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東方幻双夢  作者: クシャルト
邂逅編 第参章 大賢者
19/151

第十九話

更新再開します。

 霊夢とアリスは魔理沙と未確認の妖怪を追って森の中を駆けていた。

 あの竜がどれほどの力を持っているかわからないが、恐らくこの前戦ったあの三つ首の竜と同タイプの竜だろう。

 三つ首の竜は三人で相手にして、ようやく勝てたような相手だ。もしもあの七つ首の竜がそれの上位版なのだとすれば、魔理沙一人に戦わせるのは危険すぎる。

 どうにか早く魔理沙に追いつき、参戦してやらねば。


「ねぇ霊夢、あの竜の事、何かわかる?私、あんなの見た事ないのだけれど」


 途中、以前の竜の事を知らないアリスが話しかけてきた。

 霊夢は、あの竜の事と、以前の竜の事をアリスに全て話した。

 アリスは少し驚いた様子で話を聞いていた。


「三つ首の竜?そんなのが前にいたの?」


 霊夢は頷いた。


「ある山の中に現れて、周りの動物妖怪全てを追い出して山の主を牛耳っていたそうよ。まぁ何とかして倒してやったけれどね。ただ……」


「ただ?」


「今まで現れた記録が無くて、尚且つどこから現れたのかわからないのよ」


 だから、あれらは未確認妖怪(・・・・・)なのだ。

 今までこの幻想郷に出現した記録が無く、尚且つ、いつ、どこから現れたのか全く解明されていない。

 普通妖怪はいつ、どこからやってきて、どこから現れたのかすぐに判明するものだが、あの妖怪達はそういうのが全くと言っていいほどない。

 ―――前触れもなく突然現れて、突然街を襲ったり、突然の山を焼いたり、突然住んでいた動物達を殺しつくし、追い出す。しかも、討伐が一筋縄ではいかないほど凶暴で、強い。

放っておけばいくらでも被害を出す。現状、リグルの住む森が焼かれてしまい、沢山の虫や動物達が死に絶えた。

 勝てる見込みがあるのかと言われると、答え辛いところだが、これ以上の被害が出る前に、何としてでもあの竜は討伐しなければならない。

 

 その時、遠くの方から爆発音と、発射音が聞こえてきた。

 その内の発射音は、一度聞けばほぼ確実に耳に残る魔理沙の放つレーザーの独特の発射音によく似ていた。―――間違いない、この先で魔理沙があの竜と戦っている!

 霊夢はアリスに声をかけると、音の聞こえる方向へ急いだ。

 幾多の木々の間を抜けていると、切り株だらけになってきて、地面にいくつもの倒木が転がっているのが見えてきた。

 同時に、あの竜の足跡とあの竜に踏まれて折られた数々の大木も。

 それらを見ながら飛び続けると、とうとう、あの竜の姿が見えてきた。

 竜は木々の間にある広場にいた。

 そこで、何度も爆炎を吐きながら魔理沙と戦っていた。

 一方魔理沙も、七本もの竜の首に翻弄されながらも、自分のスペルカードを何度も繰り出して戦っていた。


「魔理沙ッ!」


 アリスの声に魔理沙は反応を示し、竜の首に自作の閃光弾を当てて竜の目を眩ませて、霊夢とアリスの元へ駆けつけてきた。

 身体の至る所に火傷を負っており、皮膚が焼け爛れてしまっていた。

 アリスは焦って、魔理沙に声をかけた。


「魔理沙、貴方その傷……!」


 魔理沙は頭を掻きながら苦笑いした。


「あいつ、容赦なく火を吐くもんだから、服も肌も焼けちまって最悪だぜ。あぁ、いてぇ」


「「いてぇ」じゃないわよ「いてぇ」じゃ!とにかくあいつの目が眩んでいる間に治療しないと」


 魔理沙の火傷を治そうと、アリスが魔法を使い姿勢を取ったその時、霊夢が横から割り込んだ。


「悪いけど、それだと時間がかかるわ。私に任せて頂戴」


 霊夢は懐から五枚ほど札を取り出すと、魔理沙の火傷の患部に次々貼り付けた。

 魔理沙は傷を触られる痛みに思わず声を出してしまったが、なんとか耐え、その様子をアリスは不思議そうな表情を浮かべて見た。

 そして、全ての札を張り終えると霊夢は右手を胸の前に持ってきて人差し指と中指を立てた。


「……活ッ」


 霊夢が一言呟くと、魔理沙の火傷に張り付けられた札が光となり、火傷の患部へ吸い込まれた。

 その途端、火傷は見る見るうちに消えてなくなった。

 その様子を最初から最後まで見ていたアリスは、思わず声を出した。


「わぉ」


 今使ったのは、博麗の巫女が持つ治癒術の一つだ。

 対象の傷に札を張り付け、霊力を流し込み、相手の傷を治癒する。

 アリスの使う治癒術よりも効果は低いものの、時間をかけずに発動できるという特徴がある。

 何回か、魔理沙や怪我をした懐夢にやってやった事のある術でもある。


「あまり大きな火傷を負わないでね。そこまでやられたら発動に時間かかる強い術かける必要出てくるから」


「お前もな。下手すればアリスの世話になる事になるぜ」


 霊夢は鼻でフッと笑った。


「ならないようにはするわ」


 その時、アリスが気付いた。

 全ての首の眼孔がこちらを向いて攻撃の機会をうかがっている。

 魔理沙の行った目眩ましから立ち直ったようだ。


「来るわよ!」


 アリスの一言に、霊夢と魔理沙も竜の復帰に気付き、散らばるように飛んだ。

 竜の首はそれぞれ二本ずつ三人の方を向いた。

 それを見た霊夢はふと思った。


(首が二本……)


 どうやらこの竜は、二本の首で、三人を相手にしようという魂胆らしい。

 この前の三つ首の竜と戦った時とほとんど同じ状況だ。

 しかし、その時よりも相手にする首の数が増えている。

 この竜の強さがどれほどなのかわからないが、もしあの時の竜よりも強いならば、一本相手にするだけでも苦戦を強いられる首がもう一本増えている事になる。

 二本の首を一編に相手にするのは危険だろう。

 どうにかして、分断せねば。


(でもどうやって……)


 竜と戦闘を行うのは自分と魔理沙とアリスの三人だ。もう一人、早苗が居たが、早苗は慧音を呼びに行っていて、今この場にはいないし、戻ってきても一緒に戦ってくれるという保証はない。

 結果的に、この竜と戦えるのは自分達だけだ。

 かなり不利な状況かもしれないが、何度も思ったようにこの竜を放っておくわけにはいかない。

 何としてでもここで食い止めねば。


「霊夢、アリス、気を付けろ!こいつの攻撃力は、かなりやばいぞ!」


 魔理沙がレーザーで竜の首を焼きながら伝えてきた。

 それを見て、霊夢とアリスは驚いた。

 魔理沙のレーザー攻撃に竜の首はびくともしていない。

 そればかりか、レーザー攻撃を浴びながらも魔理沙に平然と攻撃を繰り出している。

 魔理沙は素早い動きで翻弄してやろうと回避行動をとりながら攻撃しているが、別方向から見れば魔理沙が攻撃してくる竜の首に翻弄されているようにも見えなくない。

それを見たアリスは呟いた。


「なるほど、耐久力もかなりあるみたいね」


 首だけであの耐久力だ。

 大元である身体の耐久力はもっと高いかもしれない。

 これは骨が折れそうだとアリスは思うと、スペルカードを発動させた。


「咒符「上海人形」!!」


 アリスが手元に一体の人形を出現させると、人形は竜の首のうち一本に向けて極太のレーザーを放った。

 レーザーは竜の首を思い切り後退させたが、致命傷を負わせるには至らなかったらしく、二本の竜の首はアリスのレーザーが止まったその直後に口から火炎弾をアリスへ向けて発射した。

 アリスは竜の首を見ていたので、竜の口から火炎弾が飛んできたのをすぐさま把握し、さっと回避した。

 火炎弾はそのまま真っ直ぐ飛び、近くの大木に着弾すると大爆発を引き起こした。

 爆発に飲み込まれた大木は大部分が吹き飛び、残った部分は燃えて焼け爛れながら崩壊し、地面へ倒れた。

 それを見たアリスは思わず唾を飲んだ。


(な、なんて威力なの……!)


 竜の吐く火炎弾の威力は想定を遥かに越えていた。

 もしも、あんなものの直撃をもらったならば、一溜りもない。

 しかもその火炎弾をあの竜は二本の首から吐き出してくる。

 たった一回喰らっただけでも一溜りも無さそうなのに、あれを連続で二回も喰らおうものならば……

 いや、ならば方法はただ一つだけ。

 やられる前に、やる。

 アリスは再度スペルカードを発動させた。


「その首、叩き斬ってやるわ!戦符「リトルレギオン」!!」


 アリスの宣言の後、目の前に剣を持った六体の人形が出現。人形達は現れるなりその場で回転を始め、そのまま竜の首へ突撃。竜の首に連続回転斬りをお見舞いした。

 しかし、竜の首を包む鱗の強度はアリスの人形の持つ剣の切れ味に勝り、飛んできた人形達の持つ剣を次々と弾き返し、全ての剣を弾くと、首を大きく振り回し、アリスの人形達を弾き飛ばした。

 アリスは驚いて目を丸くした。


「嘘ッ……リトルレギオンまで効かないなんて……!」


 アリスは今の映像を見てはっきりと自覚した。

 火力が、火力が足りていない。

 自分の持つスペルカードの火力に、あの竜の耐久力が勝っている。

 今まで自分の魔法は、魔理沙のものよりも劣るとは思えど相当な火力を持っていると思っていたし、その魔法を持って様々な妖怪や人間達と決闘して、勝利を掴んできた。

 しかし、この竜には幾多の妖怪や人間達を倒してきた魔法が、全くと言っていいほど通用していない。

 この竜は、普通の妖怪ならば早々ありえない、魔法にも耐えうる耐久力を持っている。


「何なのよ……こいつ……!」



         *



 一方霊夢も他の二人と同じように竜の首に向けて攻撃を続けていた。

 しかし、どんなに攻撃を加えても竜の首は全く動じず、高火力の火炎弾を次々休みなく放ってくる。

 火炎弾を吐かれるたび、それの回避に専念しなければならないため、もはや攻撃をしている時間よりも、回避をしている時間の方が長い始末だ。

 この辺りは、どこか幻想郷の猛者達のスペルカードルールでの決闘に似ていた。……危機感は比にならなかったが。


(何なのよこの竜……この前の奴よりもかなり強い……!?)


 姿かたちこそこの前の竜によく似ているが、強さと首の数は全く異なっている。

 先程から札や封魔針で攻撃をしているというのに、竜は全くと言っていいほど弱っていないし、動じてもいないし、当たり所によっては札や封魔針が弾かれてしまっている。

 明らかに、数発撃ちこんでうろたえたこの前の竜よりも強い。

 この前の竜の時はスペルカードを撃ち込む事によって倒せたが、今回は通常攻撃すらも弾き返してくる。

 スペルカードを撃ち込んだところで、通用するかも怪しいところだ。


(スペルカードも効くかどうか……でも、やらなきゃ!)


 霊夢はスペルカードを取り出すと、その名を宣言した。


「霊符「夢想封印」!!」


 霊夢が両手を突き出すと、両掌に光が集い、やがて七色の輝きを放つ光弾となって竜の首に空を裂いて飛び、着弾した。

 その時、霊夢は驚いた。

 今までどんな攻撃にも動じなかった竜の首が、「夢想封印」を受けて傷付き、苦悶の声を上げたからだ。

 ……攻撃が、スペルカードが、効いた。


「効いた……!?」


 霊夢は竜の首が怯んだ隙に、隣の方で戦っている魔理沙とアリスを見た。


「魔符「スターダストレヴァリエ」!!」


「偵符「シーカードールズ」!!」


 二人は自分と同じようにスペルカードを繰り出した。

 魔理沙は星屑の形をした光を纏っての突進を、アリスは六体の人形の放つレーザーによる集中砲火を竜の首に浴びせた。

 竜の首は大きく仰け反りはしたものの、霊夢の時とは違い、苦悶の声を上げなかった。

 そればかりか、すぐに体勢を立て直して二人に火炎弾による反撃を繰り出していた。

 ―――効いていない。あの二人のスペルカードは、この竜には効いていない。

 では何故、自分のスペルカードは効いたのだろうか。

 もしかして、自分のスペルカードにはこいつに効く、こいつが嫌う何かがあるのだろうか。

だとしたら、それは一体何だというのだろう。


「ッ!おい霊夢!」


「えっ」


 魔理沙の声が耳に届いた次の瞬間、霊夢の身体に強い衝撃が走った。

 ―――竜の首だ。魔理沙とアリスの戦況を見るのに夢中になっていて、竜の首が突進してきた事に気付けなかった。先程までの自分は、龍の首から見ればいい的だったのだろう。

 全身の肉が波打ち、骨が大きな音に当てられたかのように揺れたような錯覚を覚えた。

 そして、その錯覚さえも起こす衝撃は自分の意志とは無関係に身体を動かし、かなり速度で森の奥へと飛ばした。

 その後、背中に強い衝撃が走って全身が揺さぶられた。

 どうやら、大木に衝突したらしい。

 霊夢の意識は一気に弱くなり、身体は脆く地面へ倒れた。


 魔理沙とアリスはその物音に驚き、霊夢の方を見た。

 霊夢が、竜の攻撃をまともに受けた。

 しかもその竜の首の方を見てみれば、竜の首は倒れた霊夢に向かって火炎弾を吐こうと口の中に炎を燃え盛らせている。

 霊夢に止めを刺すつもりだ。


「させるかぁッ!!恋符「マスタースパーク」!!」


「させないわッ!!咒符「上海人形」!!」


 魔理沙とアリスは再びスペルカードを発動させ、霊夢を狙う竜の首に向けてレーザー放射を行った。

 鋼鉄のような強度を持つ竜の首は傷こそつかなかったものの、二人のレーザー放射の出力の強さに押された竜の首は向きを霊夢とは違う方向へ逸らし、火炎弾を吐き出した。

 火炎弾は真っ直ぐ飛び、草地へ着弾、四散した。


 なんとか、霊夢への直撃を防ぐ事が出来た。

 しかし、今の攻撃はあくまで竜の攻撃を逸らした(・・・・)だけであり、竜にダメージを与えた(・・・・・・・・・)わけではない。

 その証拠に、竜は攻撃を邪魔された事に怒り、魔理沙とアリスに怒りをぶつけようとしていた。


 そしてそれに魔理沙とアリスが気付いた瞬間、竜の首は怒りを二人へ叩き付けた。

 竜の首の繰り出した攻撃は突進だった。しかし、その威力は二人の身体をまるで風の前に置かれた塵のように吹き飛ばし、宙へ叩き上げた。

 次の瞬間、竜は鈍重な動きに反する速さでその大きな体を振り回し、身体と同じように回った尻尾を宙を舞う二人に叩き付けた。二人はまるで投げられた球のように森の中に吹っ飛ばされ、やがて大木に激突。力なく地面へ倒れた。


 霊夢はその物音を聞いて、上半身を起こして二人の方を見た。

 二人は、自分と同じように大木へ激突し、地面へ倒れ込んだようだ。

 様子を見るに、気を失っているようではなさそうだが、相当なダメージを受けて起き上がれなくなっているらしい。


「二人共ッ……!!」


 更によく見てみれば、竜が、止めを刺してやろうと言わんばかりに二人に向けて火炎弾を吐き出そうと口の中を燃やしていた。

 拙い。今あれを喰らおうもならば、二人とも確実に殺されてしまう。

 それだけは、ごめんだ。

 霊夢は痛む身体を無理矢理動かし、懐から数枚の札を取り出すと、身体の最も痛む部分に貼り付けた。

 そして、打撲で痛む右手の人差し指と中指を立て、胸の前に持ってきて、叫んだ。


「活ッ!!」


 その瞬間、自らの身体に貼り付けた札は光となって身体に吸い込まれ、全身を覆うようだった痛みは瞬く間に和らいだが、応急処置程度の術なので、若干の痛みは残った。けれども、身体は完全に言う事を聞くようになり、元通り動くようになってくれた。

 今ならば、まだ間に合う。

 二人を、助けれる!


「そりゃぁッ!!」


 霊夢は再度懐から札を取り出すと、倒れる二人の元へ投げ付けた。

 それとほぼ同時に竜は火炎弾を二人に向けて放った。

 火炎弾が二人に迫ろうとしたその時、霊夢の投げた札が二人の元へ到達。

 札より博麗の巫女の放つ結界が展開され、二人を包み込んだ。

 その直後、火炎弾が結界に直撃。火炎弾は四散した。

 魔理沙とアリスは顔を上げ、自分達が結界に守られた事に気付いた。

 そしてそれが誰によって齎されたものなのかも。


 しかしそう思った直後、札と共に結界は消えてしまった。

 あの竜の一撃を受けて、すぐに耐久の限界を迎えてしまったのだ。

 これを好機と思ったのか、竜は再度すべての口を開け、二人に火炎弾を吐き付けようと口の中を赤く燃やし始めた。


「ッ!」


 霊夢は再度二人に札を投げようとしたが、それよりも先に竜が動いた。

 竜の口から、紅く燃える火炎弾が倒れる二人に向けて、再び放たれようとした。


「奇跡「客星の明るすぎる夜」!!」


「光符「アマテラス」!!」


「魔法「マジックバタフライ」!!」


 次の瞬間、どこからともなく声が響き渡り、それとほぼ同時に上空から竜へ向けて無数の光弾と熱弾が降り注いだ。

 竜の首は降り注ぐ無数の光弾と熱弾の豪雨に大きく向きを逸らされ、全ての火炎弾を全く別な方向へ吐き出した。

 やがて光弾と熱弾の豪雨が止むと、それを見ていた三人は光弾と熱弾が降ってきた上空を見上げた。

 そこには、翡翠色の長い髪の毛で、巫女装束を身に纏った少女と特徴的な帽子を被り、青白い長い髪の毛で青と白を基調としたい服を身に纏った女性と黒と白を基調としたドレスのような衣装を身に纏い、頭の上の方の髪の毛は紫色だが、下に行くにつれて金色に色が変わっている特殊な長い髪の毛の女性の姿があった。

 それはまさしく、先程助けを呼びに行った早苗と、助けに来てくれたと思われる慧音と、早苗が呼ばれてやってきたと思われる、以前異変を起こした命蓮寺の住職である白蓮だった。


 早苗達は竜が怯んだのを確認すると、早苗はアリスの元へ、慧音は霊夢の元へ、白蓮は魔理沙の元へ飛んだ。

 霊夢は驚いた様子で、やってきた慧音に声をかけた。


「慧音……なんで私達のところに?早苗にはチルノ達のところに呼べって言ったはずだけど?」


 慧音は話した。

 実は、霊夢達が竜と戦っている間に早苗と慧音はこの森へやってきて、チルノ達の元に辿り着き、街の慧音の家へ運び、その後霊夢達に参戦するよう早苗に頼まれ、森に戻ってきたという。

 ちなみに呼んだ覚えのない白蓮については、街を出ようとした際に懐夢を連れている白蓮に会い、声をかけたところ白蓮も懐夢からこの森に向かうよう頼まれたらしく、丁度同じ目的を持っていたため行動を共にしてここまでやって来たそうだ。


 それを聞いた霊夢は驚いた。

 森の奥に飛ばされて行方不明になったはずの懐夢が、白蓮に連れられていたというのだ。

 どうしてそんな事になっていたのだろうか。森の奥に飛ばされたはずなのに、どうして正反対方向の命蓮寺にいるはずの白蓮が連れていたのだろうか。

 これは恐らく懐夢自身から聞いた方がいいだろう。

 だが、慧音の言葉を聞いて、ただ一つだけ、霊夢の中で確信が出来た。


 ―――懐夢は、生きている。生きて、白蓮に連れられていた。死んでなど、いなかったのだ。


 それを確信しただけで、安堵感が胸を満たして、思わず腰が抜けてしまい、地面に座り込んでしまった。

 慧音は驚いて、霊夢に声をかけた。


「お、おい霊夢どうした!?」


 霊夢は笑んだ。


「何でもないわよ……ただ、安心したら力抜けちゃっただけ……大丈夫よ……」


 霊夢はすぐに力を取り戻し、立ち上がった。

 慧音は霊夢を見て思わず胸を撫で下ろした。


「そうか……吃驚(びっくり)させるな」


 霊夢は苦笑いした後、早苗とアリス、白蓮と魔理沙がこちらの傍までやってきた。

 二人共、早苗と白蓮の持つ回復術を受けて、動けるまでに回復したようだ。もっとも、アリスはほとんど自分の魔法で傷を治したようだったが。

 そして、一同は怯みから立ち直った竜を見た。巨体から七本の首を生やした藍色の鱗の竜を。

 そのうち、白蓮が呟いた。


「何ですのこの妖怪は……こんなもの、今まで生きてきた中で初めて見ますよ」


 慧音がそれに答えた。


「そういえば何かの文献で巨大な身体を持ち七本の首を持つ蜥蜴を見た覚えがあるな。帰ったら調べてみようか」


 最後に霊夢が言った。


「無事に帰れたならね」


 その言葉を皮切りに、竜は火炎弾を一同に向けて吐き付けてきた。

 一同は咄嗟に飛び上がって火炎弾を回避、散らばって陣形を組んだ。

 直後、魔理沙が早苗と慧音と白蓮に伝えた。


「気を付けろ早苗、慧音、白蓮!こいつの攻撃力と防御力は半端ないぞ!」


 アリスが続けた。


「並大抵の攻撃じゃびくともしない。倒すなら、一気に高火力の攻撃を当てるしかないわ」


 その時、霊夢はふと先程の事を思い出した。

 そう、スペルカードを竜の首に当てた時の事だ。

 魔理沙とアリスがスペルカードを当てても、あの竜の首は全くと言っていいほどダメージを受けなかった。

 しかし、いざ自分がスペルカードを当ててみたところ、竜の首は声を上げて苦悶したし、鋼鉄のような鱗を貫通してダメージを与える事に成功した。

 もしかしたら、自分のスペルカードならば、倒す事が出来るかもしれない。

 あの首の根元にある巨大な本体に自分のスペルカードを命中させれば……いけるかもしれない。


「魔理沙、アリス、早苗、白蓮、慧音!ちょっとこいつの動きを止める事できないかしら?」


 霊夢が声をかけた皆が、突然の提案を起こした霊夢を見た。

 その内の魔理沙が霊夢に問い返した。


「何か作戦があるのか?」


 霊夢は頷いた。


「こいつの弱点、どうやら私のスペルカードみたいなのよ!」


 皆は驚いて目を丸くした。

 その内の白蓮が声をかけた。


「貴方のスペルカードですって?」


 霊夢はまた頷くと、先程の事を全て話した。

 それを聞いた早苗が驚いたように言った。


「霊夢さんの「夢想封印」を受けてすごく苦しんだ?それは本当ですか?」


 霊夢は懐からスペルカードを取り出した。


「本当かどうか信じるのは勝手にして」


 慧音はふとあの竜に攻撃を加えた時と、霊夢の能力を思い出した。

 あの竜に三人のスペルカードによる弾幕攻撃を仕掛けた時、普通ならば傷をいくつも付けられるはずなのに、あの竜は全くと言っていいほど傷付かなかった。というよりも、効果が無いようにも見えた。

 もしかしたら、自分達が攻撃を仕掛けても無駄なのかもしれない。

 そして、霊夢の能力。

 霊夢の持つ「博麗の力」は「調伏の力」。魔を退けるための力で、妖怪や妖魔には毒として作用するものだ。

 その力を受けてあの竜がひどく苦悶したという霊夢の話が本当なのであれば、鉄壁の守りと悍ましいまでの攻撃力を持つあの竜も所詮はただの妖怪、唯一の弱点は博麗の力という事になる。


「皆、霊夢を信じよう。私達の攻撃であいつの動きを止め、その隙に霊夢に攻撃させる」


 慧音の言葉を聞いた霊夢以外の者達は少し驚いたが、やがてその作戦に乗り、飛び上がって攻撃態勢を取った。

 竜の首はそれぞれ一本ずつ六人の元へ向かったが、霊夢を除く全員が竜の首が接近してくるその前に一斉にスペルカードを発動させた。


「恋符「ノンディレクショナルレーザー」!!」


「咒詛「蓬莱人形」!!」


「奇跡「客星の明るすぎる夜」!!」


「倭符「邪馬台の国」!!」


「飛鉢「伝説の飛空円盤」!!」


 竜へ五人によるレーザー、熱弾、光弾の暴風雨が降り注いだ。

 鋼鉄のような鱗を持つ竜はそれらを受けても防いでみせたが、連続で降り注ぐ光の雨に目を眩まされ、魔理沙に閃光弾を当てられた時のような状態へ陥り、一同を完全に視界から外した。 

 それを確認した魔理沙は最後の切り札である霊夢へ向けて叫んだ。


「霊夢!今だぁッ!!」


 魔理沙の声を聞いた霊夢は魔理沙達のいる位置よりも上空へ舞い上がり、目を眩まされた竜を見下ろすと、そこでスペルカードを発動させた。


「神霊「夢想封印」!!」


 霊夢の宣言の後、霊夢の広げた両掌に光が集い、やがて七色に光る十個の巨大な光弾となり、一斉に竜に向けて飛んだ。

 光弾は竜に着弾すると四散し、竜の身を包む鱗を砕いた。

 しかし、鱗が砕けただけで、まだ竜は倒れる気配を見せなかった。

 霊夢はそれを知ると宙返りし、空気の壁を蹴るように足を延ばすと急速に落下。

 竜の巨体の鱗の禿げたところに勢い良く着地すると竜は姿勢を崩して地面に伏せ、動きが止まったところでそのままスペルカードを再度発動させた。


「神技「八方鬼縛陣」!!」


 霊夢の宣言の直後、竜の身体の真下に巨大な結界が出現し、「調伏の力」を含む光の柱が立ち上り、それを弱点とする竜の身体を貫き、焼き尽くした。

 身体を調伏の力で焼き尽くされた竜はたちまち倒れ、忙しなく動いていた七本の首も同じように倒れ、口をあんぐりと開けて白目をむいた。


 ……勝った。


 竜の動きが停止した事を確認した魔理沙達も、霊夢の元に降りてきた。

 その内の魔理沙が竜を見ながらその巨体の上に立つ霊夢に声をかけた。


「霊夢、やったのか?」


 霊夢は振り向き、頷いた。


「えぇ。何とか仕留めたわ」


 霊夢はぴょんと竜の身体から降りて魔理沙の傍まで歩いた。

 そして魔理沙のすぐ傍まで来ると、慧音が笑みながら言った。


「よくやったよ霊夢。流石は博麗の巫女と言ったところか」


 白蓮が続いた。


「仕留めれてよかったですね。もしここでこの妖怪を仕留められなければ、その内街にも被害が出ていたでしょう。けれど、貴方のおかげで、街に被害は出ませんでした」


 アリスが微笑みながら言った。


「博麗の巫女様様ね。流石、幻想郷の守り人」


 霊夢はフッと鼻で笑った。


「大した事ないわよこんなの」


 慧音が顔を引き締めた。


「いぃや。この森は比較的街に近い場所にある。もしこのままこいつを放置しておけばいずれ街へ侵入し、被害を出していたところだろう。遠まわしとはいえ街を守ってくれたお前に、報酬を出そう」


 その一言を聞いた霊夢は急速の方を向いて目を輝かせながら迫った。


「マジで!?え、どれくらい出してくれるの!?」


 慧音は魂消ながらも言った。


「ざっと十万円くらい出そう」


 霊夢は金額に満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう!それくらいあればまたあの子に美味しいもの食べさせて……」


 霊夢はハッと思い出した。

 そうだ。懐夢は、懐夢は今どこにいるのだろう。

 話によれば白蓮に連れられていたというが、今のところ白蓮が連れている様子もないし、どこかに隠れているような感じもしない。

 霊夢は、慧音に尋ねた。


「慧音、懐夢は今どこに?白蓮は連れてなかったみたいだけど」


 慧音によると、懐夢は今、街の慧音の家で怪我を負ったチルノ達を慧音の友人である藤原妹紅と共に診ているという。


「なるほど……わかったわ。教えてくれてありがとうッ」


 霊夢は礼を言うなり、びゅんっと舞い上がり、上空に出るとそのまま街の方目掛けて飛んで行った。

 突然の事に残された魔理沙と早苗と慧音と白蓮は驚き、そのうちの白蓮が霊夢に呼びかけようとした。


「ちょ、ちょっと霊夢!?」


 白蓮の声は虚しく森の中に響いた。

 もはや、森の上空に霊夢の姿はなかった。

 ぽかんとして早苗が呟いた。


「いっちゃった……」


 慧音が上空を見ながら言った。


「あの二人の間に、介入する必要はないよ。それよりも、ここの火を消さねば」


 慧音は木々が燃えている方を見た。

 火の根源である竜は死したが、森の火事はまだ一向に止む気配を見せない。

 そればかりか、どんどんその大きさを増していっている。

 火が今自分達のいる場所まで辿り着くのも時間の問題だろうし、これからもどんどん大きくなって行くだろう。そうなってしまってはここいらに住む妖怪と動植物は全滅だ。

 その中、魔理沙が気怠そうに呟いた。


「消すっていうけどどうやって?広すぎて水撒いても消えないぞきっと」


 燃え盛る火を消そうにも火事の範囲が広すぎて、消火活動など無理に等しい。

 これほどの火事を収めるには雨しかない。が、今空は雲一つない快晴だ。

 雨が降る気配などさらさらない。

 その中、アリスが早苗に声をかけた。


「早苗、貴方風祝でしょ?雨降らせたりとかできないの?」


 早苗は首を横に振った。


「そんな事できません!雨を降らせるなんて……神獣様でもなければ……」


 神獣は気象を自在に操る神の獣で、晴天を雨天に変える事などお茶の子さいさいだ。

 もしこの場に神獣が居れば、燃える森の上空に雲を張り、大雨を降らせてこの火を消してくれるだろうにと、早苗は思った。


 ……大好きな神獣がこの場にいてくれたら……


 そう思ったその時、頬に冷たいものが当たった。

 何かと思って触ってみればそれは水だった。


「……雨?」


 早苗が呟いた途端、それまで晴れていた空は一気に曇り、頭に大粒の雨が落ちてきて、やがて水桶をひっくり返したような土砂降りになった。

 突然の雨に早苗以外の全員が驚き、そのうちのアリスが頭を手で覆いながら怒った。


「な、何よもう!いきなり降り始めて!」


 魔理沙は早苗を見た。


「ま、まさか早苗、お前が雨を降らせたのか!?」


 早苗は吃驚して首を横に振った。


「そんなことありません。私は何もしてませんよ!」


 その中、慧音が他の者達に伝えた。


「そんなものはどうでもいい。だがこれだけの雨だ、この火事も収まるだろう。雨に感謝して帰るぞ」


 慧音の言葉に一同は賛成し、一先ず森を後にすることにした。



            *



 こちらは霊夢。

 霊夢は雨に降られる前に街へ辿り着き、慧音の家の前に来た。

 慧音の話によれば、ここに懐夢とチルノ達が居るという。


(……懐夢……)


 霊夢は恐る恐る、慧音の家の入口の扉を開け、中に入り込んだ。

 家の中は森閑としているように思えたが、ある程度踏み込んでみたところ、奥の方から声が聞こえてきた。


「もう大丈夫だよ坊主。後は私だけで何とかなるから」


「え?いいんですか?でも……皆が心配です」


「心配性だな坊主は。大丈夫だって。永遠亭の永琳特製の薬を使ったんだ。効果凄いんだぞ」


「でも……」


「でもでもって五月蠅いな。男がそんな心配性でどうするんだよ」


「でも……」


「ほらまたでも言う」


 片方は女性の声だ。

 そしてもう片方は毎日聞いている……懐夢の声だ。

 ―――間違いない、ここに懐夢はいる。


「懐夢!」


 霊夢は無意識に名を呼んだ。

 その声に反応したのか、奥の部屋の扉が開き、中から誰かが出てきた。

 それは……


「あれ、霊夢?」


 紛れもなく、懐夢だった。

 懐夢の姿を見た霊夢は呆然とした。

 あの竜の尾に跳ねられたと聞いたから、死んでしまったのではないかと思っていた。

 あの竜と戦っている間もずっと、不安で心配で怖かった。

 母のように、自分の知らないところで死んでしまったのではないかと……。

 しかし、それは今、懐夢の姿を見た事でガラガラと音を立てて崩れた。

 心の中を埋め尽くしていた不安と心配と恐怖はまるで雲が晴れるようにすーっと消えた。

 ―――懐夢は生きていた。そして今、自分を見ている。いつもと変わらぬ瞳で、自分を見ている。


 霊夢はゆっくりと懐夢に歩み寄った。

 その時、懐夢が声をかけてきた。


「あ、そうだ霊夢。あの大きな七本首の蜥蜴は?リグルの森を焼いて」


 霊夢は懐夢の言葉を無視し、やがて懐夢の目の前まで来るとその両肩に両手を乗せた。

 懐夢はきょとんとして、言葉を詰まらせた。

 霊夢は、きょとんとしてしまっている懐夢と目を合わせると、口を開けた。


「懐夢。正直に答えなさい。何があったの?」


 懐夢は少し戸惑ったが、全てを話し始めた。

 竜に跳ね飛ばされて、川に落ちてそのまま流されて、命蓮寺近くで響子に拾われて、住職の白蓮に看病してもらって、美味しい御粥もご馳走になった。そしてその後街に戻ってきて、慧音と早苗に会い、友人達がどうなったかを聞いて、白蓮と別れて慧音の家に来て、妹紅に会って怪我をした友人達の手当てをしていたと、色々あったよと、懐夢は話した。

 それを全て話し終えて、懐夢は驚いた。


 霊夢が、涙を流していたからだ。


「霊夢?どうして泣いてるの?」


 霊夢は答えず、懐夢を抱き寄せてそのまま抱いた。

 強く、抱き締めて、懐夢に言った。


「馬っ鹿……何が色々あったよよ……私が貴方をどれだけ心配したかも知らないで……よくそんな事が言えるわね……」


 懐夢は霊夢が泣いた理由に気付いた。

 霊夢は、自分の事を心配してくれていたのだ。きっと、自分がチルノ達を心配するよりも……。

 だのに自分はその事に気付かず、平気で起こった事を話してしまった。霊夢がどれだけ自分の事を心配していたのかも知らないで。

 ……そう考えると、申し訳なくなってきた。

 やがて、自然と口が動いた。


「……ごめんなさい」


「でも……無事で本当によかったわ……」


 霊夢は強く懐夢をぎゅっと抱きしめた。

 心は今、安堵が満たしていた。


 それをずっと陰で聞いていた妹紅は瞬きを何度もした。

 明らかに、自分の戦った時の博麗の巫女の意外な一面を見たような気がする。

 あいつにも、あんなところがあるのか。


(……あいつらが帰ったら慧音に訊いてみるか)


 二人を邪魔すまいと、妹紅は息を潜めて、治療されて眠っているチルノ達を見た。

 その時、二人の方からまた声が聞こえてきた。


「妹紅さん、もう帰っていいって」


「そうなの。妹紅」


 名を呼ばれて妹紅は吃驚した。


「懐夢の友達をありがとうね。この子に加わって礼を言うわ」


 妹紅は何も返さなかった。

 そのうち、物音が聞こえなくなったので、懐夢が向かった方を見てみると、もうそこに霊夢と懐夢の姿はなかった。

 どうやら礼を言って、帰ってしまったようだ。


(あの坊主……霊夢の何なんだ……?)



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