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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第三章
32/51

3話

ぽかん、と口をあけて「ソレ」を見上げている主を見て、二人の式神は顔を見合わせ笑いを浮かべた。



外見はプテラノドンとワイバーンを足して二で割るとこんな感じになるだろうと思われる姿をしている。


呆気に取られている二藍に苦笑をむけ、翼竜の手綱を持っていたカイルが手招きをした。

大きく目を見開き、首を思い切り横に振った少女に、男は苦笑を一層深める。

「大丈夫だ。こいつは卵の時から人の手で育てられているから、人間には慣れている。野生種だってこっちから何かしない限り危害は加えない」

眉をハに字にして動こうとしない主の背中を、式神たちはそっと押す。振り返った少女は恨みがましい視線を青年達に向けると、カイルの傍まで歩いていった。

「大丈夫だって、姫さん。第一コイツは草食だぜ?」

「それは解っているんですけど」


エンデルクが贈ってくれた本の中には、この世界の生態系について描かれたものもあった。早い話が子供向けの「動物図鑑」なるものである。その中には、自分達が居た世界と似た生き物が大半を占めてはいたが、中には「お流石ファンタジー」と苦笑するものも居た。その主たる生き物が、彼ら「恐竜」である。


自分達の世界と異なり、この世界では太古の「恐竜の絶滅」という歴史が無かった、という事であろう。



この国近隣には居ないが、別の大陸には小型ではあるが肉食竜がいると聞いた。




(象さん、ですねぇ)

大きさといい、最大の草食動物、という意味合いで行くのなら同類項で括ることもできるだろう。

しかし、象が怖くないか、と聞かれると微妙なところである。

カイルが手を差し出すと甘えるように擦り寄る姿は可愛いと思う。しかし、ソレを自分にやれと言われたら別の話になる。



「仕方ねぇなあ」

ふいに、両脇に手を入れられ、体が持ち上げられる。ちょうど、大人が子供を「高い高い」するような格好で、二藍は竜の背中に乗せられた。突然のことに固まっていると、ふわり、とカイルが後ろに飛び乗る。

「何のための男物の服だと思っているんだ?ほら、ちゃんと跨れよ」

半分涙目になって後ろの男を見ると、ニヤニヤ笑いを浮かべた瞳と目が合う。ちなみに、この男、二児の父でもある。

(多分、扱いはルークくんと同じなんでしょうね)

もうすぐ7歳になるという男の長男を思い出して、少女は深々と溜息をついた。



「行くぞ」

大きく羽の羽ばたく音が複数であることに気が付いて振り返ると、紫炎と柘榴もそれぞれ翼竜に乗っている。

「基本、騎士が移動に使うのは、この翼竜かラグだな。移動魔法は便利だがリスクが大きい分実践には向かない」


ラグとは馬に似た…と、いうより馬そのものの生き物だ。


来る時に温かい格好をしてくるように言われて、そうとう着込んではきたものの、高度が高い場所はやはり寒い。マントに包まりながら、少女は眼下の景色を眺めた。



「これが、セラフィークだ」


男の指し示す先にある広大な大地に少女は目を細める。収穫を終えた田畑。いくつかの集落。

遠い異世界でありながら、自分が住んでいた世界の異国の風景を思い出させる。

「俺達が護るべき場所。俺達の故国」

穏やかな眼差しでカイルは眼下の大地を見下ろす。

「愛してくれとは言わない…嫌わないでやってくれ」


男の顔を見上げ、二藍は理解した。カイルは知っているのだ、自分達が異なる場所から強制的につれて来られたということを。


「問題ない」

器用に翼竜を操り、紫炎が口を開いた。

「どんな形であれ、この国に留まることを選んだのは我らだ」

「嫌いはしないさ。自分が生きると決めた国を」

柘榴も横に並び、答える。

「誰だって、未知なる物には警戒心を持ちますよ」

くすり、と二藍は笑った。カイルが示した方向性を無理やり別のほうへと持っていく。


自分達に選ぶ権利など無い。しかし、この世界で生きていくと決めた以上、受け入れるしか無いこと位理解している。


「別に高いところが苦手、とか爬虫類…竜が嫌いとかじゃないですから」

「そうか」

「でも、できれば空中散歩はもっと温かい季節の方がいいですね」

「そうか…そうだな」



カイルは紫炎と柘榴に視線を向けると、手綱を操り静かに竜を降下させていった。集落の近くの空き地に降り立つと、子供達が駆け寄ってくる。

二藍が労わる様に竜の首を撫でれば、くるるるる、と喉を鳴らす声で翼竜は応えた。

カイルの手を取り、地面に足をつけると子供達はそれぞれ干草を持って3頭の翼竜へと近づいて餌を与えたり、体を拭いたりしている。一番年嵩の子供に男は何枚かの小銭を渡す。農閑期の子供達にはこうやって生き物の世話をすることが、小遣い稼ぎになるとカイルは説明した。


「閣下の騎竜はすごいぞ、こいつらの1.5倍はあるし、なんといっても野生種だからな」

「野生種?捕まえて飼いならしたのか?」

柘榴の問いに、違う違う、とカイルは首を振った。

「理由は知らん。ただ、普段は住処である山奥にいるが、必要な時にノルグを鳴らして呼ぶんだ。餌代が掛からなくていい、と笑っておられるが、野生の翼竜を騎竜にするなんて考えられないけどな」

「ノルグ…ってなんですか?」

『竜笛、ていう当て字が出来ると思うぞ。犬笛みたいなものだ。人の耳に聞こえない周波数で翼竜を呼ぶ道具だな。死んだ竜の骨でつくられているらしいぞ』

そう言って、柘榴が首から下げた白い棒状のものを見せる。説明の言葉が難しかったのか日本語だ。

『乳離れした子竜の餌やりの時に使うんだ。1頭1頭それぞれにあって微妙に違うらしいが、俺達には良く解らん』

軽く唇にあて息を吹きかけると、先程まで柘榴が乗っていた竜が顔を上げて此方を向くが、他二頭は知らぬ顔だ。

な、と二藍に声を掛け、青年は竜に近づき首を軽く叩く。甘えるように柘榴に擦り寄る巨体に、二藍は笑いを零した。




「あら、カイルじゃない」

突然掛けられた声に彼らがそちらを向くと、明るい笑顔の女性が赤ん坊を抱いて立っていた。

「よう、アナ」

手を挙げ、彼女に答えると男は二藍へと視線を移す。

「紹介しよう。アナ…アナスタシア。俺の従姉に当たる。アナ、こっちはウチの新人と妹姫だ。翼竜の訓練ついでに遊びに来た」

「…遊びって、アンタねぇ」

呆れたように息を吐き、アナスタシアは、少女達へと向き直った。

「こんにちは。いつもカイルがお世話になっているわね」

ふるふると、頭を振って少女は笑顔を見せる。

「とんでもないです。こちらこそいつもカイルさんにはお世話になっています。フタアイ・クヨウと申します」

「シエンだ」

「ザクロ」

二藍の言葉に、アナスタシアは少し驚いた表情をする。

「異国のお嬢さんなのね。小さいのにしっかりしているわ」


ここでもそうですか。

表に出さないものの、少女が内心大きな溜息をついたのも、後ろに居る青年たちが微苦笑を浮かべたわけも彼女は気づかず、柔らかな笑みを深めた。

「よかったら、温かい飲み物でも飲んでいって。空は寒かったでしょう」

「ソレが目当てでここに降りてきたんだ」

従兄の台詞に、アナスタシアはわざとらしい大きな溜息を吐いたのだった。






お待たせして申し訳ありません。

なんだか、妙に公私共に慌しい二週間でございました。


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