第二十六話
第二のオリキャラ登場。
霊夢は浴場から上がり、魔理沙、アリス、早苗、文を連れて、さとりを先頭に出来たばかりで真新しい匂いの満ちる温泉施設の中を歩いていた。
他の者達はそれぞれ先に上がったり残っていたりして、霊夢達とは別行動をしているが、紫と藍と橙と萃香は霊夢と同行する事にして一緒にいたが、萃香は先程酒を買いに行くと、紫と藍と橙は自分達の分と霊夢の分の飲み物を買いに行くと言って売店の方へ向かって行ってしまった。
霊夢達は萃香の帰りを待ちながら、速度をゆっくりにして辺りを見回しながら歩いていたが、そのうちの魔理沙は牛乳を、早苗はコーヒー牛乳を飲みながら歩いており、魔理沙は牛乳を一気に飲み干して瓶を空にして呟いた。
「ぷっはぁ。やっぱ風呂上がりの牛乳は最高だな」
コーヒー牛乳を飲み、一息吐いた早苗が答える。
「そうですね。お風呂上りは牛乳に限ります。まぁ私のはコーヒー牛乳ですけど」
早苗の瓶を見つめてアリスが呟いた。
「コーヒー牛乳ねぇ……私はミルクティーの方が好きだわ」
魔理沙は苦笑いした。
「お前はもう紅茶なら何でもいいようなもんじゃないか」
アリスは目を半開きにして魔理沙を見た。
「何を言ってるの?私が好きなのはストレートティーとミルクティーだけよ。アップルティーとかレモンティーとかロシアンティーとかは好きじゃないの」
魔理沙は少し顔を顰めた。
「全部同じようなもんだろ」
アリスはキッと魔理沙を睨んだ。
「違います。アップルティーとかレモンティーとかロシアンティーとかはね」
紅茶の説明を始めようとするアリスに魔理沙は首を横に振った。
「いやいや、説明せんでいい」
アリスは顰め面をして魔理沙から視線を逸らした。
その中、霊夢はずっと辺りをきょろきょろと見回していた。
さとりによれば、霊夢の捜している人物はこの温泉施設の中にいるらしいが、道中どこを見てもいつの間にかやってきた家族連れやカップルや友人同士と思われる妖怪達で賑わっていて、霊夢にはどんなのがその人物なのかわからない。
目的の人物が見つからない事に霊夢は若干苛立ちを覚え、さとりに話しかけた。
「んで、さとり。どれがその人なわけ?」
さとりは顎に手を添えた。
「そうですねぇ……まだ上がってきてないようです」
霊夢は首を傾げた。
上がってくるというのは、恐らく風呂から上がってくるという意味だろう。
しかし、女湯を使っていたのは自分達だけで、その他の妖怪はいなかったし、もしあのメンバーの中にいたなら風呂から上がらず、あの時直接指名したはずだ。
その時霊夢は閃いた。
「もしかしてその人って男の人?」
さとりは霊夢を見て頷いた。
「はい。貴方の求めている人は、男性です。入って一時間弱経ちますから、そろそろ上がってくる頃だとは思うのですが……」
霊夢は目を丸くした。
「あんた、その人の入浴時間知ってるの?」
さとりはまた頷いた。
「えぇ。彼が教えてくれましたからね」
文がほぉ~と言った。
「自分の入浴時間を他人に教えるなんて、心の広い人ですねぇ。そんな人は取材し甲斐があります」
さとりは微笑んだ。
「そうですよ。とても心の広い人です……あら」
その時、さとりは目の前を見てきょとんとした。
何事かと思い、霊夢達もその方向を見てみたところ、そこには男湯に入っていた霖之助と深紅の瞳で赤茶色の長い髪の毛で、がっしりとした身体つきで漆塗りの鎧のような衣装を身に纏い、左が黒、右が白の靴を履き、右手に黄色、左手に青のグローブを付け、頭の左右から二本の捻じれた赤黒い角を生やした見た目三十歳くらいの背の高い男性に抱きかかえられて眠っている懐夢の姿があった。
「お、香霖!」
魔理沙が霖之助へ声をかけると、霖之助と男性は霊夢達に気付き、歩み寄ってきた。
「魔理沙、それに皆。もう上がったのか」
霖之助の言葉に一同は頷き、霊夢が若干笑みながら霖之助に尋ねた。
「いい湯だったわ。そっちはどうだった?」
霖之助は少し困ったような顔をした。
「こっちもいい湯だったよ。でも……霊夢、君には呆れたぞ」
霊夢はきょとんとして霖之助と目を合わせた。
「え、なにが?」
霖之助は顰め面をした。
「恍けるんじゃないよ。全く、まさか君が子供の懐夢に酒を呑ませて無類の酒好きに育て上げてしまっていたなんて……」
霊夢はますます霖之助の言う事が理解できなくなった。
男湯で、一体何があったというのだろう。
そして何故、懐夢はこの妙な鬼に抱かれて眠っているのだろう。
「んー……何の事なのかさっぱりわからないわ。霖之助さん、何があったのか話してくれる?」
霖之助は目を丸くしたが、とりあえずあった事を全て霊夢達に話した。
霖之助によると、懐夢と霖之助が今懐夢を抱えている男の鬼と温泉で出会い、話を進めた後、懐夢が突然鬼の呑んでいた酒を欲しがり、酒をくれと頼んだらしい。
途中霖之助が懐夢を止めたが、懐夢は止まってはくれず、一方鬼は何を思ったのか遠慮せず呑めと言って懐夢に酒器を差し出したそうで、懐夢は鬼に酒器を差し出されるや否、喜んで酒器を受け取り美味しい美味しいと言って喉を鳴らしながら酒を呑み干してしまったそうだ。その後懐夢は瞬く間に泥酔したが、すぐに酔い潰れてそのまま風呂で眠ってしまい、霖之助と鬼に運ばれて今この瞬間にいるという。
それを聞いて霊夢は驚いて、その話を疑った。
霖之助は自分が懐夢を酒好きに育て上げ、酒を喜んで呑んだと言っているが、寧ろ懐夢はその真逆の、無類の酒嫌いだ。
この前台所にあった酒の匂いを嗅がせてみたところ、酷く嫌がって「酒なんか飲みたくない。そんな匂い嗅がせないで」と言っていた。
試にコップに酒を注いで懐夢へ近付けると、嫌がって酒から離れ、ついには怒ってしまった。
そんな懐夢が酒を喜んで呑んだなど、嘘としか思えない。
「それ、本当なの?」
霊夢の問いに鬼が答えた。
「本当だ。この坊主は私の酒を呑み干し、酔い潰れて寝た。てっきり子供型の妖怪で、酒を呑ませても大丈夫だと思っていたのだが、甘かったようだ」
霊夢は懐夢を抱える鬼を見たが、直後魔理沙が霊夢の隣へ歩み出て鬼に話しかけた。
「っていうか、お前一体何なんだ。さっきから名乗りもしないで」
鬼は魔理沙を見た。
「そういえばまだ名乗っていなかったな。私は……って、お前は」
鬼はさとりを見た。
その直後、さとりが口を開いた。
「この人を疑う必要はありませんよ皆さん。この人は嘘を吐かない人ですから」
霊夢はさとりを見た。
「何でそんな事がわかるのよ。知り合い?」
さとりは鬼と目を合わせた。
「えぇ。何故ならこの人は」
「おぉ―――――い!霊夢―――――!」
さとりが言いかけたその時、背後から大きな声が聞こえてきた。
誰だと思って振り返ってみると、そこには売店に出かけていた萃香、紫、藍、橙の姿があり、四人はこちらに向かって歩いてきていた。手には買ってきた物の入った袋を下げている。
「萃香、紫、藍、橙」
霊夢が呟いた後、四人は霊夢達の元へ到着し、萃香が霊夢に声をかけた。
「何話してたんだ?」
「あぁ実はね……」
霊夢が言いかけたその時、鬼が驚いたような仕草を見せた。
「お、お前達は……」
鬼の声を聞いて萃香と紫は鬼の存在に気付き、見た。
その瞬間、萃香は大きな声を出して、紫は小さく声を出して驚いた。
「あ?あ―――――――――――――ッ!!」
「あ、貴方は!」
霊夢達は驚き、鬼と二人を交互に見て、声を出した。
「え?あんた達知り合い?」
そのうち、萃香が大声で言った。
「お、お、親父い!?」
その言葉を聞いて、一同はきょとんとしてしまい、そのうち早苗が萃香に尋ねた。
「え?親父?どういう事ですか?」
萃香は驚くのをやめて答えた。
「いやだから、これ私の親父」
その一言に、一同は大声を出して驚いた。
目の前にいるこの鬼こそが萃香の父親という事実に、霊夢も魔理沙もアリスも早苗も文も、大いに魂消てしまった。
「えぇぇぇぇ!?す、萃香のお父さんが、貴方!?」
驚いたように霊夢が言うと鬼が頷いた。
「そうだとも。私はその娘、伊吹萃香の父親だ」
魔理沙がさらに大声を上げる。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
鬼の名乗りに一同が更に驚く中、萃香が呆れたような表情を浮かべた。
「あんたら……他人の親父にそんなに驚く必要ないだろ」
萃香に言われても一同は驚くのをやめなかった。
しかしその中、ただ一人だけ冷静だった紫が一同の目の前まで出た。
「皆、落ち着きなさい!」
紫が一同を見て一喝すると、ようやく一同は驚くのをやめた。
一同が静まったのを確認すると紫は一同に童子に対しての説明を始めた。
この鬼の名は伊吹童子。
先ほども言ったとおり萃香の父親で、紫の知り合いで、旧都に住まう鬼達の中で最も位が高く、地霊殿の者達と共にこの旧都と旧地獄を守っている鬼だという。
紫が童子の紹介を終えると、霊夢達は童子に自己紹介をし、その自己紹介が全て終わった直後、紫は霊夢に言った。
「この人こそが、私の言った八俣遠呂智の真相を知る人よ」
さとりが続いた。
「えぇ。霊夢、貴方の目的の人物です」
霊夢は少し驚いた様子で童子を見た。
「え、貴方が八俣遠呂智の伝説の真相を知る人?」
童子は尋ねてきた霊夢の目を見た。
「何故それを知っている?」
「諸事情あってね。でも本当の話なのかどうかわからないから、詳しい事も含めて教えてほしいの」
霊夢が言うと、魔理沙が不思議そうな表情を浮かべた。
「霊夢?なんだその八俣遠呂智の伝説って」
早苗が続いた。
「私も気になります。なんでしょうかそれは」
文が興味津々な様子で続いた。
「なんですかなんですか?新聞のネタになりそうな話ですか?」
霊夢に声をかけた者達を見て、童子は眉を寄せた。
「……人が多すぎる。ここでは話せぬ。私の家に来てもらおうか」
童子はそう言って、出口の方を向いた。
そして童子が歩き出そうとしたその時、霊夢は声をかけた。
「待って童子さん」
童子は振り向いた。
霊夢は童子に歩み寄った。
「貴方の抱いてるその子、返してくれないかしら。私のとこの子なの」
「そうだったのか。わかった」
童子はそう言うと、近付いてきた霊夢に懐夢を差し出した。
霊夢は眠る懐夢を受け取ったが、懐夢を抱いた際強い酒の匂いが鼻を突いて来て、霊夢は思わず顰め面をしてしまった。
どうやら、童子の酒を呑んでしまったという話は本当だったようだ。
「……帰ったら濃いお茶たっぷり飲ませないと」
霊夢は小さく呟いた後、童子に言った。
「案内して頂戴。貴方の家に」
童子は頷き、出口に向かって歩き出し、霊夢達もその後を追って出口に向かって歩き出した。
*
童子の後を追って温泉を出て、旧都の中を歩き続けて角をいくつか曲がると、旧都の民家によく似た形の大きな屋敷が見えてきた。
さとりによると、あれこそが童子の家で、萃香の実家なのだという。
童子は屋敷を見つけるとそこに向かって歩き、霊夢達もその後を追って歩き、やがて屋敷の前まで来ると止まったが、童子に入っていいと言われると、その屋敷の中へ入り込んだ。
屋敷の玄関に入った途端、むっと酒の匂いが漂ってきたが霊夢達は気にせず、童子に案内されるまま屋敷の中を歩き続けた。一方萃香は屋敷の中を歩いて、変わらぬ我が家を懐かしがっていた。
しばらく屋敷の中を歩き続いると、客間のような大きな部屋に辿り着き、童子はその部屋の中に入り
、部屋の奥の方で腰を降ろすと、霊夢達にも座るといいと声をかけてきた。霊夢達はそれに従い、ひとまず床に敷かれている畳の上に腰を降ろした。
直後、童子は霊夢に問いをかけた。
「尋ねよう。お前は何の目的を持って地底にやってきた?」
霊夢は答える。
「八俣遠呂智の伝説の真相を知るため」
「その伝説はどこで聞いた?一般的には出回っていない話のはずだが」
霊夢は横で眠る懐夢を指差した。
「私は先代の博麗の巫女から。他の人達はこの懐夢から聞いてるわ。でも、今この場にいる魔理沙、アリス、早苗、文、藍、橙、萃香は知らないと思う」
童子はほぅと言い、直後魔理沙が童子に声をかけた。
「霊夢の言うとおりだ。私達はそんな伝説なんか聞いた事もない」
霊夢の隣に座っている萃香が続くように言った。
「親父。私にも教えてくれ。どんな伝説なんだ」
童子は軽く目を閉じた後開き、答えた。
「……わかった。確かにこれからの話は伝説を知ってから聞く必要がある。教えてやろう。一般的には伝わっていない、八俣遠呂智の伝説を」
童子はそう言うと、語り始めた。
この国がまだ葦原の中つ国と言われていた頃の話だ。
この国の内の一つに、出雲国という国があり、そこの一角に八俣遠呂智という八つの首を持つ巨大な蛇の怪物が住んでいた。
八俣遠呂智は、山の中に住み、人や神を襲う事などなかったが、年に一度だけ山から下りて人里や神の住まう場所へ進行し、そこにいる神や人間を一人だけ喰らうという、特殊な習性を持っていた。
そんなある時、八俣遠呂智はあるものに目を付けた。
大山津見神の子の足名椎命と手名椎命の夫婦が産んだ八人の娘だ。八俣遠呂智はこの八人に娘に目を付けるや否、一年に一度この夫婦を襲撃し、八人の娘のうち一人を喰らうようになった。
足名椎命と手名椎命の産んだ娘は歳を重ねる毎に数を減らしていき、ついには一人だけになってしまい、八年目の八俣遠呂智が来る日が迫ると、足名椎命と手名椎命は酷く嘆いた。
「また八俣遠呂智が来る。そして最後の娘の櫛名田比売を喰ってしまう」と。
足名椎命と手名椎命は八俣遠呂智をどうにかして倒せないかと考えた。
しかし、その答えは否だった。八俣遠呂智は凄まじい力を持つ怪物だ。逆らったところで、攻撃を仕掛けたところで返り討ちにされるのは目に見えていた。
どうあがいたところで結局櫛名田比売を差し出すほかない。
悲しみに打ちひしがれた足名椎命と手名椎命は櫛名田比売を連れて川に出て、そこで泣いた。
その時だった。
足名椎命と手名椎命の元に一人の神がやってきた。
その神の名は素戔嗚といった。
素戔嗚は、大罪を犯した故に故郷である高天原を追放され、贖罪のために地上へやってきて川を上っていたところで、岸で泣く老夫婦を見つけて何事と思い、やってきたと足名椎命と手名椎命と櫛名田比売と言った。
足名椎命と手名椎命はひとまず素戔嗚に事情を話した。
「私達の間には娘が八人いたのだが、年に一度、高志から八俣遠呂智という八つの頭と八本の尾を持った巨大な怪物がやって来て娘を喰らってしまう。それを八年も続けさせられ、とうとう最後の娘の番になってしまった。そして今、八俣遠呂智の来る時期が近付いている。このままでは最後に残った末娘の櫛名田比売も食べられてしまう」と。
それを聞いた素戔嗚は答えた。
「いいであろう。我がその怪物を討ち倒して見せる。そしてその暁には、櫛名田比売と結婚させておくれ」と。
足名椎命と手名椎命は素戔嗚の言葉を信じ、櫛名田比売との結婚を条件に素戔嗚に八俣遠呂智の討伐を依頼した。
依頼を承った素戔嗚は、早速八俣遠呂智を討伐するための作戦を立てた。
そしてそれが出来上がると、足名椎命と手名椎命と櫛名田比売にそれぞれしてもらいたい事を教え、実行してもらった。
まず櫛名田比売を八俣遠呂智より隠すため、彼女を仙術で櫛に変えて自分の髪に挿した。
そして、足名椎命と手名椎命には七回絞った強い酒こと『八塩折之酒』を醸し、8つの門を作り、それぞれに酒を満たした酒桶を置くようにいった。足名椎命と手名椎命は素戔嗚を信じて実際にそれらを作り上げて見せ、準備が完了した報告を受けると素戔嗚は高天原より持ち出した剣、
『十拳剣』を研いでその切れ味を向上させ、八俣遠呂智が来るのを待った。
そして、全ての準備が完了したその日の晩、八俣遠呂智は現れた。
八俣遠呂智は素戔嗚の仕掛けた罠にまんまと引っかかり、八つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで八塩折之酒をぐびぐびと呑んだ。やがて八俣遠呂智は酔い潰れて眠ってしまい、素戔嗚はその隙に研いで威力を高めた十拳剣でズタズタに八俣遠呂智を斬って周った。
八俣遠呂智の体を斬り、尾を斬った時、鋭い金属音が鳴り響き、剣の刃が少し欠けた。
素戔嗚は何かと思い、その尾を割り裂いてみたところ、中にひとふりの剣があった。これこそが、草薙剣である。
何度か斬り続けていると、そのうち八俣遠呂智の呼吸は止まった。
素戔嗚がそれに気付くと、ズタズタになった八俣遠呂智の身体は瞬く間に霧になり、消えてしまった。
素戔嗚と櫛名田比売、足名椎命と手名椎命は八俣遠呂智の討伐に成功をした事を確認するや否、大いに喜んだ。
この後素戔嗚と櫛名田比売は約束通り結婚を果たし、素戔嗚は八俣遠呂智の尾から出てきた剣を草薙剣と名付け、高天原にいる姉である天照大神に献上した。
この剣はその後、孫のニニギに手渡され、天孫降臨の際に三種の神器として『八咫鏡』、『八尺瓊勾玉』と共に地上へ運び込まれる事になる。
「……ここまでは、お前達も知っておろう?」
童子の問いかけに一同は頷き、そのうちの早苗が言った。
「本で読んだ事があります。これがよくいう一般的な八俣遠呂智の伝説ですね」
今童子が話したのは、一般的に伝わっている八俣遠呂智の伝説で、外の世界にも、人間の里にも伝わっているものだ。これくらいならば、誰でも知っている。
しかし、霊夢が聞きたいのはこれではなく、母と懐夢が教えてくれたもう一つの伝説だ。
「それで童子さん、続きは?」
霊夢の声を受けて、童子は頷いた。
「あるとも。ごく一部の者しか知らぬ続きが」
童子は再び語り出した。
八俣遠呂智は素戔嗚に退治され、消滅したかに思えた。
しかし八俣遠呂智はその時消滅したのではなく、妖力の霧となって蒸散したのだ。
これは別に不思議な事ではない。八俣遠呂智ほどの力を持つ妖怪ならば、自分の生命に絶対的な危機が生じた時、身体を妖力に変換して蒸散してその場を凌ぎ、霧となって飛び、良いところを見つけて、その場所に存在する妖力を補給しながら長い時間をかけて身体を再構築し、復活する事が出来る。
八俣遠呂智はこの方法を取り、素戔嗚達から逃れて葦原の中つ国を霧となって飛び、良いところを見つけると再生を始めた。
八俣遠呂智は復活に千年を要した。国中に存在していた妖力が、いつの間にか非常に弱く、薄くなってしまっていたからだ。その場所に存在する妖力を集めたところで、八俣遠呂智は自身の身体を完全に再生させる事は出来なかった。
八俣遠呂智は仕方なく、いつの間にか文明を作れるほど増えていた人間の姿で復活する事を決め、再構築の際人間を形作り、人間の姿となって復活を遂げた。しかし、その復活もまた不完全なもので、数年程度しか形を成していられず、その年を過ぎると再び妖力となって蒸散してしまうようになっていた。
八俣遠呂智はその事実を知るや否、少しでも今の世の中の状態を知っておこうと思い、人間になりすまして人間社会に入り込んだ。目が少しぎらついていて、酒が好きな普通の人間の男として。
その際、人間として不完全な復活を遂げた八俣遠呂智に恋をした一人の女がいた。
八俣遠呂智は女を受け入れ、女と結婚をすると、子を設けた。
やがて生まれた子供を見て、女は酷く驚いた。生まれた子供は、赤子とは思えぬほどの知能と頭のキレと身体能力を備えていたからだ。
しかし女はそれを大して気にはせず、大切に夫と共にその子供を育てた。
「この子はきっと特別な子供であるに違いない。天が我らに授けてくれた子に違いない」と思って。
だが、数年後、そんな女でも異常を感じざるを得ない事態が起きた。
子供の頭の左右から、二本の捻じれた角が生えてきたのだ。それはまさに伝承に聞く『鬼』であった。
女はどうしてこんな事になってしまったのかと戸惑い、夫である八俣遠呂智に尋ねようとした。
しかし、もうその時には女の傍に夫の姿はなかった。夫である八俣遠呂智の身体は限界を迎えて、再び妖力となって蒸散してしまったのだ。
女はいつの間にかいなくなってしまった夫がいなくなった事を嘆いたが、立ち直り、子を夫の形見と思って引き続き育て上げた。
夫との間に設けた子供が青年になると、女は重い病を患い、青年を残してそのまま死んでしまった。
残された青年は、家の近くの人間達から忌まれ、恐れられた。遠出して都会や街に出てみれば、役人や武人から攻撃を受けた。もう人間の中に、青年を人間として認識できる者は居なかった。……人間達の暮らす世界に青年の居場所はなかったのだ。
青年は家にあった道具を粗方持ち出し、荷物をまとめると家族と過ごした家を出て、人々から鬼が住むと言われて恐れられ、忌まれている山、『伊吹山』に移り住んだ。
青年は伊吹山に来て、驚いた。
伊吹山には村があり、そこに自分と同じ鬼達が沢山住んでいたからだ。
青年は鬼達の存在に歓喜し、話そうと思い、村の中に入り込んだ。
しかし、鬼達はやってきた青年を快く受けて入れはしなかった。
鬼達は青年を見るや否、力任せに襲いかかった。まるで縄張りを荒らしに来た者を排除しようとするかのように。
だが、鬼達が青年に勝つ事はなかった。青年に襲いかかった鬼達は一人残らず返り討ちにされてしまい、鬼達はやがて青年に降参。ようやく鬼達が話を聞いてくれるようになると、青年は鬼達に自らの事情を全て話した。
青年の事情を聴いた鬼達は青年を快く受け入れ、自分達を一人残らず倒して見せた青年を鬼の頭領にすることを決め、青年はそれを受け入れて鬼達と共に伊吹山で暮らし始めた。
しかしその暮らしはある時突然崩されることになる。
明治時代初期に起きた科学の発展により、人々は科学を信じるようになり、妖怪や鬼や神を信じなくなった。
人々の信仰によって存在を保っていられた妖怪達は、瞬く間に消えて行った。
そしてその消滅の危機は、伊吹山の鬼達の元にも迫った。
しかし頭領の青年にはどうしたらいいのか全く分からなかった。いかなる方法を思い付いても、全然に役に立たず、仲間の数は日に日に減っていく。
青年は絶望した。そして、自分も仲間達と共に消えてしまうのかと恐れた。
その時だった。伊吹山よりかなり離れた山に住んでいた金髪で一本角の鬼が頭領の青年の元を訪れ、
ある場所の存在を伝えてきた。
「永遠に鬼として暮らしていける場所がある。そこにいけば人々から忘れ去られても今まで通り暮らしていける。そして自分ならばそこまで案内する事ができる」と。
選択の余地が残されていなかった青年は、その一本角の鬼を信じ、伊吹山の鬼達に声をかけて回った。
そして、伊吹山の鬼達を全て引き連れると、青年は一本角の鬼にその場所へ案内するよう頼んだ。
鬼は青年の頼みを承り、その場所を目指して進み出した。
伊吹山の鬼達もその鬼を追って伊吹山を出て、進んだ。消滅の苦しみに耐え凌ぎながら。
そうしているうちに、鬼達はその鬼の言っていた場所に辿り着いた。
そこは、沢山の山々に囲まれたとてつもなく広大な盆地だった。
鬼達はそこに着いた途端、大きく驚いた。先程まで感じていた消滅の苦しみが、完全に消え去っているのだ。
青年は消滅の苦しみと恐怖から解放された事に狂喜し、案内をしてくれた鬼に感謝すると、鬼達と共に早速山に住居を作り、小さな村を作り上げ、生活を始めた。今までと変わりない、穏やかで楽しい生活を。
しかしその後、鬼達の生活がひっくり返るような出来事が起きた。
その村に、消滅から逃れようとやって来た妖怪達が雪崩のように押し寄せてきたのだ。
青年は村の創立者としてその妖怪達を受け入れ、妖怪達の居住を許した。妖怪達は先住の鬼達と共同生活を始めた。、
初めは小さかった村もやって来た妖怪達の手によってどんどんその規模を増し、やがて山そのものが一つの村といえるほどの規模となった。
数か月後、妖怪だけではなく妖精や神も次から次へと雪崩れ込むようにこの地へ集まり、やがてこの広大な盆地には外界からの介入を完全に遮断する結界、『博麗大結界』が施され、結界に覆われて外界から隔離されたこの地には『幻想郷』という名が付けられ、鬼達の住まう山には『妖怪の山』という名が付けられた。
幻想郷は後に人間、妖怪、妖魔、妖精、神などが共に暮らす事が出来る『世界』とされ、鬼達と妖怪達はその民の一つとなり、今まで通り平和に暮らした。
そんなある時、幻想郷の民達の生活が脅かされる出来事が起きた。
幻想郷に白い鱗に身を包む、八本の首と八つの力を持つ巨大な蛇に似た魔神が、突如として出現した。
幻想郷の民達が魔神の出現に混乱する最中、魔神は天に向かって吼え、奇妙な力と波動を発した。
その直後、妖怪達に異変が起きた。今まで大人しかった妖怪達が突如凶暴になり、山の麓に住まう人間達に喰らいかかったのだ。その後、奇妙な力と波動を放った魔神は自身から数百もの竜や蛇に似た妖怪を生み出し、幻想郷中へ放った。
生み出された竜や蛇に似た妖怪は血に狂う妖怪と共に人間へ襲いかかり、村や町を蹂躙し、見る見るうちに幻想郷を血みどろの沼地へ変えていった。幻想郷は瞬く間にその魔神の手に落ちて行った。
仲間達が血に狂い、竜と蛇が空を舞い、人間が蹂躙され、幻想郷が血塗れになっていく中、一人狂わなかった鬼の頭領の青年は、仲間を狂わせて人間を襲い、平和な日々を引き裂いた魔神に激怒したが、同時にその魔神の放つ力の性質を感じ取って驚いた。魔神から感じた力の性質は、自分を産んで育ててくれた父の持つ力の性質と完全に同じものであったからだ。
青年は悟った。あの魔神こそが自分を産んだ父であると。
そしてあの魔神の姿と行いこそが父の本性なのであると。
青年は魔神を父と思うのをやめ、激しい怒りを抱き、幻想郷を狂わせて手中に落とした魔神に挑もうとした。
しかしその時、青年の元に『博麗の巫女』と呼ばれる幻想郷の平安を守る少女と五人の妖怪の大賢者がやってきた。
妖怪の大賢者とは、数々の妖怪の中でずば抜けて力が強く知能が高い妖怪がなれるもので、博麗の巫女共に幻想郷を様々な問題や異変や脅威から守る存在だ。青年の元にやって来た五人は、この幻想郷が誕生する際、博麗の巫女によって大賢者に選ばれた妖怪達だった。
大賢者と博麗の巫女は来て早々青年に頼み込んだ。
「自分達はあの復活した魔神、八俣遠呂智を倒そうと考えている。数々の鬼と妖怪の頭領を務め、八俣遠呂智に激しい怒りを抱くと聞く貴方の力を、是非自分達に貸してもらいたい」と。
青年はこの誘いに乗った。それほどまでに、青年の中の『八俣遠呂智』への怒りは大きかった。
大賢者と博麗の巫女は青年を受け入れると、青年に八俣遠呂智の事を話した。
八俣遠呂智は遥か昔、素戔嗚に倒された後妖力となって蒸散。
長い年月をかけて人間として復活を遂げたが、すぐにまた妖力となって蒸散。その後この幻想郷の起源の地へ飛んできてそこで長い年月をかけて完全な復活を果たし、更に幻想郷の起源の地に存在する特殊な力を取り込んで進化を遂げ、大妖怪から魔神へ変化を遂げた。
更に、進化した八俣遠呂智はその力と波動を全身から放つ事により、波動と力に触れた妖怪を凶暴化させて手中に落とす力と、竜や蛇に似た妖怪を無限に生み出して放つ力を得ており、幻想郷中の妖怪の暴走と未確認妖怪の出現は八俣遠呂智の力の解放によるものと断定された。
そして、今の八俣遠呂智の目的は幻想郷の制圧と支配、外界への侵攻であるとも断定された。
それがわかると、幻想郷の支配と制圧を許すまいと生き残った人間と妖怪と大賢者達の手によって八俣遠呂智への攻撃が行われたが、どの攻撃も八俣遠呂智には通じず、返り討ちにあってしまった。
もはやお手上げ状態であると、大賢者達は悔しそうに話した。
青年はそれを聞いて悔しがり、大賢者達も眉を寄せたが、その時博麗の巫女が一つの提案を立てた。
「自分の持つ調伏の力を撃ち込んだ時、八俣遠呂智は苦しんだ。八俣遠呂智の唯一の弱点は自分の持つ調伏の力なのかもしれない。自分を中心とした作戦を立てれば、八俣遠呂智を倒す事が出来るかもしれない」と。
それを聞いた大賢者達は、博麗の巫女の提案に乗り、周りの鬼達よりも頭のキレる青年を加わえて作戦を立てた。
しかし、その作戦はあまりに無謀であった。実力が高く、攻撃が通じるにしても、博麗の巫女はたった一人だけ。もし博麗の巫女が殺されてしまえば、もう誰も八俣遠呂智には勝てなくなる。残った賢者達も殺されるか、暴走させられて幻想郷と共に八俣遠呂智の手中へ落ちるかのどちらかだ。もはや、作戦というよりも博打打だった。
希望は絶たれてしまったかと思われた。
しかし、その時博麗の巫女の元に一本の剣が外界より持ち込まれてきた。
それは八俣遠呂智の身体より出てきて、後に天照大神の元に献上された、刀身に魔を払う強い霊気と神通力を宿す神剣、草薙剣だった。
それを見た大賢者達は閃いた。草薙剣は八俣遠呂智の体から出てきたもの、つまり八俣遠呂智の弱点なのではないかと。
大賢者達は草薙剣の可能性に賭け、博麗の巫女にそれを握らせた。
直後、草薙剣の形は瞬く間に光を帯びて変わり、新緑色の刀身の両刃の剣になった。
大賢者達がそれに驚く最中、博麗の巫女は凄まじい力が身体に漲るのを感じ、試しに幻想郷を飛ぶ八俣遠呂智の生み出した妖怪達を草薙剣で叩き斬った。妖怪達は草薙剣の刃を受けると、光となって絶命した。―――草薙剣もまた、進化していた。
それを見た大賢者達はこれならば八俣遠呂智に勝てると思い、強い実力を持つ博麗の巫女、進化した草薙剣を持って八俣遠呂智へ反乱の狼煙を上げた。
博麗の巫女はまるで今まで散っていった人間達、操られている妖怪達の無念や恨みを晴らすように草薙剣を振るった。様々な攻撃を跳ね返してきた八俣遠呂智の白銀の鱗は草薙の剣を受けて砕け、その首はすぱっと切れて落ちた。
博麗の巫女は草薙剣が通じる事を理解すると、暴風のような攻撃を舞を舞うように八俣遠呂智へ仕掛けた。博麗の巫女の放つ剣舞に八俣遠呂智の首は次々地面へ轟音と経てて落ち、鱗は砕けて雪のように宙を舞った。
やがて八俣遠呂智はかつて素戔嗚に倒された時のようにズタズタになって倒れ、その生命活動を停止させた。
博麗の巫女は八俣遠呂智の生命活動が停止し、力が大きく弱体化したのを確認すると術を発動させ、八俣遠呂智が復活してしまわぬよう、その身体と妖力を草薙剣を用いて固く封印した。
それが完了するのを見届けた大賢者達と生き残った人間達は歓声を上げ、八俣遠呂智によって操られていた妖怪達は自我を取り戻した。幻想郷は、かつての穏やかさと静けさを取り戻した。
八俣遠呂智の撃破、封印は見事に成功。幻想郷を揺るがせた戦いは、幻想郷の民達の勝利に終わった。
これこそが、一般的には伝えられておらず、一部の者だけが知る八俣遠呂智の伝説の続きである。
「……以上だ」
童子が口を閉じても霊夢達は呆然とした表情を浮かべたままだった。
とくに霊夢は口を数回パクパクとさせて、呆然と童子を見ていた。
童子の口から話された伝説は、母や懐夢から聞いた話よりも、細かく、詳しいものだった。
そしてそれらは全て嘘ではないとわかった。語っている時の童子の瞳は真剣そのものだったし、第一鬼は嘘を吐かぬ種族だ。童子の話した伝説は、全て実際にあった事に違いない。
霊夢は童子に問いをかけた。
「……ねぇ童子さん。貴方の言う八俣遠呂智の産んだ鬼の子って……」
童子は目を閉じた。
「……私だ。私は八俣遠呂智を父に生まれ、育ち、酒呑童子と名乗って鬼の頭領と幻想郷の大賢者を務めている。私こそが八俣遠呂智の存在を証明する存在だ。まぁもっとも、あんな魔神を父などとは思っていないがな」
童子は目を開けて萃香を見た。
「お前もだ萃香。お前も、八俣遠呂智の事を祖父と思う必要はない。お前の家族は、私と我が妻だけだ」
普段は活発な萃香も、黙って頷いた。
その後、早苗が童子に尋ねた。
「あの……貴方の言っていた博麗の巫女とはどんな方だったのですか?」
童子は早苗を見たが、答えは紫が言った。
「それは私が答えるわ」
紫は立ち上がり、童子の隣に座ると一同を見た。
「……彼女の事は語る事を禁じられている」
アリスが紫を見て尋ねる。
「それは何故かしら」
紫は目を閉じた。
「彼女はあの後大罪を犯したのよ。そして、私達の手によって封印された」
一同は驚きの声を上げ、魔理沙が言った。
「マジかよ!どんな大罪を犯したんだ?そいつの名前は?」
紫は俯いた。
「……教える事は出来ないわ。禁じられているから」
魔理沙は引き下がった。
その後、萃香が童子に尋ねた。
「なぁ親父。親父の話が本当ならさ、八俣遠呂智はこの幻想郷のどこかで封印されてるって事なんだよな?」
童子は頷いた。
「……そうだ。八俣遠呂智は我ら大賢者しか知らぬ場所に封印されている」
紫が続いた。
「もし八俣遠呂智の封印が解けようものならば、また八俣遠呂智との戦争になるわ」
紫は一同を見た。
「そうなったとき、貴方達の中で何人血に狂わずにいられる人がいるかしらね」
紫の言葉を聞いて、一同は悪寒を感じた。
*
霊夢は早苗、魔理沙、アリス、文、霖之助を連れ、懐夢を抱いて地上へ戻れる洞窟の中を歩いていた。
目的である八俣遠呂智の伝説を知る者、童子にも会えたし、温泉にも入った。もう地底にいる意味などないから、博麗神社へ帰る事にしたのだ。
旧都へやって来た時にいた他の者達は旧都に残っていたり、もう既に帰っていたりと様々で、中でも先程まで一緒にいた萃香は、せっかく家に帰ってきたのだから親父や勇儀や他の鬼達と宴会やってから帰ると言って、紫はさとりや童子に近況を聞いてから帰ると言って、旧都に残った。
一方魔理沙達は地底には温泉以外での予定が無いと言って帰宅しようとする霊夢に付いて来ている。
その中、霖之助が顎に手を当てて軽く上を見ながら呟いた。
「……八俣遠呂智かぁ。伝説上の妖怪だと思っていたけれど、まさか実在していて、かつてこの幻想郷を手中に落とそうとしていたなんて思いもよらなかったよ」
魔理沙が続く。
「そして博麗の巫女に封印されたっていうのも思いもよらなかったぜ。やっぱ博麗の巫女は昔から凄かったんだな!」
アリスが少し険しい顔をして魔理沙を見た。
「でもその巫女後々大罪犯して賢者達に封印されたんでしょ。その辺り聞くとあまりいい人ではなかったって気がしてくるわ」
文がしょんぼりとした表情を浮かべる。
「その巫女の話、もっとよく聞きたかったのに、語る事を禁じられてるとか言って名前すらも教えてくれませんでしたしねぇ……まぁ八俣遠呂智の伝説のメモが取れただけよかったのですが」
「八俣遠呂智を封印した後、封印された博麗の巫女……」
霊夢が呟いたその時、早苗が立ち止った。
「あの、それおかしくないですか?」
早苗以外の一同は立ち止まって振り向き、早苗に視線を向けると、霊夢が早苗に尋ねた。
「おかしいって、何が?」
早苗は答える。
「だって、この幻想郷では大賢者達が関わるほどの罪を犯した人は、大賢者達によって抹殺されるんでしょう?なら何でその時大賢者達は博麗の巫女を"殺さず"、"封印"したのでしょうか」
早苗の言い分を聞いて、一同は「あぁ……」と言い、そのうち文が言った。
「確かに。なんでわざわざ封印したのでしょう。もしその大罪が幻想郷の存続とかに関わるような事ならば、抹殺して消してしまえばいいのに……」
文の言い分を聞いて、霊夢は考えた。
確かにそれほどの大罪を犯せば、大賢者達はすぐにでも抹殺にかかるだろう。情などかけず、無慈悲に罪を犯した者を殺して地獄送りにでもするだろう。
しかしそれをせず、封印したという事は、何かしらの理由があってその巫女を殺せなかったという事だ。その理由が一体何なのかまではわからないが、もしかしたら……
「……その巫女が強すぎたから、じゃないかしら」
一同の注目が霊夢に集まり、一同は首を傾げた。
一同の注目を浴びる中で霊夢は再度口を開いた。
その巫女は、大賢者でも倒せなかった八俣遠呂智を倒し、封印した。
もうこの時点で巫女の強さは大賢者を超えている。
そして巫女が大罪を犯した時、大賢者は巫女を殺そうとしたが巫女に勝つ事が出来ず、封印する事で難を逃れたのではないのだろうか。と、霊夢は言った。
それを聞いた一同は納得したような表情を浮かべ、魔理沙が言った。
「確かにそれはあり得るかもしれないな。八俣遠呂智は大賢者達でも勝てなかった相手だ。それに勝てた巫女の実力と強さは、大賢者以上に違いないな」
早苗が少し悲しげな表情を浮かべる。
「そんな人が大罪を犯してしまうなんて……何があったんでしょうか」
霊夢は答える。
「紫も童子さんも黙ってるって事は、私達が知ってしまったら都合が悪いか、または私達が知ってはいけないような話なんでしょうね」
アリスが一同を見て言った。
「そんなところでしょうね。さぁ、立ち話してないでさっさと帰りましょう」
アリスの言葉に一同は頷き、薄暗い洞窟の地上へ続く道を歩いた。
オリキャラ情報はまた今度。