君とあの丘まで
ピリ、と冷たい空気が体をかすめる。前方から下に流れ込む空気は冷えきっていて、一際それを感じるのは手袋をしてるのに冷たい手だった。晒された足は既に赤く、スカートが当たる度に少し痛みを感じる。
これで毎日の登校が嫌いにならない学生がいるだろうか。いや、いない筈だ。誰もが丘の上にある学校を疎ましく思っているに違いない。市川夏菜もその一人だ。
夏菜は特に急ぎもせずに流れに任せ歩く。
周りの生徒達は遅刻だ、なんだと歩く速さを上げていった。
今更、遅いと冷めきった目で見ていた夏菜は後ろからくる衝撃に耐えきれずに前につんのめった。背中に確かに当たった何かは具体的には分からないが、対して固くない布の様な物だ。
大袈裟に背中を摩り、後ろを振り向くと自転車に乗った彼がいた。
「遅刻ですよ、先輩!」
夏菜を急かすその表情はどこか楽し気で本気で急いで無いのが窺えた。
自転車を降りて自分で投げた小さい鞄を取ると、乱暴に籠の中に戻す。彼はまた自転車に股がり後ろを見ながら顎をクイッと動かした。なかば誘導された夏菜は大人しく自転車の後ろに乗る。
吹き付ける風は一層、冷たく強くなるが夏菜には盾が前にいるので気になら無かった。
彼の背中にうなだれると少し背筋が真っ直ぐ伸びた様な気がした。
「ありがとう」
「……どういたしまして」
聞こえたのは少し照れた声だった。
「いつも、ありがとう。自転車さん」
「自転車かよ!」
彼が夏菜にツッコミを入れると自転車は少し揺れた。
小さく揺れる自転車も、頑張ってこいでる目の前の男子生徒も、その暖かい背中も夏菜には心地良かった。
訂正しよう。夏菜は実はそれほど登校が嫌いじゃない。
未熟な文章ですが感想、指摘などありましたら嬉しいです。