊夢は顰め面をした。


「封印の地で一番強い式神が襲ってきた。何とか倒す事が出来たけど、疲れたわ」


 魔理沙が更に言う。


「戦ったのかよ!?」


 霊夢は頷く。


「えぇ。めっちゃ強かった。あの戦いはいつもの弾幕ごっこじゃなくて純粋な殺し合いだったわ」


 懐夢が心配そうな表情を浮かべて霊夢を見た。


「怪我したの?」


 霊夢は首を横に振った。


「いいえ。私は大した怪我しなかったけど、紫は酷い怪我をしたわ」


 魔理沙が驚いたように言った。


「あの紫がか?」


 霊夢が頷く。


「えぇ。お腹を槍で刺されてね。私が治癒術欠けて傷口塞いだんだけど、下手に動けばまた開くと思う。だから一刻も早く休ませた方がいいんだけど」


 早苗が尋ねる。


「そうですか……紫さんは今どこに?」


「御殿の中だと思うわ。紫、大天狗に鍵を返しに行くって言ったから」


 三人は首を傾げ、そのうち魔理沙が言った。


「御殿の中?それは無いと思うぜ」


 霊夢は目を丸くした。


「え、何でよ」


 早苗がそれに答えた。

 三人は、霊夢と紫と共に御殿から出た後、文の仕事場である編集部へ向かって文と数分ほど話した後、御殿の前に戻ってきて、今まで話をしていたという。その時、紫を見てはいないらしい。


 早苗の言葉を聞いて、不思議に思った。

 紫は天狗の里に戻って来た時に、「大天狗の元へ行く」と言って自分と別れた。もしあの時の言葉が本当なのだとすれば、確実にここを通って御殿の中に入り込んでいるはずだ。

 だのに、三人は紫を見ていないと言っている。という事は、紫はここに、御殿には来てはいないという事だ。


(紫……御殿に来てない……?)


 どこかで道草でもしているのだろうか。

 だとすれば、それは少し危険だ。紫の怪我は傷を軽く塞いだ程度。下手に動き回れば、傷が開いてしまうかもしれない。


「全く、あいつどこ行ってんのよ……」


 霊夢が呟いたその時、その背後にある御殿から声が聞こえてきた。


「誰がどこに行ってるですって?」


 五人は吃驚して、御殿の方を見た。

 御殿の入口の前に紫が立っていて、二人の近衛が紫に向かって礼をしていた。

 それを見た霊夢は思わず紫の名を呼んだ。


「紫……!?」


 紫はゆっくりと霊夢達の元へ歩いて、口を開いた。


「どうしたのかしら。私について何か話をしていたように見えたけど」


 魔理沙が紫に尋ねる。


「お前……いつの間に御殿に?私達、御殿に入るお前を見てないぜ?」


 紫は魔理沙と目を合わせ、説明した。

 紫は霊夢と別れた後、途中で歩くのが面倒になって御殿の中に続くスキマを開き、そこに入って御殿の中へ瞬間移動し、大天狗と会って話をしていたらしい。

 それを聞いた霊夢は思わずきょとんとしてしまった。


「そ、そういう事だったのね」


 文が続く。


「全く、油断も隙もないと言いますか」


 紫が微笑む。


「そりゃそうよ。そうでなければ大賢者は務まらないわ」


 その時、文がある事を思い出して霊夢に声をかけた。


「あ、そうだ霊夢さん。写真!」


 そう言われて、霊夢もここへ来た事情を思い出した。

 ここへは、懐夢に写真を見せるため、写真の真偽を知るためにやって来たのだ。


「あぁそうだった。すっかり忘れてたわ」


 霊夢と文の会話を聞いて、懐夢は首を傾げた。


「何の事?今僕の名前言った?」


 霊夢は頷き、懐夢と目を合わせた。


「懐夢、答えてほしいの。貴方、大蛇里にいた時、天狗に写真を撮ってもらったことある?」


 懐夢は軽く上を見て、やがて目線を戻した。


「あるよ。去年あたりに、たまたま里に来てた天狗のおねえさんに」


 それを聞いて、早苗が文に尋ねた。


「あれ、大蛇里って前から取材されてたんですか?」


 文は頷いた。


「はい。私以外の天狗の数人が過去に取材のために大蛇里へ行ってます。でも新聞のネタになるような場所ではなかったようで、取材に行っても記事にするには至らなかったようです」


 魔理沙が腕を組んだ。


「なるほどな。存在そのものは随分前から知られていたけど、報じられてはいなかったって事か」


 文は頷き、魔理沙と目を合わせた。


「そういう事です。恐らく、天狗の出版する新聞の中で大蛇里に関する事を報じたのは私の新聞が最初で最後だと思います」


 早苗が悲しげな表情を浮かべる。


「人知れず壊滅したというのが、最初で最後の大蛇里のニュースですか……なんで……」


 一同は黙った。しかし、そのすぐ後に紫が口を開いた。


「それで霊夢。どうしてそんな事を懐夢に聞いたのかしら」


 紫の言葉で霊夢はハッとし、懐から先程文から借りた写真を取り出し、懐夢に差し出した。


「あぁそうそう。これがその時の写真なんだけど……これ、間違いなく貴方よね?」


 懐夢は写真を受け取って、そこに映っているものをまじまじと見た。

 横から魔理沙と早苗と紫も入り込み、その写真を見たが、そのうち魔理沙と早苗が首を傾げた。


「え……違うだろ?これ、懐夢じゃないよ」


「そうですよ霊夢さん。ここには確かに男の子が映ってますが、懐夢くんではないですよ」


 霊夢は腕組みをした。


「それはどうしてかしら」


 魔理沙は懐夢の持つ写真を指差した。


「だって、ここに映ってるのは、髪の毛が黒くて両目が藍色の男の子だぜ?」


 早苗が霊夢の方を向きながら懐夢の頭を指差す。


「懐夢くんは髪の毛はこのとおり明るい茶色で、右目が紅、左目が藍色じゃないですか。この男の子とは」


 早苗が言いかけたその時、懐夢が口を開いた。


「これ……あの時の……」


 一同の注目が懐夢に集まり、魔理沙が呟いた。


「え?」


 懐夢は顔を上げて霊夢と目を合わせた。


「これ、あのおねえさんに取ってもらった時の写真だと思う。温浴場に向かおうとしてたあの時の……」


 早苗が声を上げる。


「なんですって?」


 魔理沙が続く。


「って事は、この男の子は本当にお前なのか!?」


 懐夢は魔理沙と早苗を交互に見て頷いた。


「僕だよ。間違いないよ」


 懐夢が言うと、霊夢は腕組みをやめて懐夢と目を合わせた。


「やっぱり貴方だったのね。そこで、貴方に尋ねたい事があるんだけど」


 懐夢は霊夢と目を合わせて首を傾げた。


「なに?」


 霊夢は静かに言った。


「どうして貴方の髪の毛の色と目の色がこの時から変わっているのか、わかる?」


 懐夢は少し考えた後、答えた。


「多分……一回死んだ時変わったんだと思う」


 その言葉に霊夢と懐夢以外の一同が首を傾げ、魔理沙が呟いた。


「へ?」


 早苗が続く。


「一回死んだ……ですか?」


 文が続く。


「えと……それは一体……?」


 紫が最後に言う。


「えっと……何が言いたいのかしら?」


 霊夢は軽く溜息を吐いた。


「詳しい事は後で話すとして、そのタイミングなのかもしれないのね?」


 懐夢は眉を寄せた。

 懐夢によると、髪の毛の色と目の色が変わってる事に気付いたのは博麗神社に住む事が決まって、初めて神社の洗面所に行って鏡で自分の姿を見た時らしい。だから、具体的なタイミングはわからないらしい。


「その時から気付いてたの?どうして話してくれなかったのよ」


 懐夢は困ったような表情を浮かべた。


「だって、その時は霊夢と初めて会った時だったし、話しても信じてくれないと思ってたから……」


 霊夢は「あぁそうか」と言った。

 確かに、あの時懐夢にそんな事を言われたところで、子供の吐く嘘だと思い込み、絶対に信じようとはなかっただろう。


「……なるほど。具体的なタイミングはわからないけれど、貴方的にはそのタイミングが一番怪しいと思ってるのね?」


 懐夢は頷いた。


「多分、あの時だと思うんだ。でも、どうしてこんなふうになったんだろう」


 霊夢は紫を見た。


「紫。あんた何か分からない?」


 紫は不思議そうな表情を浮かべた。


「何かって?」


「懐夢の目の色と髪の毛の色が変わった理由よ。あんたなら何か知ってるんじゃないかと思って」


 紫は懐から扇子を取り出し、ばっと広げた。


「そうねぇ……特定の条件を満たす事で目の色が変わったり髪の毛の色が変色したりする事が妖怪とかにはあるけれど……」


 紫は懐夢の頭に手を伸ばし、指でその髪を数本掴むと、それを写真と見比べた。


「この子の場合は、何かを付け足された(・・・・・・・・・)ような色の変わり方をしているわね」


 紫の言葉に、一同は首を傾げ、霊夢が尋ねた。


「付け足された?」


 紫は早苗と目を合わせた。


「早苗、外の世界にいた貴方ならわかるんじゃないかしら」


 早苗は首を傾げた。


「え?どうして私なんですか」


 紫は懐夢から写真を借りると、早苗に見せた。


「そこに映っている懐夢の写真の髪の毛の部分をよく見てごらんなさい。純粋な黒色ではないはずよ」


 写真をまじまじと見て、早苗はある事に気付いた。


「あ、本当です!写真の懐夢くんの髪、すごく黒色に近いんですが若干茶色いです」


 霊夢と魔理沙と文が写真を覗き込んだ。


「本当なの?」


「本当かよ?」


「本当ですか?」


「本当ですよ。よく見てください」


 写真をよく見て、霊夢は気付いた。確かに、この懐夢の髪の毛は一目見ただけでは黒く見えるが、目を凝らしてみれば若干茶色い。


「本当だわ……物凄く黒に近いけど、ちょっと茶色いわ」


 紫は早苗に再度声をかけた。


「早苗、その懐夢とこの懐夢、髪の色の違いを見て、何かに気付かない?」


 紫に言われて早苗は考えたが、そのうち驚いたような表情を浮かべて気付いた。


「わかった!今の懐夢くんの髪の色は、その時の懐夢くんの髪の色の明度を上げた色!だから外の世界から来た私を指名したんですね!」


 そう聞いて、霊夢と魔理沙と懐夢は首を傾げ、そのうちの魔理沙が呟いた。


「……明度?」


 直後、文も驚いたような表情を浮かべて口を開いた。


「あ、本当だ!確かに今の懐夢さんの髪の色は、この時の髪の色を明るくしたようなものですね!」


 霊夢は眉を寄せた。


「もしもーし。置いてけぼりにしないでくれるー?」


 困る三人に早苗が説明を施した。

 『色の明度』とは色の明るさを表す外の世界では一般的な言葉で、この明度が高ければ高いほど白に近い色になり、逆に低ければ低いほど黒に近い色になるというものらしい。……まぁ聞いてもよくわからなかったが。

 その時、文が入り込んできた。


「分かりやすく言えば、今の懐夢さんの髪の毛は、この時の懐夢さんの髪の毛の色に、白い絵の具を足したような色をしているんです」


 そう言われて、ようやくしっくりきた。

 確かに、今すぐそばにいる懐夢の髪の毛の色は、絵の具で例えればこの時の懐夢の髪の毛の色に白い絵の具を大量に足したような色だ。


「確かにそんな感じね……でも、それとこれに何の関係があるのよ」


 紫は表情を少しだけ険しくした。


「普通の妖怪はね、そんなふうな色の変わり方をしないのよ」


 紫を除く一同がきょとんとし、魔理沙が尋ねた。


「え……それってどういう事だよ」


 紫は言った。

 普通、妖怪が毛髪などの色を変える時は、赤から青になったり、緑から黄色になったりなど、著しく色が変化するもので、原色の明度を下げたり上げたりしたような色になる事は基本的に無い。

 目だってそうだ。普通妖怪の目の色が変わる時は、必ず両目の色が変わる。片目だけ変わるなどという中途半端な事には基本的にはならない。

 ……しかし、懐夢の場合はそうなってしまっている。普通ではありえないような事が、懐夢の身に起きている。

 それを聞いた早苗は、悲しげな表情を浮かべた。


「じゃあ……懐夢くんは異常だっていうんですか」


 紫は頷いた。


「えぇ。ここまで妖怪や半妖の特徴と食い違っているのだもの。異常以外に何があるというのかしら」


 魔理沙が紫に怒鳴った。


「おい!そんな言い方ないだろ!」


 紫は表情を変えずに魔理沙と目を合わせた。


「事実なのだから仕方ないわ」


 魔理沙はぎっと歯軋りをし、文が凛とした声で言った。


「じゃあ聞きますけど、貴方は懐夢さんの異常の原因が何なのか、わかってるんですか」


 紫は目を閉じ、黙った。

 そんな紫に魔理沙は再度怒鳴った。


「おい黙るな!そう言うって事は、お前わかってるんだろ。懐夢の異常の原因が!」


 紫は目を閉じたまま答えた。


「……時が過ぎれば……わかる日が来るわ」


 その時、紫の背後にスキマが出現し、紫はそっと目を開くと、その方へ体を向け、そのまま歩き出した。直後、早苗が紫を呼び止めた。


「待ってください!どこへ行くつもりですか」


 紫は立ち止まった。


「傷の様子があまりよくなくてね。悪いけど、帰って休ませてもらうわ」


 紫は軽く振り返り、霊夢に言った。


「貴方もよ霊夢。貴方も式神と戦って疲れてるんだから、早く帰って休んだ方がいいわ」


 紫はそう言い残すと、スキマへ入り込み、そのまま消えた。直後、スキマは閉じてなくなった。

 懐夢を除く一同はじっとスキマのあったところを見つめ、懐夢は俯いていた。

 そのうち、魔理沙が吐き捨てるように言った。


「くそっ。何だっていうんだよ」


 直後、懐夢が霊夢に声をかけた。


「霊夢……やっぱり僕……僕の中に……」


 霊夢は懐夢を見ないまま答えた。


「あいつの言葉なんて信じなくていいのよ」


 懐夢は更に言う。


「……じゃあなんで僕はこんなに」


 その時、魔理沙が割り込むように言った。


「皆まで言うな懐夢。どんなにお前が異常だろうと、私はお前を気持ち悪がったりしない。寧ろ、その異常をいつもの異変の時にみたいに解決してやりたいと思ってる」


 懐夢は驚いたように魔理沙を見た。魔理沙は笑んで懐夢を見た。

 続けて、早苗が見た。


「私も同感です。紫さんが異常の原因を知ってて隠してるなら、それを突きとめて、解決策を見つけるまでです」


 懐夢が早苗を見ると、文が懐夢を見た。


「友達が真剣に困ってるのを、見過ごすわけにはいきませんしね」


 懐夢は文を見た後、ぐるっと三人を見回した。


「皆……」


 最後に、霊夢が懐夢の方を向き、目線を懐夢の目の高さになるよう腰を落とした。


「懐夢。もしかしたら……貴方の中には本当に何かが居るのかもしれない。そう、貴方は『異変』に取り憑かれているのかもしれないわ」

 

 その一言に懐夢は目を見開いた。

 霊夢は続けた。


「でもね。もしそうなのであれば、私がそれを退治する。いつものように退治して……貴方を異変から助け出すわ。でも、もしそうでなかったとしても、これだけは憶えていて」


 霊夢は両手を懐夢の両肩に乗せた。


「貴方がどんなに異常であろうとも、貴方は貴方。その他の何者でもないわ」


 魔理沙が続いた。


「そうだぜ懐夢。お前はお前。私の友達、百詠懐夢だ」


 懐夢は魔理沙を見た。魔理沙はまた笑んだ。

 さらに、早苗が言った。


「もし貴方の中に貴方に異常を来している何かいるのであれば、私の秘術で誘い出して」


 文が続いた。


「力のある私達で所謂フルボッコにしてやるまでですよ!だから、安心していいんですよ」


 懐夢は再度ぐるっと一同を見回し、頭を下げた。


「みんな……ありがと」


 懐夢は顔を上げると、にっこりと笑った。

 その笑顔を見た後、霊夢は腰を上げた。


「さてと……もう用事も済んだ事だし、帰るとしましょうか」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ