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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第二章
11/51

2話

良質な生地は、肌触りも良い。


それを実感として感じながら二藍はマーシャに言われたとおり、その場で一回転してみせた。

ふわりと広がるスカートと、その下に幾重にも重ねられた薄地のペチコート。スリット部分の間から品良く見え隠れしているそれは、驚くほど軽く薄い。

それでいて纏わり付くことなく、歩くたびに風をはらんで、普段長い裾のスカートを履き慣れない二藍ですら、難なく動き回ることが出来る。

色や形は落ち着いたシンプルなものであるが、見るものが見れば最高級の布地を惜しげもなく使ってあることが解る服装だった。

それは、二藍ばかりでは無く、紫炎や柘榴が合わせている服も同様であった。



「二藍さまのお年頃には色合いが多少地味ですけれど、皇太子殿下との謁見であればコレくらいは普通です」

あまりにも上質な衣装に気後れしていた彼女に、マーシャはきっぱりと言ってのける。

「こんな時でもなければ、使い道が無い財産です。いっそのこともっと買っていただいて市場を潤すべきだと思いますわ」

侍女の遠慮ない言葉に、当主であるキースも苦笑いを浮かべるしかなかった。


「この程度のご衣裳をお三方に数十枚ずつ買い与えたところで、ファリス家の財政はびくともしません。ご心配される事などありませんよ」

と、言われてもキースの家の財政事情を良く知らない彼らに何か言えるわけが無い。


柘榴が市場に出て見聞きしてきた事を参考に、こちらの生活基準を考えると、彼らが今あわせている服で一般的な4人家族が一年は生活できる金額に近いものがあるらしい、ということだ。




事の起こりは、久しぶりに登城したキースが受けた「願い」という名目の「命令」。

「しかし、半月以上放っておいて、今更顔が見たいっていうのも笑えるけどな」

「どこかで、閣下が二藍や紫炎と顔をあわせた事をお知りになったのでしょう。全く変なところで耳聡いお方ですから」


対抗意識のみで勝手に呼び出しをかけるのであれば、御免こうむりたい相手である。


「そんな愚かな方であれば楽なのですけれどね」

現在の王は、正妃のみで側室は持っていない。自分自身の生まれもあるだろうが、王族にしては珍しい恋愛結婚なのだとキースは説明する。

そして、皇太子は姉と妹に挟まれた唯一の男子。


「妃殿下は、あのモナドの姪にあたるのですよ」

だから、あの男は表立って罰せられずにいる。この醜聞を表ざたにすれば王弟派が動き出すことは目に見えている。今まで王室から反応が無かった理由の一端がそれだった。



表向きは、遠い国からやってきたキースの友人とその妹を非公式に招くという事になっている。

「多少甘やかされたところはありますが、皇太子殿下は公平で礼節をわきまえたお人柄です。ですが、どうしても周囲に踊らされてしまう所があります。利用するものが悪いのでしょうけれど、利用される側にも問題はあります」


「キース、お前今素面だよな?」

アルコールが入ると普段の数倍の毒舌振りを発揮することを、彼らはこの半月あまりで経験済みだった。

「酔ってなどいませんし、このような昼間から酒を口にもしていません。本当の事を言ったまでです」

言葉だけ聞いていれば辛辣この上ないが、その口調のなかにある物を感じ取って、彼らは複雑な思いを胸に抱く。

以前考えていた、皇太子派に見えて実は王弟派、という考えは間違っていたのかもしれない。



「そういえば、王弟殿下っておっしゃるから、もっと年齢が高い方だと思っていたんですが、お若いんですね。お幾つでいらっしゃるんですか?」

「殿下や私より3つ上ですから、今年24になられます。先の陛下の後添いの正妃さまでいらっしゃったので、ご兄弟のお年が離れているのですよ」

二藍の気遣いに微笑んで答えたキースは「お若いんですね」との呟きに、笑いを深くする。

だが、実は年を聞いて驚いたのはエンデルクに対してではなくキースにであった。








「21かよ…それで宮廷魔道師だって?」

登城した(出勤というイメージのほうが近かったが)キースを見送って彼らはそれぞれに複雑な顔をする。


「二藍、お前マーシャから色々聞いているんだろう?」

「聞いてはいましたが、流石にキースさんの年齢にまで頭が回りませんでした」

と、いうより最初からどこか問題視していなかった、というか考えたくなくて無意識に後回しにしていたと言った方が正しい。


「モナドの奴が学長をしている『高等魔法院』っていうのは大学みたいなモノだって話だよな?」

柘榴の問いに二藍は頷く。

「ここの教育システムは日本に似ています…あそこまで徹底はされていませんが、国の援助で初等教育は行き届いている事は確かです。レベル的に読み書きと簡単な計算に不自由しない程度ですから、小学校の3,4年生くらいだと思いますけど」


その先はそれぞれの身分や進路によって違ってくると教えてくれたのはロデオだった。マーシャの従弟とはいえ、農家出身の彼は、本来ならば初等教育で終わり、家業の手伝いをするはずであった。しかし、本人の希望とその熱心さにマーシャの父親がキースに頼み込み、中等教育を受けている最中なのだ。


「中等教育は入学する年齢は多少ばらつきはあるものの、概ね10歳から12歳。中等教育はスキップ制度に似たシステムがあるらしいんですが、それでも優秀なもので卒業に4年ほどかかるそうです」

基本は8年。10年居ると自動的に卒業となるらしいが、初等教育と違って実費なのでよほど裕福な家の者で無い限り、8年で出るものが多い。



「中等教育の内容は、中学高校に専門学校を足した感じです。ロデオは騎士に憧れているらしくって、そちらの専門教育を受けているみたいですよ。礼儀作法とか、剣技とか」

騎士団の門扉は広い、とロデオが目を輝かせて話しているのを聞いて、成程と二藍は冷めた気持ちになった。勿論本人の目の前でそんな顔は見せなかったが。


「魔法系統もここで分かれるみたいです。中等教育で基本的なことを学んで、更に上を目指す人たちが進むのが『高等魔法院』です」

高等と名の着く学問は魔法のみだと、これもロデオが教えてくれた話だ。


「単純計算でも、ここに入学するには最低15歳、か」

「マーシャの話では、王宮に勤めだして3年だと言うことですから、18の年からですよね」

キースの実力だけを見れば、決しておかしな話ではない。しかし、筆頭にもなるうる実力と立場を上手くかわしているところが、彼なりの処世術というところか。



「唯単に面倒なだけなのだろうが」

紫炎の呟きに誰も反論はできなかった。










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