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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第二章
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11話

二藍をベットに横たわらせると、男は部屋を出て行った。外から鍵を下ろす音がしたと同時に、少女は意識を周囲に向ける。体の上に軽い衝撃と重みが掛かり、柔らかな感触が頬を撫でた。

『誰にも見つかりませんでしたか?』

『そんなヘマはしない』

自分を誰だと思っているんだ、との柘榴の台詞に二藍は苦笑する。



『しかし、なんていうか…立派な屋敷だな』

天蓋付き、ではないがそれなりに上質な布団とベッド。家具も立派なものだということが解る。

しかし、窓にはしっかり鉄格子があり、そこから見える範囲では、声が届きそうなところに家屋敷はない。

どこかの貴族か有力者、裕福層の別邸か何かのように思われた。




二藍の腕輪が外されているため、会話は全て日本語だ。


『そういえば、柘榴。どうしたんです?その首輪』

ブルーグレイの色合いの革で出来た首輪を見て、少女は微笑む。黒い色の彼にそれは良く似合っていた。

『ああ、エンデルクから貰った。なんでも俺の霊力を抑えるものらしい。あいつの結界能力の応用らしいが、この世界の魔法使いっていうのは本当に凄いよな』

実は、この魔法具はエドガーが作ったもので、彼はこの国でも数少ない魔法具の製作の術者であるのだが、二藍たちがそれを知るのは、もう少し先の話となる。




と、黒猫は顔を挙げ、少女の布団に潜り込んだ。

『誰か来る。寝ていろ』

こくり、と頷いて二藍もベッドに横たわる。暫くすると、鍵が開く音と共に数人入ってきた。

「おお!」

「勝手に近づくなよ。こいつは大事な商品だ」

近づこうとする気配を誰かが止める。

「商品なら私が買っても問題は無いはずだが?」

その声に、別の声が被る。

「忘れたんですか?決まりは決まり。どんな形であれ、オークションを掛けると言うこと、買いたければ貴方が高値をつけて競り落とせばいい」

ううむ…。と唸る声と溜息を吐く音、軽く哂う声が交じり合う。


「ファリス伯が王家を通じて近衛に護衛を依頼する相手ですからね。囲うならば余程気をつけないと、貴方が困ったことになりますよ」

溜息を吐いた声が言えば、哂った声が一層大きくなった。

「そんな大声で、目を覚ましたらどうする!」

「アンタの声のほうがよっぽどでかいぜ。心配するな、こいつには『ラグラ』の香を嗅がせてある。あと2,3ユラは目覚めねぇ」

「ラグラとは、このような子供にそんな強い薬を使って大丈夫なのか?」

「さあな。けど、多少大人しくしていたほうがいいだろう?扱い易いからな」


足音が聞こえ少女の体が持ち上げられた。

「布団を掛けてあげてください。いくらなんでも、このまま放っておけば風邪をひきます」

「お優しいこって」

呆れた声が返ってきたが、男は言われるままに降ろされた少女に布団を掛ける。

「大事な商品と言ったのは貴方ですよ」

顔に掛かった少女の髪を直し、抱き上げた男はふ、と笑いを浮かべた。

「本当に珍しい色合いですね。瞳も黒いと聞きました。ぜひ、起きた後に会ってみたいものです」

「お前も相当物好きだよな。こんな子供に何考えているんだか」

「何を言っている!その娘は私が競り落とすのだ!」

「競り落とすのは高値をつけた相手ですよ」

ふふふ、と笑いながら男は少女の髪を一房救い上げて、唇を落とした。

「オークションは今宵、だったな。それまで眠っているのか?」

「いくらなんでも、その頃までには起きているだろうさ。何なら別の薬も与えておくか?」

「いえ、それは止めておきましょう。複数の薬を子供に与えて悪影響がないとは限らない…それに」


ふ、と笑う気配と、どこかウンザリした気配がおきる。


「涙に濡れた姿もまた愛らしいものです」

「…呆れた趣味だ」

自分の事は棚上げにして、最初に二藍に興味を示した声があがる。「あんたが言うか?」と返って来て、男達は部屋の外へと出て行った。






『…髪の毛洗いたい』

『気持ちは解るが、我慢しろ』


どこに隠れていたのか、布団を上げられた時には居なかった柘榴が、ひょっこり顔を出す。

『さて、とりあえずここの報告をしてくるか。一人で大丈夫か?』

にっこりと笑う表情は彼らが見慣れたもの。

本来の仕事に望む時の二藍の顔。

『久しぶりに見たな、その顔』

『はい?』

不思議そうな彼女に首を振ると、柘榴は身軽な動きで窓の外に出る。鉄格子も今の彼に意味は無い。

『よほど警備に自信があるのか、それ以外の理由か、魔法結界張っていないぜ、この屋敷』

目を見開いた少女に軽く尾を振ると、黒猫は音もなく姿を消した。






それを見送ってから、少女は再びベッドに戻る。

『ラグラですか。なんだか、嫌な符丁ですね』

ラグラというこちらの世界の植物は、その全てに異なる薬効成分があることは、先日貰った本の中に書いてあった。


花から取れる香りは催眠作用。茎と葉は虫除け。そして、その根は。

(この間ケーキに仕込まれていた毒も、ラグラの根から作られたもの)


たまたま使用目的にあわせての偶然か…それとも。



とりあえず、体力の温存と二藍は静かに瞳を閉じた。






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