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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第三章
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8話

静かに目を伏せ、紫炎はそっと周囲の気配を伺う。

とりあえず、危険の無い事を確認し、隣を見ると、柘榴もまた同じように周囲を探っていたらしく、紫炎に気付き小さく頷いて見せた。

視線だけで同意を示し、再び室内へと意識を向ける。

その先には、第二王女マリーシアがにこやかな表情で他国の使者と話していた。




時々彼らは「特別任務」と称された、この王女の警護にあたることがある。それは大抵王女自身が気に入らない相手との会談や執務であることが多い。

曰く、乗り気でない仕事をこなすのだから、せめて気の置けない相手に傍に居て欲しい。というのが彼女の言い分であった。



彼らが騎士団に入ったとき、誰もが第一隊の所属するものと考えていた。しかし、蓋を開けて見れば彼らは三隊に身を置いている。誰何する声に、二藍いわく「胡散臭い」笑顔を浮かべて彼らは答えたのだった。

「ファリス家という名門に籍を置くとはいえ、余所者である我らが、高貴な方々と寝食を共にするわけには参りません」



第三隊は基本市中警護である。城下や近隣の町や村には、それとは別に「警邏」という職種があるが、彼らの立場の違いは、警察と軍隊のそれと近い。所有する権限を含めれば、それ以上の格差があった。

隊長クラスになると、相手が貴族であれ、その場で司法権さえ有することが出来る。

「…なんだか、昔のお奉行さまみたいですね。水戸のご隠居さま、ともいえそうですけど」

そう評した二藍の言葉が一番近いものがあるだろう。

こうした権限を悪用しないために、彼らには多くの処罰が細かく決められたいた。ドアレグの事件の後はそれが更に増えて厳しくなったとも聞いている。



どうして、第一隊の騎士を使わないのかと尋ねた時、第二王女は盛大に顔を顰めて、言ったのだ。

「警護より、己の昇進を考える相手と一緒に居て、安心できるわけがありませんわ」

王城の中なら安心と、警護よりも自分の家の自慢や、己が野心を隠そうともしない相手に本気で自分を護れるとも思わない。そう彼女は言うのだ。

この国は表向きは男性上位かもしれないが、実質は女性のほうが強かなのだと認識を改めた瞬間であった。







マリーシアの手が静かに動く。終了の合図だ。もっとも相手は終わる気配を全く見せないが。

静かに一歩踏み出し、紫炎は優雅に腰を折る。キース仕込みの宮廷作法は伊達ではない。


「ご歓談中失礼いたします。殿下、次のご予定のお時間です」

一瞬、護衛の騎士に話を中断させられて、むっとした相手だったが、紫炎の容姿と洗練された動きに、彼が相応の身分と判断し、口を噤んだ。その間に柘榴が王女の手を取り扉へとエスコートする。その動きには一部の隙もなかった。

色々な場所に出入りして目が肥えている相手は、ある意味それが油断や過信となる。彼らの動きで身分を想像し、彼らの身分を「想定」する。いわば勝手に想像してくれるのだ。ヘタな相手より扱いやすい。






「…あれの何処が親善大使、ですの」


部屋を出て充分距離をとってから、マリーシアが毒づく。確かに、表向きは自国との交流の報告に来た相手であったが、口を開けば、自分の国の王子の自慢話に終始していた。

「表立って縁談を持ってくることができないなんて、問題ですわね」

「持ってきたって、姫さん全部断っちまうだろうが」

人目の無い場所限定で、柘榴は彼女に対してこういった口調を許されていた。と、いうよりマリーシアが望み、お互いに歩み寄った結果である。だから、彼らが警護につくときは、基本二人以外に誰もつかない。反対意見は、彼らの剣技と魔力、それにファリス家の力で黙らせた。一人当たり数人同時に相手して、息一つ乱さず完膚なまでに叩きのめした彼らである。勿論倒された側は、エンデルクから「やり直し」を命じられ、除隊処分を受けていた。



「王家に生まれ、それなりに恩恵も受けているし、立場だって理解していますわ」

つん、と顎を逸らし彼女は唇を尖らせる。

「でも、少しくらいロマンスを夢見たっていいじゃありません?姉上のように」

彼らの両親もそうであるように、姉であるナディアーヌも王族にしては珍しい恋愛結婚であった。相手が公爵家という、身分が充分に釣り合っている相手なのは、先代の公爵と国王やエンデルクがまた従弟だからだ。

「グランチェスター公は、叔父上の守役でもあった方なの」

その辺りの話はキースから聞いた事があった。ゆるやかに長い年月をかけて二人は愛を育んだのだと。

「そこまで都合のいいロマンスを期待しているわけではないのよ?でも、嫁ぐのならそれなりに尊敬できる殿方であって欲しいと思うの」

王女の言葉に青年たちは静かに笑顔を返した。


自分達がそうであった為か、国王夫妻は子供達の縁談に口を挟むことはしない。断ることも、全て彼らの判断に任せている。それと同時に「どこで縁があるかわからない」と自分達の判断で拒むこともしない。



「でも、不思議ですわ」

軽く首をかしげ、王女は自分をエスコートする二人の騎士を見上げる。

「ご容姿だって、立ち居振る舞いや持っていらっしゃる実力も充分で、個人的にも充分好感が持てて、ご尊敬も申し上げているお二方なのに」

そこで、一瞬言葉を切ると、マリーシアはわざとらしい大きな溜息をついた。

「少しもときめかないんですもの」

だから安心して、こうして傍についていていただけるんですけどね。

そういう王女に青年たちは苦笑を返すしかなかった。


遅くなり申し訳ありません。

色々ネット環境に不具合が生じた上に、仕事の状況がとんでもないことになっています。

…本来なら一年を通して一番暇な時期のはずなのですが。


また、お待たせするかもしれませんが、気長にお待ちくださると嬉しいです。

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