あとがき
「東方Projectのシリアスな二次創作小説が書きたい。博麗霊夢を主人公にしたいけれど、霊夢が弟のように大切に出来る存在も一緒に欲しい」
そう思ったのが今から五年ほどの前の事です。そう思い立ち、何の勉強や研究も行わないまま、私はこことは違う場所で東方の二次創作小説を書き始めました。そのタイトルは「東方幻双夢」。博麗霊夢の元に、百詠懐夢という少年が姿を現し、霊夢と共に暮らして、霊夢の心を開いていく物語。「『東方』」の「『幻』想郷」での、「『双』つ」の「『夢』の名を持つ者」の物語。それが、「東方幻双夢」でした。その時は、シナリオの研究や書き方の研究なども一切行わなかったため、内容も雑で書き方も雑。感想をもらえる事もありませんでした。
その物語を完結させた後の二年間、他の小説を書いていたのですが、やはりそこでも、私の中には「博麗霊夢」と、もはや息子のように扱っていたオリジナルキャラクター「百詠懐夢」の姿がありました。きっとその時から、もう一度あの二人の物語を描きたいと考えていたのでしょう。その思いは徐々に私の中で大きくなっていき、抑えられなくなってしまいました。そして私は小説家になろう様と、ハーメルン様にて、かつて会いていた物語である「東方幻双夢」をリメイクし、テーマを『家族』として、執筆、公開する事としました。
しかし、前書いたものをそのまま使ってしまっては意味がないし、リメイクにならない。そう考えた私はラストボスやキャラ配置などはそのままに、リメイク前にほとんど目立たなかったキャラなどを目立たせるようにしたり、複雑な設定を盛り込んだりしました。しかしそれでも、リメイク前の「東方幻双夢」は不人気作品に終わったものだったので、きっと今作でも不人気のまま終わってしまうのだろうなと私は思いつつ、執筆をつづけました。それを続けて、完結したのが2014年の1月。
第一期が終了した時には185件、19件の感想をもらえて居た事を目の当たりにして、この作品を楽しみ、期待してくれていた人がちゃんといたという事を私は知りました。第一期のあとがきに書いた通り、私は連載当初、この物語は有名にならなくても、たとえ人の目に着かなくても、投稿させてもらっているサイトに残ってさえいればいいと考えておりましたが、その考えはお気に入りや感想を見て崩れ去りました。周りには私の何倍ものお気に入りと感想をもらっている作品が山のように存在しており、私の作品はものの見事に埋まっていました。多分、結構な数の人が私の作品を見て、離れて行ったんでしょうね。
けれど、そんな中でも私の作品をちゃんと読んでくれた人がいる。ちゃんと感想を付けてくれて、指摘をくれて、何より楽しんでくれた人がいる。その事を知り、心を突き動かされた私は、リメイク前の東方幻双夢の続編にあたるシナリオを組み直し、この幻想夢に組み込み、テーマを『家族』『立ち向かう意志』『絆』として再度連載を開始しました。
そこでも、やはり私は周りの人気小説に押し潰されそうになりました。他の作品はお気に入り2800だの、3500だの、感想数無数だの、圧倒的な数でランキングにはほぼ常在。それに比べたら私の作品は、地味だし目立たないし、不人気。それでも私は書く事をやめようとは思いませんでした。
やっている事を途中でやめてしまうのをエタると言いますが、エタってしまっては数は少ないけれどちゃんと読んでくれて、期待してくれている人、そして何より、私の小説のキャラクター達とその筆頭である懐夢に申し訳ないと、私はずっと思い続けていました。が、その背中を更に押してくれたのが、リメイク前の東方幻想夢が終了した時からすでに頭の中のアイディアの海に存在していた、この小説のラストボスである『博麗霊華』でした。
第二期も霊夢達の活躍を更に描きたいというのと、霊華を登場させて、生きさせたいという願望から開始したようなものでしたから、人気がなくとも、どんなにユーザーから見捨てられようとも霊華だけはちゃんと形にして出してあげたい、四年間に渡るアイディアの海から引き揚げて、現実世界に解き放ってあげたいとずっと考えて、私はずっと執筆を続けました。
劇中では最後、死んでしまった霊華。どう考えてもただのチートキャラじゃねえかと罵られる要素をたっぷりと含んだ霊華ですが、私からすれば『霊華』は四年間も育て続けた子供の一人だったのです。只のチートキャラですけれど、霊華がいなければきっと第二期はなかったかもしれません。それくらいに、霊華は私の中では重要なキャラクターでした。しかし、重要なキャラだったのは霊華だけではなく、むしろこの作品に登場するすべてのキャラクターが重要なキャラだったのでしょう。みんなのために、みんなの世界を、幻想郷を描きたい、そして、この作品を読んでくれた人々に更なる作品を、より多くの人にこの作品を診てもらいたい。そうして私は二年に及ぶ連載を続けました。いいえ、続ける事が出来ました。
完結した時のお気に入り件数と感想は、このサイト全体から見れば明らかに少ない方、マイナー作品であるといえる数でしょうけれど、楽しんでくれた人が、最後までちゃんと読んでくれた人がいるという事には変わりはありません。
ここまで読んでくださった皆様には、本当に頭が上がりません。本当に、最後の最後まで付き合ってくださって、読んでくださって、時に評価を、感想を付けてくださって、ありがとうございました。
これを持って、しばらくの間は東方projectの小説からは離れたいと思います。霊夢達や懐夢達には、しばらくの間は休んでもらいたいと思います。彼女達はずっと頑張り続けてくれました。
みなさんは、この小説を楽しみながら読んでおりましたか?
私はこの小説を書いている時はとても楽しかったですよ。まるで、二年間霊夢や懐夢と一緒に過ごしたような感じでした。何言ってんだお前と言われるかもしれませんけれど、私はこの作品を書いている時がものすごく楽しかった!
彼女達はあくまで小説の中の人物達でしかありませんが、彼女達はちゃんとこの小説の中に生きて、ずっと戦い、ずっと頑張り続けてくれました。もし、この小説を面白かったと思ってくださったのならば、『新たな始まり』にあったように、心の中で「頑張ったね」と言ってやってください。私にではなく、登場キャラクター達にですよ。彼女達は、小説と言う名の世界の中で、ずっと生き続けてきたのですから。
皆様が御心付してくれたのならば、彼女達は次に向けて動き出す力を漲らせるかもしれません。何言ってんのと思われたら、それまででしょうけれどね。
この小説を時間帯で表すならば、ずっと『夜』でした。第一期も、第二期もずっと『夜』。多分それが原因で人気が出なかったりしたんでしょうけれど、それでもこの二年間にわたる『夜』に付き合って下さった全ての方々に、今一度感謝します。本当にありがとうございました。
間もなく、夜明けです。
『夜』の登場人物達も、『夜』を描いた私にも、『夜』を読み続けてくださった皆様にも、朝が来ます。
*
博麗霊夢と博麗懐夢はこちらに目を向けた。その顔には笑みが浮かんでいる。
「この小説に、貴方はいかにして出会ったのでしょうか。
この小説をどう思って、ブラウザバックボタンを押したのでしょうか。
この小説にどのように惹かれて、貴方はお気に入り登録をしようと思いましたか。
最新話が投稿されるたびに、貴方はどう思いましたか。
この小説に出てくる登場人物達は魅力的でしたか。それとも普遍的でしたか。
懐夢はどんな子でしたか。いい子でしたか。嫌な子でしたか。
その子達が紡ぐ物語は、くだらないものでしたか。面白いものでしたか」
霊夢と同じく、顔に笑みを浮かべた懐夢が言う。
「この小説の霊夢はどんな子でしたか。
みなさんの好きな霊夢でしたか。
みなさんが嫌いだと思う霊夢でしたか。
霊夢が変わって行く様子を見て、貴方はどう思いましたか。
この小説の幻想郷を貴方はどう思いましたか。
良い世界だと思いましたか、嫌な世界だと思いましたか。
初めてこの小説を読み始めた時のことを覚えていますか。
この小説の背景を頭の中に浮かべた時はどうでしたか。
この小説の最後まで辿り着いた時のことを覚えていますか」
懐夢がにっこりと笑う。
「二年間色々あっただろうけれど、そう言うの全部、楽しかったね」
最後に、霊夢はにっこりと笑った。
「最後まで読んでくれて、ありがとう」
(連載期間2012/05/23~2015/02/27 ルトラクシャ)