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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第一章
6/51

6話

それは、一見腕輪に見える物だった。

外見的には、バングルに似ているが継ぎ目が全く無い。しかも、金属ではなく磨きぬかれた自然石に見える。




「これは?」

ここ数日食事に現れなかった青年は、少しやつれた顔に会心の笑顔を浮かべて彼らに『ソレ』を見せたのだった。

「貴方たちに、この屋敷の外を…この国を見ていただきたいと思い作りました。これを身に付けていらっしゃれば屋敷の中と同じように言葉が通じます」

「自動翻訳機みたいなものですか?」

「ジドウホンヤクキ?…別の国の言葉が自国の言葉に変わる道具ですか?然り。それと同時にお二方の『力』もわが国の魔力に擬態できるようにしてありますので、お使いになっても問題ありません」


「えらく便利なものを作ったな。目の下の隈はそのせいか?」

紫炎の言葉に青年は苦笑のみで応える。心配そうに自分を覗き込んだ二藍には穏やかに微笑んで見せた。

「魔法の研究中にはよくある話です。どうかお気になさらずに。それに別目的もちゃんとありますから」

訝しげに自分に視線を向ける柘榴に、キースは人の悪い笑みを浮かべる。

「貴方方の『力』を感じ取れるほどの魔力の持ち主は極めて稀、です。自分を過大評価するつもりはありませんが近隣諸国で、貴方方の力が異質だと感じられるのは私くらいだと思います。ですから、見てみたいのです。貴方がたの『力』を」



「…マッドサイエンティスト」


ぽそり、と二藍は呟いたが、正確な意味は伝わらなかったらしい。にっこり笑顔で「探求者?そうかもしれません」などと返って来ては笑って誤魔化すしかない。




「一度填めると外れない、なんて事はないよな?」

「そこまで堕ちてはいませんよ。第一寝るときや入浴時に邪魔になるでしょう?」

柘榴の言葉にキースは肩をすくめた。ふん、と鼻を鳴らすと青年はそのうちの一つを取る。深い赤、彼の名の色。

填めた途端、それは彼の腕の太さにぴたりと合った。外そうとすると、緩く広がってあっさりと抜ける。


「ある程度意志に反応するようになっています。ただ、力の質がよくわからなかったので、三つとも同じ仕様になってしまいました。問題は無いと思いますが、何か異常を感じたら外してください」


紫炎も二藍もそれぞれの色をとる。淡い紫色と深い紫。


「凄いです。…私の名前は日本独特の色なのに、よくお分かりになりましたね」

「漠然としたイメージでしたが…紫炎殿が明るい紫の色合いでしたので、少し深い色にしてみました。お気に召していただけで幸いです」

少女の名前は紅花と藍の色素から作る色に由来する、その配合で色々なパターンの紫になるが、基本的な色としては、今青年から渡された紫が近い。


しかし、彼女の名の内に秘められた願い。愛(喜び)も哀(悲しみ)も全てを呑み込んで生きていって欲しいという彼女の祖父の願いまでは気付くことはないし、彼らも青年に話す気はない。






「試してみましょう。私が傍にいれば何とでも誤魔化せますから」


青年が指を鳴らす。


何かに気がついたように紫炎と柘榴が顔を上げ、それにつられた様に二藍も顔を上げる。



「え、とキースさん、一つお聞きしてもいいですか?」

どうぞ、と青年が視線で促せば、少女は周囲を見回しながら幾分声を小さくした。


「最初の頃、おっしゃっていましたよね。転移の魔法は入念な下調べと、魔力、それに長い詠唱を必要とする、って」

「はい」

実際に見た彼の魔法を思い出す。

「この国の魔法って、詠唱がいるんですよね?あと『陣』も」

「はい」



にっこりと笑顔を見せる青年に、疲れたように柘榴は少女の肩に手を乗せた。

「…それだけの魔力の持ち主だってことを証明してみせたんだろう?自分で張った結界位、無詠唱でも消すことなど訳は無い、ってな」

「はい」


にこにこと嬉しそうな青年に紫炎ですら溜息を零す。

自分の想像以上の魔力と腹黒さを併せ持つ青年に、二藍は引きつった笑顔を向けるしか術は無かった。




「ふむ」

自分の手の中の球を見て紫炎は微かに微笑んだ。

「雷、ですか」

自然現象はこの世界も共通のものだったようだ。彼の手の中で微かに音を立てている放電現象に、キースは目を見張る。


「術の形態に差異はあると思うが…流れとしてはどうだ?」

「大丈夫のようです。自然の力と同様の『術』ならば、我等が使う魔法と殆ど差異はありません。目くらましの術など必要なかったですね」


しゃべりながらも青年の視線は紫炎の掌の放電に釘付けになっている。

もういいか?との紫炎の言葉に首を縦に振るとキースは暫く黙り込んだままでいたが、すぐに口の端を少し上げると、小さくなにか呟いて掌を上にむける。


「ほう」

「へぇ」

「…凄い、です」


青年の掌に浮かぶのは、先程紫炎が見せた放電現象だった。


「たいしたものだ。もう自分の魔法に応用したか」

「原理がわかれば難しいものではありません。こうすることもできます」

庭に向けてそれを放てば、いくつかの稲妻となって木の葉を飛ばす。弾かれた葉は、熱で一瞬のうちに燃えてしまった。


「ぴ○ちゅう」


「え?」

少女の言葉に青年が振り返ると、彼女は恥ずかしそうに笑顔を向けて何でもないと首を振る。

呆れたような青年達に、頬を膨らませて見せるとキースが小さく笑い声を上げた。

しかし、これだけの派手な魔法を使ったにも関わらず、屋敷の者たちが誰も来ない辺り、この青年の普段の行動が窺い知れる。



「ああ、それと」

青年は一冊の本を二藍に渡した。装丁の美しいそれは『絵本』。


「あ、ありがとうございます…え?」

驚きに目を見開いた少女と、同じように覗き込んだ式神たちも息を飲む。



「上手く調節できなかったのですが、問題は無いと思います。少なくとも私の知る範囲での言葉でしたら『読める』はずですよ」

自分たちのいた世界には無い言語…一番近い形でルーン文字とか象形文字のような形のこの世界の文字が読める事実に彼らは呆気に取られる。それと同時に背中が薄ら寒くもなった。



自分たちの想像をはるかに超える実力を持つこの青年に。














読んで頂きありがとうございます。


二藍の呟いた言葉は、隠すまでも無い国民的なアイドルの黄色いネズミです。

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