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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第二章
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18話

カップを下げたエドガーの言葉通り、ノックの音と同時に華やかな一団が入ってきた。



(うわぁ)

二人の女性を中心に、彼女らをエスコートする紫炎と柘榴。そして、侍女と思われる数人の女性と騎士の制服に身を包んだ女性達。何故かキースも後ろに付き従っていた。


(あ、ファミアさんだ)

見知った騎士に気がつき目で追うと、気付いた彼女が微笑み返す。美人さんは何をやっても様になるなぁ、などと呑気に考えていたら、エスコートされていた女性とも目が合った。

「うわぁ、可愛い」

語尾にハートマークがつきそうな勢いに、二藍は思わず固まる。


「マリーシア。彼女は私の客人だ。挨拶してしかるべきだろう」

「はぁい」

エンデルクの叱責に舌を出して肩をすくめる。その姿だけで、華やかな印象が可愛らしい、になる。



マリーシアと呼ばれた女性は、エスコートしていた柘榴の腕から手を抜くと、優雅に腰を折った。

「初めまして、フタアイ。セラフィーク第二王女マリーシア・セレスと申します」

はっと我に返って少女が立ち上がり腰を折ると、もう一人も軽く膝を曲げて略式の礼を取る。

「わたくしが、第一王女のナディアーヌ・レナス。グランチェスター公爵夫人ですわ」

「お目にかかれて光栄です。フタアイ・クヨウと申します」

暇だった一つの季節、覚えておいて損は無い、とマーシャに王宮作法を叩き込まれた。確かに損はないが、向こうの許しがあるまでこの体勢は辛い。


「楽になさって、フタアイ。本当に噂どおり愛らしい方ね」

うふふふふ、と満面の笑顔でナディアーヌが言えば、マリーシアも首を縦に動かす。

体を起こし、改めて王女達を見て思わず心の中で溜息を吐いた。

(本当に、この国の王族って)

皇太子や王、王妃、王弟であるエンデルクを見ても、そのDNAは素晴しいものがあると感じてしまう。

王女二人も趣は異なるが、両親の良い所をそれぞれ受け継いだ存在と言えるだろう。

王女達にソファを勧めると、この部屋の主は二藍を隣に座らせ自分も腰を降ろす。

騎士達は扉側に、紫炎と柘榴は窓側にそれぞれ立った。



姉のナディアーヌは父王譲りの明るい茶色の髪に、青い瞳。嫁いで子供も居ると聞いてはいたが、全くそんな事を感じさせない。


妹のマリーシアは少し赤みがかった金髪と姉とは少し色合いの異なる青い瞳は、エンデルクのそれと良く似ていた。



「一度お会いしたいと思っていましたのに、なかなか機会が無くて残念に思っていましたら、母が叔父上のところにフタアイがいらっしゃることを教えてくれましたの」

この国の王女という立場にいながら、言葉使いの丁寧さに少女は感心する。きちんと愛されて教育されているのだとそう思うと、ふと遠い世界の両親や祖父、弟たちの事を思い出して、鼻の辺りがツン、とする。

二藍の微かな表情の変化に気付き、一歩踏み出しかけた紫炎は、その頭の上に置かれた手に気がついて、動く事をやめた。

少女が掌の主に気が付いて笑顔を見せる。


「まぁ」

「あら」

流石姉妹。などと、二藍が呑気に考えてしまうほど、二人は同じように手を頬に当てるポーズをして目の前の光景に見入っていた。


「叔父様がお優しい」

「本当に、噂は真実でしたのね」

少女の頭をひと撫でして、男は二人の姪へと視線を移した。

エンデルクの視線に気が付いて、二人は顔を見合わせて微笑みあう。

「フタアイがここに来るようになって、叔父上のお顔に笑顔が増えた、という話ですわ」

ここに来たのは、まだ二回だけなんですけど、と少女は心の中で呟く。

「わたくしなんて、叔父上に頭を撫でていただいた記憶はございませんわ」

「わたくしだってですわ、お姉さま」

ね~。と、声を合わせる姪たちに、エンデルクは疲れたような溜息を吐く。

「自分と同い年の姪や、実の兄に溺愛された姪を相手にできると思うのか?」


心の中で、子ども扱いされているだけです。と突っ込みながら、二藍は、この夏(酔っ払った)キースから聞いた話の一つにあったエンデルクの幼い頃のものを思い出す。

産後の肥立があまり良くなかった王妃に代わって、エンデルクを育てたのは、今の国王夫妻であった。

なさぬ仲の彼らは親子というには無理があったが、実の姉弟、姉妹のように仲が良く、それ故我が子と代わらぬ態度で育てたのである。


(家族間の人間関係は良好、なのにそれを良しとしない人物が居る、って訳ですね)


国際間に紛争がないからこそ、中に目が行く…どうすれば自分に利が向くか。

(傀儡にはなりそうに無いタイプなんですけどね)

ファミアに対しての態度でも伺える。彼は自分の立場を弁えない者、自分がやるべきことを理解していないものに対して容赦が無い。

この男を少しでもしれば解りそうな事である。彼は、自分の兄を裏切らない。ましてや甥である皇太子を廃してまで王位を望むタイプではない。


『むしろ、その逆、ですね』

ふと呟いた日本語に、他の者が少女の方を向く。何でもないと首を振って二藍は曖昧に微笑んだ。

紫炎と柘榴に目をやると、彼らもまた複雑そうな顔で少女を見ていた。彼らもまた解っているのだ、今の自分たちの立ち居地と今後の展開が。

向こうの世界での自分たちの日常。それに近いものがこの世界でも起きている。当事者ではないが、黙って傍観させてもらえる立場でもない、そんな微妙な立場。



しかし、そんないつ起こるかわからない未来よりも自分たちには片付けなければならない、身近な問題がある。

(とりあえず、目指せ一人…いいえ、三人の独立、ですね)

今回の事件で二藍を囮に使った事実と、その一部始終を知ったキースは以前にもまして彼らに過保護になりつつある。今はまだ行動に移していないが、いずれ彼らへの過干渉が起きる可能性があるだろう。

今回王宮に呼び出された時も「断ってもかまわない」とまで言い出したのには驚いた。彼も王宮務めで、貴族でもあるのだ、王族への忠誠は絶対のはずだ。


あまり家族に恵まれたとはいえない青年が、漸く手に入れた「家族」に近い存在。それが彼らである。

(まぁ、いざとなったら泣き落とし、という手もありますからね)



ふわりと浮かべた少女の笑顔に、何も知らない王女達は「可愛い」を連発し、魔法使いの青年も目を細める。

しかし、隣に座っていた男と、二人の式神は彼女の奥底の黒い思考に気が付いたのか、半ば呆れた表情を浮かべるのであった。




これにて、第二章終了です。

ストックが尽きましたので、この先の更新は今までよりもゆっくりしたペースになると思いますが、お付き合いくだされば幸いです。


お気に入り登録してくださった方に、心からの感謝を捧げます。

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