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ふたおとの足跡  作者: 藤堂阿弥
第一章
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1話

表現は温いですが、R15を付けさせていただきました。

生ぬるい話ですが、お付き合いくださると嬉しいです。










トンネルを抜けると、そこは雪国だった。


校門を越えると、そこは異世界だった。






「へ?」


さっきまで、学校にいたはずだ。いつも途中まで一緒に帰る友人達は、部活だったり、委員会だったりで久しぶりに一人で帰る事になった、そんな日。


ココハドコ、ワタシハダレ?


…いやいやいや。

軽く首を振って、九耀 二藍は大きく深呼吸する。

まずは大きく深呼吸。吸って吐いて、吸って吐いて。

そこまでして、こんな状態なのに自身を落ち着かせ、状況を把握しようとする「日常」に苦笑する。




ゆっくりと周囲を見回して溜息を一つ。

辺りはひたすら、木、木、木。いわゆる「森の中」という状態であった。

(クマさんに会いたくはないなぁ)

などと呑気なことを考えてしまうのは、もっと危ない状況に陥ったこともあるからだ。命の危険が近くに無い分気も緩む、というものだ。…その気の緩みが命取り、だとよく祖父に注意されるので、一応周囲の気配を探ってみる。

しかし、と辺りを見回して思う。つい先程、5分位前には確かに自分は学校に居たはずだ。それが一歩出た途端この光景である。



(家がらみか、本家がらみか…私個人って事はないと思うけど)

色々と考えては見るものの、どうも思い当たる節がありすぎてまとまらない。

と、いうか嫌な考えが頭の片隅にあるけれど、いくらなんでも、それは無いと即座に否定しようとするが自分自身普通では考えられない世界に身をおく立場なので全面否定が難しい。



それよりも、なによりもまずは確認すべきことから始めるべきだ。

(とりあえず、人の気配は無し)

制服の内ポケットから和紙を取り出すと、自分の額に翳して呟く。


「略式。紫炎」


ひらり、と紙が宙を舞い一人の青年が現れた。外見年齢は25,6背まである髪を後ろで緩く一つに縛り、物静かな印象の、物腰の柔らかそうなイケメンである。

彼の姿を見て二藍は思わず安堵の息を吐いた。何に?自問自答するが、答えは決まっている…一人では無い、と言うことと「術」が使える、ということに対してだ。



「手を抜くなと何度…なんだ?ここは?」

出てきた途端、説教をしそうになった相手は、その場の異常さに気付き、警戒するように辺りを見回した。

「紫炎でも解りませんか」

「『解りませんか?』故意に動いたわけではなさそうだな」

ふぅ、と息を吐く姿はやたら人間くさい。しかし、彼女の周囲の「式神」と呼ばれる存在は、差異はあれど似たような性格をしていた。



式は主に似るもの。

祖父の言葉が頭を過ぎり、やれやれと首を振る。

言わせてもらえるのなら、この紫炎の元々の主はその祖父なのだが。



「それで、ここは何処です?」

「…少なくとも、お前の世界では無いことは確かだ」

うわ、と思わず声が出た。頭の中で一番否定していた「現実」を突きつけられ、頭を抱える。

「とりあえず、様子を見てくる。お前はここを動くな…そうだな柘榴を呼んでおけ」

首を縦に振ると、二藍は鞄の中から先程と似たような和紙を取り出した。

「略式。柘榴」

「…何用だ?…なんだ、ここは?」

同じ台詞を吐いた二人を見比べて二藍は苦笑する。

彼もまた、紫炎とは異なったタイプのイケメンだ。野性的な面差し、短めの髪型は赤い。


「よいか、ここを動くな。柘榴、後は任せた」

そう言うと、紫炎の姿が消える。後に残されたのは呆気に取られて周囲を見回している式神の青年とその主たる少女。

「柘榴」

二藍の声に、はっとしたように顔を挙げ、傍へと寄る。


「状況の説明は?」

「無理です。校門を出た途端ここにいました」

「術か?」

柘榴の問いに首を振る。転移の術は存在する、しかし、それはきちんとした手順を踏んだ上で行なう術であり一人や二人の術者で出来ることではない。式神という「人外」の存在であれば別であるが、そんな気配があれば自動的に紫炎たちが現れるように術が施されている。

事実、彼らは二藍が召喚するまで現れることもなければ移動した事実さえも気づかずにいたのだ。

術のための結界も、陣も全く感じることが出来なかった。自分だけなら兎も角、紫炎や柘榴が気づかない事はありえない。




「第一、それだけの力の持ち主なら、紫炎や柘榴を封じることのほうが容易いと思うんです」


ふむ、と声がして柘榴が周囲の気配を探る。彼女の式神は皆そうだ。彼女が命じる前に行動を起こす。それは二藍自身が、他者に「命じる」事を嫌うことに由来する。

大きく息を吐き、彼女は鞄の中から札を出そうとして、柘榴に止められた。

「俺が居るんだ、結界は必要ない。体力は温存しておけ、何が起こるかわからんからな…ああ、帰ってきたか」

柘榴が向けた視線の先に、紫炎が現れる。

「結構大きな森の中だ。周囲…およそ10キロ、というところか。その先に集落がある…少なくとも外観はお前達と同じ『人間』だが、生活様式、というか文化は違うようだな。お前の知識で拾うなら、ヨーロッパ中世、が一番近い。ちなみに、お前のようなアジア系の外見の持ち主もいなかった」



「…なんてお約束な」

二藍とて女子高生だ。ファンタジー小説や漫画は嫌いではない。特に某異世界召還もののコミックスは愛読書であったりもする。


「…普通なら、迎えが来たりするものですよね…イザークみたいな」

「お前、漫画の読みすぎ」

呆れたように柘榴が溜息をつく。

「しかし、ここに呼び込んだ外的要素があることは確かだろう?」

紫炎の言葉に、二藍は軽く首を傾げた。痕跡が何も感じられない術を外的要素と言っていいものか。

それを伝えると紫炎も難しい顔をする。


「とりあえず、術は使える。俺達もいる。…少なくとも同一次元内…つまりこの世界の中ならある程度、移動は可能だ。流石にお前を連れての移動はできないが、どうする?」

どうするも何も、少なくとも文明圏内で様子を知る以外どうしようもないだろう。

「集落へ向います。それしか方法はなさそうですし」



『その必要は無い。迎えに来た』


突然負って沸いた声に、紫炎と柘榴がはっとしたように身構える。

フードを深々と被った姿を見せた相手は、声だけならば未だ年若い青年のようだった。
















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