第4話:約束
今回は短めです。
3人で夕食を食べた後、明日は学校もあるしということで、みゅーちゃんは帰ることになった。
「おにぃちゃん送ってあげて」「なんで…」「何か文句あるの?」「…ありません」で、
みゅーちゃんを家まで送っていく事になった。いやもとから送っていくつもりだったけど、
由佳に言われて行くのも癪だったので、抵抗を試みただけ。あっさり玉砕したけどね。
「先輩…わざわざすみませんです」
「ん? 別にいいよ、こんなかわいい娘を、ひとりで帰らせるわけにいかないからね」
「…」
みゅーちゃんはまた耳まで赤くなってるし、まだかわいいと言われると照れくさいらしい。
由佳にかわいいと言っても、当たり前でしょ?おにぃバカ?と蔑んだ目で見るのにさ。
「せ、せんぱい?」
「なに?」
みゅーちゃんは、赤く染まった頬のまま、こちらを見上げて何かを言おうとしている。何この破壊力!
「こ、今度のお、お休みは暇ですか?」
「え…?」
「ああのあの、か、買い物に行くですので…その…」
「ああ、荷物持ちね」
一瞬デートの誘いかと思ったけど、みゅーちゃんみたいなかわいい娘が、俺を誘うわけ無いしね。
「…そ、そうです、はぁ」
えーと、最後のため息は何だろう? 考えても分らないし、まぁいいか。
「任せてよ! 俺のみゅーちゃんの頼みを断る訳無いじゃん!」
やべぇ! 俺「の」みゅーちゃんっていっちまったぁぁぁ。
「俺の…?」
みゅーちゃんはすかさず言い間違いに気付いて、何故かちょっと潤んだ目で俺を見上げる。
そりゃそうだよね、いきなりそんなこと言ったら、変態だよね。
って俺変態だった! じゃあいいのか? いや良くないよ! どないやねん!
「あ…ああ、ごめん、間違った」
「間違い…ですか」
「うん、ごめん」
「…………い、いつかは、せんぱいの美優になるです」
みゅーちゃんは少し考えたあと、ごにょごにょと何か言った。
「え?」
「い、いえ、何でもないです、特別に許すです」
「あ、ありがとう」
なんなんだ、ちょっとした言葉のあやなのに、そんなに嫌だったのかな?
「そ、それより、由佳ちゃんは優しい人ですね」
「うん? なぜ?」
「転校してきた日ですけど、最初は皆面白がって色々聞かれたですが」
「うん」
「緊張して上手く喋れなくて、しかも表情が顔に出ないので、
すぐに潮が引くように周りから人が居なくなったです」
「…うん」
なんだろう、目から汗が出そう…みゅーちゃんもなんとなく泣きそうな感じだし。
「そんなとき由佳ちゃんが声をかけてくれたです」
「ああ、あいつは昔から小動物とか、かわいい物が好きだったからな」
「小動物…私がちっさいって言いたいですか?」
「いやちっさいとは言わないけど、リトルっていうか?」
「同じです…そしてなぜ英語ですか?」
おお! この2重のボケにツッコめるとは、みゅーちゃんなかなかやるな!
「わたしはまだ身長伸びてるですから、そのうち2m超えるです」
「超えねぇよ!」
みゅーちゃんは何故か無い胸を反らして、うまいことボケてやったぞって感じでドヤ顔。に見える。
「その後も、事あるごとに私に気をかけてくれるので、すごく嬉しかったです、それに…」
みゅーちゃんは、ぽぉーっと頬を染めて何故か俺を見つめてる。
背景には百合の花でも咲いていそうな、って、え? まさかそっち系?
「違います…なぜそうなるですか」
心を読んでツッコむという高等技術まで持っているとは、恐るべし!
「先輩、声に出して言ってるです」
「え? あはは」はははは、アホや俺!
「あ…もうそこなので、この辺で…」
「早! あ、でも15分くらい歩いたか」
「はい」
15分歩いたって言ってもゆっくりだったから、急げば10分くらいかな?
「じゃあ、またあした学校で、って学年が違うから会わないか」
「…だったら…会いに行くです」
「え?」
「な、なんでもないです、またお買い物の時にです」
「おう、前日にメールか、由佳に伝言しといてよ」
「えっと…メ、メールするです」
みゅーちゃんは何故か少し逡巡してからそう言った。メアドは昼間に交換済みだ。
「うん、分かったじゃあ…」
「あ…せんぱい」
手を振って帰ろうとすると、みゅーちゃんが寂しげな表情で俺をじっと見る。
「なに?」
「あ…いえ…何でもないです」
そう言ってみゅーちゃんは目をそらした。何かをお願いしようとして諦めた感じだ。
今までもこうして、いろいろ諦めてきたのでは無いか、と思わせる仕草だった。
その時、何故かそうしなきゃいけない気がして、俺はみゅーちゃんの頭をなでなでしてあげた!
「ふにゃ!」
みゅーちゃんは、ビクッと身体を震わせて、今まで出したことがない声をだしてビックリしていた。
「にゃ、にゃにするですか…?」
「えーと…なんとなく?」
そういいながらもまだガシガシと頭を撫ぜていると、みゅーちゃんがモジモジしだした。
「…やっ……んっ………せん…ぱい…?」
「ん?」
みゅーちゃんは少し赤くなった頬と、潤んだ瞳で俺を見上げる。
「…セクハラです」
「ち、ちげーし! サラサラな髪の毛の感触なんて楽しんでねーし!」
みゅーちゃんの頭から手をどけて必死に言い訳しようとしたけど、失敗しました!
「ふふ…冗談です」
あれ? すぐ無表情になったが、今一瞬笑ったように見えた、気のせいだろうか?
「みゅーちゃん今笑ったでしょ?」
「…?」
みゅーちゃんはきょとんとした感じで俺を見ている。
「気のせいか…じゃあ、みゅーちゃんまたあした!」
俺が手を振ると、みゅーちゃんは少し恥ずかしそうに、胸の前で小さく手を振った。
「また…あした…」