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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第三章
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6話

エンデルクがキースの事を指して言った「一番上のお兄ちゃん」というのは、決して揶揄ではなく、事実であった。


彼らが家を出るに当たって、キースが出した条件の一つが、ファリス家に籍を置くこと、である。


勿論、キースとの養子縁組、というのは無理があるので彼の弟妹としての登録であった。

だから、彼らの正式なこの国での名前は、それぞれのファーストネームの後に、セカンドネームとして「クヨウ」が付き、ファミリーネームが「ファリス」であり、貴族の一員ともなったのである。


最初、認められるはずが無いと高を括っていた彼らだったが、あっさりと国王が認めてしまえば後は表向き口を出すものが居ない。



余談ではあるが、戸籍を作るにあたり、二藍の実年齢が明らかになったが、それでも誕生日のプレゼントに膝丈のワンピースを持ってくる辺り、キースのキースたる所以であろう。




「絶対反対の声が上がると思ったんですけどね」


ぽつりと呟くように言う主に、紫炎と柘榴の視線が集まった。

「今の政権…国王陛下に表立った問題が無いにも関わらず、血筋のみで反対勢力が存在を隠しもせずある社会です。そこまで血筋大事のお国柄なら、私達が伯爵家に縁組されることに対して反対意見が…特にキースさんの実家である侯爵家から横槍が入っても可笑しくない、と思ったんですけどね」

しかし、実際は彼らが拍子抜けするくらい問題なく進んでしまったのだ。

「水面下で在ったかも知れんと調べては見たが、コレといった波風は立っていないな。まぁ、眉を顰めた奴は少なからずいただろうが、キースを怒らせるよりも、事なかれを決め込んだほうが楽だろうしな」

ソファに身を沈めやれやれといった表情で紫炎が応えた。


実際、普段穏やかで感情を表すことの無い(と、周囲には思われている)キースが彼らが絡むと人が変わる、という噂は前回の事で周知の事実となっているので、貴族達も迂闊な事は言えないという事なのだろう。




「モナドという男…なかなか『立ち回り』が上手い、と聞く」


冷たい声音で、紫炎が言う。

「下手なことをすれば、皇太子派に不利になる、と解っているからか迂闊なことはしないようだが、それでも王妃の血筋、という事でそれなりの保護は受けている…我らのことはやりすぎだったと思ってはいるようだが、使えるものは使う、という主義らしい。政治的手腕も魔道の才能も無い、と言うのにそういった方面にだけ才能があると言われているな」

「どこでそんな情報仕入れてくるんだ」

呆れたように言う柘榴に、静かな笑みで応える。うわ、悪党と呟く声が聞こえ、小さな笑いが漏れる。

「そちらは暫く静観しておきましょう。ファリス家が、どちらの勢力とも結びつかず、またどちらの中心とも近い位置にある以上、波風はできるだけ避けたいですから」

主の言葉に式神たちが静かに頭を下げた。






「そういえば『秘された王国』ってあったじゃないか」

「フォーネック王国の事か?」


以前一度だけ出た王宮の夜会で、彼らの出生が取りざたされた時出た今は伝説と化した幻の王国。


「どこぞの魔法使いに言われたぞ。『ファリス伯がお強いのは、貴公たちがお国の魔法を伝授されたからですか?』ってな」

「ほう」

紫炎の眉が微かに顰められる。彼らは自分が認めた相手が蔑まれる事を何より嫌う。

「『いえ、義兄は知り合ったときは既に我らなど及ばぬ実力でした。義兄がどれほどの努力を持って今の力を身につけたかは、我らよりも貴公のほうが良くご存知なのでは?』」

にっこりと何かを潜ませた笑顔付きで語る柘榴に、紫炎が小さく笑いを返す。

しかし、彼らの末の義妹は複雑な顔を見せると財布を掴んで立ち上がった。



「どうした、二藍。買い物か?」

「…柘榴、それいつの話です?」

「ん?昨日だが?」

ふぅ、と息を吐くと少女は近くにあったケープを羽織った。

「今夜辺り『キース義兄さま』がいらっしゃると思いますよ。両手に抱えきれないほどの酒瓶と飛び切りの笑顔と共に、ですね。おつまみ用の食材買いに行って参ります」

ばたん、と扉の閉まる音がして、はっと我に返った柘榴が紫炎を振り返ると、その先には苦笑いともなんとも言えない複雑な表情を浮かべた青年が居た。

「二藍の買い物に付き合ってくる。お前は来客用のベットの支度をしておいてくれ…いや、あいつらなんぞ雑魚寝で構わないか」

彼もまた外套を羽織ると少女の後を追うように外に出て行った。



一人残された青年は深々と溜息をついて己が失態を反省する。

ファリス家の家長は、面白くないことがあったときもそうだが、自分にとって良い事があったときは、それ以上に羽目を外す。新しく出来た弟妹を巻き込んで。

今までそういった羽目の外し方をしたことが無かった分、外し方は尋常ではない。


「エンデルクに言って結界強化してもらおうかなぁ」

酔っ払った時に魔法を使うようなことはしないが、以前自分達が居た世界の「打ち上げ花火」の話をしたとき、酔いの勢いで再現しようとしたことがあった。

何とか思いとどまらせて、庭でやる「花火」程度に抑えることができたが、ヘタをすると、騒ぎを聞きつけやって来た同僚達と悪乗りする可能性がある。

第三騎士団面々はお祭り好きでもあった。

とりあえず、大人数がやって来ても良い様にソファを片付け始める柘榴であった。




この夜、最終的に二藍はファリス家の本宅に避難した、とだけ記しておこう。





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