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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第一章
4/51

4話

翌日、朝食を食べている時に戻ってきたキースは、やはりその時も共に食事をし、その後この屋敷内ならば自由にしてもいい、と彼らに伝えた。


「入っていけない場所は基本的にありませんからね。ですが『敷地』の外には出ないでください…まぁ、正直結界という手も考えましたが、その必要はないかな、と思いまして」

「随分と我らを信用しているのだな」

くすり、と笑う紫炎に少し困ったようにキースは溜息を吐いた。

「本気でおっしゃってはいませんね」

「この屋敷の敷地内のみでしか言葉が通じねぇんだ、何処にも行けやしねぇだろう?信用も何もないじゃないか」

柘榴が半ば吐き捨てるように言う。


「あ~、それよりも、ですね」


険悪になりそうな雰囲気に二藍は二人の間に割って入ると、キースに視線を向けた。

「敷地内、って事はお庭もいいんですか?」

「もちろんですよ」

にこり、とこの屋敷の主は笑顔で応える。

「よろしければ案内させましょうか?」

是非、と頷く少女に笑みを深くして彼は呼び鈴を鳴らした。






二藍が侍女に連れられて部屋を出ると、紫炎と柘榴はテラスへと移動する。その後をキースが続いた。


「それで?」

庭を侍女と談笑しながら歩く少女を視界に入れたまま、紫炎は口を開いた。

「我らに話があったのではないのか?」

軽く目を見開いた青年ではあったが、首を2、3度振ると、彼らに顔を向けた。


「昨夜、二藍は『魔法』は無い、とおっしゃった。では、貴方方から感じるこの波動が何なのか教えて頂けませんか?」


自分へと向き直る紫炎の視線を受け止め、キースは言葉を続ける。

「私が感じたのは次元の揺らぎではありません。…あれは、モナドへの建前に過ぎない。私が感じたのは純然な『力』です。我らの使う『魔力』とは似て非なる力、それを感じあの場に行きました」

「…尊称が抜けているようだが?」

皮肉気な笑いを浮かべる紫炎にキースも同じような表情を浮かべた。

「一応私の師、と言ってはいますが、あの男に教わった事などありませんよ。魔法学院の総長などという役職についていながら、たいした力の無い無能者です」

「…お前も結構言うねぇ。そっちが本性か」

柘榴の言葉に返ってきたのは、静かな笑顔だった。

「…うわ、黒」

呆れたような柘榴の呟きにキースの笑いが深くなる。





「我らが使うは『人間』あらざる力…元々の世界では異端とされるものだ」

キースの眉が微かに寄せられる。それを見て紫炎は考えるように俯くが、すぐに顔を上げる。

「生まれながらに持つものも居る。長い修行の果てに得るものも居る。しかし、この世界のように学問として定着して居るわけではない。むしろ、忌まわれ、排斥される『力』だ。過去に多くのものが、持って居なくても疑われただけで迫害され命さえも落とした。普段は決して表に出さぬ力だ」

「この世界では、当たり前にある力です。しかし、きちんとした魔力を得、使いこなすためには相応の修行が必要となります、それゆえ『魔法使い』は敬意をえられるのです。ならば、ここは貴方方にとって少しは暮らしやすい場所になるかもしれませんね」

「だが、『質』が違うのだろう?すぐに判ってしまうんじゃないのか?」

「申し上げたはずです。大した力の無い者に『質』の違いなどわかりはしませんよ」

柘榴の台詞に、黒い笑みを浮かべたままキースは応じた。

「どうせ、報告はせぬのだろう」

「勿論です」

キースは頷くと庭の少女を目を細めて見た。

「あなた方が持つ我らと異なる力は、ある意味脅威となる。そうすれば国も黙ってはいません。…しかし、あなた方は脅威にはなりえない…違いますか?」

「その根拠は?」

「彼女です」


その時、まるでタイミングを見計らったように自分たちに気づいた二藍が大きく手を振る。それに青年が手を振り返し式神たちも軽く手を上げて応える。


「彼女の安全が保障される限り、貴方方は我らの『敵』となりえない。ならば、あの莫迦に余計な手柄などくれてやる気は無い…それだけですよ」

青年の二藍を見る目は優しい。

「結構私もね、彼女が気に入っているのですよ。幼いゆえかも知れませんが、右も左もわからぬこの世界に飛ばされて気丈に振舞っていらっしゃる…その真っ直ぐさを大人の勝手で壊したくはありませんからね」


東洋人は幼く見られるとよく言われるらしいが、この世界でもそれは通じるらしかった。彼女は彼が考えているほど幼くも、真っ直ぐでもないのだが、好意的な誤解をわざわざ正す必要もない。

顔を見合わせて笑う彼らの様子をキースは自分の考えが当たっていると考えたようだった。


「この結界は我らの意志の疎通を図ると同時に、外部からの干渉も防ぐ役割を持っています。同時に内部の干渉も。ですから、貴方方のお力がどうであれこの中では力を使えない…違いますか?」

両手を挙げて紫炎が同意を示す。昨夜彼が言いたかったことはこれか、と柘榴は納得した。極力『人間』らしく振舞っっていたのは他者の目を欺く為かと思っていたので、自分もそれに倣っただけだったのだが、迂闊に使わずにいて良かったと内心思う。


「まぁ、結界が無くとも貴方方のことを気づくものは私以外いませんからね、外すことも構いませんが、いかがされます?」

大した自信だと紫炎と柘榴は苦笑したが、それだけの自負があるのだろう。

「今はいい…必要となれば頼みはするが、外部からも守ってくれるのだろう?」

勿論ですと頷く青年に、紫炎は笑ってみせる。

「我らは二藍が無事ならばそれでいい。お前の思惑がなんであれ、な」







男達が密約を交わす中、二藍も侍女から色々な話を聞いていた。マーシャという名の彼女は親の代からこの家に使えているということで色々なことを知っていた。


「じゃあ、キースさんは伯爵様なんですか」

「はい、先代の伯爵さま…キースさまの伯父上さまに当たられる方が独身のまま亡くなられましたので、ご養子に入られたんです。キースさまご自身のご生家は侯爵家にでいらっしゃるんですよ。そちらは兄上さまが既にお継ぎになっていらっしゃいます」

少女の部屋に飾るべく花を摘みながらマーシャは物珍しげに庭の花々を覗き込む少女に好意的な視線を送る。


昨夜当主が「大切な客人」として連れてきた一行は、来ている服装こそ見たことの無い姿ではあったが、物腰は穏やかで、召使達にも丁寧な対応をする人物達であった。

先代の伯爵の頃より少なくなったとはいえ、それなりに多くの賓客をもてなしてきたが、彼らほど手の掛からない客人は初めてだった。


こちらが何かすると、きちんと礼の言葉が返ってくる、片付けや支度をするときも邪魔にならぬよう部屋の隅で大人しくしている、相手が誰であろうとも丁寧に対応する。

同じ身分の者同士でもなかなかしない行動を、相当な高位(と、労働に慣れていない手や、足などから推測した)の生まれの彼女が自然に行って見せるのだ。使用人を人間として見ない貴族の多くを(もちろん、キースは例外だが)見てきた彼女が、短時間で二藍に好意をよせるには十分すぎる理由だった。



だから、普段より口が軽くなっているのにも本人は全くの無自覚であった。


「本来ならば、旦那様は『筆頭』の役職がついてもおかしくない実力の持ち主でいらっしゃいますが、周囲の推薦を固辞していらっしゃるんです。理由をお聞きすると『面倒だから』とおっしゃって…」

今の王家は大きく二つの派閥に分かれているとマーシャは話した。片方は皇太子を筆頭にした一派、コレが主流ではあるが、もうひとつ、王弟を中心とした一派があるらしい。

「今の陛下は側室のお生まれでいらっしゃいますので、どうしても前陛下の正妃の御子でいらっしゃるウエリントン公が正当な王だという者達がいるのです」


しかも、その筆頭がキースの生家である侯爵家の当主だと言うのだ。


「旦那様ご自身、皇太子殿下がご幼少の時、同い年という事もあって遊び相手として王宮に上がっていらっしゃったので、どちらにもお味方できず困っていらっしゃるのです」







「…なんだそうですよ」


「きな臭い話だ」


深々と息を吐いて紫炎は呆れたような笑いを浮かべた。

「どこにでも転がっていそうなお家騒動ではあるけどな。まぁ、我らには関わりの無い話しだが…ああ、そうだ二藍」

先程のキースとのやり取りを聞かせると、彼女も困ったような笑顔を浮かべる。

「『質』の違いですか…嘘ではないですけどね。じゃあ、私は使わないほうがいいですね」

「どちらにしても、基本『符』が無ければ使えまい?」

二藍の使う術は『符術』媒介となる符紙がなければ基本普通の少女と変わらない。

とりあえず、符は常に身近に…鞄の中に入っているので心配はないが、この国の服では持ち歩くのは難しそうだ。すとん、とした形のワンピースにポケットは無い。

「自分で作るしかないかなぁ。隠しポケットとか…衿の合わせみたいのとか…」




四次元ポケットが欲しい――

小さく呟いた、某アニメのキャラクターの名前に青年達は呆れたように息を吐いた。
















お気に入りのご登録ありがとうございます。

話に区切りを付ける為に章ごとに分けることにいたしました。

これからもよろしくお願い致します。

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