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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第二章
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6話

お茶と共にエドガーが持ってきた果汁には、小皿に焼き菓子が乗っていた。嬉しそうに礼を言う少女に笑顔を見せると、彼はエンデルクに難しい顔を見せた。

「やはり仕込まれていたか」

「はい、致死量ではありませんでしたが、お二方とも数日は動けなくなるかと」

焼き菓子を口にしていた二藍は、甘い味にも関わらず苦い顔を見せる。


「お嬢様にも感謝いたします。…しかし、良くお分かりになりましたね」

あ~とか、う~とか唸っていた彼女は、困った顔で「内緒ですよ」と二人に念を押す。

「祖母の専門だったんです…毒物って。独特の香りがしましたから。香り付けには、あのケーキ不似合いでしたので」

ほう、と驚きの顔を見せる彼らに少女は小さく息を吐いた。

「他の家族には内緒で教えられた知識なので…祖父は、そんな知識祖母で途絶えさせてしまいたい考えでしたから、まさか、祖母の膝の上で薬学、毒物の知識を教えられているとは思ってもいなかったと思います」



双子の弟を身ごもっていた間と、産後暫く、二藍は祖母の手によって育てられていた。この時の祖母の毒薬講座が、少女の子供らしさを奪う大きな要因であった。



「祖母は厳しかった訳じゃないんです。むしろ、初めての女の子の孫ってことで相当甘かったみたいなんですけどね」

でも、彼女の口から話されるのは、毒薬の効能と症状。聞いていて気持ちのいい話ではない。




「正直助かりました。デザートは盲点でしたので」

不思議そうな顔を見せるとエンデルクは苦笑する。

「普段は食べないからな。だが、客と一緒の時は相手に合わせて食べることもある。…こうなると、どちらが狙われたのか判別できないのが難しいな」


致死量でもなく、食べる食べないが判断できない、とあっては二藍の方が確立としては高いだろう。


ここに居る誰もがそれを感じた。…しかし、何故リスクを犯してまで少女を狙うのか。



ふと、気がついたようにエドガーが疑問を口にした。

「では、お嬢様のお兄様がたもこのことは?」

「知らないですよ。だから『内緒』なんです。それとですね」

エドガーに二藍は笑顔を向ける。

「子供の頃から家族同様に、っていうか、忙しい両親の変わりに育てられたようなものですけど、紫炎たちは兄ではないです。でも、うん、おにいちゃんですけどね、私にとっては」


おや、とエドガーは笑い、承知しました、と返す。彼もまた、少女が外見どおりの年齢ではないことに気がついた。


「しかし、あのキースさまともあろうお方がお嬢様のご年齢に気がつかないとは不思議ですね」

「保護者でいたいのだろう」

唇の端を上げてエンデルクが答えた。

「自分が保護すべき、護るべき対象と思うことが、必要以上にフタアイを子供にしたいのだろう…お前も良い様に利用していそうだしな」

「人聞きの悪いことおっしゃらないでください。全面否定はしませんけど」

口を尖らせる少女はやはり幼く見える。




軽いノックの音がして、二藍に部屋についていた騎士が入ってきた。

「お連れ様のお一人が戻ってこられました。こちらにご案内いたしますか?」

「いや、向こうに戻ろう」


少女に与えた本を手にすると、少女に手を差し出す。立ち上がった二藍はエドガーに頭を下げた。

「ごちそうさまでした。楽しかったです、ありがとうございました」

「とんでもございません、私の方こそ楽しゅうございました。またお会いできる事を楽しみにしております」

深々と頭を下げる侍従に、照れたような笑顔を見せて少女はエンデルクに手を引かれ去っていった。


それを見送って、エドガーの口元に別の笑いが浮かぶ。

「可愛らしい姫君ですね。我が主がお気に召すのもわかる気がいたします」

小さな呟きは誰にも聞かれることが無い。

「邪魔者は私が排除いたしますよ」






「よう、二藍」

部屋に戻るなり目にしたのは、ぐったりと疲れきった表情でソファに身を沈めていた柘榴だった。


「そちらさんは?」

「っていうか、もう化けの皮がが剥がれたんですか?」

「二時間が限度だっつーに…三時間も良く我慢した、俺」


なにか違う、と思いながら少女は柘榴の傍に腰を降ろす。その肩に頭をおいて、柘榴は視線をエンデルクに向けた。

「で、もう一回聞くけど、そちらさんは?」

「ああ、失礼した。今宵の警護をしている、エンデルクだ」

ふぅん、と呟いて青年は自分たちの前のソファを目で示した。

「座れば?王弟殿下サマ」

「知っていてその態度ですか?」

少し驚いた顔をしたものの、何も言わずに男は示されたソファに腰を降ろす。


「いや、だってお前が気ぃ抜いているんだもん。俺が気張る必要ないだろう?」

「そんなに気を抜いていました?私」

「少なくとも背中預けていただろう?」


先程の立ち位置を思い出し、少し照れた顔をした少女に柘榴は「ば~か」と笑う。

「俺達にはそれで十分だ。二藍がアンタを信用したんなら、それでいい。何者であっても、な」


黙って聞いているエンデルクに柘榴は目を細める。しかし、すぐにその表情を緩めた。

「あっちじゃ、何人か探し回っていたぜ。王様と王妃様は『仕事』だってやっていたけどさ、こういった行動が不仲説を増長させているんじゃないか?」

「柘榴」

「いや、構わない」



あふ、と欠伸をもらした柘榴は男に視線を向ける。

「ところで、アンタの結界ってキースすら感知できないって話だけど、本当か?」

「中に居れば感知はされないだろうな。もっとも力技で対抗されれば意味は無いが」

感知はされないが、破られはする。そういうことだろう。

「なぁ、二藍。俺暫く『本体』に戻ってもいいか?流石に疲れた」

「柘榴!?」

「構わないだろう?紫炎はいないし、こっちのにーさんはお前が信用した奴だし、俺疲れたし」

頭を抱えた二藍だったが、申し訳無さそうにエンデルクを見上げる。

「申し訳ありません。暫くの間結界をお願いできますか?私達の周囲だけでいいので」

「よかろう」

そう言って、エンデルクは静かに詠唱の言葉を唇に乗せた。完成と同時に柘榴は体を大きく伸ばす。



「んじゃ、お休み」


次の瞬間、少女の膝に居たのは一匹の黒い猫。今まで着ていた服が彼女の足元に落ちた。

「!」

言葉も無く瞠目するエンデルクに二藍は苦笑をむける。


「…詳しい事情を聞きたいところだが、頭がついていかないだろう。機会があれば話してくれ」

「ありがとうございます」

頭を下げると、少女は膝の猫を庇いながら、服をソファに置いた。



その間に、エンデルクは外に居る騎士に少女の兄が転寝をしたので結界を張った旨を伝える。これで、魔法が働いたことに不審を持って尋ねてくるものが居ても騎士たちが対応してくれる。

膝の猫を気遣いながら、少女は貰った本を読み、男はリラックスしたように瞳を閉じてソファに身を預ける。



静かで穏やかな気配が、その部屋には満ちていた。







とりあえず、柘榴の正体です。紫炎についてはまた後日、という事で。

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