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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第三章
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1話

第三章です。少しは彼らの日常に触れられればなぁ、と思います。

二藍たちが独立することを、どうやってキースに納得させたかは、ご想像にお任せするとして。

彼らに与えられたのは、「此方風」に言う3LDK。それぞれの個室に、リビング、ダイニングキッチンという一般的な間取りであった。




やたら大きな屋敷が下賜されたらどうしようと心配していた彼女だったが、これならば自分でも管理できると安心する。

実際彼らが貰っている給料であるならば(後で知ったのだが、騎士団の隊長クラスの金額らしい)召使の2,3人十分雇えるのだが、少女は全て自分がやると笑顔で答えた。


彼女を心配したマーシャが後日覗きに行ったが、結局するべきことが何も無いと肩を落として帰ってきた事もある。





彼らの家は、一般に「貴族街」と呼ばれる王城の周囲にある、貴族たちが王都に居る場合に済んでいる屋敷が並ぶ街の外れにあった。


庶民の暮らす街にも、王城にも近いそこは、騎士団の第三隊も多く住んでいる一帯でもある。どちらに対しても有事の際にはすぐ動きが取れるようにとの配慮で作られた場所だといえる。勿論、独身の騎士団の団員は、王城の敷地内にある寮に住んでいるのだが、下宿する者もいる。第三隊の場合、一旦寮に入るものの、数ヶ月もしないうちに出るものが多い。曰く「なんで、家に戻ってまで気疲れしなくちゃいけないんだ?」が、理由のトップに挙げられるのは押して知るべき、であろう。






「落ち着いたようだな」

洗濯物を干し終わった少女は、掛けられた声に笑顔を見せた。

「いらっしゃいませ。エンデルク様、エドガーさん。どうぞ、お入りください」


庭の日当たりの良い所で寝そべっている大きな黒猫に気付いて、男は目を細め少女に誘われるまま、侍従と共に家へと入っていった。

こちらの家の建て方は、大きな屋敷であれば、玄関を入ってすぐにホールがあるのだが、一般の庶民の家は居間になる。と、言ってもその広さは、二藍の感覚で言えば20畳以上ある。

部屋の数は多くは無いが、一部屋一部屋が広い作りになっているのだ。




初めて訪れたかれらの家の中を見て、主従は軽く目を見開いた。

「変わった造りですね。二藍さまの故郷の様式ですか?」

今日はお客さまだから、と少女に勧められ、ソファに腰を降ろしたエドガーの言葉に二藍は笑顔を見せた。

「そうですね、自分の家というより友人の住んでいた所を元にしてあります」


友達が住んでいたマンションのリビングダイニング。キッチンと居間をカウンターで仕切ってあり、それがそのままダイニングテーブルとなって食事を取れるようになっていた。正直間口で靴を脱ぎたい気分になるが、この国にそんな風習は無いので、自分達の私室だけにとどめて置く。


リビングに置いてあるソファのセットは、キースの家で柘榴が使っていた客間に会ったものを貰ってきた。座り心地が良いと漏らしたことを憶えていて、引越しの際に移動魔法で運ばれてきたのだ。

後で、名のある職人の一点物だと知り、慌てて返そうとした彼らに「では、新しい物を揃えましょうか?」と言われ、このままが良い、と答えたのはつい先日の事である。



「結界はキースのものか。相変わらず複雑で細かいことをする」

苦笑交じりのエンデルクの言葉に、二藍とエドガーが顔を見合わせて笑う。

最初はエンデルクが張るはずであった結界であったが、男の結界魔法は強すぎて、入っても構わぬものさえ入れなくなると言う事で、キースが魔法を掛けた。

エンデルクほど強力ではないが、いくつも条件付けを施したそれは、不必要な者だけが入ってこれないようになっており、彼らのレベルで考えれば、十分強力な代物であった。



ふと、お茶を出す少女の手を見て、エンデルクは眉を顰める。以前そこにあった滑らかな手はない。いくつかのかすり傷と小さな火傷の跡、少し荒れた手がそこにあった。


「…怒られることを前提に持ってきた」

男が差し出した小さなビンを見て少女が困ったように笑う。暫く考えるように黙り込んだ二藍は、笑顔の質を変えてエンデルクに頭を下げる。

「ありがとうございます。頂戴します」

でも、これ以上は無用ですよ、と念を押す辺り、少女の気質が窺い知れる。

それ以前に、青年達の給料なら、この程度の薬は楽に買えるのではないかと尋ねると、彼女は肩をすくめる。


「一から生活を始める、というのは結構費用がかさむものなんです。…あ、でも余計な予算は立てないでくださいね」

きっちり釘を刺され、エンデルクは苦笑いするしかなかった。隣でエドガーも少しばかり呆れた表情をする。


「貰える物は貰っておく、ではなかったのですか?」

「必要以上に借りは作りたくねぇんだってよ。二藍、俺にも茶、くれ」

大きく伸びをしながら柘榴が入ってきた。彼が起きた気配は感じていたので、二藍はすでに支度をし終わっている。


「お給料だって、本来なら二人合わせて今の一人分くらいの金額なんですから、これ以上のことはやっていただく謂れはありません」

しかし、カイルからは十分金額に見合う働きはされているとの報告がきている。

二人の青年達は、勤務の合間に他の騎士達の練習に付き合ったり、魔法の指導もしているらしい。


「自分の鍛錬も兼ねているからな、気にすることでもないさ。それに休みとかも優遇してもらっているからな」


外壁の警備も三隊の仕事であるため、そちらの当直日になると、2、3日は戻ってこられない。当番を重ならないようにした上で、その日は片方は非番になるよう配慮されている。


「俺達のことは心配いらねぇよ。それに三日に一度はキースも顔を出すからな」

「道理で最近の登城率が高いわけだ」

やれやれと二人は顔を見合わせて溜息をつく。彼らの家を訪ねてくるとき、登城の帰り道だと言ってやってくる青年の本音はどちらが主流か。

「一番上の『お兄ちゃん』は外に出た弟妹の事が心配で仕方ないらしいな」

笑いながら言うエンデルクに、柘榴と二藍から返って来たのは、疲れたような溜息だった。





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