01・旅立ち
思いつきで始めてしまいました。
お目汚し作品だと思いますが、寛大な方は呼んでくださると嬉しいです。
みなさま、初めまして。
私、向坂美緒20歳、もうすぐ私「始めてのおつかい」に旅立ちます。
なんと、その行き先は帝都!帝都でございます皆様!
帝都いえば、フラグのメッカ。王侯貴族ザックザック!
魔法使いなる方々までいる聞くオ・ウ・ト。
あら変換間違えると嘔☆なんて大変!けしてそちじゃありません。皇帝のおわす都でございます。
この世界に落っこちて、苦節3年。待ちました、私はフラグを。
え?フラグって何か?それはウィ☆かなんかで調べてください。そちらにはあるでしょう?そう言った文明の利器が!
まぁ私の解釈で言うと「トキメキの予感」。
え?違う?同じようなものでしょう。これから何かあるかも☆な未来への伏線!
脱線しましたが、苦節3年です。
3年前、幼馴染の仕業だろう大袈裟すぎる落とし穴に引っかかり、
あんにゃろ絶対許さない明日の弁当奪ってやると鼻息荒くした私を助けてくれたのは、
外国人のご老人。ナイスミドル。ご老人の割には逞しい腕・・
そんなことはどうでも良く。
訊ねると、私は畑を荒らす猪用に作った落とし穴にひっかかっていたらしい。
確かに鼻息は荒かったが私は猪ではない。断じて、猪娘なる二つ名もない。
もしや猪の化身かと疑われたが、必死に人間であることを訴えました。えぇ、必死に。
その必死さが猪っぽかったかと反省したのは1週間後の話です。
いったいどういうことなんだ、と村総出の騒動になりかけ、気付きました。
この村ご老人しかいないの?と。
だって一番若そうな粉屋の夫婦で、私の両親と同じくらいの年齢にみえた。
これは老いた村への神からの贈り物ではないのか、と盛り上がる村民たちを他所に
私は自分の現状を冷静に分析した結果「異世界トリップ」という答えを導き出しました。
少女マンガで培った妄想力を舐めちゃいけません。
そして、気付いた。
フラグがないわ!と。
異世界トリップといえば、王子様!魔法使い!魔王!姫!イケメン!しかし、どの一つもない。
ひっ捕らえにくる役人の姿もない。むしろ若人がいない!と。
いつの間にか村民たちの間でわたしは畑の持ち主であるばっちゃんにあづけられることになっていました。
おなかが鳴った私に、ばっちゃんが微笑みながらスープを用意してくれ、
その美味しさにほっぺた落っことしそうになっていた私は安易でした。
いつかフラグが立つだろうと。
まさか、3年間放置されるなんて私は思ってもみま・・・
「ミオちゃん?」
心配そうにこちらを見つめるばっちゃんの姿に、私は脳内語り部を一旦停止した。
つい、脳内読者に対し語り部しちゃうのは、中学2年の頃コバ☆ト文庫の小説を貪る様に読んで以来の癖だ。
中2以下の国語力で語尾が統一されていないのは流していただきたい。
と、いけない、いけない、ばっちゃんがひいている。
「なんでもないよ。ごめんね、なに?ばっちゃん」
「えぇ、もうすぐ馬車が来る時間だからと思って、これ」
そう言ってばっちゃんはお手製のニットのバックから、ちいさなこれまた手作りだと思われる巾着を取り出しだ。
ハイ、と渡され受け取るとチャリと硬貨の音がする。
「ばっちゃん、お金ならもうもらったよー」
もう!ボケちゃったの?なんて年齢的に洒落にならないから言えない。
言っちゃうKY野郎がいたら全力でぶん殴る。
ほら、と私は前日にばっちゃんから預かった財布をカバンから取り出した。
この財布には王都までの旅費の全てが入っている。失くしちゃだめ、絶対。なのだ。
ちゃんと持ってるよ!と胸をはる私にばっちゃんがにこにこと微笑む。
私を3年前引き取ってくれたばっちゃんは、とってもやさしくて品の良いおばあさんだ。
私はこのばっちゃんの優しい笑顔がとっても好きだったりする。
こんなおばあさんに私もなりたいな、と思うお手本だ。
「これは、リオちゃんへのお小遣い」
そういって、私が返そうとした巾着を私の手に戻した。
「王都には、きっといろいろな物があるから。少ないけど、リオちゃんの気に入るものを買っていらっしゃい」
そう言ってばっちゃんは優しく笑う。
正直、ばっちゃんは貧乏でもないが裕福でもない。
得意の編み物でレースを編んでは、村にやってきた隊商に売り得る収入が全てだ。
と私は思っている。年金なる制度があるかは不明。多分ないと思われる。
そんな中で、私たち二人が食べる分の食料は、ばっちゃんが育てる野菜や
その野菜と交換で得た小麦や肉で賄う。ちなみにレースも野菜もすごく評判がいい。さすがばっちゃん。
だから生活が困ることはないけど、余るお金がないのも事実だ。
そんな中から私のお小遣いを用意してくれるばっちゃんの優しさに鼻の先っちょがツンとする。
旅費だって、いつのまにそんな大金貯めていたんだ、と驚いたのに。
こういう優しさに私は弱いんだ。つい涙腺が緩んでしまう。
「ありがとう、ばっちゃん」
大切に使うよ。
ばっちゃんのプラチナブロンドに似合う髪留めを買おう。
ばっちゃんの菫色の瞳と同じ色をしたヤツ。
「あ、ほら、ミオちゃん、馬車が」
そうばっちゃんが指差した先に、不定期にこの帝国の端の村までやってくる乗り合いの馬車が姿を見せた。
この馬車は、うちの村のような僻地を周り、終点を帝都とする。
ここからは馬車に乗って早くて4日ほどで帝都に着く行程だ。
(おしり・・大丈夫かしら)
ばっちゃんに作ってもらった特注のドーナツ型のクッションを抱きしめ、
最後まで「お腹は冷やさないようにね」とばっちゃんに心配されながら、私は馬車に乗り込んだ。
「おつかい終わったらすぐに帰るからね」と別れ際ばっちゃんの伝えるとばっちゃんは笑って頷いた。
それから、ばっちゃんが米粒ぐらいになるまで手を振った。
ばっちゃんはみえなくなる最後までわたしを見送ってくれていた。
あれほどウキウキワクワクだった王都への旅立ち立ったけれど、
次第に小さくなるばっちゃんに、3年前から1日もばっちゃんから離れたことがないと思い当たり、
何だかセンチメンタルな気持ちになってしまった。
少し気持ちを落ち着かせて馬車の中を見渡せば、
乗客は中年の人の良さそうな普通のおじさんらしき人物が一名。
イケメンなし!怪しい集団なし!捕らえられた美少女なし!
とりあえず、フラグの気配はないまま私の旅は始まった。