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東方幻双夢  作者: クシャルト
邂逅編 第参章 大賢者
27/151

第二十七話

短め。


 目覚まし時計の音で、霊夢は目を覚ました。

 布団の中からゆっくりと手を伸ばし、目覚まし時計の一番上を押して目覚まし時計の音を止めると、霊夢は目を開けて時計を見た。

 時計の針は八時を指している。もう起きる時間だ。


「んんー……」


 霊夢はゆっくりと身体を起こし、背伸びをした後数回目を擦って隣を見て、思わずきょとんとしてしまった。

 隣にまだ、懐夢の布団があり、懐夢がまだ布団の中に潜って寝ているのだ。

 懐夢は昨日の午前、童子の酒を呑んでからずっと目を覚まさずにいたが、まだ目を覚まさずにいる。

 流石にこれには異常を感じてしまった。明らかに、寝過ぎだ。


「懐夢……?」


 懐夢は反応を示さない。

 まだ寝ているというのだろうか。


「懐夢。ねぇ懐夢ってば」


 霊夢は懐夢の身体に手を伸ばし、ゆさゆさと揺すった。

 直後、懐夢は布団の中から呻き声にも似た声を出した。


「う……ぅぅぅぅうぅぅぅぅ……」


 霊夢は思わず苦笑いしてしまった。

 懐夢の声はくぐもって、まるで飢えた妖怪が出すような声だったからだ。


「そんな声出してどうしたのよ」


 引き続き懐夢の体を揺すると、今度は懐夢は悲鳴にも似た声を出した。


「いたい!いたいいたいよぉ!」


 霊夢は吃驚して手を止め、懐夢に近付いて声をかけた。


「……痛いの?どこが?」


 布団の中から懐夢の声が返ってきた。


「……あたま……それに……きもちわるい……」


 霊夢はまたきょとんとしてしまった。

 頭が痛くて気持ちが悪い。これは風邪によく見られる症状だ。

 懐夢は風邪を引いてしまったのだろうか。是非を確認したいが、布団に隠れてしまっていて全然見えない。


「懐夢、布団から出て来れる?」


 霊夢の声に反応したのか、布団がもそもそと動き、中から懐夢が顔を出した。

 懐夢の顔は青白く、少し苦しそうな表情を浮かべている。


「顔真っ青ね……どんな感じ?」


「どんあかんじっれ……?」


 霊夢はまた驚いた。

 懐夢の呂律が回っておらず、きちんと喋る事ができていない。

 けれど言いたい事が完全に分からないほどひどくはないので、聞き取る事は出来た。


「どこが苦しいとか、どこが痛いとか……」


「あたま……とおなかが……いらい……きもち……わるぃ……」


 霊夢は懐夢の額に手を伸ばし、掌を懐夢の額に当てた。

 その時懐夢が少し痛そうな表情を浮かべたが、霊夢は我慢してと言って自分の額にも手を当てて、自分の額の温度と懐夢の額の温度を比べた。

 懐夢の額の温度は自分と同じくらいだった。熱はないらしい。


「熱はないわね……」


 という事は、懐夢はどうしたのだろう。風邪とか病気ならば高い熱を出すが、それがないため見当が付かない。どうして懐夢の体調が悪いのか、全く分からない。


「ん……待てよ……?」


 しかしその時、霊夢はある事を思い出した。昨日の懐夢の行動だ。

 昨日懐夢は童子の酒を呑んでそのまま酔い潰れて今日までずっと眠っていた。童子の酒は萃香も愛飲する鬼の酒、アルコール度数が普通の日本酒などと比べて非常に高い酒だ。それをまだ十歳の懐夢が呑み干してしまった。アルコールの分解など全く出来ない身体の子供が、アルコール度数が極端に高い酒を呑んでしまった。

 もしあの時の飲酒が原因なのだとすれば、今の懐夢の体調不良は……。


「あぁ……わかったわ」


 呟く霊夢に舌っ足らずの懐夢が尋ねる。


「なんあの……?」


 霊夢は苦笑いして懐夢に言う。


「貴方の体調不良は、極度の二日酔いよ」


 霊夢が思い付いた要因は、飲酒による二日酔いだった。

 実際極度の二日酔いの際に起こる症状は、頭痛、吐き気、嘔吐、呂律が回らない、ぐったりするなどだ。懐夢の今の症状は、どれも二日酔いに観られる症状と合致している。


「ふつくぁ……よぃ……?」


「そうよ。貴方の身体は今二日酔いを起こしちゃってるのよ」


 霊夢は若干険しい表情を浮かべて懐夢に尋ねた。


「貴方、昨日の事覚えてる?」


 懐夢はゆっくり頷き、呂律の回らない状態で昨日の事を話した。


「温泉で童子さんと出会ってそのお酒を呑んでしまった……ねぇ」


 懐夢は首を傾げる。


「どうじ……しゃん……?」


「貴方の会った鬼よ。伊吹童子さんっていうの。アルコール度数が極端に高いお酒を呑んでいる人で、貴方はそのアルコール度数が極端に高いお酒を一気に呑んでしまったから、身体が不調を起こしてそうなっちゃってるのよ」


 霊夢は懐夢と目を合わせた。


「懐夢、何でそんな事をしたのよ。貴方、お酒が嫌いなんじゃなかったの?」


 懐夢は眉を寄せて言った。


「……おさけ……だいきらい……」


「じゃあなんであの時は呑んじゃったの?」


 懐夢は顔の下半分を布団に潜らせて答える。


「……わかんない……」


 霊夢は更に尋ねる。


「わかんないはずないでしょ。なんで呑んじゃったの?その時、貴方は何を考えてた?」


 懐夢は小さく答えた。

 何でも、その時だけ童子の持つ酒の匂いがいい匂いに思えて、酒器を満たす酒がとても美味そうに見えて我慢できなくなってしまい、そのまま呑んでしまったという。


「童子さんのお酒が美味しそうに見えた?」


 懐夢は頷く。


「あのときらけ……おさけ……おぃしそうにぃ……みえら……なんれか……わかんないへど……」


「今は?」


 懐夢は首を横に振った。


「おさけ……いやら……」


 霊夢は顎に手を当てて”考える姿勢”を取った。

 懐夢はこのとおり筋金入りの酒嫌いだ。その懐夢が酒を呑みたがったという事は、童子の酒に懐夢を引き付けさせる何かがあったという事だ。酒嫌いの懐夢すらも引き付けてしまう何かが。

……まぁそれが何なのかまでは全然わからないが。


(今度萃香に取り寄せさせてみようかしら)


 霊夢は思うと姿勢を元に戻して懐夢と目を合わせた。


「二日酔いに一番よく効くのはとりあえず寝る事よ。今日は寺子屋休んで、一日寝ていなさい」


 懐夢はゆっくりと頷いたがすぐに顔を顰めた。


「でも……きょうのじゅぎょぅでないろ……りぐるがこまる……」


 霊夢は少し傾げた。


「リグル?なんでリグルが困るの?」


 懐夢は舌っ足らずの口調で霊夢に全て話した。

 リグルがいない間の授業は慧音の話も含めて、懐夢は全て筆記帳に書き写していたらしい。リグルが帰って来た時、授業が進んでいても困らないようにと。しかし今日は寺子屋に行く事が出来ないため、それをする事は出来ない。

 それを全て聞いて、霊夢は思わず溜息を吐いて苦笑いしてしまった。


「はぁ……よくそんな事やってたわね。友達想いというか、お人好しというか……」


 懐夢は霊夢と目を合わせて不安そうな表情を浮かべた。


「ねぇれいむ……きょう……らいじなじゅぎょぅやったあどうしよお……」


 眉をぎゅっと寄せて舌っ足らずで喋る懐夢を見て、霊夢はふとこの前読んだ懐夢の母、愈惟の日記に書かれていた事の一部を思い出した。


―――記入日 卯月十三の日(懐夢五歳)

 今日に入っていたのか昨日だったのかわからないけれど、夜中に懐夢が聞こえてきて私は目を覚ました。

 私を起こしたのは懐夢だった。怖い夢を見てしまったらしく、私に抱き付いて泣いてきた。

 私はそこでちょっと困ってしまった。慰めようにもどう慰めたらいいのかよくわからなかったからだ。

 でも、私は何とか懐夢を泣き止ませようと、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言って頭をゆっくり優しく撫でて上げた。

 すると、懐夢はぴたりと泣き止んだ。もう一度やってあげてみると、懐夢はうっとりして、そのまま眠りに就いてしまった。どうやら、効果覿面(てきめん)だったらしく、これには懐夢の不安を取り去る効果があったらしい。

 ……これ、使えるかも。

 また何かあったら、してあげよう。


 愈惟の日記によると、懐夢が不安を抱いた時、頭を優しく撫でて「だいじょうぶ、だいじょうぶ」と言ってあげるとその不安を和らげる事が出来るらしい。

 そして今、懐夢は不安を抱いている。もしかしたら、今あれをやってあげたら効果があるかもしれない。

 

「心配ないわ。リグルってチルノ達のメンバーの中で貴方の次に頭いい子だって慧音言ってたし」


 霊夢はゆっくりと懐夢の額に手を伸ばし、ゆっくり優しく撫でて微笑んだ。


「だいじょうぶ、だいじょうぶ」


 その時、懐夢は目を丸くして霊夢を見た。


「いまの……おかあさんの……おまじない……」


 懐夢に言われて、霊夢はハッと我に返り、表情を変えた。


(しまった!)


 懐夢を安心させる事ばかり考えてすっかり忘れてしまっていた。

 これは愈惟が懐夢を安心させる時にやるおまじないだ。恐らくこれまでに何回もやっていたに違いないし、懐夢も何回もやられていたに違いない。それを何も知らないはずの自分がやれば驚き、そしてどうして知っているのか怪しむに決まっている。

 このままでは、愈惟の日記を持っている事が懐夢にばれてしまう。……それだけは回避したい。

 そう思っていると、懐夢は話しかけてきた。


「れいむ……なんで……それしってるの……?」


 霊夢は何とか表情を戻すと、それに答えた。


「これ?これは私の母さんが私が小さい頃にしてくれたおまじないなのよ」


 懐夢はまた目を丸くした。


「れいむのおかあさんが……?」


「そうよ。私が小さい頃、怖い夢で飛び起きた時とか、母さんがよくやってくれたのよ。これしてもらえるとすごく安心できるから、貴方にも効果あるかなって思って」


「そう……らったんら」


 霊夢は懐夢の頭を撫で続けたが、少し申し訳ない気持ちになった。

 今懐夢に話したのはこの場を凌ぐために即席で作り上げた嘘だ。

 小さい頃に悪夢で飛び起きた時に母に慰めてもらった事はあるが、愈惟のようなおまじないをかけてもらった事はない。


「どう?落ち着いた?」


 懐夢は頷き、微笑んだ。

 それを見て霊夢もまた微笑んだ。


「そう。それじゃ、おやすみなさい。明日からまた寺子屋に行けるように」


 懐夢はまた頷き、ゆっくりとその瞳を閉じた。

 やがて懐夢がくぅくぅと寝息を立て始めると、霊夢はまた考える姿勢を取り、考え始めた。

 懐夢の二日酔いはかなりひどいようだ。恐らく普通に回復を待ったら完全に元に戻るまで三日は要するだろう。

 そんな事になったら確実に慧音が懐夢の容体を見にやってくる。その時懐夢の体調不良の原因は飲酒による二日酔いであるなんて言ったらどんな目に遭わされるかわかったもんじゃない。

 

(……ここは一つ、永琳に頼もうかしら)


 様々な薬を作り出せる能力を持つ永琳ならば、安い料金で二日酔いを治す薬を作ってくれるだろう。懐夢自身も早く二日酔いから復帰して寺子屋に行きたがっているようだし、永琳に薬を作ってもらって回復させた方がよさそうだ。


「決めた。永琳のところ行こう」


 霊夢は懐夢を起こさないようにゆっくりと立ち上がると、箪笥を開きいつもの服を取り出し、寝室を出て居間まで来ると寝間着を脱ぎ、胸に晒を巻くといつもの服を身に纏い、髪の毛をいつもと同じように結ぶと台所に行き、冷蔵庫から街で買ったチーズとハムと牛乳を取り出し、続けて近くの棚から食パンとコップを取り出すと食パンを二枚手に取り、その間にチーズとハムを挟んでサンドイッチを作り上げると一気に食べ、コップに牛乳を注いで一気に飲み干した。

 これで朝食は終了だ。霊夢は時間が無い時などはこうして簡単に済ませてしまう事も多い。


「ごちそうさま……あ」


 霊夢はその時ある事を思い出した。

 そういえば自分は今朝食を摂ったが、懐夢は何も食べずにまた眠ってしまった。昨日の午前中から何も食べていないのだ、きっと胃の中は空っぽで、お腹を空かせているに違いない。眠ったとしても空腹感で起きてしまうだろう。薬をもらって来たらお粥か雑炊でも煮て、食べさせてやろう。


「さてと……行こうかしら」


 霊夢は呟くと台所から出て廊下を渡り、玄関で靴を履くと神社の境内に出て、そのまま上空へ飛び上がり、永琳のいる迷いの竹林の方へ飛び立った。


     *


 霊夢は迷いの竹林に辿り着いた。竹林の中は相変わらず森閑としており、ひどく蒸し暑かった。この暑さのためなのか、羽虫も蚊もかなりたくさんいるようだ。

 ……今なら輝夜が外に出たがらないのもわかる気がする。


「蚊に刺される前に行こ」


 霊夢は呟くと迷いの竹林の中を歩きだした。

 笹の匂いが香り、鬱蒼と生い茂る竹の間を抜けてしばらく歩くと大きな屋敷、永遠亭が見えてきた。

 この前来た時は永遠亭の周りも竹林と同じように森閑としていたので、今回も同じかと思っていたが、屋敷の前で沢山の兎達が洗濯物を干していて、騒々しかった。

 そしてその中には永琳の弟子の兎、てゐと、深紅の瞳で足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪の毛に頭からよれよれの兎の耳を生やし、白のブラウスに赤いネクタイを締め、その上に紺色のブレザーを着用し、薄桃色のミニスカートを履いて足には三つ折りソックスと焦げ茶色のローファーを履いているという他の兎達とは明らかに違う服装をした少女が混ざっていた。

 その少女の名は鈴仙・優曇華院・イナバ。てゐと同じく永遠亭に住まう永琳の弟子で、過去の異変で数回霊夢の前に立ち塞がりその都度倒されている、本人と永琳曰く月の都市よりやって来た兎だ。ちなみに永琳やてゐや輝夜からはうどんげ、その他の人物からは鈴仙と呼ばれている。


「鈴仙もいるのね」


 霊夢は呟き、鈴仙とてゐに近付こうと歩き出すと、鈴仙とてゐは霊夢の接近に気付いたのか、霊夢を見た。


「あら、霊夢おはよう」


「おはよう。早速なんだけど永琳いる?」


 てゐは永遠亭の永琳の診察所があると思われる指差した。


「師匠なら中にいるよ。また師匠に診てもらいに来たの?」


 霊夢は首を振った。


「違うわ。薬をもらいに来たのよ」


 鈴仙はへぇと言った。


「貴方が薬を。珍しい事もあるものね」


「私じゃないわよ。他の人のための薬をもらいに来たの」


 その時、てゐが閃いたように言った。


「もしかしてそれ、貴方のところに住んでる子の事?」


 霊夢は少し驚いて鈴仙に尋ねた。


「なんでわかるのよ」


 鈴仙はふふんと言って答えた。

 

「昨日師匠が言ってたのよ。温泉行く時に霊夢の神社に住んでいる子供に会ったって」


 てゐが霊夢に近付き目を輝かせる。


「ねぇねぇ、霊夢の神社に住んでる子ってどんな子なの?」


 霊夢はてゐを五月蠅がり、答えた。


「貴方達に教えたところで意味ないわよ。さぁさぁ、貴方達の師匠の元に行かせて頂戴」


 霊夢はてゐと鈴仙に別れを告げて永遠亭の中に入り込み、この前来た時と同じように廊下を歩いて、永琳のいる部屋の前まで来た。扉のすぐ横の壁を見てみたところ、八意診療所と書かれた立札が付けられていた。この前来た時と同じ、永琳の診療所だ。

 扉を開き、中に入ってみると相変わらずというべきなのか、薄らと薬品の臭いと消毒の臭いが鼻を突いてきた。その部屋の中を見回してみると、机に向かって書類か何かを書いている永琳の姿があった。


「永琳」


 霊夢の声に永琳は反応を示し、顔を霊夢の方に向けて目を合わせた。


「あら、霊夢じゃない。どうかした?」


 霊夢は永琳に近付き、答えた。


「ちょっと貴方に薬を作ってもらいたくて来た」


 永琳は身体ごと霊夢の方を向いた。


「そうなの。どんな薬がほしいの?胸痛に効く薬?」


 そう言われて、霊夢は思い出した。

 そういえばあの時以降胸の痛みはなくなっている。

 やはりあれは病気だったのだろうか。そしてそれは永琳の薬によって治ったのだろうか。異常無しと言われたあの胸の痛み……。


「胸の痛みはもう大丈夫よ。それよりも、二日酔いに効く薬を作ってもらいたいの」


 永琳はきょとんとした。


「二日酔いの薬?なんでまた?」


 霊夢は永琳に懐夢の事を話した。


「なるほど……昨日私達に話しかけてきた貴方の神社に住む子がお酒を誤飲してしまい、二日酔いになってしまったと。具体的な症状は?」


「頭痛、吐き気、呂律が回らない、あと腹痛」


 霊夢の言った事を永琳は丁寧にメモを取り、やがて少し険しい表情を浮かべた。


「なるほど……どれも二日酔いによく見られる症状だけど、一つだけ厄介なのがあるわね」


 霊夢は首を傾げた。


「それは?」


 永琳は霊夢と目を合わせた。


「腹痛よ。お酒を呑んで次の日お腹痛いって場合は、胃炎を起こしてしまってる可能性が非常に高くなるの。その状態で何かを飲ませたり食べさせたりしたら、胃が傷付いたり嘔吐をしてしまったりするわ」


 霊夢は少しぎょっとした。


「胃炎……」


 永琳は続けた。


「それにね霊夢。二日酔いっていうのは、薬でどうにかなるものじゃないのよ」


 霊夢はきょとんとした。


「え、なんで」


「二日酔いっていうのは身体の中に大量のアルコールが残っているせいで起きるもので、病気とは全く違うの。二日酔いを治すには、汗や呼吸などでアルコールを体外に出すしかなくてね、薬でどうにかできるものじゃないの。私が出せる薬は、汗を大量に出させる薬と胃炎に効く薬の二つだけ。後は一日寝させる事」


 霊夢は少し苦い表情を浮かべた。


「そう……なんだ。じゃあ、それくれる?」


 永琳は微笑むと立ち上がり、近くの薬品棚から二つの小瓶を取り出して霊夢にそれを手渡した。

 霊夢は小瓶に貼られているラベルを見た。『発汗剤』と『胃薬』と書いてある。


「それを朝昼夜飲ませなさい。あと、発汗剤を飲む前には大量に水を飲ませておいて、二時間おきに水分補給させなさい。そうでないと、脱水症状を起こしてしまうから」


 霊夢は頷いた。


「わかった。ひとまずもらっていくわね」


 霊夢はそう言うと永琳の元を立ち去ろうとした。

 しかしその時、永琳が呼び止めた。


「待って頂戴」


 霊夢は立ち止まり、永琳を見た。


「何よ」


 永琳は険しい表情を浮かべて霊夢と目を合わせた。


「貴方、胸の痛みの方はどう?」


 霊夢はぴくりと反応した。やはり、聞いてきた。


「大丈夫よ。あんたの薬が効いたのか、あれ以来妙な胸の感覚が来たり、痛みが来たりするような事はなくなったわ」


 永琳は表情を和らげた。


「そう。ならいいんだけど、もしまた何かあったら来て頂戴ね」


 永琳の態度に霊夢は少しきょとんとしてしまったが、ひとまず頷くと永琳の部屋から出て、永遠亭を出て迷いの竹林の中を歩き、やがてそこからも出ると上空へ舞い上がり、懐夢の待つ博麗神社へ急いで戻った。



今回にて第三章が終了です。

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