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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第二章
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14話

一体どこに隠されていたのか、その部屋に集められたのは10人ほどの少年少女。


下は5,6歳から上は13,4歳…この国でいう未成年ばかりだった。

彼らに共通していることはいうまでもない、外見の美しさだった。

相応の年頃はそれなりに、幼い子供達もこれから先が楽しみな容姿を持っていた。




部屋の中に立ち込める香りに少女は眉を寄せる。彼女をここに連れてきた男は、部屋の中に入れると扉をすぐに閉めた。小さく呪を唱え、先程紫炎が落とした一枚の和紙を口に含む。

周りの子供達が一様にとろん、とした顔をしているところを見ると、催眠性の香が焚いてあるのだろう。しかも、男の様子から即効性のものらしい。


同じような表情を作り、その場に座り込む。



やがて、外側から窓が開けられ空気が入れ替えられていったが、誰一人表情は戻らない。

ラグラといい、仲間の一人に薬師が居るのだろうと判断して周囲の反応と動作をあわせる。



暫くして、二藍は密かに『変態』と呼んでいる男を先頭に数人の男が入ってきた。彼らは子供達を中央に集めその周囲を囲う。おそらく彼らが「人買いの一味」なのだろう。

どうもあの男が一味の中心人物のようだった。舐めるような視線に鳥肌が立ちそうになるのを必死で押さえる。



思わず心の中で唱えたのは大祓詞。

(この場合、どなたの罪穢れを祓うんでしょうね)






しかし、気分はパンダかコアラかそれとも朱鷺か。周囲を囲う柵をぼんやりした表情で見ながら、祝詞を唱える意識とは別の場所で考える。


人の気配に祝詞を途中で中断させる。すると20人ほどの男女がぞろぞろと入ってきた。

一応アイマスクのような仮面をしてはいるが、知る者が見ればお互い誰か判る程度の変装をしている人々はその服装から、裕福層だというのは見て取れた。まぁ、こんな風な非合法の組織と取引が一般家庭でできるわけが無い、と思い直す。



入ってきた彼らは、子供達を一通り見回して、当然の事ながら毛色の違った二藍に興味を示す。中には、あからさまにぎょっとした気配を表す者も居る。

(あ、成る程。これがエンデルクさまがおっしゃっていた『貴族』ですか)

一応、客達は柵の内側に入ることを禁じられているようだった。身を乗り出す者もいたが、人買いたちに離される。


さて、どうするかと計画を練る。もう間もなくエンデルク率いる騎士隊が突入してくるだろう。その時自分はどうするか。

結界を張る為の「符」は、先程紫炎から貰った。自分がここでしなければいけないことは、ここに居る子供達を護る事。

自分を過信してはいけないが、やるべき事を怠るのは尚いけない。



と、外の気配がおかしい事に気がついた。人買いたちは、外に様子を伺いに出て行った。例の男も扉の外に居る。


貴族たちも扉から顔を出したり、窓の外を窺ったりしている。



その隙を逃す二藍ではなかった。手首を動かすと縄を解く。

『略式』

腰のサッシュから符を取り出すと、猫と狐が現れた。見咎める者も無く彼らはするりと柵の外へと出て行った。次いで渡された紙のうち、別のものを取り出す。

【結界、現出】

これは此方の、言ってみれば「魔法用語」であった。キースの苦肉の策ともいえるそれは、二藍が本来持っている言霊とこちらの魔法と魔方陣をあわせたものだ。彼女が解除しない限り、その範囲内に出入りはできない。


それと同時に屋敷に貼られた符も発動するしかけだ。



魔力を持った者が、発動に気付いて止めようとするが、時すでに遅し、である。

「参りましたね。薬が効いていませんでしたか」

男が呆れたように近づいて結界に触れて、弾かれるようにその手を引く。

「流石は、キーリアル、というところでしょうか」

自嘲めいた笑いを浮かべ、男は二藍に視線を合わせた。

「思った以上に強かなお嬢さんの様ですね。益々ほしくなりましたよ」

眉間に皺を寄せて黙り込んでいる少女を、どう判断したのか男は笑いを深くする。


そう言って振り返ると、男はおや、と瞳を開く。二人の青年が周囲にいた仲間達を捕らえていたのだ。

「妹が世話になったな」

柘榴が笑いを浮かべながら、一人の男の鳩尾に拳をいれた。

「おやおや、情けない。それなりの報酬は払っていたんですが、返して頂かなくてはいけませんね」




「ドアレグっ!」

その声は記憶にある者と同じ、二藍を誘拐した本人であり、この屋敷で再び薬を飲ませようかと進言した者であった。

ドアレグと呼ばれた「変態さん」は、静かに振り返る。

「…何ですか?セドリック」

その声に、セドリックは自分の迂闊さを悟った。しっかり同じ報復をする辺りに相手の性格を再認識する。

「悪い。っと、それどころじゃない、騎士隊が出張ってきている。しかも、将軍付きでだ」

「ほう、ウエリントン公がお出でですか」

やれやれと肩をすくめると、ドアレグは艶やかな笑みを二藍に向け、そのまま、紫炎たちに顔を向ける。


「いずれ、妹姫をいただきに上がります」

「断る」

「…ったく『現出、炎界』」

柘榴が指で円を書き、男達に向けると、その足元に炎の円が生まれ動きを止めた。

「ほう、お国の魔法ですか。しかし、まだまだですね」

そういうと、ドアレグは指先で魔方陣を描き始めた。どこかで見たそれに、紫炎ははっとして右手を前に突き出し手剣で格子を描く。

『臨める兵、闘う者、皆 陣列べて前を行く。破陣』

5行4列の格子が、真っ直ぐな光となって、魔方陣を打ち消した。

「ほう」

男は面白そうに唇を上げると、懐から紙に描かれた魔法陣を取り出して柵に貼り付けた。

「爆」

ボン、という音と共に窓に打ち付けられていた柵がばらばらになる。


「行きますよ、セドリック」

「させるかっ!」

足元の炎を一層大きくさせて、柘榴は地を蹴った。

「…残念ですね。身の処し方は解っているでしょう」

炎に躊躇した一瞬を付かれて、青年に羽交い絞めにされた男にドアレグが意味ありげな笑いを浮かべた。


『紫炎!柘榴!気をつけてください!その人は!』

勢い良く騎士達が入ってくるのと、ドアレグが窓から飛び降りるのと、セドリックの体から力が抜けるのは、ほぼ同時だった。


「ちっ」

舌打ちと共に、柘榴が騎士に男を渡し、先に窓から外へ出た紫炎に続く。






周囲を見回して、少女は騎士たちが貴族や人買いを拘束しているのを確認すると結界を解いた。










お気に入り登録が100件を超えました。皆様ありがとうございます。

もう暫く、この騒動にお付き合いください。

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