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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第一章
9/51

幕間 1

キースの勘違いは三つ。




一つは二藍は、モナドが行なった事で嘆いたのではない。怒ったのだ。しかも相当深く。

基本的に術者の家系に生まれたことと、幼い頃から大人達の中で育ってきたせいか、二藍は負の感情をあまり表に現すことは無い。しかし、彼女の弟達は、両親よりも祖父よりも、この温厚な姉を怒らせることを決してしない。


怒った彼女が誰よりも執念深く、真っ黒になるか、彼らはその身をもって知っているのだ。

悪意には三倍返し。この家訓は二藍のためにあるといっても過言ではない。



そして、勘違いの二つ目は、二藍が自分の力を黙っていたのは迷惑をかけてはいけないという良心からだという考えに行き着いたことである。

その場で否定しても良かったのだが、好意的に解釈してくれれば問題は無いと、あえて二藍は何も言わずに流して置くことにした。



最後の一つは二藍の年齢である。

紫炎や柘榴は、式神という性質か彼らの『本体』の影響か、多民族な顔立ちで見られることが多い。

アジア系、といわれればそう見えるし、アングロサクソンというには多少無理はあるもののヨーロッパ圏内だからといって特に異質に感じられる訳ではない。イケメンという言い方をするなら、どこに居ても肯定的な意見が返ってくるだろう。


しかし、二藍は何処から見ても典型的な日本人だ。クラスでも美人というより可愛いタイプとして男子に隠れた人気があった。柔らかで丁寧な物言いと、染めたこともパーマをかけたことも無い真っ直ぐな黒髪は背の中ほどまであり、彼女を昔から知る幼馴染達以外には、由緒正しいお嬢様と思われていた、というのはここでは関係はないが参考の為に記しておく事にする。

(ちなみに、由緒正しいお嬢様、というのは家柄だけでみれば決して間違っては居ない)


アジア民族特有の凹凸の少ない顔立ちは、欧米諸国の顔立ちに比べ幼く見られるという定説があり、少なくとも外見的にアングロサクソン系のこの国において、彼女が実年齢より幼く見られるのは仕方が無いことである。

キースが数少ない、自分の周囲の人々を元に、おおよその年齢を割り出して決め付けたとしても、それは彼の咎ではない…多分。



この三つの勘違いが、この後キースの過保護と道化的な役割の原因ともなるのだが、とりあえず今は関係ないので放っておくことにする。








閑話休題。




彼らがこの世界に来て、そろそろ二週間ほど過ぎようとしていた。

この、二週間、というのはあくまで二藍たちの感覚での日数計算で、この世界は曜日とかの概念は無い。

一日の長さは、二藍の持っていた時計で換算するとおよそ30時間。時間の単位は「ユラ」これが、ほぼ一時間に相当する。とはいえ、宮仕えの者や、大きな屋敷などで奉公している者たちを別にして、多くの人々は日があるうちは働き、沈めば休むといった生活をしていた。

市場や商家も決まった休みは無いものの、組合によって場所や規模別に休みが定められていると二藍がマーシャたちから聞いた話だ。


一年はおよそ360日。季節はその国によって違いはあるが、このセラフィークにおいては日本と同じ四季で区切られていた。日割り計算そのままに90日で一つの季節とし、気候もそのまま春夏秋冬である。


ちなみに今は「ルーラ」春真っ盛りである。


夏は「キーラ」、秋が「クーラ」冬は「シーラ」と呼ばれている。




基本的な服装は至ってシンプルなものである。男性は直線的なシャツとズボン。飾り程度のボタンはあるものの、その殆どが上からかぶるストン、とした形になっている。長さは膝丈くらいで、腰の辺りをサッシュやベルトで閉める形が一般的だった。裾の辺りには後ろや横にスリットが入っていて動きやすいようになっている。


但し、神官や魔法使いを生業にしているものは、踝辺りまでの長さの上着で、その上にローブを羽織ることが多く、これからの季節は大変だとキースが苦笑いで説明をしてくれた。


女性は成人女性ならば踝までのスカートが主流だが、成人前の子供達は膝下辺りのスカートを履くものが多い。

二藍にもコレが与えられ、彼女の年齢がどのように見られているかおおよその見当がつく。

やはり、装飾の少ないブラウスのようなモノの上に、二チェックのようなノースリーブのワンピースという形は、中世ヨーロッパに似てる。普段着ているものは男女問わず装飾は少ないが、祭りや貴族たちの社交界ではそれなりに刺繍や宝石類といった装飾品で着飾るらしかった。

だが、あくまでこれは基本的な形で、色々応用したデザインは数多く出回り、その年の流行などというものもあるあたり、女性の服飾においての考えは、どの世界に言っても大差は無いということであろう。



基本的な生活環境や文明において、やはり中世ヨーロッパあたりに近いという最初の印象は当たっていて、それがいかにもファンタジー色を強めている、とは二藍の台詞だ。

しかし、中世ヨーロッパに近い、というだけで文明的な面で見れば、もう少し進んでいるといえよう。

多少魔法に頼っているところはあるが、下水道の完備など衛生面においては、他の文化の進み方から比べれば非常に高度だと思われる。






この世界での神という概念は自然崇拝に近いものがある。


神殿には、あくまで祈りの場所であり、感謝の場所であって『望む場所』ではない、とキースは説明する。

願いは他者に叶えてもらうものではなく自分で叶えるものでしょう?と二藍たちの、どこかいい加減な神様事情を聞いて彼が言った言葉である。そして、国によって信じる神々が異なることも不思議なようだった。


国によって言葉は違えど『神』は『神』。願うべき対象ではなく、感謝をささげる対象。

素敵な神様ですね、と心からの二藍の言葉に、不思議そうな顔をした青年が印象的だった。




世界が変われば、視点が変われば「当たり前」が変わってくる。

しかし、この世界は二藍たちが普段忘れている「当たり前」が普通の事として数多く存在する、そんな世界でもあった。













とりあえず、第一章終了です。

お気に入りの登録ありがとうございます。励みになります。

第二章から恋愛要素が少しは入るはず…です。

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